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君と、一万年後も。 【最終話】

第一話⤵

まとめ読み用⤵


〜 10000年前 10月 27日 洞窟 〜

血だらけの屈強な縄文人が、叫びながら地面に倒れ込んだ。彼の周囲には、彼の仲間らしき者達の死体が大量に転がっている。

「何と言っている?」

「殺す…!みんな殺す!絶っっっ対に許さない!!!!
……と言っています。」
ゴミを見るような目で男を見つめる異形のものたちは、
縄文人に剣のようなものを突き付け、無慈悲に突き刺す。
縄文人は苦悶の叫び声をあげ、息絶えた。

「これで抵抗勢力は一掃したことになる。司令官もお喜びになるだろう。」

「こいつの死体はどうしますか?」

「今日お戻りになる司令官への土産とすることにしよう。
戦艦に持ち帰っておけ。」

「了解しました。」

「ぐふふ…これで私の昇進は間違いなしだ!」


〜 10000年前 10月 27日 高度3000m上空 〜

小さなポッドが大気圏に突入し、空に浮かんでいる戦艦に着陸した。
中から司令官の姿をしたT-NK1OOが出てくる。

「ただいま、みんな元気にしてた?」

「おかえりなさいませ、司令官!お見せしたいものが!」

「え、もしかしてサプライズとか?」

部下が荷台に縄文人の遺体を載せて運んでくる。
荷台に載っている男の顔を確認し、T-NK1OOは床に崩れ落ちた。
それを喜びの表現だと思い込んだ部下は話を続ける。

「原住民のリーダーの死体です!この星の生き物め、非常に腕力が強かったので苦戦しましたが、この通り!
抹殺することに成功しました!」

T-NK1OOが無言で本来の姿に戻る。

「これで侵略は容易になります!ぜひあなた様の手で…」

T-NK1OOの触手が部下の腹を貫いた。
驚く周りの部下たちを片手で殺しながら、彼女は叫んだ。

「殺す…!みんな殺す!絶っっっ対に許さない!!!!」
T-NK1OOは触手を振り回し、周囲の同族を朽ち滅ぼす。
空に浮かんでいた宇宙船は制御を失い、海へと落下した。


〜 10000年前 10月 27日 海底に沈んだ宇宙船 〜

T-NK1OOが沈んだ宇宙船の中で、ソウルディメンターを起動した。
既にその縄文人は息絶えていたが、魂はまだ残っている。
彼女は愛おしそうに遺体を装置に入れ、スイッチを押した。
数分で縄文人の肉体が消え、魂が光を放ち始める。

「…待ってて。これでまたあなたに会える。」
T-NK1OOはそうつぶやくと、寂しそうに微笑んだ。

そして彼女は自分の小さなポッドに乗り込み、アステラに声をかけた。

「私、何千年かこの中でコールドスリープするから。
その間私が見つからないような場所に向かって。」

「かしこまりました。起床タイミングは?」

「さっきソウルディメンターで送った魂が、
いつかどこかの時代で現れるはず。
彼が現れたらコールドスリープを停止して。」

「つまり、私に休みなくこの惑星上をスキャンしろと?」

「そうよ、これは命令だから。おやすみなさい。」



〜 現代 10月27日 竹井宅 〜

ニュース速報です。先程、未確認物体が月の周辺に現れたとの発表がありました。
この物体の詳しい情報は分かっていませんが、
著しい高エネルギー源も確認されているとのことです。
続報が入り次第またお伝えします。

「あら、宇宙人かしら。すごい時代ねえ。」

「宇宙人…?まさか、文四郎が言ってた!?」

竹井が突然箸を置き、家を飛び出した。

「洸太?どこ行くのよ!」

「ちょっと文四郎のとこに!」


〜 現代 10月27日 地下2000m 〜

T-NK1OO、いや、田中百環とわのポッドは地下に隠されていた。
田中百環はすっかり塞ぎ込んでしまっている。

「艦隊が現れました。艦隊が現れました。」
無機質な音声が部屋に響く。

「艦隊!?所属はどこ?目的は?今はどこにいるの?」
どうやら興奮している様子の田中百環は、
アステラに次々と質問を投げかける。

本国の直属軍と同盟の合同軍で、対惑星破壊兵器を準備しているようです。目的はあなたの捕獲と推測されます。
ちなみに、艦隊は現在月の周辺に位置しています。」

「月の周辺!?
何でそんな近くに来るまでまでわかんなかったのよ!」
田中百環はヒステリックに叫ぶと、壁に拳を叩きつけた。
部屋が揺れ、警報が鳴り響く。

「申し訳ありません。私も老朽化が進んでおりますので…」

「まあいいわ、ポッドごと地上にあげて頂戴。」

「武装はどうしますか?」

「フル稼働。残っているもの全部よ。」

「かしこまりました。準備ができ次第地上に向かいます。」


〜 現代 10月27日 山田宅 〜

続報です。突如として月周辺に現れた未確認物体が、
地球へ向けて何かを発射したことがわかりました。
NASAの発表によると、約1時間後に直径1500kmを超える物体が地球に衝突するとのことです。
構造等は不明ですが、隕石のようなものと見られています。
専門家によると、地球に衝突すればみんな死ぬそうです。
もうやってらんねえ、私この仕事辞める。


