見出し画像

思想WARS (ボツver)

 雨の降りしきる暗い荒野に佇む二人の男女。

「こいつ、強い・・・!」
そうつぶやく男の瞳には、圧倒的なオーラを纏った女が映っている。

「貴方のその貧弱な”思想”で私を倒せるとでも?男はみ〜んな性犯罪者、大人しく死になさい、けだものが。」

女の手からどす黒い力が湧き出し、男に狙いを定める。
男が死を覚悟した、その時。

「えっとぉ、男がみんな性犯罪者ってなんかそういうデータあるんですか?」
黄色いパーカーを身につけた学生が現れ、女のオーラをかき消した。

「っ!?”ひろゆきキッズ”・・・!!」

「私の攻撃を打ち消した!?ありえない、こんな”思想”もへったくれもないクソガキに・・・!」
女が、怒りに任せて”ひろゆきキッズ”に攻撃を仕掛ける。

「僕がクソガキってぇ、あなたの感想ですよね、”ツイフェミ”さん。」
“ひろゆきキッズ”から奇妙な中年の顔が飛び出し、”ツイフェミ”の攻撃を受け流す。

「だ、黙りなさい!私は”フェミニスト”よ!!(おかしい、”ひろゆきキッズ”は理論もひったくれもない”ひろゆき構文”を連発するだけの下位思想・・・、こいつの使うカウンター能力なんて持ってないはず・・・)」

「攻撃に夢中で足元がお留守になってますよ、あなた、無能っすねwww」
奇妙な顔が笑い声を上げ、口を大きく開ける。その途端、口から光線が飛び出した。

「ぐぁぁっ!(やはり、この男・・・)」

「”ひろゆき信者”か・・・”ひろゆきキッズ”の進化系、いや、成れの果て・・・」
いつの間にか空気になっていた最初の男、”トランスヒューマニスト”が口を開いた。

〜〜 “トランスヒューマニスト” とは、脳の一部を機械に置き換えることで、人類がさらなる境地へたどり着けるという尖った思想、”トランスヒューマニズム”の持ち主のこと。〜〜

「すう〜っ、えっと〜、大人しく降参したほうがいいと思いますよ。僕も殺しはしたくないんでぇwww」

「男の理屈で、私達女性を縛ろうとするなぁ!!」
女のオーラが増幅し、般若の形相となる。”ひろゆき信者”の動きが止まった。

「まずいな・・・”ツイフェミ”は己のバックに付いている人数が多ければ多いほど強くなる・・・
そして今、奴は全ての女性が自分と同じ思想だと思いこんでいる。どうする、”ひろゆき信者”?」
自分がボコボコにされたのを忘れたのか、偉そうに語る”トランスヒューマニスト”。
彼は既に脳改造を施しているため、敵のあらゆる情報を入手することができる。しかしその性質上、戦闘向きではないのだ。

「”ツイフェミ”さん、貴方は間違ってますよ。」
静かに語り始める”ひろゆき信者”。

「何を!?貴方にはわからない!男には!!私達女性の苦しみが!!!わかるわけがないのよ!!!!」

「女性全員が貴方のように考えているわけではないですよ。もっと周りを見るべきだと思いますwww」

「黙れ!!ヘラヘラするなぁ!!!クソオスが!!!!」
”ツイフェミ”の拳が”ひろゆき信者”に届く寸前、”ツイフェミ”のオーラが消え去った。

「!?」
その途端、いつの間にか”ツイフェミ”を取り囲んでいた中年の顔が一斉に”ツイフェミ”を襲った。

「きゃああああああ!!!!!」

「やるな、”ひろゆき信者”。”ツイフェミ”自身に”論破”されたという自覚を持たせることでオーラを消し去ったか。」
相変わらず偉そうな”トランスヒューマニスト”。

「う、うぅぅ・・・」
”ツイフェミ”は生きていた。そして、穏やかな顔で、こう言い放った。

「私の負けよ。煮るなり焼くなり好きにしてちょうだい。」

「あ、貴方は負けを認める事ができるタイプの”ツイフェミ”さんなんですね。その殊勝な心がけを忘れなければ、本当の”フェミニスト”になれるかもしれないっすねwww」
背を向け立ち去る”ひろゆき信者”

