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【エッセイ】麗しのサッポロ一番塩らーめん

今日は午前11時から地元のサロンでボディのフルコース。出かける直前「2時間くらいで帰ってくるけど、ご飯先食べていいからね」と彼に告げて家を後にした。

最近通っているこのサロンは、毎度効果が目に見えるので継続して通っている。週2回の頻度で、通い始めてもう1カ月半。すっかり通うことが習慣化した。

受けているのは最初にマッサージ、よもぎ蒸しみたいなサウナみたいなものでたっぷり汗をかくコースで、施術後は体が柔らかくなってスッキリする。ライター病の肩こりも大分軽減し、むくみも少しずつ良くなってきて、肝心の体重もゆっくりとだが減ってきた。

オーナーのママさんは底抜けに明るい人で、話していると心がスッキリする。さっぱりした性格で、笑顔で話すママさんを見ると「まぁいっか」「なるようになる」「やるしかない」と思える。ダイエットに後ろ向きだった心も前向きになり、家でも自分なりにダイエットに励むようになった。

少しずつだが痩せてきているのは、ママさんから発せられる良い「気」のおかげもあると思っている。私以外のリピーターも、このママさんの発言と笑顔に癒されているのだろう。結局、どんな商売も最終的には人だと実感している。

今日から減量スピードを上げるために、ベーシックコースからフルコースに変えた。マッサージ後に足湯を加え、体を蒸した後にまたマッサージを行う。さすがフルコースなだけあって、今日の効果はいつも以上に目に見えるもので驚いた。

美容で手っ取り早く結果を出したいなら、お金をかけるのが一番だ。今月大分かけ過ぎていて少しやり過ぎた感はあるが、これをモチベーションに仕事をもっと獲得しようと思っている。お金は使った分稼いで取り戻せば良い。

フルコースは当然時間が長くなり、家を出る前に告げた2時間をとっくに越えていた。とはいえ、焦る理由もないので、ママさんと話し込んでいた。

ブルっとスマホが通知を知らせた。彼からのLINEだ。

「まだ?」

あれ、なんか不機嫌。ご飯は先に食べていいと言ったし、私に落ち度はない。けれど、確かにLINEからは彼のやや不機嫌な様子が伝わってくる。

「もうすぐで終わるよ」と送ると、すぐさま返信がきた。

「2時間って言ったから、1時にはラーメン食べられるように準備してるんだけど…お腹減ったよ」

あ、私の昼食計画を覚えていたのか。塩らーめんを作ってくれるのか。

数あるインスタントラーメンの中でも個人的ベスト3位にランクインしているのが、サッポロ一番塩らーめん。ここ最近ダイエットに励んでいてしばらく食べていなかったが、先日スーパーで久々に買った。昨日、何かの拍子に「明日は塩ラーメン食べよっ」と声を弾ませて呟いたことを彼は覚えていたらしい。

彼は私に作るためにスタンバイしていたのだ。こういう優しさがこの人にはある。だから憎めない。最近仕事の愚痴を聞かされることが多くて勘弁してよと思っていたが、さりげなく私を喜ばせようとする姿勢を見ると、まぁいっかと思える。

そうだ、日常でも優しさを絶やさないところに私はころっといったんだと思い出した。

けれど、別に私から頼んだわけではない。良いと思ってやってくれるとはいえ、告げた時間に帰ってこないだけで不機嫌になられると、こちらもイラっとする。しかし、その旨はLINEで送らず自分の中で留めた。「もうすぐで帰るよ!」と返信し、足早にサロンを後にした。

塩ラーメンを好きになったきっかけは祖母だ。一緒に住んでいたこともあるが、孫の中で一番かわいがってくれたと思う。慎ましい人だったが、私にはお金を惜しまず潤沢にお小遣いをくれた。小学生の頃は祖母の部屋で過ごすことが多く、祖母の前で即興の踊りを披露した。いつも「あっはっは」と笑ってくれるし褒めてくれる。それがとっても嬉しくて、しつこいくらいおどけて踊っていた。飽きずに付き合ってくれた祖母には感謝感謝だ。

昔の人にとってインスタントラーメンはちょっとした贅沢品だったのか、物珍したかったのかわからないが、祖母はその年代の人にしてはインスタントラーメンが好きな方だった。

よく作っていたのが塩らーめん、いや、インスタントラーメンはこれしか食べていないかも? とにかくそれくらい好きだったようで、初めて私が食べた塩らーめんも祖母が作ってくれたものだ。

初めて見た塩らーめんは不思議だった。やや白濁したスープはラーメンのスープと思えなかった。それまでラーメンといえば醤油ベースのスープが基本だったから、これおいしいの? と少し疑った。

しかし、その疑念も一口食べて吹っ飛んだ。

何これ!
お、おいしい……!

さっぱりしているのに味はしっかりある。塩らーめんと言っても塩の味だけじゃなく、ちゃんと旨みがある。見た目以上に奥深い味! 見た目は薄いのに「俺はラーメンだ!」としっかり主張しているところも良い。ツルツルの麺にスープがしっかり絡まって、いつまでもすすっていたくなる味に感動した。

以降、サッポロ一番塩らーめんは私の好物になり、一人でご飯を作るといったら塩らーめん! と定番になった。

私が作るときの具はシンプルで卵のみ。完成手前で溶き卵を鍋の中に入れて、フワッとするまで蓋をする。最後に付属の胡麻をかければ完成だ。見た目は味気ないけど、最高にうまい。溶き卵と塩らーめんは抜群に合うし、シンプルだからこそベストマッチな味わいを堪能できる。すっごくおすすめ!

サロンから帰ると、キッチンには水が入った鍋、塩らーめん、そしてゆで卵が用意されていた。

え、ゆで卵……。

私といえば、塩らーめんは溶き卵だ。しかし、彼にとってラーメンといえばゆで卵。確かに私も好きだが、塩らーめんだけは違う。卵は溶き卵なんだよ!!!

作ろうとしてくれる優しさには感謝だが、溶き卵だけは譲れない。溶き卵に変更しようと冷蔵庫を開けると、卵がない。ゆで卵で使い切ってしまったのだ。

「塩らーめんは溶き卵なのにぃぃぃい!」

言わずにはいられなかった。彼も私のこだわりを知っているはずだから、なおさら我慢できなかった。とはいえ、作ってくれるのだから渋々免じた。かなりの渋々だけどね。

今日の具材はゆで卵、小松菜、シーフード。私が好きなものが詰まっている。溶き卵ならこんなに具もいらないが、彼と食べるし、なんてったってゆで卵だから他の具もリクエストした。

スープの加減は私好みで、ちょっと濃いくらい。小松菜とシーフードも相性良し。ゆで卵は味しみしみにしたかったので箸で割り、黄身にスープを浸透させた。しばらくしてから食べてみる。

うん、これはこれでうまい!

サロンでLINEをもらったときは、ひとりで勝手に用意したくせに文句を言ってくる彼にいらついたが、その文句もどこへやら。久々の塩らーめんは彼の優しさと相まって、とってもおいしかった。

「作ってくれてありがとう」

改めて、彼の優しさに感謝しながら告げた。どんなに文句があってもイラついても、おいしいものがあれば機嫌は良くなる。

おいしければ全て良し。


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