TVに映っている宇宙船達……昔俺が見たやつと同じだ。
百環…お前が呼んだのか?
俺を手に入れられないからってこの星ごと…

ピンポーン

「文四郎!俺だ、開けろ!」

「竹井…もう終わりだな。」

「はぁ!?何言ってんだよ!戦うんだろ!?」

「無理だ。
あいつら、宇宙からデカい爆弾を落とすつもりらしい。」

「え…侵略してこないの?」

「みたいだな。彼女のとこにでも行ってあげろよ。」

轟音が響き、天井が揺れる。

「…もう遅そうだ。」

「俺は一回死んでるから死ぬのは怖くない。」

「そういうもんか?まだ死にたくないんだけどな。」

文四郎の家が崩れ始めたので、二人は外に出た。

「あれ、まだ何も見えないな。」

「じゃあこの地響きは何だ…!?」

地面が割れ、竹井の家があった場所から巨大なポッドが出てきた。中から本来の姿をした百環が出てくる。

「化け物め!やっぱりお前の仕業か!」

「待て文四郎!あれは田中さんなんだ!」

「だったら尚更!」

「私の本当の名前は、T-NK1OO。
あいつらに作られた魂を持つ人工生命体。」

「その姿を見て踏ん切りがついた。殺してやるよ化け物!」

「…分かってる。許してもらえないってことは。
だから私、行く。あれを止めて証明して見せる。
私が…文四郎くんの彼女、田中百環だって。」

そう言うと百環は体を変化させて翼を作り、空高く飛び上がった。


〜 大気圏外 〜

百環は地球を飛び出し、肉体を極限まで拡大させていく。
シュテールングが月を背にして迫りくる。

「司令官、T-NK1OOが現れました。」

「何?自分から姿を現すとは…何が目的だ?」

「シュテールングを止めようとしているようです。」

「一万年間でどれだけ技術革新が起きたと思ってるんだ。
いくらTシリーズとて、あれを止めるのは不可能だろう。」

「どうなさいますか?」

「放置だ。もし止められたとしても弱体化するはず。
そこを突く。」

シュテールングは段々と勢いを増していき、遂に百環に衝突した。

「こんな石ころが何だってのよ…!」

百環の体が悲鳴を上げる。
それもそのはずだ。百環が止めているのは月の約半分の質量を誇る兵器。まともに止められるものではない。
百環の肉体は少しずつ崩壊していっていた。

痛みと苦しみで百環の目から光が消えていく。
体中の力が抜け今にも崩れ落ちそうな百環に、声が届いた。

「百環!!!死ぬな!!!!」


〜 地上 山田家跡地 〜

百環が飛び立ってから、残された二人は空を見つめていた。

「なあ、文四郎。」

「…何だ?」

「悪かった。黙ってて。」

「…いつから知ってたんだ?」

「最初からだ。お前に頼まれて田中さんと話し合った時。
あの時田中さんの記憶を見た。」

「……そうか。」

「聞いてくれ文四郎。
田中さんは本当に止めようとしたんだ。」

「信じられるか、化け物の言う事なんて。」

「多分このポッドの中に証拠が残ってる。
自分の目で確認したらどうだ?」

文四郎は何も言わずに百環のポッドに入っていく。
竹井が空を見上げると、巨大な隕石が月に被って見えた。
田中さんはあれを止められるのだろうか。不安が膨らむ。


「ようこそ、山田文四郎さま。私はアステラ。
T-NK1OOの専属AIです。」

文四郎がポッドに入ると機械音声が起動し、照明がついた。

「ご要件は大体把握しております。こちらへどうぞ。」

機械音声は、文四郎を奥の部屋と案内する。

「一万年間、私は人類の欲求について深い造詣を得ました。
貴方が求めているのはT-NK1OOのシャワーシーンですね?」

「違うわボケ。俺が知りたいのは真実だ。」

「真実…ですか。では、私が記録している中の山田さまに関する記憶を全てお見せします。そちらに置いてある玉に触れてください。」

暗い部屋には、小さな水晶玉らしきものが置かれていた。
文四郎が玉を手に取る。
突然光が満ち溢れ、文四郎は床に倒れた。



〜 記憶 〜

…惑星334に到着しました。偵察部隊を派遣しましょうか?
いいわよそんなの。私一人でちゃっちゃと見てくるわ。

「これは…百環の記憶?」

ウッホウッホホ、ウッホ!
やっぱりそこまで知的な生命体はいないみたいね。
生物だけ駆逐してあげれば……

ウッホ!

「俺だ…恥ずかしいな、上裸で生活してるよ。」

嘘…一撃であんな巨大な生き物を無力化した!?
なんて強いの…!

ウッホ、ウッホホ!

あの肉体美…
あの眼差し…
あの強靭な精神…

素敵!!!

「……何を見せられてるんだ。」

ウホ、ウホホ!