「待って、私にとどめを刺さないの?」

「言ったじゃないですか、殺しはしたくないって。それじゃ、失礼しまーすwww」
立ち去る”ひろゆき信者”を見つめる”ツイフェミ”のオーラが変化していく。いつの間にか雲間から姿を表した夕日が”フェミニスト”を祝福するように輝いていた。


〜 第一次思想大戦 〜

 この世界には様々な思想が溢れかえっている。そして人々は、それぞれがそれぞれの思想に折り合いをつけて保っている。だが、思想が物理的な脅威となり、思想一つで人を殺せるようになった時、人類はどうなってしまうのだろうか。
 3年前、突如思想を具現化できる最初の”思想家”が現れた。その男の思想は”平等主義”。彼は自分だけが”思想力”を持つのを良しとせず、己の命と引き換えに全世界に向けて大規模な”思想攻撃”を放った。”平等主義”の思想攻撃によって国は瓦解し、それに伴い企業などの様々な集団が崩壊した。管理者のいない”平等主義”など上手くいくはずもなく、人類は有史以前の自給自足生活を余儀なくされた。そして今、人類は何百にも分断された集団の中で再び結束を取り戻しつつあった。そう、”平等主義者”によって生み出された”思想家”たちの下で_____

〜 アメリカ合衆国跡地 〜

 アメリカ合衆国、かつて栄華を誇った大国は既に存在していない。しかし、”資本主義”の威光は大きく、なんとか”資本主義”を復興せしめんと世界各地から要人が集まったため、”平等化”後もその影響力は侮れないものがある。

「伝令!敵軍に増援が到着した模様!」
飛び込むように部屋に入ってきた兵士は、中にいる指揮官風の男を見るなりそう叫んだ。

「・・・そいつの”思想”は何だ?」

「そ、それが”平和主義者”とのことです!」

「な・・・!?どういうことだ!!”平和主義”と”社会主義”が手を組むだと!?」

「”資本主義”は競争を前提とするため争いが絶えないから・・・だそうです。」

「馬鹿が!!競争のない社会に未来などないということが何故わからんのだ!?」

「こちらも例の”あれ”に増援を頼むしかないのでは・・・?」

「・・・・・・・・・はぁ、了承する。これまでは”平和主義者”の目があったから仲間にはできないと思っていたが・・・。背に腹は代えられん。」

「はっ!すぐに使者を向かわせます!」
兵士が部屋を出る。指揮官風の男、”資本主義者”は疲れ果てた顔でどっかりと椅子に腰掛けた。

〜 ドイツ跡地 〜

 ドイツではナチス・ドイツの栄光を忘れられない者たちが”思想能力”を手にし、その力で東ヨーロッパの4割ほどを独裁で占領、支配していた。

「そうか、”資本主義”から・・・」

「はい、増援を要請してきています。」

「相当焦っているようだな。何があった?」

「”平和主義”が戦線に参加した模様です。」

「なるほど。状況は理解した。見返りは何だ?」

「この戦争に勝利した暁には、我々”ファシスト”の”資本主義”からの追放を取り消すと。」

「ふむ、悪くない条件だ。イタリアとジャパンに連絡を取れ・・・・・・ハイル・ヒットラー。」

「ハイル・ヒットラー!」

〜 イタリア、ローマ跡地 〜
 
 イタリアでは、”平等化”以来、強い”キリスト教”の思想を持った者たちが死にもの狂いで旧バチカンに集まり、一大宗教集団として南ヨーロッパ一帯を実質的に支配していた。

「教皇聖下、旧イタリア国内に残っていた”ファシスト”の殲滅を確認しました。」

「よくやってくれました。神もお喜びになるでしょう。」

「それと一件、お耳に入れたいことが。」

「何でしょう?」

「捕らえた”ファシスト”が手紙を所持していました。読み上げます。」

《長年地下に潜んだ甲斐があった。”資本主義”陣営から協力の要請が来ている。動かせる”思想家”を全て旧アメリカ合衆国に派遣しろ。そこで我々と合流するのだ。ハイル・ムッソリーニ》

