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Peachboys最終公演

自分の所属ユニット、Peachboysの最終公演の詳細情報が出た。最終公演と銘打っている通り、童貞3人組の物語は今回で最後である。Peachboysは2012年の3月に旗揚げ公演を行ったので、最終公演を無事行うことができれば、丸々13年間活動していたことになる。我々は13年間も童貞を演じ続けたのだ。


主演メンバー3人が全く同じ役を演じ続ける、というのは小劇場界でも珍しいだろう。Peachboysのあらすじは毎回同じで、“ケン・ヨーヘイ・ハヤオの仲良し童貞三人組がそれぞれ好きな娘が出来てその娘と結ばれるために奔走するも、結局フラれて童貞は捨てられない”というもの。その内容をその時々の時事ネタ・パロディネタ・下ネタで100分ぐらいに膨らましてお届けするだけ。それを13年間ひたすら繰り返してきた。


そう言いつつも、自分は初期メンバーではないのだけど。自分は第二回公演『ファーストバージン』で初めて出演したがその時は客演で、それまでの仲良し童貞三人組はケン・ヨーヘイ・アキラであった。

メンバーになるタイミングは唐突に訪れた。Peachboysの作・演出のDJ Bokkyは幾つもユニットを動かしている男で、当時『ファーストバージン』のあと、連続でDJ Bokkyの別現場に自分は出演していた。ある日、そっちの稽古終わりにDJ Bokkyから「今日この後Peachboysの打ち合わせがあるからお前も来い」と言われ、新宿東口を出てすぐの居酒屋に連れて行かれるとケンとヨーヘイが、つまりKYOSUKEGOが待っていた。そしてアキラを演じていたTAKUが休むことになったことを告げられ、その代わりとしてメンバーにならないか?と打診され、自分はその場でメンバーになると答えた。

即答したのはPeachboysに対して出逢っちまったな、という感慨を覚えていたからだ。

出逢っちまったハヤオ、じゃなくてマナブ。
薬を飲まないとすぐ年老いてしまう奇病に冒された大きすぎる小学5年生。

自分が演劇を始めたのは大学のサークルからだ。うちは祖母は油画の先生、両親共に美術大学出身、姉もそっちの大学に進んだ美術一家なので、自分もあまり深く考えずに美術大学に入学した。入学後、しっかりサークル活動したいなと思って検討した結果、劇団むさびという演劇サークルが目に留まった。お笑いが好きだったこともあり、人前に立って何かすることに興味があったので入ることにした。つまり、演劇を始めたのは何となくだった。

学生の間は学内での公演に終始し、サークルを引退してから小劇場のオーディションを受けるようになった。そうして出始めてから2個目か3個目の公演がPeachboysだった。その頃には役者を続けようということだけは決めていたが、具体的にどうなりたいとかは全然決まっていなかった。ぶっちゃけ演劇が好きかどうかもよく分かっていなかった。


ただ、偶然繋がった縁で出演したPeachboysの公演が終わった後、自分はこういうことがしたかったのかも知れない…!とじんわり思ったことを覚えている。その手応えを反芻して、Peachboysめっちゃ楽しいなと気持ちの輪郭がハッキリし始めた頃に、丁度良くもメンバーにならないかという誘いが来たのだ。こうしてPeachboysメンバーとしてKYOKYOが参入し、ハヤオが爆誕したのである。

何故か本編で揃うことが少ない、ケン・ヨーヘイ・ハヤオの仲良し童貞三人組。

Peachboysの良さは出演者全員が全く中身のないことに全力を注ぎ込むところである。童貞の恋物語という大筋はあれど本編のほとんどは大いなる脱線であり、童貞の恋には関係がなく基本的には意味がない。もっと言えば、童貞の恋は成就しないことが決まっているので本道である大筋にすら全く意味はない。Peachboysそのものが全く以て無意味な存在なのである。にも関わらず、出演者は全員全力を尽くしてバカを全うする。

しかも、Peachboysには奇妙なことにちゃんとしたキャリアを積んできた人たちが集まってくるので、勢い任せではなく高度な技術を用いて芝居を仕掛けてくる。出演している人たちは、単純に芝居が上手いのだ。他所に出ている時はその格好良さ・美しさで観客を魅了してさえいる。そんなイイ大人たちが何の意味もないことに自分の持てる限りの技術を尽くしている。

何の意味もないことに全力を注ぐ、そのPeachboysのスタイルが自分の琴線に触れたのだ。

Peachboysの象徴・めくり。

また、Peachboysに居ることで自分は演劇を学んだと言っていい。

共演する人達は前述の通り、様々なところでキャリアを積んだ方々ばかりで、その人たちの技術を目の当たりにすることは勿論勉強になる。加えてPeachboysは演劇の構造そのものをネタとして使っている部分も多かった。

