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雑巾みたいに扱うな! 前編

あらすじ

きれい好きの女子高生、山中美麗みれい
高校の掃除なんて誰も真面目にやらないというのに、
彼女は掃除をやめない。何があってもやめない。
周りを見て!誰も掃除なんかしてないよ!
掃除よりも青春すべきだって!絶対そうだって!
掃除をやめるか、死ぬか選べ!
山中美麗!!!




ここは聖マッスル高校……百年の歴史ある男子校だったが、
今年から男女共学になり、全国各地からムキムキが集まる
スーパー体育会系の高校。

そんな高校にやってきたのが私、山中美麗。
筋肉は全然ないけど、コネと学力で無理やり入学したの。
なんでこの高校に来たのかって?
そんなの決まってるじゃない、掃除し甲斐があるからよ!
私の趣味は掃除。特技も掃除。将来の夢は掃除婦。
まずこの高校をピッカピカに掃除して、悦に浸るんだから!



〜 体育館掃除 〜

「校歌斉唱!」

きんに〜く、きんに〜く、わっれらーの生きる意味〜!

「見てください校長先生、女子がいます!」
「…じゃが、弱そうじゃぞ。」
「我が校初の女子生徒です!丁重に扱いましょう!」
「筋肉が足りんと思うのじゃが…」
「あ〜、女子がいるなんてサイッコー!」
「わしの話聞けよ…」

入学式が終わると、一人しかいない女子に男達が群がる。
必死に教師陣が止めているが、本人は意にも介していない。

「せんせ〜、体育館掃除してもいいですか?」
「え?あ、ああいいとも!そこの道具を自由に使ってくれ!」

美麗は雑巾を見つけると、
口笛を吹きながら体育館を雑巾がけし始めた。
華奢な体からは想像もできないほど力強く、速く、美しく
雑巾がけをする美麗に、男達は完全に惚れた。

〜 6時間後 〜

「ふ〜、やっと一階が終わった!」
体育館の床はワックスまでかけられ、まるで新築であるかのように光り輝いている。
使い潰した28枚の雑巾を絞ると、美麗は得意げに周りを見渡した。

「あの、山中さん…?そろそろ教室に向かってもらえると嬉しいのですが…」

「わかったわ、先生!二階全体と天井裏を掃除して、屋根張り替えたら行きます!」

「は、はぁ。」

〜 13時間後 〜

「終わった〜〜〜!」
「先生帰っちゃったし、お腹すいたから私も帰ろ〜っと。」
美麗がスキップで体育館を後にする。
残ったのは静寂のみ…

でもなかった。呪詛のこもった声が体育館に響く。


「うぐぉぉ…」
「ひ、酷い。どうしてこんなことを…!」
「しっかりしろ、生きてるか?」
「このままじゃ全滅だ。あいつを、止めないと…!」
「仲間を集めろ。俺に考えがある。」



〜 保健室掃除 〜

あー、ねっむい。昨日はちょっとやりすぎちゃったな。
今日からは一日に一つの部屋を掃除することにしよっと。

「やあ。長谷川さん、こんにちは。」
うわぁ、すごいイケメンが話しかけてきた!
こんな脳筋とかけ離れたような人がこの学校にいたなんて!

「こ、こんにちは。」

「突然だけど、君に一目惚れしちゃってね。
僕と付き合ってくれないかな?」
我が世の春が来た!こんなことって本当にあるんだ!