「・・・傘下の”平和主義者”たちに伝えなさい、平和の敵が”資本主義”に付いたと。」

〜 日本跡地 〜

 そして日本。今の日本に残っているのはほとんどが”事なかれ主義”であった。”平和主義”、”資本主義”、”社会主義”、”ひろゆき信者”、その他諸々はとっくに海を超えて大陸に出払っていってしまっている。(ひろゆきの墓がパリにあるため、ひろゆき信者はフランスに行った。)そして右翼、左翼は国が消えて無くなったことで自然に消滅した。しかし、その分今まで目立たなかった”ミニマリスト”、”ロリコン”、”2ch民”、”無神論者”等が台頭していた時期もあったが、世界各地から集まった”ヲタク”達が旧東京近辺を支配して以来は、安定して週一のペースでコミケを開いている。”事なかれ主義”はそれに嫌な顔をしながらも、”事なかれ主義”なので大人しく旧東京以外の場所に住んでいるという有様である。”ファシスト”と呼ばれる者たちは、潜伏に飽きて”ヲタク”として暮らしていた。そんな折に旧ドイツから連絡が届いた。

〜 アメリカ合衆国跡地 〜

かくして、”ファシスト”たちがアメリカに集結した。

「・・・・・・・・・・・・集まったのはこれだけか?」

「イタリア支部とは連絡がつかなかったが、ジャパン支部からは【行けたら行く】と連絡が来た。日本人は約束を守る種族だと聞いている。すぐ来るだろう。」

「来んな。」

「!?行けたら行くって言ってるのにか!?」

「行けたら行くって言ってるから来ないのだ。ハァ・・・まあいい、”ファシスト”は何人連れてこられた?」

「俺を含め33人だ。能力は攻撃型の者しかいない。」


「足りん。”資本主義”の総数は443人。侵攻してきている”社会主義者”は精々300人ほどしかいないようだが、”平和主義者”は1000人を超えるという。」

「なんだと・・・?そんな数の”平和主義者”に平和を説かれたら死ぬぞ!」

「奴らは既に旧カナダ付近に上陸して着々と侵攻してきている。”平和主義者”共め、自分が侵攻している側のくせに反戦ムードを作り出して力を強めていやがる。」

「このままでは、世界が・・・!」

「ああ、平和一色に染め上げられてしまうだろうな。」

「過激思想の持ち主を呼び出すしかないか・・・」

「お前以上の過激思想など存在するのか?」

「ああ、こちらの味方になってくれるかは分からんが、うまく言いくるめて・・・」

「た、大変です!!”平和主義者”が”社会主義者”を裏切りました!!」

「「な、何だってー!!」」

〜 ロシア連邦跡地 〜

 極寒の地、ロシア。美しい雪の白さで覆われているべき地表は、今や”社会主義者”の血で赤く染まっていた。雪の代わりに舞い落ちるのは真っ赤な共産党の旗。”社会主義”の象徴である鎌と槌が描かれた旗は、無惨に引き裂かれて朽ちている。

「進め!神の名のもとに!!」
千年以上昔に消滅したはずの”十字軍”が死体を蹴散らしながら前へと進む。

「”資本主義者”との戦いで手薄になった本土を攻撃するなんて・・・許せないなぁ、”キリスト教徒”。」

「ここはもう持ちません!お逃げください、最高指導者!!」

「しんがりは君に任せるよ。これから私達は”資本主義者”に協力を要請しに行く。」
そう言い放つと、最高指導者と呼ばれた男は横に控えていた女性を担ぎ上げ、”思想能力”で空へと飛び立った。

「最高指導者・・・ご武運を。」
業火に包まれる旧ロシア大統領官邸「クレムリン」。そこから飛び立ち、アメリカへと向かう赤色の光を見た者は、熱烈な”社会主義者”となり、”十字軍”は彼らの殲滅に丸3日費やすことになったという。

