好きな匂いでDNAがナンチャラって

今使っているお香入れはもう何年前だったか定かではない初めてできた彼氏から貰ったものである。
別に未練があって捨てられないとかではなく生活を営むにおいて必要なもので、壊れているわけでもなく、趣味じゃないとか見た目が好きじゃないとかそういうものでもないからそのまま使い続けている。
(おそらく22か23くらいに貰った)
もう写真もないし、連絡先も消したし、もはやフルネームも覚えてなくて顔もモヤがかかっているので今どうなってるかなんてもうわからないのだけど非常に思い出深い恋愛期間であったのは間違いない。

私のまるで深海魚ですかというような抑圧的な恋愛スタイルが確立されたのもこの3年が元だと思う。

相手は所謂3Bと呼ばれる職業であった。
だからといって暴力があったとかヒモだったとか女にだらしなかったとか典型的な癖はなく、むしろそれらしい特徴は髪色や服の趣味くらいで何度か「いくらなんでもそのセンスはないだろう」と言いかけたことがある程度のファッション位でそれ以外はごくごく普通、あと酒は飲めないという感じの人だった。

元々私自身が甘え下手であり自分の希望を相手に伝えるのが不得意であるのでおそらく出来のいい手のかからない女だったと思う。

それと合わせて人生で初めてのオツキアイであり、異性交友。
しかもたしか結構歳が離れていた。
職業的にも前に出過ぎてはならないと思っていたし、なにより子供に見られたくなかったし舐められたくなかったのだ。
非常に傲慢であるが相手を下に見ていたフシがある。

【いい歳してまだ夢おってんのかよ笑】と言うやつだ。

今思えば陰キャ特有の蔑みは憧れや羨望の裏返しであるし、まさにそれだったのだと思う。
なんてド失礼つかまっているのだ。

そんな気持ちがありながらも何故か(明確に夢をおうことすらしなかった私にとって彼は大変に眩しいものだったから)惚れて振られて諦めずに晴れて付き合うことになったというのが始まりである。

当時からお香が好きでなにかやべえもんでもやってんの?という勢いで部屋をモクモクさせていた私なのでドンキに行くたびにお香をチェックしていた。(今はもっぱら雑貨屋で毎度毎度立ち尽くしている)

その時に箱型の皿に切り替えるか否か、はたまた見ているだけだったのかもう覚えてないが毎回このお香入れを眺める時間があったことは確かで、今使っているのがあるし不便という訳でもない、買い換える理由もない、から買わないを何十回何百回と繰り返し、おそらく彼が隣にいる時でさえそのルーチンが変わらなかったために、誕生日にそれを貰ったのであった。

1000円程度のものだったがシンプルに【こいつ、ちゃんと見ててくれていたのか、私のことを】と肌に感じることが出来た記憶でものすごく嬉しかったのは事実。
なんならこれを超える男からのプレゼントは未だ登場していない。

別れ方も珍妙であった彼が今も元気に過ごしていることを願うばかりだ。
(多分就職もしてるし結婚もしている)

そんな思い入れ深いチープなお香入れだが一部が組木になっていておそらく接着剤でとめられていたと思わしきパーツがジェンガのごとく外れるようになってしまった。

これは多分1年前くらいからだと思う。
そしてとうとうお香の油が蓋部分を侵食し独特などのお香とも言えない油なのかヤニなのか液体が抽出されるようになった。
(かなりいい匂いがするけど色が真っ黒)

流行りの恋愛ソングやドラマであればここで私はフフっと笑って相手の顔でも思い浮かべるんだろうが残念ながら材料がなく思い出すことが出来ないからこれ以上の広がりはない。

中華街デートの最中。
突然別れを告げて、このままデート続けてもいいし解散でもいいけどどうする?なんて可愛げも愛想も情もない別れ方をした挙句、【デートを続ける】を選択した彼に対して占いを2人でしてみたり、観覧車に乗ったり、全然支離滅裂であったが最後の最後でしたかったカップルが出来て大変満足だったのもヘンテコだし。
もう別れたというのにカッコつけてデート以前にした約束を履行した彼もなかなかのヘンテコで、私達らしい最後だったと思う。

懐かしいとは思えどあの時に戻りたいだとかあの人とまたやり直したいなどとは1ミリも思わないがなんとも言えない気持ちになってしまった。
得体の知れない、けして見た目が美しいだとか可愛らしいだとかはいえないけど嫌じゃない、良い印象がいだけるというのは浮き出てきた謎の油と同じようなもので、なかなか拭いても落ちなくて水洗いも出来ないもんだから自身の香りとして付き合っていくしかないんだろう。

私が今面白いのも、親しみやすいのもこの積み重なってでた謎の油があるからでそれに引き寄せられた今の周りの仲間たちもまた謎の油の元になってもらうのだ。

あーあ、また魅力的になっちゃうわね。

そう感じさせてくれるのは周りのおかげで、そんな素敵な人間が溢れているから貰った物を捨てることが出来ない。
18くらいの時にもらったパワーストーンのブレスレットも今やビーズ状態で保管されている。

断捨離が得意な私だけど実はしっかりプレゼントは取ってある。

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