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大人になった

振り返る事が増え
そのくせ思い出す事は消え
雑踏に打ち捨てられた
何者かであった残骸に
知りたくも無い不安が
阿修羅の片割れの様に
左右の頬に擦り寄って来る

俺は恐怖を理解しているのか
風穴が空いた首筋を隠し
無闇に触れ合わずに済めば
少しばかりはこの暮らしも
延命措置が施されるだろうから
洗面所の俺と二人きりで
逃げ口上の読み合わせをする

諦めたばかりの焦燥が
机の端っこにしがみついて
救難信号を打診すれば
高校生の休日と
卒業アルバムのコラージュが
うんざりさせる懐かしさを
急行列車に乗せたまま通過する

ありふれた
雫が欲しいと
言うけれど
いつから君は
大人になった
いつから僕は
大人になった

やりたいことなんて何もなかった放課後 ぺっちゃんこにした鞄に詰め込んだ反逆 帰る所があるから座り込んだ深夜の路上 変えたい何者かを捕まえられなかった声 振り向くばかりの今から届けたいエール