〜 朝鮮半島、平壌跡地 〜

朝鮮半島。古来より争いが絶えない地である。しかし今、朝鮮半島は”共産主義者”が完全に支配していた。以前は韓国と北朝鮮という2つの国に別れていたのだが、”平等化”により、韓国は”親日”と”反日”と”ヲタク”に分裂し、”親日と”ヲタク”は日本に移住。残った”反日”は抵抗せずに”社会主義”に下ってしまった。

「しょ、将軍しゃま!”平和主義者”の攻撃でロシアが陥落しました!!」
兵士が黒電話のような髪型の男に告げる。

「え〜、ヤバいね。関係ないけどお前噛んだから死刑!」
床に穴が空き、兵士が地下へと落ちていった。この将軍は日本によく”思想攻撃”を仕掛けるが、集団となった”ヲタク”は強く、全く歯が立っていないようだ。

〜 アメリカ合衆国跡地 〜

かつてはアメリカの国防相であり、ペンタゴンと呼ばれた建物。今はここが”資本主義”の最後の砦になっている。

「旧ロシアからこちらに接近してくる飛行物体があります!恐らく”社会主義”の生き残りかと!」

「殺すべきだ。」

「待て、”ファシスト”。お前が”社会主義”を憎んでいるのはよく知っている。だがな、これはチャンスだ。」

「チャンスだと・・・?馬鹿にするな!”社会主義者”は皆殺しだ!お前も同じ考えじゃないのか!?」

「考えてもみろ!”社会主義”の影響力は今でも朝鮮半島や中国の一部に残っている。その戦力は未だ脅威になりうるはずだ。」

「”社会主義者”を使い潰して”平和主義者”と共倒れさせるつもりか・・・」

「そのとおりだ。奴らから奪った領地の半分は君たち”ファシスト”が占領すればいい。我々は占領などせず、自由を与えるがな。」

「・・・フン、何が自由だ。まあいい、”社会主義”と手を組むのは今だけなんだな?」

「ああ、そういうことだ。お、早速のお出ましだな。」
虹色の光を纏い、太った男が空から舞い降りた。鎌と槌を手にした女性が男の肩から飛び降りる。

「やあどうも、”社会主義者”くん。」

「久しぶりだね。”資本主義者”。そちらにいるのは”ファシスト”かな?」

「・・・ああそうだ。何でもいいからそのうっとおしい”思想能力”を解除しろ。俺たちの仲間が”社会主義”に染まったらどうしてくれるんだ?」

「もちろん歓迎するよ。」
最高指導者がそう言った途端、”ファシスト”の目が赤く光った。

「・・・おっとすまない。君は冗談が通じないなぁ。”共産ビーム”は洗脳だけじゃなくて移動手段にも使えるからね。つい使いすぎちゃうんだよ。」
虹色の光が消え、銃をしまう”ファシスト”。”資本主義者”が口を開く。 

「まあまあ二人とも、仲良くしようではないか。ところで”共産主義者”くん、そちらの女性はどなたかな?」

「ただの側近さ。もともとは国営TVで働いていたんだが、強い”思想”を持っていたので引き抜かせてもらってね。今では僕の秘書官兼護衛だ。・・・そして、ロシアにいた”社会主義者”の最後の生き残りでもある。」

「そうか。で、本題は何かな?」

「あはは、白々しいなぁ。分かってるんだろ?このままじゃ僕たちは滅亡だ。手を組もうじゃないか。」

「使える”思想家”は何人いるんだ?」

「朝鮮半島に100人。中国は今忙しそうだから難しいかもね。」

「却下だ。向こうは1000人以上だ。今も増え続けているはずだし、”キリスト教徒”もいる。勝てるわけないだろうが!」

「そんなことはないさ。”平和主義者”は思想的には弱いからね。数的不利は問題にならな・・・。」
その瞬間、轟音が響き渡った。”思想攻撃”である。

「「「「「「「「「「「「国防省とは名ばかりの、軍事要塞に立て籠もる平和の敵たちよ。今すぐ”思想”を捨て、投降すればあなた方の人権を保障し、保護しましょう。1時間あげます、よく考えることですね。」」」」」」」」」」」」
何千という声が周囲から聞こえる。