「ええ、喜んで!」

「良かった。それじゃ、早速放課後デートに行こうよ。」

「あ〜、ごめんなさい!放課後は掃除をするから…」

「掃除なんかしなくてもいいって。
それより、俺とクラブでも行こうよ。」

「今、なんつった?」

「俺とクラブでもって…」

「ちげーよ、その前。」

「掃除なんかしn」

「掃除なんかだと!?首ねじ切るぞガキが!!」

「そ、そんなに怒らなくても!」

「黙れ!お前は掃除の素晴らしさを理解してない!
もし清掃員さんがいなかったら世界はどうなる!?
暇な爺ちゃん達が清掃活動しなかったらどうなる!?
彼らは世界一尊い仕事してんだよ!!!
そもそもそのチャラチャラした髪はなんだ!?モップか!?モップを頭にぶら下げてんのか!?」

「悪かった!俺が悪かった!ごめん!」

「二度と私の前に面みせんなゴラァ!!」

イケメンはどっかに逃げていった。
ああいう人が掃除を軽んじるから清掃員さん達は
安い給与での生活を強いられるってのに。

「さて、それじゃ今日は保健室を掃除しちゃおっと!」

「失礼しま〜す。」

「あら、女の子?ほんとにこの学校にいたんだ。」
女の先生がいたのね、金髪で背も高くてうっとりしちゃう。
名前は…金森美紗先生かぁ、可愛らしくて素敵っ!

「私一人しかいませんけどね。
ところで、保健室の掃除に来たんですけど…」

「ここは清潔よ。他がゴミ溜めみたいなんだもの。
ここぐらいキレイじゃないとやってらんないわよ。」

「キレイ…?ここがですか?」

「ええ、そうよ。」

「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????
それはあんたの白衣だけでしょ?
目ついてないんですか?たしかに他よりはマシですよ。
プロテインもダンベルも転がってないんですから!
でも見てくださいよ!全然汚いじゃないですか!
洗面台は水垢だらけ、布団は3日くらい洗濯してなさそうだし、そもそもホコリが7g以上落ちている部屋は人間が過ごす
場所とは言えません!」

「し、失礼にもほどがあるでしょ!
これでもここは聖域って呼ばれてんのよ!?」

「せwwいwwwいwwきwwwww」

「笑うなぁ!」

「すいません、あんまり可笑しくて。
とりあえず出てってくれます?掃除するので。」

「キィーーーー!」

 
〜 42分後 〜

そこはまさに”聖域”であった。
禊をせずに入るのはおこがましく感じられるまでに白く、神々しく輝いている。
その中心で佇んでいる美麗は、まさに神であった。

「入っていいですよ、本当にキレイになったので。」

「すっごい…」

「わかりました?今後はこの状態を保つように。
それじゃ、私は帰ります。」

「待って、あなた…一体何者なの?」

「山中美麗…掃除屋よ。」



学校の外のごみ溜めに、仲間の死骸が大量に捨てられている。あまりに残酷なその様子を見た〘彼ら〙は涙を流した。

「また犠牲者が…」
「仲間がどんどんやられていく。次の策は?」
「もちろん考えてある。今度は上手くいくはずだ…」



〜 職員室掃除 〜

今日は職員室の掃除をするわよ!
この学校は教師の半数が体育教師だから、職員室もグチャグチャでしょっ!

ピンポンパンポ〜ン

「山中美麗さん、後で職員室に来なさい。」
おろ?私なにかしたかしら?
まあいいか、グッドタイミング!


