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言葉と語感とラーメンズ#23 第16回公演『TEXT』前半

言葉って、おもしろい。
これぞラーメンズ、小林賢太郎の台本と言える大好きな作品。
どれくらい好きかって、寝る時のBGMにしているくらいです。

『TEXT』全6作品中、前半4作品のお話。

1.50 on 5

片桐「さ」
小林「三組に転校生?」
片桐「し」
小林「しらねぇ」
片桐「す」
小林「すげぇ可愛い子だって?」
片桐「せ」
小林「せっかくだけど、今俺、サッカーにしか興味ないんで」
片桐「そ」
小林「そうか、転校生か…」
片桐「何この予感!」

ドラマティック50音ポスター。
こんな50音ポスターがあったら、楽しく覚えられそうですね。
もっとも、小さな子ども向けの例文ではないですが。
50音って、どうやって覚えたんだろう。
むかし、実家のどこかの壁にポスターが貼ってあったような、なかったような。
50音には、50音それぞれの音の語感があります。
個人的に「さ行」は、口から空気が出ていくところから「爽やか」なイメージがあります。
作品中の「さ行」も、まさしく青春の爽やかさを感じます。
「青春」も、「せ」「し」が音の頭に入っていて、爽やか。
言葉の意味と語感が一致していると、とても気持ちがいい。
50音の音のイメージについて書かれた「語感力辞典」なるものがあり、以前見つけた時に速攻で買いました。

皆さんなら、どんな50音ポスターを作りますか?


2.同音異義語の交錯

片桐「今はだれにも会いたくないとでも?」
  小林「お前、タイ人恐怖症なのか?」
片桐「理由を言えよ」
  小林「あ、タイ米が苦手なんだ。大丈夫。今日のカレーはタイカレーじゃないんだよ。だからライスでじゃねぇんだよ」
片桐「なんでなんだよ」

高校のときに漢検2級を取りました。同音異義語のところが一番すきでした。

上手と下手に分かれて、小林と片桐がそれぞれ一人芝居。
シチュエーションは異なるが、2人のセリフが同音異義語や似たような言葉、状況でシンクロしている。
音声だけで聴いていても面白いですが、たとえば電波を探して電話を振る動きと、胡椒を振る動きがシンクロしていたりもする。
言葉だけではなく、動作まで交錯させるとは。
言葉も動きも計算しつくされた作品です。


3.不透明な会話

片桐「お、脱・逆・非・不透明人間・以外ってことだな?」
小林「もーお前の話が不透明だよ」

透明人間の存在を証明できるか?という話。
「悪魔の証明」という言葉を聞いたことがありますか?

悪魔の証明とは、「《この世には悪魔など存在しない》と主張するのなら、それを証明してみせろ」と迫ることである。要するに、「証明が到底不可能な事柄」のこと、および、そのような証明不可能な事柄について「証明しろ」と迫る態度や言動のことである。
(実用日本語表現辞典より)

例えば、アイスランドにトンボがいるか?という問いに対して(実際にいるかは置いておいて)、いることを証明するにはトンボ一匹を捕まえてくればいい。
しかし、いないことを証明するには、アイスランド全土をくまなく探さなくてはならず、非常に困難です。
同様にして、2人は透明人間の存在をどうやって証明するのか?
小林の証明に、思わず唸りました。
片桐の証明に、思わず笑いました。

小林「『ルールを守る』ってことは『その言葉の表面にだけ従う』って意味じゃない。大事なのは、“そのルールが持っている意味を理解すること”なんだよ」

これも、言葉に関する大事なセリフですね。


4.条例

片桐「“目に青葉、ヤマホトトギス、初ガツオ”の句が思い出される爽やかな季節の折り、そちら様におかれましては、相変わらずご精励のご様子、心よりお喜び申し上げます」

小林「早春の頃、お宅様におかれましては、ますますご健勝の趣と存じ上げます。さてワタクシごとではございますが、日ごろの不摂生、並びに、休養無精がたたり、世間知らずの若輩者の至らなさ故、恥ずかしながら、まぶたが重たくなって参りました。……」

さて、どんな条例が出たのでしょうか?
おなじ内容の会話を繰り返しますが、条例が出ることによって2人の話し方が変わります。
「不透明な会話」から続けてみると、どういう状況なのかが分かるという仕組み。

じょう‐れい〔デウ‐〕【条例】
1 地方公共団体がその自治権に基づき、法令の範囲内で議会の議決によって制定する法。「騒音防止条例」
2 「条令」に同じ。
(デジタル大辞泉より)

平たく言えば、その地域での、守らなければならない決まりです。
作品中での条例は、言葉、あるいは表現を縛るもの、とも言えます。
その縛られた状況の中で、どんな形で会話をするのかが面白いところ。
最後には、言葉が使えなくなります。
しかし、動きだけで会話が成立する。
言葉は、音として発さず、文字として記さずとも、人間同士の間に共通理解があれば成り立ちます。
「目に見えない言葉」、あるいは「形に出来ない言葉」、そして「言葉にならない言葉」も、この世には数多と存在しているのでしょう。



後半へ続く。

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