「まさか・・・外を守らせていた”資本主義者”全員がやられたのか!?」

「っ・・・少し奴らを見くびっていたかもしれないね・・・」

「ぐ あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
苦しみの雄叫びを上げる”ファシスト”。”平和主義”は”ファシスト”の天敵である。”平和”を説く声は今、脳内で反響して”ファシスト”たちに想像を絶する苦しみを与えている。

「ちっ。しょうがない、”ファシスト”を外に投げて時間稼ぎさせる。」

「見捨てるのかい?」

「もともとそのつもりだ。こんな強い”思想”の持ち主を制御できるなど思ってもないわ。」

「じゃあ早くやろう。彼はそのうち無差別に爆撃を放ってきそうな目をしている。」

「ゲートを開ける準備をしろ!ペンタゴン内部にいる”ファシスト”を全員”思想兵器”に乗せる!!」

「サーイエッサー!!」
”思想兵器”。それは、”思想家”の持つエネルギーを増幅させ、純粋な戦いの道具として利用する兵器である。技術は秘匿されており、まさに”資本主義”陣営にとっての秘密兵器であった。

「こいつに”ファシスト”たちを乗せる。」
そう言って”資本主義者”が指さしたものは、巨大な戦車であった。

「これは・・・!」

「はるか昔の戦争の遺物を改良して作った。かつて『ティーガー1』と呼ばれていたものだ。君たち”社会主義者”も、はるか昔に苦汁をなめさせられたことがあるのでは?」
抵抗すらできず、機械のように戦車に乗せられていく”ファシスト”たち。もはやその目には、憎むべき”平和”しか映っていなかった。

「ああ・・・学校で習ったよ。ナチスの恐ろしい兵器だと・・・」

「そうだ。そして、今我々はこいつを最後の頼みにしている。歴史とは皮肉なものだよ。」

「認めたくはないけど、やってもらうしかないね。」

「準備、整いました!」

「ゲート開放!『ティーガー33.4』発進!!!」
轟音とともにペンタゴンのゲートが開く。重厚なシルエットが力強く前へと進んで行くと、包囲している”平和主義者”たちの顔がひきつった。

「徹底抗戦するつもりなのね。でもどうかしら、”思想”の前では旧世代の兵器なんか・・・」
”平和主義者”たちが美しい”思想”でバリアを張った。『ティーガー33.4』の巨大な砲塔が火を吹く。バリアはあっけないほど簡単に破られた。

「”思想攻撃”!?ただの兵器じゃなかったのね!至急本部に連絡を!応援が来るまで持ちこたえるのよ!」
”思想兵器”は圧倒的な力を持っていた。”平和主義者”は各地で仲間を増やしていたが、それがたった十数機の”思想兵器”に蹂躙されていく。ただでさえ強い”思想”を持っている”ファシスト”の力が”思想兵器”で更に強化されているのだ。よほど強い信念の持ち主でなければ彼らの攻撃を防ぐことすら厳しいだろう。

〜 ペンタゴン内部 〜

 ペンタゴンの中は静まり返っていた。”ファシスト”がやられれば自分たちも死ぬしかない。そんな緊張感がその場を支配している。”社会主義者”が口を開いた。

「それじゃあ、僕は朝鮮の方に救援を依頼してくるよ。」

「”共産ビーム”で逃げるつもりか、そうはさせん。やれ!」
周囲にいた”資本主義者”が一斉に”思想”を展開する。白い光線を浴びる”社会主義者”二人。

「無駄だぁ!数で勝っているから有利なわけではないんだよ!」
最高指導者たちは無傷で立ち上がった。それもそのはず、”思想”というのは少数派であるほど力を増す。味方がほとんど死に絶えた”社会主義者”は天敵の”資本主義者”ですら歯が立たなくなっていたのだ。