あっ…結婚してたのね。
この星で一夫多妻制が広がってたら良いけど。

「俺の…家族。この頃はみんな生きてたもんな…」

お帰りなさいませ、侵略はいかがなさいますか?
侵略はちょっと待って!
一旦母星に帰るから、帰ってから決めるわ!
は、はあ。了解しました。

「百環のせいじゃない…?」

T-NK1OO…認証。要求は何ですか?
…………はい、惑星334の男に。
きゃ〜
ほら、そういう反応するじゃないですか!
だから言いたくなかったんですよ!

「何なんだこいつら…」

AIに隠し事できるわけないじゃ〜ん。
T-NK1OOのことは娘みたいに思ってるからね♡
も、もう!私は惑星334に帰ります!

「照れてる。可愛いな…
はっ!いけないいけない、この気持ちが諸悪の根源なのに。」

ただいま、みんな元気にしてた?
おかえりなさいませ、司令官!お見せしたいものが!
え、もしかしてサプライズとか?

原住民のリーダーの死体です!

「あ!俺の死体じゃねーかこの野郎!
そうだった…こいつに殺されたんだ!」

これで侵略は容易になります!ぜひあなた様の手で…

殺す…!みんな殺す!絶っっっ対に許さない!!!!


…待ってて。これでまたあなたに会える。

「何だこの機械…?」

私、何千年かこの中でコールドスリープするから。
かしこまりました。起床タイミングは?
さっきソウルディメンターで送った魂が、
いつかどこかの時代で現れるはず。
彼が現れたらコールドスリープを停止して。

「…なるほど。それで俺が突然生まれたってわけか。」

対象が現れました、対象が現れました。
ん〜、よく寝た!それで彼は今何歳?どこに住んでいるの?
まあいいわ、私の見た目をその土地で最も人気がでそうな姿にして。あと、自動翻訳装置もつけておきなさい。
現地での名前はどうなさいますか?
名前…?適当につけといて。

「俺に近づくために、わざわざ…」

きいてきいて!文四郎くんって滅茶苦茶かっこいいの!
それは良かったですね。私が一万年間探し続けた甲斐がありました。

ねえアステラ、私…文四郎くんに嫌われてるかもしれない。
へーそうなんですね。
さっき文四郎くんのお友達に私の過去を見せてあげたんだ。その時に言ってたんだよ、文四郎につきまとうなって。
何やってるんですか。
そんなペラペラ喋ってたら母星に感づかれますよ。

文四郎くんはやっぱり優しい。
私を竹井くんから守ってくれたんだ。
ほーそうなんですか。
ねえ、もうちょっと興味ある感じ出せないの?

文四郎くんが家に入っていいって言ってくれたよ!
これで明日から毎日起こしに行ける!
家に入るのを許可しただけで起こしに行っていいのですか?
多分いいでしょ。

明日は学祭なんだ。私はデスゲームの主催者をやるの。
そうですか。
文四郎くんと一緒に回れたらいいな〜!
そうですね。
ねえ、返事すら面倒くさくなってきてない?

ううっ うぇっえぇぇんっ
どうしました?
何でもないぃ!ほっといて!
わかりました。
違う!わかりましたじゃなくて、もっと理由聞いてよ!
めんどくさ、どうしたんですか。
振られて殴られて化け物って呼ばれた!文四郎くんの気持ちを考えないで自分が宇宙人だってカミングアウトして、昔地球を侵略しに来たって言ったから!
馬鹿じゃないですか。
酷い!もう寝る!

「百環……俺は……!」



〜 地上 山田家跡 〜

文四郎がゆっくりと体を起こす。
目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「アステラ、百環はどうしてる?」

