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実況アナは本来不要である

おはようございます、バーチャルアナウンサー京野聖也です。
今回もVtuber業界のことではなく、私にまつわることについて書かせてください。
頭の中にあるいろいろな考えや思うところを消えないうちに文字という目に見えるかたちで残しておきたいのです、名前もnoteですし、メモ書きのような感じでも使わせてください。

私はバーチャルアナウンサーとしてYouTubeで動画制作をして活動しております。
なぜVtuberとしての活動なのか、なぜバーチャルアナウンサーというスタイルなのかは自己紹介のnoteにて記載をしております。


さて、スポーツ観戦(特に競馬)を趣味とされている方のなかにはこのような考えをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「実況アナは花形のポジションだ」

競馬の名実況で思い出されるは
「世界のホースマンよ見てくれ、これが日本近代競馬の結晶だ!」
2005年菊花賞 ディープインパクト 馬場鉄志アナ
「河内の夢か豊の意地か、どっちだー!」
2000年日本ダービー アグネスフライト 三宅正治アナ

競馬に限らず広くスポーツ実況を見てみると
「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ!」
2004年アテネオリンピック 男子体操団体 刈谷富士夫アナ
「甲子園は清原のためにあるのか!」
1985年甲子園 PL学園対宇部商 植草貞夫アナ

など、スポーツの名シーンには必ずと言っていいほど名実況(名フレーズ)が付き物のように思えます。
スポーツを選手とともに盛り上げる役目が実況にあるかのような……

その考えを否定するわけではありませんし、なんなら私も競馬実況を本格的に勉強していた時期にはそのように思っておりました。
「スポーツには実況が不可欠である」と。

ですが、私はある出来事とある考え方と遭遇して以降、その考え方を大きく改めることになります。




「実況は裏方であり、なんなら本来は必要ない役割である」


①考えを改めるに至った出来事

私は競馬に限らず、あらゆるスポーツ観戦が好きです。
私の母親もスポーツ観戦が好きで、あらゆるスポーツのなかでも特にフィギュアスケートをよく観ていました。

その母親が録画して何回も何回も観るほど好きな演技が2014年ソチオリンピック、町田樹選手のフィギュアスケートエキシビジョンです。
Queenの名曲『Don`t Stop Me Now』に合わせ、町田選手が氷上でギタリストを夢見た青年を演じる物語で、表現力の高さが光る名作です。

母親がその録画を再生していたので一緒に観ていたのですが、そのときに母親が一言いいました。

「せっかくいい演技なのに実況がうるさいんだよね」

私もまったく同じように思っていました。
せっかくの名演技が、実況と解説が口を挟むだけで台無しになっているのです。
実況と解説の声がどうにも耳障りで選手の演技や名曲が頭に入ってこない、選手の大舞台を完全に邪魔していました。

そのときに強く思ったのが




「スポーツの主役は選手だけである」ということ。

フィギュアスケートは曲と演技が一体になっていることからそう思っている方が特に多いのか、NHKのYouTubeではフィギュアスケートの演技実況なしバージョンも投稿されています。

スポーツ中継には当然のように実況がついていますが、最善のかたちとしては「全てのスポーツにおいて実況のONOFFをこちらで選択できるべき」であると考えています。

プロ野球やサッカー中継でいえば「実況なしでスタジアムに実際にいるような雰囲気を味わいたい」「応援歌をじっくりと聴きたい」という方もいらっしゃることでしょう、そういう方の意見も尊重されるべきです。

スポーツの主役は選手ですから、野球選手が放つ打球音、競馬騎手の鞭の音、競走馬の走る音、これらの音は努力の結晶であり、本来ならお伝えしなければいけない音です。

なぜかスポーツには実況が付き物と思われていますが、実況がなくても十分スポーツ観戦は楽しめるものです。

実況は必要不可欠なものでは一切ありません。
映像と音があれば選手の努力の結晶は十分に伝わります。


②考えを改めるに至った考え方

私は任天堂株式会社という企業が大好きです。
任天堂が作る製品が好きですが、それ以上に任天堂という企業の社風や考え方、経営方針が好きなのです。
所謂任天堂信者です。

そんな任天堂の社長古川俊太郎氏は2020年1月5日の日本経済新聞のインタビューで「ゲームは生活必需品ではない」とおっしゃっています。
この考えは任天堂中興の祖、三代目社長山内溥氏がインタビューのなかで繰り返し語っていた言葉で、今も古川社長が口にしていることからわかるように、任天堂に強く根付いている考えです。

そう聞くと驚かれる方も多いのではないでしょうか。
任天堂といえば日本を代表するエンターテインメント企業です。
スマホゲーでは後れを取りましたが、時を遡ればスーパーファミコン、最近だとDSやWiiでゲーム人口を爆発的に増やしました。
若い方では任天堂のハードをまったく触ったことのないという方はほとんどいないのではないでしょうか。
それより年齢層が上の方でもスーパーマリオをはじめとする任天堂のIPをまったく知らないという方はいないでしょう。
日本のエンターテインメントの覇者で、トヨタ自動車のような企業と並ぶような日本を代表する企業です。

スマートフォンが登場しゲーム市場は約2倍に成長、売り上げ以上にゲーム人口が莫大に増えました。
1日のなかでまったくゲームをしないという人も少ないでしょう。

最近では動画サービスなども充実し余暇市場の選択肢が増えましたが、もはやゲームは生活必需品とまで言っていいと思えるような躍進ぶりです。

これほどの躍進ぶりながら任天堂は「ゲームは生活必需品ではない、いつお客さんが離れてもおかしくない」と言い切ります。

これはゲームに限ったことではありません。
エンターテインメントそのものが生活必需品ではないので、漫画も映画もパチンコもレジャー施設もスポーツにも同じことが言えます。

