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古い井戸水

置き去られたまま
呼び止める事もせず
沈黙が美徳であるかのように
それぞれの時間だけを
肌身離さず過ごしながら
時折思い出したりする
そんな機会も少なくなって
大切なはずの懐かしさでさえ
見過ごしてしまったり
急に不安になってみては
生きるほど目眩が酷くなって
人生の被害者同士
慰めを拒絶しながらも
顔も見せないくせに
触れ合いたいと願い
他方では誰かへの怒りに
自らの欠落を埋め合わせ
ならばせめて
傷付く痛みを知ろうと
身勝手な刃を振り回しながら
逃げ出した闘争に
不意打ちを敢行する
疲れ果ててもいないが
もう歩けないと腰を下ろし
封印されて久しい古井戸
ちょうど喉もカラカラだ
淀んで溜まった井戸の水
覗いてみたなら俺が居る
俺の下にも誰か居る

やりたいことなんて何もなかった放課後 ぺっちゃんこにした鞄に詰め込んだ反逆 帰る所があるから座り込んだ深夜の路上 変えたい何者かを捕まえられなかった声 振り向くばかりの今から届けたいエール