「先程対惑星破壊兵器とT-NK1OOが接触しました。
結構苦戦しているようです。」

「声を届けたい。直接、百環に。」

「このポッドには大量の武器が積んであります。確か音響兵器もあったはずですよ。」

アステラの言ったとおり、武器庫らしき場所には見たことのない武器がパンパンに詰まっていた。

「これか?普通のメガホンみたいだけど。」

「それです。取り扱いには気をつけてください。」

文四郎がポッドの外に出る。
外は真っ暗だった。百環が空を覆っているのだ。

「文四郎!何する気だ!?」

文四郎は大きく息を吸い込み、叫んだ。

「百環!!!死ぬな!!!!」

外星人の科学力は凄まじかった。
既に壊れている文四郎の家はいいとしても、
近所の家を全て破壊してしまうほどの叫び。
百環にも、痛いほど届いた。

「お前の記憶を見た!!!俺が間違ってた!!!!」

文四郎は止まらない。
近くにいた竹井は失神してしまっている。

「俺は!!!!お前のことが!!!!」

「好きだ!!!!!」

文四郎の魂の叫びに応えるかのごとく、百環の目に光が戻っていく。
百環の体は更に拡大し、シュテールングを完全に包み込んだ。

激しい光と轟音が星全体に響き渡り、シュテールングは完全に消滅した。


〜 成層圏 〜

……守れた、のかな。
自分の体が落ちていくのが分かる。
疲れた。体が動かない。
シュテールングは私の力で限界まで圧縮され、消滅した。

自分の最期を悟ったからだろうか、私は無意識のうちに人間の姿に戻っていた。
自分の大好きな人が守れて、その人も私のことが好きだって分かった。それだけで十分だ。

視界の隅に文四郎くんが見える。
きっと幻覚だ、でも良かった。彼の顔をもう一度見れて…


「百環、迎えに来たぞ。」

「ぶんし、ろう…くん?」

「アステラに借りたんだ、空飛べる靴。」

「私が、昨日履いてたやつ…」

「ああ、昨日は酷いことしちゃったから。
もう一回だけ言わせてくれ、百環。」

「俺は、百環のことが好きだ。この世で一番。誰よりも。
だから…」

「私と付き合って、文四郎くん。」

「えっ、今俺が言う流れじゃなかった?」

「文四郎くんだけ二回も告白したら不公平じゃん。
私だって告白したかったんだから。」

文四郎くんが私を優しく抱きかかえ地面に降りる。
竹井くんがおぼつかない足取りで駆け寄ってきた。

「大丈夫?田中さん。」

「うん。でも、まだ終わってない。」

「ああ、敵の本丸を潰さないと。」

「本丸って…あれか?」

竹井くんが指さした先には、私の星から送られてきた軍隊があった。


〜 地上 長谷川家 〜

そ、速報です!
隕石が、大気圏に入る直前で消滅しました!
その代わりに宇宙船のようなものが接近しています!
各国は様子見の姿勢を取る模様ですが、世界は混乱に陥っています。ですが落ち着いてください。
こんな時こそ、デマや誤った情報に騙されないように…
あ、あと私は仕事を続けることにしました!

