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【おすすめ海外ドラマ】『Love, ヴィクター』

海外ドラマファンである筆者のnoteデビュー記事!ということで、今イチオシのドラマ『Love, ヴィクター』をご紹介します。

本作は多様なキャラクターと題材を扱った今時のTVシリーズですが、同時に過去のティーンドラマを思い出させる要素もあり。長年ティーンドラマを愛する筆者が、新たに大好きになった作品です。

まずタイトルでピンと来る人もいるかと思いますが、本シリーズは男子高生のカミングアウトを描いた映画『Love, サイモン 17歳の告白』(2018)のスピンオフ。20世紀フォックス配給で全米公開され、ハリウッドのメジャースタジオが初めて「ゲイのティーンエイジャーの恋愛に焦点を当てた作品」として注目を浴びました。ハートウォーミングな青春映画で興行的に成功を収めましたが、一方で主人公サイモンが白人のアッパーミドルクラスであることから、「白人特権」や「カミングアウトがイージー過ぎる」といった批判も受けていました。

映画版の脚本を手掛けたアイザック・アプタカーとエリザベス・バーガー(『This Is Us』のコンビ)はこうした批判をしっかり受け止め、『Love, サイモン』の世界観を広げたTVシリーズ『Love, ヴィクター』を製作。主演はイタリア・ドイツ・プエルトリコのルーツを持つ俳優、マイケル・チミーノ(『アナベル 死霊博物館』)が務めています。
2020年に米Huluでシーズン1がリリースされ、日本ではDisney+「スター」にて最新のシーズン2まで配信中。ちなみに本国では元々Disney+作品として進行していましたが、「よりふさわしい」という理由で大人向けのHuluに移った経緯があります。(理由は同性愛がどうという事ではなく、10代の飲酒など子供に見せたくない描写があるためのよう。)

主人公ヴィクターはラテン系の労働者階級で、両親は保守的な考えをもつキリスト教徒。物語はヴィクターがアトランタへ引っ越すところから始まり、彼の転校先となるのが、映画版の舞台クリークウッド高校です。まだ自分がゲイだと確信できないヴィクターは、同校の卒業生サイモンのカミングアウトストーリーを知り、経験者の助言を求めて彼にDM(ダイレクトメッセ―ジ)を送信。そのDMには、自己紹介の後にこんな文章が含まれています。

「世界一完璧で受け入れてくれる両親がいて、世界一協力的な友人がいるなんて、ふざけるなと言いたいよ。僕たちの中には、そう簡単にいかない人もいるのだから。」
"I just want to say screw you for having the world's most perfect, accepting parents. The world's most supportive friends. Because for some of us, it's not that easy." (※米Huluで視聴したため、字幕ではなく直訳です。)

つまり、スピンオフの主人公ヴィクターが、オリジナルに対する批判をその主人公であるサイモンにぶつけているのです。
先に映画版を観た人は、このセリフを聞いて「おお!」と思ったのではないでしょうか。
続けてヴィクターは「新天地で自分らしく生きたい」という思いを伝え、メッセージを受け取ったサイモンは親身になって返信。ここから2人のやり取りが始まります。(映画版に引き続き、サイモン役はニック・ロビンソンが続投しています。)

シーズン1は性的探究とカミングアウト

そんなヴィクターの新生活を描く本作では、シーズン毎に彼の取り組む課題が変わります。まずシーズン1のテーマは、性的探究とカミングアウト
ヴィクターは引っ越し早々同じアパートに住むフェリックスと友人になり、学校ではミアという女の子と親しくなります。ミアはフェリックスいわく「クラスで一番ホットな女子」で、ヴィクターが入部するバスケチームのキャプテン(で嫌味な)アンドリューも好意を寄せるマドンナ的存在。

そんなミアと親密になり、彼女となら恋愛できるかも……?と考えるヴィクター。しかし一方で、ベンジーというオープンリー・ゲイの男子にもどんどん惹かれていきます。(彼の魅力は、お決まりのスローモーションの登場シーンを見ればすぐ分かるはず。)
しかしベンジーには恋人がいるし、親たちは同性愛者に偏見を持っているため、どうにかミアとの恋愛に舵を切りたい……そんな彼の心の葛藤が、サイモンと交わすDMを通して丁寧に描かれていきます。

