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コールタール

鬱陶しい脈動と共に触れる情動が
自分以外の何者かを想起させる束の間
喪失に限られた力を望む老いぼれに
大手を振って歩く世間様の非常識が
終身刑かアンデッドのワクチンを授ける
毛細血管に侵入した寄生虫の徘徊
悪意など持ち得ないまま生きる潔白や
高純度の生存本能を殺戮と呼ぶのは
有り体の善意を刷り込まれたアミロイドβ
記憶が記憶を上書きする毎に変貌の自己
支配へのクーデターは隠蔽された独裁
近未来へのアンチテーゼは無名の絶筆
親もなく子もなく泣くこともなく
言うまでもなく友もなく両手をダラリ
一度くらいは知っていたであろうはずの
私と呼ぶべき胸をコールタールで塗りたくり
誰にも見つからない場所で待つのは誰

やりたいことなんて何もなかった放課後 ぺっちゃんこにした鞄に詰め込んだ反逆 帰る所があるから座り込んだ深夜の路上 変えたい何者かを捕まえられなかった声 振り向くばかりの今から届けたいエール