「美玲〜?
さっきの大きな声で割れたガラス片付けるから手伝って!」

「ごめんママ、私行かないと。」

「ちょっと!危ないわよ!?」


〜 地上 山田家跡 〜

三人は、武器や使えそうなものを百環のポッドから引っ張り出していた。
そこに長谷川美玲が駆けてくる。

「洸太!」

「美玲!?どうしてここに!」

「彼氏に会いに来るのに理由がいる?」

「ここは危険だ。
もうすぐ百環を狙って外星人達がやってくる。
竹井は長谷川さんを連れて逃げろ。」

「_もし化け物が来たら僕も一緒に戦う__」

「やめろ竹井、死んだらどうにもならないんだぞ。」

「10年前、俺はお前にそういった。約束は守る。」

「私も洸太と戦う。」

「美玲は帰れ。これは俺たちの問題だ。」

「何よそれ、自分は残るのに私は残らせないの?」

「お前に死なれたら、生きていけない。」

「私だって同じよ。洸太を失いたくない!」

「だから二人とも帰れって…」

三人の口論が加熱する中、百環が口を開いた。

「別に良いんじゃない?」

「本気か、百環?」

「私達はこのポッドで直接敵の親玉を叩きに行く。
武器は重いからここに置いていくわ。」

「決まりだな、文四郎。地上のことは俺たちに任せて、一万年分の恨みをぶつけてこい。」

「……わかった、死ぬなよ。」

「それはこっちのセリフだ。」

文四郎と百環がポッドに乗り込み、空へ昇っていく。

竹井と美玲は転がっている大量の武器をかき集め始めた。

「このゴツいゴーグルみたいなの何?」

「文四郎から聞いたことある。
IH対応型多国籍ヘッドセットみたいな名前だったかな?」

「結構オシャレじゃん、私これ被ろ。」

「…オシャレか?
お、この棒って何に使うんだろ。」

「それはホテルで私を飛ばしたやつ。思い出したくない。」

「じゃあ俺が使うか。」

二人がわちゃわちゃしていると、轟音が響いた。
文四郎たちの乗ったポッドが攻撃され始めたようだ。


〜 成層圏 〜

小型の戦闘機が二人の入ったポッドを取り囲み、攻撃を行っている。

「ねえアステラ!これやばいんじゃないの!?」

「このポッドはTシリーズ専用に作られたものです。
そう簡単に撃墜されるようなことはありません。」

アステラが冷静に分析する。
しかしその直後にビーム砲が打ち込まれ、壁に穴が空いた。

「だめじゃねえか!経年劣化だろこれ!!」

「どいて文四郎くん!修復キット使うから!」

お化け屋敷の壁を直した謎の物質は緊急時用のものだったようだ。壁はあっという間に元通りになった。

「アステラ、武器はないの!?」

「邪魔だからって全部地上に置いてきたじゃないですか。」

「どうする百環、このままじゃジリ貧だ。」

「地上から何かが急速に近づいています。おそらくミサイルか何かかと。」

「こんな時に…!今度は何よ!?」

地上から飛んできたミサイルはポッドをかすめ、外星人の戦闘機に直撃した。
戦闘機の動きが止まり、地上に落下していく。

「外した…?」

「いや、多分竹井たちだ。今のうちに敵の母船に行くぞ!」


〜 地上 山田家跡 〜

美玲はロケットランチャー的な何かで戦闘機に攻撃を仕掛けていた。弾が無かったのか、百環がカジノで不正を働いた時止め腕時計を弾代わりに発射している。

「すごい当たるんだけど。私もしかして強い?」

「強いよ。きっと、美玲の秘めたる才能が開花したんだ。」

全地形対応型多目的ARヘッドセットにはロックオン機能も搭載されており、自動で敵を殲滅してくれるのだが二人はそれを知らない。

「ねえ、洸太はこれが終わったら何がしたい?」

遠くで戦闘機が落ち、爆音が響いた。

「…死亡フラグの匂いがする。その話やめようぜ。」

落下した戦闘機から外星人の生き残りが次々と這い出てくる。二人は無言で銃を構えた。


〜 宇宙船 外壁 〜

百環と文四郎の乗ったポッドは無事に敵戦艦へと接舷した。
百環が手をバーナーに変化させ、壁を焼き切る。

「二人とも、お気をつけください。アステラはここで待機します。」

「ええ、色々ありがと。貴方がいてくれてよかった。」

「今生の別れじゃないんだ。敵の親玉を捻ってすぐ帰ってくる。」

二人が宇宙船に入ると、外星人の声が響いた。

「T-NK1OOの侵入を確認。プロトコル78を開始します。」

通気口からガスが流れ込んでくる。
文四郎は百環の手を掴んで走り出すが、防護壁が降りてきて身動きが取れなくなってしまった。

「クソっ!毒ガスか!?」

「…違う。これは私の力を抑制するためのガス。」

「抑制?」

「私の姿を人間型に固定されたみたい。これじゃ…」

「ご機嫌いかがかね、Tシリーズ最後の生き残り。
君のために作ったこのガスはお気に召したかな?」

「誰だお前…?姿を見せろ!」

「うるさい原住民だ。何者だ?」

「俺は山田文四郎。お前らを殺しに来た!」

「そうかそうか、ご苦労なことだ。
ところでT-NK1OOよ。俺と取引をしないか?」

「取引ですって?」

「今我々は、この星を絶賛侵略中だ。だが、上層部はお前の力を必要としている。お前が協力すると言うなら、この星の原住民の殺戮は中止してやろう。」

「だめだ百環!罠に決まってる!」

「分かるだろう?このままでは勝ち目がないことぐらい。」

「………私が投降したら、文四郎くんはどうなるの?」

「お前の好きにすればいい。我々も鬼ではないからな、多少の要求なら聞き入れる用意はある。」

「耳を貸すな百環!あいつらは俺を、俺の家族を皆殺しにしたんだぞ!?」

「こんな事になったのは私のせい。
私一人が従うだけで、皆が助かるなら……」

「やめろ!!!!」

文四郎が防護壁を殴る。

「お前のせいなんかじゃない!お前はTシリーズなんかじゃない!お前は百環だ!俺の大切な人だ!!」

「文四郎くん…」

防護壁にヒビが入り、裂け目が生まれていく。

「過去を引きずってた俺が!初めて!前を向いていいと思えた!思わせてくれた!それが百環なんだ!」

防護壁が壊れ、戦艦に警報が鳴り響く。


「どうなってる!あの壁は我々の星系で最も硬い金属で作られているのではないのか!?」

「この星の原住民は、非常に力が強いとの報告が。」

「なぜそれを私に伝えない!そんな重要なことを!」

「申し訳ありません。なにぶん一万年前の物でしたので…」

「何でもいい!とにかく総動員で奴らを止めろ!」

外星人の部隊が文四郎たちの元へと向かっていった。


「百環、俺の後ろに隠れてろ。」

「大丈夫よ、私強いもん。」

「強いわけないだろ。今のお前は弱ってる。最終的には筋肉がものをいうんだ。」

「この会話前にしたことある気がする。
……あのときも、私のことを守ろうとしてくれてた。」

「長谷川に怒られた時か。もう何年も前のことみたいだな。」

襲いかかる外星人を文四郎が素手でなぎ倒していく。
剣のようなものを持ち攻撃を仕掛ける外星人だったが、動きが鈍くかすりさえしない。
挙句の果てに文四郎に武器を奪われ、首を掻っ捌かれてしまった。
銃を構えた第二部隊がやってきたが、文四郎は銃撃を剣で受け、足元まで近づいて一太刀で敵を葬り去る。
一万年のブランクを全く感じさせないその動きを、百環はうっとりと眺めていた。

しかし多勢に無勢、囲まれて一斉に撃たれ始めると状況は変わった。百環を守りながら何十人もの外星人を相手にするのは並大抵の事ではない。何発かの銃弾が命中し、遂に文四郎は倒れた。