競馬も同じです、生活必需品ではありません。

任天堂ですらこれほどの危機感を抱いて開発に取り組んでいるというのに、過去の自分は生活必需品ではない競馬の、必ず必要とされているわけでもない実況をすることに対し「実況は花形だ」と考えていたのですから、「なんて傲慢で、なんて視野が狭いんだろう」と恥ずかしくなりました。


③実況の意義について

以上が私が「実況は裏方であり、なんなら本来は必要ない役割である」と思うに至り、実践するに至った経緯です。

昔は競馬やスポーツをリアルタイムで知る手段としてはラジオが軸でしたから実況が担う役割はとても大きなものでした、この時代に限ってはスポーツ実況は必要不可欠と言えます。
でも現在ではテレビや動画サイトが軸となり、ラジオでスポーツを楽しむという方は少ないでしょう。
そもそもラジオではスポーツ選手の姿が見えませんからスポーツを楽しむ手段として優れたものではありません、可能なら映像媒体で楽しむべきです。

映像でスポーツを楽しむ手段がこれだけ増えた現在、スポーツ実況は必ず必要とされるものではなく、主役である選手を邪魔してしまう可能性があるものとなってしまいました。

でもテレビや動画サイトが軸になった今でも、実際にはスポーツ実況はそこそこ必要とされています。
「ないと困るとは言わないまでも、あるならあるで欲しいかな」
これがスポーツ実況の立ち位置であります。
生活必需品ではないスポーツの、必ず必要ではない実況の果たすべき役割とはなんなのか。

ここまで引っ張ってこんなオチかよと言われるかもしれませんが、
「その場で起きていることをわかりやすく聞き手に伝える」
これに尽きると思います。
それに尽きるからこそ、先ほどの「実況は裏方であり、なんなら本来は必要ない役割である」という意識を持ちながら活動することが大切だと考えています。

競馬実況でたまに実況中にポエムを読むアナウンサーがいますよね、どこのテレビ局とはいいませんが……
ラジオ局とテレビ局では実況が果たす役割が異なりますが、基本的にはテレビ用であれポエムをいう時間があるのだったら一つでも多くの情報をわかりやすく伝えるべきです。
実況アナの主観は基本的にはスポーツ実況には必要ありません。
その実況、本当に裏方ですか?

たまに競馬実況で最後の直線が近くなり「どの馬が勝つのか!」というアナウンサーがいますよね。
「いやいや、それを伝えるのがお前の仕事やろ(笑)口に出すなや」と一人で心のなかでツッコんでいます。

スポーツ実況の講座に通っていた時に「競馬実況で一番大切なのは全頭追うこと」と講師に言われたことを今でもしっかりと覚えています。

それは競走馬や騎手、馬主、だけでなく、我々のような裏方であるすべてのホースマンに対するリスペクトです。
一頭でも名前を言い逃したら失礼になりますから、たとえアイビスサマーダッシュでも名古屋でら馬スプリントでも、情報に優先順位をつけながら削るところは削り、伝えていかなくてはなりません。

私のほかにもYouTubeで競馬実況されている方はいらっしゃいますが、そんな意識を持っていることもあってか、馬体重読みやオッズ読みも注力して練習しているのは私ぐらいではないでしょうか。
実況アナウンサーの仕事は競馬実況だけではありませんから、バーチャルアナウンサーを名乗っている以上はこちらにも注力して練習しなければいけません。
とはいっても趣味の範疇でボイトレがてら行っているだけですが……
「紙に書かれた馬体重やオッズを読むぐらい簡単じゃないか」と思われると思いますが、実際に録音しながら読んでみて自分の声を聴いてみてください。
伝えるということを意識しながら行うと意外にも難しいものです。

文章も長くなりましたので最後に、スポーツ実況好きである私が凄いと思った実況アナウンサーの巧みなテクニックを一つ紹介して今回の話題を締めたいと思います。

④最近凄いと思った実況アナのテクニック

実況は元TBSの林正浩アナウンサー、解説は小宮山悟さん。
お聞きいただければわかりますが、0:55から2:05まで実況も解説も一言もしゃべっていません。
本来であれば仕事を放棄しているようなものです。
ちゃんとカウントや投げた球種がどのようなものであったか、さらには選手の仕草なども伝えなければいけない。

ですが、この0:55から2:05までの間は意図して行われたものだったのです。
試合は9回裏、井口選手はこれが引退試合、スコアは1-3でロッテが負けている。
すなわち、井口選手にとってはこの打席がおそらく現役最終打席になります。
現役最終打席ということは球場で井口選手の応援歌が流れるのも最後。
林正浩アナは試合開始前に小宮山さんと「最終打席はしゃべらないで球場の音を視聴者の方にお伝えしましょう」と話し合ったそうです。

伝えるべき情報の優先順位のなかで、そもそもランキングには入っていないであろう「球場の音」をこのタイミングで最優先で伝えるということを選んだのです。

結果が現役最終打席で9回裏に同点ホームランということもあり強く印象に残っている場面ですが、「伝えるためにあえてしゃべらない」という選択肢があったことにとても驚きました。

もしこれがとある年の日本ダービーで「最後の直線の迫力と競馬場の熱気を伝えたいからあえて黙りました」なんてやったら当然放送事故です。
井口選手が7535回打席に立ったなかで最後の打席だからこそ成せた技です。

結果は置いておいても、これは名実況であります。

それでは次回のnoteでもお会いできれば幸いです。

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