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ショパンの命日


パリ8区にあるマドレーヌ寺院


 10月17日はショパンの命日。亡くなったのはパリ1区にあるヴァンドーム広場に面したアパートの一室。現在は高級宝石店のCHAUMETが所有しており、地上階はCHAUMETのブティックになっている。ショパンの葬儀はパリ8区にあるマドレーヌ寺院で執り行われた。この夏にパリに行った時は、たまたまマドレーヌの裏に位置するホテルに一泊したため広場には何度か足を運んだが、コロナの影響で高級食材店のFAUCHONとHEDIARDが跡形もなく消えた風景には目を疑った。

空っぽの店舗

 それから数日後に訪れたスイスの山の中で、ショパンの葬儀で演奏されたモーツァルトのレクイエムを、サイモン・ラトルの指揮で偶然に聴くことができた。なぜ偶然かと言うと、これは本来振る予定になっていた指揮者がコロナに罹ったため、指揮者と曲目が変わったお陰で実現したプログラムだったから。もともとチケットは買っていなかったけれど、ラトルが来ると聞いて慌ててチケットを入手した。しかし、なぜかこの日は夜にかけて天候が悪化し、最後は嵐に見舞われた。プログラムの前半はゲルシュタインのピアノでシューマンのピアノ協奏曲が演奏され、1楽章の冒頭の休符の感じ方から非常にインパクトがあり、世界中のオーケストラから招かれるソリストの音を聴くことができた。ところが、2楽章の聴かせどころでは落雷音が轟き、他の楽章でも暴風雨でソロパートの音が掻き消されてしまったのは残念だった。コンツェルトが終わり、休憩を挟んで後半が始まってからも不安定な天候は続いた。ラトルが引っ張るVFOの演奏は鳥肌ものの素晴らしさだったけれど、特設会場の外で雷がゴロゴロドッカーンと鳴り続けた相乗効果で、より一層壮絶で、忘れ難いレクイエムとなった。

 ヨーロッパではホール以外の場所でも多くのコンサートが日常的に開かれている。教会や劇場、個人邸宅のサロン、お城、美術館。夏の音楽祭では、野外劇場や特設会場でも多くコンサートが開かれるが、そこには天候の心配が必ずついて回る。日頃からシーンと静まり返った会場で聴くことに慣れてしまっているし、チケットのお値段も結構お高いので、暴風雨でよく聴こえないコンサートってどうなの?と思わない訳ではない。但し、好条件に恵まれれば「自然」を味方に、立派な音響設備が整った普通のホールでは味わえない、全く異なる素晴らしい音楽体験ができる。レクイエムはマドレーヌ寺院で聴いてみたいものだけれど、落雷音との組み合わせはそれはそれで悪くない演出であったと思う。




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