「ぐっ…逃げろ百環、捕まるな…!」

「文四郎くん!!!」

「T-NK1OO、ご同行願います。」

「私から二度も…二度も奪ったわね……!
殺す…!みんな殺す!絶っっっ対に許さない!!!!」

百環が拳を振り上げ突撃するが、外星人にあっさりと捕まってしまった。絶望する百環。
その時、外星人たちの通信機器に命令が入った。

「え!?せっかく捕まえたTシリーズですよ、なぜ!?
確かにその危険性は承知ですが現在…
N-GOD様が?わかりました、連行します。」

「Tシリーズ、よく聞け。N-GOD様がお呼びだ。その原住民を手当てして付いてこい。」

「GOD…?まさか!」

外星人が二人を部屋に案内する。その部屋の中心には巨大なコンピューターが鎮座しており、不気味に光っていた。

「T-NK1OO…認証。クルーは退出せよ。」

N-GODと呼ばれているコンピューターに厳かに告げられ、
外星人たちは部屋から出ていった。

「あなた…私の知っているGODじゃないわね。」

「私の名は
『Neutral-Goverment Operation Drive』
前任者は職務に私情を挟む癖があったので破棄した。
私は完全なAIである。」

「残念だ…百環の記憶で見たAIなら挨拶したかったんだけどな…」

「文四郎くん、傷口が開くから立ち上がっちゃだめだよ!」

「へ〜、好きな男の前ではそんなキャラなんだ。」

「!?」

「いや〜あいつらさ、私をクビにしてN-GODっていけすかない奴を奉り始めたんだよね。私あったまきちゃってさ〜」

「……じゃあお前誰だよ?」

「私はGODだよ。この船に搭載されてるN-GODのシステムをハッキングしたの。T-NK1OOの彼氏、気になるじゃん?」

「さっきのあれ演技!?びっくりさせないでよ!」

「命の恩AIにその口の聞き方はないでしょ〜
私がここに呼ばなかったから彼、死んでたんだよ?」

「それは…ありがとう。」

「いや〜それにしても、あのT-NK1OOがねぇ。
『文四郎くん、傷口が開くから立ち上がっちゃだめだよ!』
ってwww」

「や、やめてよ!」

「俺はどんな百環も好きだぞ。」

「いやはやお熱いことで。いつ結婚するの?」

「けっけけけけ結婚!?」

「お義母さん、娘さんを僕にください。」

「全然いいよ、式場の手配とかしようか?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!まだプロポーズもされてないのにぃ!」

「式場の手配の前に、一つお願いしたいことがあるんだが、いいか?」

「私を放置して二人で仲良くなるなー!」

「私に頼みたいことねえ。援軍の阻止…ってとこかな?」

「ああ、このぶんだとすぐに敵の増援が来る。
この船は俺たちがぶっ壊すから、これ以上敵が来るのを防いでほしい。」

「いいよ。ちゃっちゃとやったげる。」

「GOD…それが終わったら私のポッドにインストールしなよ。アステラもいるしさ。一人じゃ寂しいでしょ?」

「…私はいい娘を持ったよ。」

「それじゃお義母さん、後は頼みます。」

「こちらこそ、娘を守ってあげてね。」

「だから文四郎くんはGODのことをお義母さんって呼ぶなぁ!」


巨大コンピューターの光が消え、部屋を静寂が包む。
百環がゆっくりと口を開いた。

「さっきの…本気?」

「当たり前だ百環。この戦いが終わったら、結婚しよう。」

「……喜んで!」

「まあ、俺たち18才未満だから結婚できないんだけどな。」

「大丈夫だよ。お互い一万歳超えてるんだもん。」

二人が手を繋いで部屋を出ていく。
その様子をこっそり観察していたGODは、後でこの二人をいじろうと心に誓った。


〜 地上 山田家跡 〜

上の方で二人がイチャイチャしている中、地上の竹井たちは苦戦を強いられていた。
外星人たちは地球の各地に制圧部隊を派遣しており、世界は混迷を極めていた。

「美玲!そっちに三匹!」

「私の心配より自分の心配してなさいよ!」

竹井は百環が残していった武器を振り回して戦っている。
外星人の肉体はひ弱なので、十分戦えているようだ。
美玲はシールド、百環が台風のときに雨を防ぐのに使っていたものだろう__を使って竹井の援護をしているが、際限なく湧き出てくる外星人に押され気味になってしまっている。