「はじめまして。校長の琴憎益留キンニクマスルだ。
元々は山田たかしという名前だったんだがな、琴憎家に婿入りしたあと改名したんじゃよ。」

「…そう、ですか。素敵なお名前ですね。」

「さて、君の素行には流石に手を焼いていてねぇ、
このままじゃ少し困るんだよ。」

「困るって、私なにかやっちゃいましたか?」

「掃除だよ、掃除。君は掃除しかしてないじゃないか。
それに今背負ってるそのカバン。校則違反だろう。」

「このカバンオシャレじゃないですか。羽付きですよ?
掃除しかしてないって言いますけどね、ちゃんと授業は受けてますよ!」

「座学は確かに受けているようだ。だがね、君は筋肉授業をいつも見学しているではないか!つまり授業を半分しか受けていないということだ!」

「それは…!」

「学生の本分は筋肉をつけることだ。とにかく掃除は金輪際禁止する!」

「そんな…うっうぇぇ、ひぐっ、酷い…」

「何やってるんですか校長先生!」

「むっ、教頭か。いま彼女の掃除癖を直そうとだな…」

「なんてことしてるんですか!!!!!」

「なんじゃ!?」

「たった一人の女子生徒ですよ!
掃除くらいやらせてあげればいいじゃないですか!!
他の先生方もそう思いますよね!?」

「「「思いまーす!」」」

「山中さん、好きなだけ掃除していいよ。
この脳筋じじいには僕からきつく言っておくから。」

「ありがとうございます!」

「脳筋…じじい…?」

さて、掃除するぞ〜〜〜!!
職員室も、隅から隅までピッカピカにしてやる!
掃除道具は私だけの武器。誰よりもうまく扱えるんだ。
この3日間で学校の雑巾を1割くらい使い潰しちゃったけど
皆優しいから許してくれるでしょっ!

「先生方、お邪魔しました。」

「「「全然いいよ、また来てね!」」」



「…………失敗だ。」
「被害は?」
「総数の15%程度。まだ戦える。」
「…これ以上、失う訳にはいかない。」



〜 調理室掃除 〜

今日は調理室掃除の日!
私は掃除は出来るけど料理はからっきし。
だから大人になったら金持ちイケメンの妻兼専属掃除婦になりたいな!

そんな事を考えていたらクラスメイトが声をかけてきた。

「山中さん、キンニクラスライン入らない?」

「キンニクラスライン?」

「ああ、皆で筋肉情報を共有するんだ。
よかったら山中さんもと思ってさ。」

「あ、ありがと…一応入るね…」

「じゃあ、招待するから友達登録お願い。」

ピロン

「うおおおおおおおおおおおおおお!
ついに女子のライン友だちができたぜええええええ!!!
あ、山中さん、招待送っといたよ。」

「抜け駆けだ!」

「野郎ぶっ殺してやる!!」

「悔しいか愚民どもぉ!?」

「逃がすなー!捕えろ!!」

男ってほんと馬鹿。掃除しに行こ。

調理室に入ると、たくさんのムキムキがプロテインを作っていた。調理室と言うには余りに劣悪すぎる環境ね。
床はプロテインでびしょびしょ。机も壁もプロテインだらけ。これは掃除し甲斐があるわ…!

「ねえムキムキ君、私この部屋の掃除したいんだけど。」
私は一番近くにいたムキムキに声をかけた。
彼はプロテインの粉を灯油のようなもので溶かしている。健康に悪そう。

「女…!?すげえ、初めて見た!」

「そんなわけないでしょ…あなたのお母さんはどうなるのよ。」

「母ちゃん…ああ、俺の母ちゃんは殺されちまったんだよ。」

「あ〜………なんかごめんなさい。」

「てめえになあ!!」

ムキムキマンが手に持っていたプロテインを地面に投げつけてきた。
キツイ匂いが鼻を突く。この匂いは……灯油?
まさか本当に灯油でプロテイン作ってたの!?

「掃除をやめろ…さもないとこの学校ごと貴様を葬ってやるぞ!」

「掃除を辞めるくらいなら、死を選ぶわ!」

「地獄で後悔するがいい、山中美麗!」

ムキムキマンがマッチに火をつけ、投げ捨てた。
途端に炎が広がり、ムキムキマンは逃げ出した。
火を消さなきゃ掃除どころじゃなくなっちゃう!

どさぁぁぁ!!!

「きゃあ!なに!?」

「筋肉は炎をも凌駕する!!!!!」

ム、ムキムキたちが炎に覆いかぶさっていく!

「一人の筋肉では勝てない炎にも!!!!」

「十人の筋肉なら!!!!!」

「百人の筋肉なら!!!!!」

火が…消えた!
なんだかよくわからないけどすごい!
筋肉にもいいところがあるのね!


続く

金をくれたら無償の愛を授けます。