「”共産ビーム”最大出力!!!」
血のように赤い光が放たれる。徐々にそれは分散し、”資本主義者”全員を射程に捕らえ、撃ち込んだ。

「”社会化”!!」
横に控えていた女の鎌と槌が金色に光り輝き”資本主義者”の体に入る。女は触媒となり、”資本主義者”達を操り始めた。

「形勢逆転だね。どうする?楽に殺してあげようか?」

〜 一方外では 〜

 『ティーガー33.4』は多く見積もっても30機ほどしか戦場に出ていなかった。にも関わらず、戦局は大いに”ファシスト”側へと移っていた。統率が乱れた”平和主義者”は能力である”平和の詠唱”が揃わなくなっていた。そのため、”ファシスト”は心を乱されることなく殺戮に専念できていた。しかし、”平和主義者”のリーダーだけはしぶとかった。そこらからかき集めてきた一般”思想家”とは”思想”の強さが違うのだ。彼女は、たった一人で”ファシスト”のトップが乗る『ティーガー33.4』を相手にしている。

「独裁こそが正義!平和がもたらすものは停滞と退化のみだ!」

「それは違うわ!あなた達は過去の栄光にすがっているだけ、世界は刻一刻と移り変わっているのよ!平和が招くのは未来なの!」

「黙れ!!今の世界を見てみろ!各地で”思想家”が争い、”思想”を持たない者たちも巻き込まれている!この現状を正せるのは力による独裁だけだ!俺たちが築こうとしているものこそが未来なのだ!!」
『ティーガー33.4』の主砲が火を吹き、”平和主義者”を吹き飛ばした。

「本当に現実が見えていないのは貴様らではないのか?」
”ファシスト”たちが彼女の周囲を取り囲む。既に仲間たちのほとんどは息絶えていた。涙が頬を伝う。”平和主義者”は死を覚悟した。

 
〜 中 〜

 「恐ろしい力だな・・・まさか”資本主義者”が私だけになってしまうとは。やはり、これを用意しておいて正解だった。」
そう言うと”資本主義者”は上着を脱ぎ捨て、旧アメリカ国旗が描かれた盾を呼び寄せた。

「I am シキカン・アメリカ!」

「なんだそのダッサイ盾は!お前を”資本主義”ごと消し飛ばしてやるよ!」
”共産ビーム”が迫る。”資本主義者”、改めシキカン・アメリカは盾を構える。

「無駄無駄無駄ぁ!僕の”思想”がそんな物に阻まれるとでもぉ!?」
直撃する”共産ビーム”。しかし、シキカン・アメリカには傷一つない。盾に当たったビームが乱反射し、天井に穴を開ける。

「なっ!?だ、だが防御だけで戦いに勝てるものかーっ!やれ、貴様ら!」
指示を受け、攻撃を開始する元”資本主義者”たち。

「This shield is an "idea weapon".(この盾は”思想兵器”です。)」
シキカン・アメリカは全く動じず盾をぶん投げた。くるくると回る盾はまるで物理法則を無視した軌道で”資本主義者”たちを切り裂く。

「HAHAHA!! You are so weak!(ハハハ!!あなた(たち)はとても弱いです!)」
まさに無双。”思想兵器”の恐ろしさを体現したかのようなシキカン・アメリカを目にした最高指導者は意を決したように立ち上がり、秘書に話しかけた。

「”社会化”を解除する。そして秘書よ、僕自身を”共産化”するんだ。」

「しかし、最高指導者。そんなことをすれば貴方は”共産主義”そのものになってしまいます!」
地味に始めて口を開く秘書。そんな秘書を最高指導者は優しく抱きしめ、呟いた。

「もっと早くこうするべきだったんだ。君は朝鮮に行け。僕はいつでも君たちと共にある。」

「わ、分かりました。絶対、勝ってくださいよ!はぁぁぁぁ、”真・共産化”!!」
涙ぐみながら叫ぶ秘書。金の鎌と槌が最高指導者の体内に入り、光り輝く。

「It is the Americans who attack when the opponent is transforming.(変身中に攻撃するのが、アメリカ人です。)」
アメリカ人に怒られそうな発言をしながら盾を投げるシキアメ(略)。しかし、お約束と言うべきかその盾は弾かれた。