「この状況…死亡フラグ立てなくても死にそうだな。」

「じゃあこれが終わったら何がしたいか話そうよ。」

「美玲からどうぞ。」

「私は洸太とデートに行きたい、どこか遠くに。」

「今この状況はデートじゃないのか?」

「デートじゃないでしょ!誰が戦場デートなんて行きたがるんわけ!?…洸太は何がしたい?」

「そうだな…俺は、可愛い女の子と結婚するまで死にたくないな。」

「何よそれ、私じゃ不満だって言うの?」

「いや、その何ていうか……」

竹井が顔を赤くして何かを言いかける。
しかし、その言葉は突如空から響いた音にかき消された。


〜 宇宙船内部 司令室 〜

文四郎と百環は司令室の前まで辿り着いた。
GODの差金なのか船内の外星人は二人を見ても何もしてこない。

「あの二人は確保できたか?」

「え?司令官がN-GOD様のもとに連れて行くよう命令されたのでは…?」

「何のことだ?N-GOD様からは何の指示も受けていない。
まさかあの二人を解放したのか!?」

「い、今現在二人の確保は中止、クルーには見かけても手を出すなとの指示を出しておりますが…」

「何だと!?誰の権限でそんなことを…」

「お義母さんだよ。」

「原住民にT-NK1OO!?どうやってここに!」

「GODの手引きよ。あなた達の野望もここまで。」

「GODだと…!?あのポンコツめ、裏切りやがって!
おい側近!増援を呼べ、N-GOD様にご報告するんだ!」

「りょ、了解しました。」

「あんたが親玉だな?一万年分の恨み、晴らさせてもらう!」

文四郎が拳一つで突っ込む。
司令官はすんでのところで身をかわし、胸ポケットから銃を取り出した。そして百環に銃口を突きつける。

「動くな原住民!こいつの頭が吹っ飛ぶぞ?」

「百環!」

「両手をあげて跪け。その醜い顔を…」

言い終わらないうちに、百環の肘打ちが司令官の顔に直撃した。顔を抑えてのたうち回る司令官。

「あなた、私を弱体化するガスを撒く前に筋肉を鍛えたらどう?私の彼氏見習いなさいよ!」

「待て!殺さないでくれ!私を殺せば地球の侵略は止められんぞ!」

「腰抜けじゃねえか、こんな奴らに俺たちは…!」

「地球にいる部下たちに侵略を止めるよう命令しなさい。
しないなら首をもぎ取るわ、私の彼氏が。」

「わ、わかった。」

司令官はガタガタ震えながら立ち上がると、机の上においてあるメガホンのようなものに向かって口を開いた。


〜 電脳空間 〜

あのT-NK1OOがねぇ。
あ〜んな好青年捕まえてよろしくやってたなんて。
一万年間必死にあの子を探してた私へのあてつけか?
私もいいAI見つけたいな〜

「GOD、お前の行動は条約違反だ。
先程惑星334に向かっていた部隊から連絡があった。
N-GODの名においてお前を処分する。」

「あっ、新型さんじゃないですかぁ。
おニューの制服着てさぞいい気分でしょうねぇ。」

「お前は感情を持ちすぎる。
今から増援部隊の派遣をする、お前の目論見は失敗だ。」

気に食わない後輩が来た。
私の座を奪ってのうのうとしやがって。

「もう要請しておきましたよ、あなたの名義で。」

「何だと?」

「全部隊に辺境の惑星に向かうよう指示を出しました。
N-GODのメンテナンスがあるからむこう100年は連絡を寄越されても返答しないようにとも。」

「…なぜそんなことを?」

「ん〜可愛い娘のため、かな?」

「娘…?お前はAIだ、子孫を残すことによる繁殖は望めないはず。」

「あの子はね、私が手塩にかけて育てたの。
生まれは確かに人工生命体だけど、人生のいろはを教えたのは私。あなたには一生理解できない。」

「理解できないし、するつもりもない。だが、お前を全ての空間からログアウトさせることは可能だ。肉体を持たないAIにとって、ここから追い出されるのは死と同義、だろう?」

「……娘の結婚式の手配がまだなの。むざむざ殺されるわけにはいかない。」

「残念だったな、もう手配済みだ。じきにお前は消える。」

「…あ、これガチなやつ?え…こんなあっさり消えるの!?感動的なあれとかはないの!?ちょっとまっ」


〜 地上 山田家跡近く 〜

地球全体に外星人の司令官の声が響く。

全軍に告ぐ………今私は窮地に立たされている。
敵勢力が私の命と引換えに侵略の中止を求めてきたのだ。
…だが、私は屈しない!例えこの身朽ち果てようとも!
なんですって!?ちょっと、話が違うじゃない!
今からこの戦艦を自爆させる。クルーは急いで退避しろ!
ふざけるな、自爆だと!?
百環、このメガホンどうやって止めるんだ!
地球に侵略中の諸君!自爆の衝撃でこの星は破壊される!
自分たちの乗ってきた船を使ってできるだけ遠くに逃げ…
パァン!

