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「この私」(肥大した自意識としての)とはなにか――【用語集】『〈自己完結社会〉の成立』


「この私」(肥大した自意識としての) 【このわたし】

 「例えばここで語られる数々の「私」は、いずれも〈他者存在〉から切り離された「不変の私」、「〈関係性〉の場」のもとで立ち現れる〈この私〉とはかけ離れた、言ってみれば自意識によって肥大化した虚構の「この私」のことではないだろうか。」 

上巻 227

 〈社会的装置〉に依存する「〈ユーザー〉としての生」の拡大や、〈自立した個人〉の思想の浸透などを契機として、肥大化する自意識がもたらした虚構の自己概念のことで、「意のままにならない他者」との〈関係性〉の網の目(「〈関係性〉の場」、あるいは〈存在の連なり〉)から切り離されてもなお成立しうると錯覚されたを自己概念のこと。

 これに対して〈この私〉と表記されるのは、無数の〈他者存在〉との「〈我‐汝〉の構造」ないしは「意味のある〈関係性〉」の網の目のなかから現前してくる〈自己存在〉のことで、ここでは〈この私〉から「この私」への移行という形で自己概念の変質が説明されている。

 なお、こうした虚構の「この私」が肥大化、全面化することが〈自己完結社会〉のひとつの肖像であり、「〈関係性〉の分析」から〈関係性の病理〉を説明するためのひとつの方法として位置づけられる。

上柿崇英『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版、2021年)

 このページでは、筆者が2021年に刊行した『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み(上巻/下巻)』(農林統計出版)に登場する用語(キーワード)についての概略、および他の用語との関係について説明したウェブ版の用語集のnote版です。

 (現在リンク先は、すべてウェブ版を借用していますが、徐々にnote版に切り替えていく予定です。

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