シーズン2はゲイとしての生き方(若干ネタバレ)

シーズン2ではカミングアウトからもう一歩踏み込んで、ゲイとしての生き方に焦点を当てています。バスケ部員のヴィクターは、傍から見ると‟ジョック”(運動部の人気者男子)に属しているため、「ゲイの仲間の中では、ゲイとして十分じゃない。でもバスケ部ではゲイ過ぎる。」といった悩みが出てきます。NBCのインタビューを読んで成る程と思ったのは、この「ここでは~として十分じゃない、ここでは~過ぎる」という考えは、突き詰めると「自分は何者か?」という普遍的なアイデンティティへの問いになるということ。自分の経験をたどれば幅広い人々が共感できる事柄で、ヴィクターの苦悩や仲間の助け合いを通して、腑に落ちるメッセ―ジを伝えてくれています。

そして映画『Love, サイモン』の寛容な両親とは異なり、ヴィクターの両親は保守的なクリスチャンなので、カミングアウトの苦労や両親の葛藤がリアルに描かれています。特に母親イサの壁は高く、彼女のあからさまな不快感によって場が凍ったりと、たびたび気まずいシーンもあり。しかしそれでもイサを憎み切れないのは、役を演じるアナ・オルティスの魅力が大きいでしょう。ドラマ『アグリーベティ』で主人公の気の強い姉を演じていた頃も大好きでしたが、あの堂々とした立ち居振る舞いやパワフルさは今も健在。イサが他の問題も抱えながらも、自分なりに気丈に対処していく姿にとても好感がもてます。

また、本作は同性愛者のティーンを一括りにせず、それぞれタイプの異なるキャラクターを登場させているのもgood。ヴィクターはラテン系のスポーツマン、ベンジーは白人のバンドマン、そしてシーズン2の新キャラ、ラヒームはイスラム教徒のフェミニンな同性愛者。様々なバックグラウンドのキャラクター一人ずつにスポットライトを当て、それぞれの悩みを誠実に描いているのが見事です。そしてもちろん、ミアや親友のレイク、フェリックス、アンドリューなど他のキャラクターについても深堀りしており、彼らの成長や恋愛、家族の問題も見どころ。特に初体験やメンタルヘルスを扱ったエピソードは好評で、本当に多様な視聴者が共感し楽しめる作りになっています。

過去のティーンドラマを思い出す懐かしさもアリ

本作は多様性を重視した今時のティーンドラマですが、冒頭にも述べた通りどことなく00年代のような懐かしさを感じるのも魅力です。その理由の一つが、番組のオープニングクレジット。近年はキャッチーなタイトルロゴだけやアニメーションといった洒落たオープニングが多いですが、本作はキャスト一人一人の姿と名前が順番に映し出される伝統的なオープニング。始まった瞬間にワクワクする感覚は、『The O.C.』や『One Tree Hill』など過去の人気青春ドラマに通じるものがあります。

そして、ヴィクターの相棒フェリックスが『The O.C.』のセスとかぶる人は少なくないはず!転校生の主人公とすぐ仲良くなり、オタク系だけどキュートなルックスで、学校一イケてる女子の‟親友" レイクに片思いするフェリックス。そんな彼とレイクの関係は、『The O.C』のセス&サマーを彷彿とさせます……!(とはいえ全く同じではないので、貧乏なセスと性格の良いサマーといったところ。)両作品を観た人に共感してもらえたら嬉しいです。

ちなみに近年マイノリティの役は当事者が演じる流れが出来てきていますが、主演のマイケル・チミーノは「今のところストレート」とのこと(NBCインタビューより)。ただ「自分を枠にはめたくないし、もし10年後にゲイやバイとカミングアウトした場合、自分に忠実なアイデンティティを守っていたような立場に身を置きたくない」と付け加えているため、自分のアイデンティティを探求するヴィクター役にふさわしい俳優だと感じました。

『Love, ヴィクター』は古き良き青春ドラマの雰囲気を醸しながらも、2020年代にふさわしく洗練されていて、さらに「オリジナルへの批判払しょく」という課題をクリアした優秀なシリーズ。筆者のようなティーンドラマ好きはもちろんのこと、イージーウォッチかつ良質な作品を求める方々にも是非おすすめしたいです!


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