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神の沈黙


今日、10月17日はお誕生日でしたが、もう歳はとれない不治の病に罹っているので昨日までと同じ30歳です。

皆様、心温まるメッセージを有り難うございました🕊️🧡

夜はミューザ川崎で、藤田真央君のリサイタルがありました。神奈川芸術家協会主催の「夜ピアノ」シリーズ、第二夜です。


ショパンの命日に、ポロネーズ7曲※を真央君が弾くという、恐らく一生に一度しかない巡り合わせ。客席の集中度もかなり高く、これまで聴いた中でも傑出したリサイタルでした。
※現存している資料によれば、ショパンは7歳の時に最初の曲ピアノを作ったと言われており、それがポロネーズであった。今回演奏されたのはフランスに移住した後に作曲されたOp.26-1からOp.61までの7曲。

ポロネーズは民族舞曲のリズムを体得するのが難しく、その時点ですでにハードルが高い上に、テクニック的に難易度が高い曲が幾つもあります。7曲を全て続けてほぼ完璧に弾くというのは通常では考えられないことなのですが、それをやってのけてしまう。かなり深い意識レベルで集中しているようにお見受けしました。
7曲を通して聴きながら、フランスでのショパンの波乱に満ちた人生を思うと、自然と涙が溢れて止まらなくなりました。ポロネーズという一貫した形式の中でも、時代によって作風が変化し、そのどれもが素晴らしい作品であることに改めて驚かされます。

後半に弾いたリストのソナタに至っては、技術的には「栓抜きでビールの栓を抜くより簡単」そうに弾いていました。こちらはグッと内省的な演奏解釈で、自分自身と、或いは神と対話するリストを彷彿とさせる(宗教的な文脈での)瞑想的な部分と、メフィスト的な「悪魔」を象徴するサーカスティックなモティーフや、フーガ・セクションとのコントラストが見事だったと思います。
最後の音を弾いた後の、長い長い休止が意味するのは「神の沈黙」なのでしょうか…?

アンコールはモーツァルトのa-mollのロンド。
今日のアンコールは絶対モーツァルトだろうと予想していましたが、ラクリモーザではベタ過ぎてなんか違うし、、、と思っていたところ、イ短調のロンドが演奏されました。作曲家の死生観にまで自然と考えが巡ってしまうようなこの日のプログラムを締めくくるのに、ピッタリな曲でした。哀しみの深淵を彷徨うような美しい旋律に導かれ、こうしている間にも、遠い中東の国で灰色一色になっている地域の人たちの苦しみに想いを重ねて聴きました。
そんな不穏な時代だけれども、心に残るお誕生日を過ごさせていただき、どうも有り難うございました。

バレンボイムをはじめ、たくさんのイスラエルの人たちが何十年もの長い間、音楽や演劇といった文化を通して、平和を訴える活動を続けてきたのを知っています。
でも、壊れる時はほんの一瞬で為す術がありませんでした…自分の無力さを感じます。
早く中東に平和が戻るように、強く願っています。

ミューザ川崎。素晴らしい響きのホール。
Veveyで訪れたカトリックの教会
「神はなぜ沈黙するのか」

《追記》
「神の沈黙」って別にふざけたわけではなくて。リストのソナタはドリア旋法で始まる=彼の信仰心の表れ。どんなに祈っても神が沈黙する(助けてくれない)時、信仰心が揺らぎ苦しむ。いま聖地付近で起こっている無惨な戦争に沈黙する神を重ねて。


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