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クリスマスは利己主義をやめる日

メリークリスマス!
今年は寒くて眠くて、近所のドミニコ教会に行く元気すらなく、静かに過ごしています。
昨日24日は、今年最後の通訳コースの演習がありました。
今期のテーマは「国連気候変動枠組条約の締約国会議 → La Conférence des Signataires sur la Convention Cadre des Nations Unies sur les Changement Climatique」、略してCOPです。
複雑で難しい内容で、エネルギー問題、ロシア・ウクライナ問題など多岐にわたっていたため、ここ最近続けてきたnoteへの勝手な「まとめ」には到底まとめきれないのでスルーするつもりでした。ところが、数日前にひょっとしたら今後私たち音楽に関わる人間も無関係でいられなくなるかも、と思う出来事があったので、やはり少しだけまとめを書いておきます。
その出来事とは、朝いつも通りにメールを開くと、メール登録している都内のオーケストラから

「2023年に定期公演に出演予定でした某ヴァイオリニスト(ベルリン在住)は、気候変動問題への取り組みの一環として、今後一切航空機を利用しないことを決めたため、来日は不可能となりました」

という内容のお知らせを受け取りました。
気候変動問題においては欧米の人たちに比べて日本人は全く危機感がないよなぁと日々思い巡らせていたところだったので(私だって、つい数週間前まではほとんど何も知らなかったわけですが)、タイムリーであると同時に、このヴァイオリニストの決断に驚きました。

’’地球温暖化による気候変動で、このままいくと2100年には世界の気温は4度上昇する’’と言われたところで、本音を言えばいまひとつ現実味がわかなくて、他人事であった気候変動問題。
京都議定書やパリ協定については、ニュースでもかなり取り上げられていた記憶はあるものの、目標設定があまりにも非現実的で、そんな目標を掲げる意味がわからないと思っていました。

世界では命に関わる待ったなしの状況


 今年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開かれていたCOP27を中心に資料などを読んだところ、地球温暖化によって引き起こされている大災害は近年世界中で顕著に現れ、待ったなしの状況まで来ているようです。例を挙げると、今年6月にパキスタンで起こった大洪水では国土の3分の1が水に浸かり、夏はヨーロッパが記録的熱波に見舞われ、場所によっては山火事が発生、アフリカでは過去40年で最悪の大干魃、そしてブラジルの集中豪雨など。
気候変動の原因は19世紀の産業革命以降に人々の生活が変わったことですが、産業革命前の生活には戻れない以上、温暖化を止めることはもはや不可能な話。せめて、地球の未来のために、後世のために温暖化のスピードを遅らせるべく、世界のCO2排出量を減らすための対応策や、今後どのように適応していくのか議論するために開かれている会議がCOPです。

pollueur, payeur

 気候悪化、温暖化の原因となっている温室効果ガス(CO2)を産業革命以降に排出し続けているのは「北の国」、つまりは欧米など先進国(米国、中国、ロシア、ドイツ、英国、日本)なのに、それによって引き起こされる大災害の被害に遭うのは「南の国」と言われる発展途上国など脆弱な国です。その不平等を解決しなければなりません。そこで、今回のCOPの焦点の一つとなっていたのは「損失と損害基金」の設立でした。先進国が資金を拠出することで基金を設立し、途上国が災害に見舞われた際の復興にかかる費用等に充てるという趣旨の基金で、30年も前から議論されてきて今回会期を2日延長して、ようやく採択されるに至りました。それ自体はポジティブな決定と言えますが、基金の内容はまだ何も決定されず、「誰が、いつまでに、いくら支払うのか」の問題は、次回以降に持ち越されています。想定されている基金の資金は、今後必要となってくる被害額には到底及ばない額です。
『pollueur, payeur →汚染するものが払う』の原則に従うのであれば、従来の「先進国」「途上国」の2分ではなく、中国のように近年発展を遂げCO2を大量に排出するようになった国も「負う側=払う側」になるべきではないかと、今回のCOPで指摘されていました。

Greenwashing
Greenwashingとは、環境問題において「上部だけの見せかけ」の態度を指すそうです。例えば、COPでは環境汚染企業のコカ・コーラがメインのスポンサーになっていたことが問題視されたり、この会議のために世界の約200ヵ国から数十万人の代表者が、飛行機を使ってCO2を排出しながら集まるのはどうなのか?という批判もありました。また 、COPの裏側ではガス石油会社と各国の代表団がエジプトのカイロに集まり、「ガス契約」を結んでいたという話まで・・・
フランスのマクロン大統領は、COP会期終了後に環境保護に向けてイニシイアティブを取っていくような演説をしていましたが、直後、サッカーワールドカップでフランスの決勝進出が決まると、公務でもないのに飛行機に乗ってカタールまで観戦に行き、拳を振り上げて応援していました。このカタール開催には他にも問題があり、当初はボイコットすべきではと言われていていたのに、いったい何だったのでしょう。

国の代表者や世界を牛耳る大企業がこんな様子では、一般の人たちの行動にどれほどの効果があるものか疑問です。ただ、このまま何もしなければ悪化の一途を辿ることは間違いないわけで、問題意識を高く持っているヨーロッパの人たちはドイツ在住のヴァイオリニストのように何らかの行動を起こしていくのかも知れません。まだまだ飛行機に乗って海外旅行に行きたいけれど、そんな生活は夢だったと回想する日が来てしまうような予感もします。

 


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