「Kusoga! The red ingredient in the American mark has increased!(クソが!アメリカンマークの赤い具材が増えました!)【※盾に描かれたアメリカ国旗の赤い部分が共産の赤に染まって増えたという意。】」
シキアメがアメリカンジョーク(?)を呟いている間に、”共産化”が完成した。その神々しい姿はまさに”共産主義”そのものであった。

「Who are you?(あなたは誰?)」

「かつて最高指導者だったもの・・・今や本当の名も忘れた男、”共産主義者”だ!」
でぇえええええええええええん!!(音楽ありで楽しみたい方はソ連国歌で検索)
鳴り響くソ連国歌を背景に、両者は激突した。縦横無尽に空間を切り裂いて飛んでくる鎌と槌。シキアメも盾だけで防ぐのは限界らしく、片手で白い光線を花って応戦しているが、じわじわと追い詰められていく。そして赤い星が輝きを増し、シキアメを拘束する。迫りくる鎌と槌。絶体絶命かと思われたその刹那、ペンタゴンが崩壊した。

〜 外 〜

 ペンタゴンの外は静寂に包まれていた。しかし、死の静寂ではない。むしろ暖かさすら感じる静寂である。空には巨大な十字架が描かれていた。”平等化”以来最大級の”思想能力”が発動したのだ。『ティーガー33.4』は機能を停止し、佇んでいる。ペンタゴンは崩落し、瓦礫の中の二人の様子は分からない。発動された”思想能力”は【審判の日】。キリスト教では、この日にイエス・キリストが復活し、世界中の人間を生き返らせたのちに【最後の審判】で善と悪とに裁くと伝えられている。そして、”思想”は全てを凌駕する。強い”思想家”が願えばそれは現実となるのだ。イエスが復活したのではない。教皇自身がこの場に降り立ち、この戦争で命を失った全ての人々を蘇らせたのだ。”社会主義者”も、”資本主義者”も、”平和主義者”も”ファシスト”も皆平等に死から開放された。

「教皇聖下・・・私達のために・・・!」

「はぁ、はぁ、ええ・・・その通り、です。神は、へ、平和を愛する・・・者を見捨てません。」

「それ以上の”思想”の使用は命に関わります!どうか、休んでいてください!」

「いいえ・・・それは・・・で、できません。悪魔の・・・手先共を・・・地獄へ、送らなくては・・・なりませんから。はあぁぁぁぁぁ!!!!」
教皇の叫びに呼応するかのごとく、地面が裂ける。裂け目にはこの世のものとは思えない光景が広がっていた。まさに地獄。そう呼ぶしかないほど、そこは恐怖と絶望で満ちていた。今頃になって状況を把握した”ファシスト”達は逃げ惑うが、地獄から何かの手が伸び、『ティーガー33.4』を引きずり込む。次々と飲み込まれていく同胞を見た独裁者は、『ティーガー33.4』から飛び降り、へなへなと座り込んだ。
せっかく生き返った”資本主義者”や”社会主義者”も地獄へと引きずり込まれていく。神は恐ろしいまでに平等だ。”平和主義者”をも手に掛け始めた。人殺しに、戦争。それは天国に行けるような清い行動ではなかったようだ。人はみな罪人。それは教皇も同様であった。人間の分際でありながら神に近しい存在になることを神はよしとしなかった。教皇が巨大な手で掴まれ、苦悶の叫び声を上げる。

「私は、長年神にお仕えしてきました!それなのに、こんな仕打ちは___!」
地獄へと引きずり込まれていく教皇。それを見た”平和主義者”のリーダーは立ち上がり、独裁者を掴んで歩き出した。