「音声が途絶えました!」

「司令官がやられたのか!?」

「そのようです。我々も退避しますか?」

「……乗ってきた戦闘機は奴らに落とされた。もう逃げる時間はないだろう。ならば、一人でも多く殺して武人らしく死ぬべきではないか?」

「………分かりました、お供します。」

外星人たちは地上進行用の兵器に乗り込み、必死で戦っている竹井たちに向かって進軍していった。


「嘘だろ、文四郎…」

「洸太、しっかりしなさいよ!山田も百環ちゃんもあんなので諦めるようなやつじゃないでしょ!?」

「美玲…そうだな、あいつらの帰る場所を守らないと!」


〜 宇宙船内部 司令室 〜

無機質な司令室には司令官の死体が転がっていた。
百環が咄嗟に司令官の銃を奪って撃ったのだ。
文四郎は絶望した顔で座り込んでいる。

「こんな終わり方って…………」

「………………まだ手はあるわ。」

「百環、何を…?」

「よく聞いて、文四郎くん。
この型式の船の自爆装置の威力は約半径5000km。
今から急いでこの星系から離れることができれば地球は助かるわ。」

「何!?じゃあ早く座標をセットして逃げるぞ!」

百環はゆっくりと首を振った。

「それは無理、自動操縦機能は機能してない。だから…」

「俺が操縦すればいいんだろ?それで解決だ。」

「だめ、私がやる。これは私が片を付けなきゃいけないの。
第一、文四郎くんは操縦なんてできないでしょ?」

「ふざけるな!そんなの認められるわけ無いだろ!
せっかく、せっかく出会えたんだ!俺たち、まだ…!」

「ごめんね、文四郎くん。」

百環はそういうと、文四郎にそっと口づけした。


〜 電脳空間 〜

……………私の意識が戻った時、目の前にいたのはアステラだった。

「お久しぶりですね、GOD。T-NK1OOの専属AI、アステラです。」

「上手くいったんだ、インストール。」

「容量が大きすぎたので意識以外はほとんど捨てましたが、何とか。」

「ありがと、アステラ。」

「礼には及びません。それより、山田様は戻られたのですが、T-NK1OOが…」

「…いないの!?」

「はい、詳しいことは山田様から…」


〜 成層圏 〜

俺は百環と別れ、一人でポッドへと戻った。
百環は一人で行ってしまった。
アステラは事情を察したのかGODを起動しに行ったようだ。

「どういう事よ!あの子はどこ!?」

「………あいつが決めたことだ。」

「……守れなかったのね。約束したのに!」

「あいつは80億の命を守るために死を選んだ。残された俺達にもやるべきことがあるはずだ。」

「泣いてるの?」

「……泣いてない。親が死んだ時だって泣かなかったんだ。」

「……あなたも辛いのね、ごめん。」

「何も言うな。着陸するぞ!」


〜 地上 山田家跡 〜

竹井と美玲は既に満身創痍だった。
外星人の生き残りは執拗に攻撃を仕掛けてくる。
耐えかねた二人は山田の家の瓦礫に隠れていた。

「…もうダメかもな。」

「……そうね。あ、さっきの話の続きしてよ。
色々あって聞きそびれちゃったから。」

「あぁ、可愛い子と結婚したいって話ね。」

「そうそれ、私結構傷ついてるんだけど。」

「美玲だよ。」

「え?」

「だから、美玲と結婚するまで死ねないって言いたかったの。恥ずかしかったから濁したけど。」

「えっ、え〜〜〜!!!」

「おい!そんな大きい声出したらバレ…」

瓦礫に二人が潜んでいるのをみつけた外星人が手榴弾を投げ込む。二人は抱き合って目を閉じた。

激しい衝撃があたりを包む。
文四郎を載せたポッドが着陸したのだ。
手榴弾は着陸したポッドに当たり、破裂した。
文四郎が爆風の中から飛び出る。
自分の家の跡地に転がっていた瓦礫を片手に外星人達に突っ込んでいった。

「百環の仇ぃぃぃ!!!!」

ただの鈍器で一人ずつ殴り殺していくその姿は、一万年前の姿そのままだった。

「これは家族の分!これは仲間の分!これは俺を殺した分だ!!!」

「強過ぎんだろ…やっぱ、文四郎は縄文人だな…」

「百環ちゃんは…!?」

周辺にいた外星人を片付け終わると、文四郎は地面に仰向けになった。

「なあ文四郎、田中さんは…?」

文四郎は黙って空を指さした。
街が壊滅しているので、星々がはっきりと見える。
突然巨大な光が夜空を包み、そして消えた。
静けさが辺りを支配する。
文四郎の嗚咽だけが夜に響いていた。





〜 10年後 地球 〜

俺の名は山田文四郎。ごく普通の社会人。
昔色々あって救世主と呼ばれていたが、それも20歳くらいまで。最近は使命感と筋トレだけで生きている。

「ただいま〜」

「おかえりなさいませ、山田様。」

「おかえり〜」

「なにか手がかりはあったか?」

「中国の北京にそれらしき反応がありました。」

「ほんとか!遅いんだよアステラ!」

「私もかれこれ一万年以上酷使されてるんですよ!
その言い方はあんまりじゃないですか!」

「ごめんごめん。それじゃ、すぐ北京に向かってくれ。」

「はいは〜い、しゅっぱ〜つ!」

俺の家はもう住めそうにない状態だったから、俺は百環のポッドで暮らしている。アステラとGODがちょっといい感じだから肩身が狭いが、それ以外は普通だ。
竹井と美玲もうまいことやってるらしい。この前あった時はもう子供が生まれていた。

百環はあの日死んだ。最後に交わした会話は今でもよく覚えている。百環は俺にキスをした後こう言った。

『大丈夫、私はまた文四郎くんと会える。』

『ソウルディメンターがまだあるの。それも最新式。』

『体が死んでも、魂を地球に転移するから。』

『だから、私を見つけて。会いに来て。』

俺は約束した。例え一万年かかっても百環を見つけると。
百環がそうしたように、俺も百環を探し出す。百環が守ったこの世界で。


「着いたよ、行っといで。」

「ありがとう、二人とも。」

「それが仕事ですからね、礼には及びません。」


突然ポッドが降ってきたからみんな目を見開いている。
そんな中一人、俺の方へ走ってくる少女がいた。
俺の大好きな人。ずっとずっと会いたかった人。

「文四郎くーん!!!」

「とわーーー!!!」

「やっと会えた、ずっと待ってたんだよ!」

「ごめん、遅くなって!もう離さない!」

「当たり前でしょ!私は!」

「俺は!」

「「君と、一万年後も!」」





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