Peachboysの一つの発明であるめくりシステム。平台一枚にパンチを敷いて黒幕を吊っただけの舞台で、目まぐるしく場所が変わるのにお客さんが一目で場所が分かるように、場所を移動する度に場所の名前が書いてあるめくりをめくって場所を伝えるというもの。

また、Peachboysの象徴とも言えるヨーヘイのズゥアッという叫び。童貞の興奮・喜び・哀しみ、生理現象としての動きをたった一声で全て伝える。

抑制の効かない暴走として暗幕をめくってしまう。着替えという名の変身のために時間稼ぎをする。全くお客さんとしては共感できないシーンで感情を必要以上に大爆発させる。etc…

そうしたPeachboysで展開される無数のネタを成立させるためには、どうしたら演劇というものが成立するのかということを知らなければならなかった。Peachboysに居ることで演劇を学んだし、演劇的に上手くならなければPeachboysに貢献できないと思うようにもなっていった。自分もイイ大人として、自分の持ちうる技術で全力で悪ふざけ出来るようになりたい。

そう思って、Peachboys以外の公演に出る時は、なるべく違うベクトルに振り切れてるところに出るようにした。能力を笑いに特化するのではなくて、演劇的な引き出しを増やすことを意識した。演劇的な技術で笑いが取れるように。外で得たものをPeachboysに還元できるように。Peachboysという軸が出来たお陰で自分は演劇の色々な枝葉を伸ばすことが出来たのだ。

まるで絵画のよう。何のシーンかは思い出せない。

Peachboysには演劇の粋(すい)が詰まっている。イイ大人たちの持てる技術が結集していることもそうだし、全くもって無意味な存在であることが、逆に純粋な演劇性を高めているのだと思う。

何の意味もない演劇、そこで行われるものは何かと問われたら、人と人とのやりとりだと思う。何の意味も込められてなくても、人が交感することに価値は存在するのだ。誰かが発した訳のわからないナニカを受け取る人がいる。その事実だけで人は感動するのではないだろうか。

Peachboysがやっていることには何の意味もなく、一言で言ってしまえばバカに尽きる。童貞の行動原理なんて単純でバカそのものだ。
時事ネタ・パロディネタ・下ネタ。バカの表象に過ぎず、何のメッセージもない。
我々は下ネタをやりたいのではない。ただバカなことをやりたいだけなのだ。
その表象として下ネタが分かりやすいから選んでいるに過ぎず、本当の我々は童貞でも何でもない。メンバーの1人にはもう小学生になる息子がいる。
分別も技術も携えて、完全なるイイ大人となった我々は、それでも童貞の物語に今回も興じる。

何の意味もない感動を。

Peachboysを観た人達は楽しかったけど何が起きていたのかもう劇場を出た瞬間に忘れたと言って家路に着いていく。

お客さんには何にも考えず笑ってもらって、後には何も思い出せないぐらい中身のない純粋なただの演劇を、今回も味わってもらえるように。イイ大人の悪ふざけにまみれている内に、すっかり演劇を好きになってしまった。自分の持てる技術を尽くしてPeachboysの最終公演に臨みたい。



※注意
大層なことをのたまってきましたがPeachboysは完全なる下ネタです。
タイトルで引く方にはオススメしません。ただタイトル以上にドギツイ表現も出てきません。
タイトルで引っ掛かるナニカを感じた方。是非来てください。
タイトル通りのしょうもない時間を提供いたします。

Peachboys 最終公演
= PeachBOOWYs LAST GIGS =
『ピーチボーイズ
〜新性器エヴァンと下痢男〜』
作・演出:DJ Bokky a.k.a クソ旦那

2024年4月23日(火)〜4月29日(月)
@下北沢シアター711

【出演】
GO
KYOKYO
KYOSUKE
生粋万鈴(ハグハグ共和国)
佐藤友
つつじあゆこ
根本こずえ(演劇ユニットG.com
福永理未
熊野善啓
島田雅之(かはづ書屋/studio4093)
園田シンジ
三宅法仁
山田健太郎(やまだのむら)

🍑回替わりゲスト🍑
長田大史(踊る演劇集団ムツキカ)
河村岳司(劇団AUN)
永吉明日香
森口美樹

【タイムテーブル】
4/23(火)19:00 長田
4/24(水)14:00 長田/19:00 河村
4/25(木)14:00 河村/19:00 長田
4/26(金)19:00 河村
4/27(土)13:00 永吉/18:00 森口
4/28(日)13:00 森口/18:00 永吉
4/29(月祝)13:00 永吉/18:00 森口

【チケット】
⚫祭前かぶりつき(最前列のことです):5,500円
※各回8席限定指定席・豪華特典付き
〈特典内容については追って発表いたします〉

⚫自由席一般/前売・当日:3,800円 
⚫自由席ペア割(前売予約のみ):7,000円

🍑チケット発売開始 3月14日(木)20:00〜

公式X(旧ツイッター)アカウント:https://twitter.com/Peachboys2024


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