「・・・何のつもりだ?皆裁かれるのだ。もう終わりだよ。」

「馬鹿言わないで。目の前に人がいたら立ち上がらせて前へと進ませてあげるのが、私達の役目よ。」

「前にあるのは瓦礫の山だけだ。ここらの人間全てを裁いたら次は俺たちだ。神を相手に逃げおおせられるわけがない。」

「弱音ばっかり!さっきの貴方の”思想”は力強かった!例え濁りきった”思想”でも、それを信じていたからよ!今は貴方から微塵もエネルギーを感じないわ!」

「・・・はは、お前は面白いな。こんな状況なのに、希望すら持っているように見える。何か考えでもあるのか?」

「あれは神ではないわ。教皇聖下の”思想”が暴走したものよ。”キリスト教徒”全ての思いが教皇聖下の”思想”に詰まって、オーバーヒートしたの。だからそれ以上の”思想”をぶつけたら、あいつを破壊することだってできるはずよ!」
 
「数億人の”思想”を二人だけで止めるのか?」

「いいえ、二人だけじゃないわ。貴方もこの瓦礫の中から強い”思想”を感じるんじゃない?」
彼女がそう言い終わる前に、瓦礫の山を吹き飛ばして2つの物体が出てきた。

「ふぅ、助かったよ。その盾が守ってくれなければ死んでた。ダッサイ盾とか言って悪かったね。」

「Thank you too. It's amazing, the "communist beam".(こちらこそありがとう。 すごいですね、”共産ビーム”。)」
にこやかに笑いあう二人。先程まで殺し合っていたとは思えない和やかさである。

「なるほどな、この四人ならあれを止められる・・・か。」
莫大な”思想”が一箇所に集まっているのを察知し、巨大な手はその全身を地上に現した。

「な、何なんだあれは!」

「It's not a "idea weapon"... what happened here?(それは”思想兵器”ではありません...ここで何が起こったのですか?)」
姿を表したのは赤い肌に角を生やした生き物、所謂 [鬼] であった。[鬼]は確実に自分たちに狙いを定めて突き進んで来ている。

「説明してる暇はない!とにかく、協力してあれを倒す!」
そう言い放つと”ファシスト”は走り出した。いや、もう”ファシスト”ではない。彼の”思想”は、”民主主義”。

「”思想”、変わったのね。私も前、見なきゃな・・・。さあ!私達も続くわよ!」
”現実主義者”が”民主主義者”に”思想”でバリアを張り、駆け出す。

「我々も行くぞ、キャプテン・セカイ参上!」
キャプセカの盾の柄は、彼の”思想”を反映し、青い地球へと変化していた。

「良く分かんないけど、何かいい感じだね。”真・共産ビーム”!!」
血のような赤色だった”共産ビーム”は、今は美しい虹色へと変化し”ていた。
この二人は思想を変化させたわけではない。昇華させたのだ。己の”思想”で世界を染めるためではなく、未来を掴み取るために!

「お前ら!思想を俺に分けろ!」
”民主主義者”がキャプテン・セカイと”共産主義者”に呼びかける。

「資産は競合させることでよりよい社会を築く潤滑油であるべきだ!」

「それは間違ってる、資産は平等に分配するべきだ!」
双璧をなす二つの”思想”が”民主主義者”へとなだれ込む。”民主主義者”は”資本主義者”が使う真っ白な光線を右手で、真っ赤な”共産ビーム”を左手で放った。”共産”と”資本”が化学反応を起こし、凍りついたまま[鬼]に向かって突き進む。俗に言う冷戦状態である。

「現実的に二つの”思想”に折り合いをつけるなら、ある程度の競争を維持したままできる限り資産を平等に分配して、社会全体としての経済発展を見込む体制が一番いいんじゃない?」
高く飛び上がった”現実主義者”が冷戦状態にあった二つのビームをぶん殴り、《雪解け》を起こした。それだけではない。キャプセカと”共産主義者”も手を重ね合わせ”思想ビーム”を放つ。”民主主義者”を媒介として様々な思想を取り込み、”理想”となった”思想攻撃”は、更に力強く、更に勢いを増していく。

「「「「いっけぇええええええ!!!!!」」」」

幾重にも重なった”思想”は人類の未来を暗示するかのように光り輝き、[鬼]の体を貫いた。




金をくれたら無償の愛を授けます。