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オオクワガタは紙を食べて大きくなる

100%パルプ培地はダークホースか?

オリジナル100%パルプ培地ウスヒラタケ菌糸瓶

 この菌糸瓶の培地は、オオクワガタ菌糸瓶飼育材としては前代未聞の100%パルプ材。それにウスヒラタケを蔓延させたわたしのオリジナル菌糸瓶で、昨年末に採取した京都産ワイルド・オオクワガタ幼虫(♂)を3令に加齢確認後の2022/6/22に投入してあります。それから約1ヶ月経過の現在で真ん中辺りに食痕が露出し始めたのですが、その辺りで居食い中の様子です。
 本稿タイトルの「オオクワガタに紙を食べさせて大きく育てる」は、少々語弊が有りまして、本質的には「オオクワガタに紙を食べさせたキノコを食べさせて大きく育てる」です。

食痕観察
 さて、観察すべきは、その食痕の粒度と色味。食痕の粒度が極端に粗い場合は、ただ掘り進むために噛み砕いただけで、幼虫はその培地は食べていません。粉状に近く細かくなっていると、幼虫が培地を食べて消化後に排出された糞であると判断できます。このパルプ培地の材料は、約8.0mm幅くらいの紙片をランダムにカットされたものなので、十分噛み砕かれていることが判ります。
 食痕の色味は、幼虫の健康状態と菌糸瓶内のメインの腐朽菌を含めた微生物全体のフローラ状態を知ることができるバロメーターのようなもので、非常に大事です。微生物との共生関係は、我々、人や哺乳類を含む全ての生物に言えるかもしれません。大雑把ではありますが、食痕の褐色化が進む程窒素化合物が多く、C/N比が幼虫投入前よりも低めに変化している指標と考えられます。色味が薄い場合は、リグニンがよく分解されており、腐朽菌による分解深度が進んだ良好な培地であると判断できると思います。オオクワガタの場合、低C/N比培地は好ましくないとわたしは考えています(腐朽菌に対しても)。
 従って、この食痕を確認する限り、とても良好な状態とわたしは判断します。というか、これまで試した培地中、ベストな感じに見えます。その指標は、ワイルド幼虫採取の際に確認している天然腐朽材中の幼虫の食痕の色味に非常に近いからです。

市販菌糸瓶培地のC/N
 C/N比が腐朽菌と幼虫にとって良好なバランスを保たれており、そのような腐朽菌によってよく分解された培地を食べた幼虫の食痕(糞)には、更に再発菌が確認できます。これは、幼虫の糞に含まれる窒素が腐朽菌の餌になるので、腐朽菌によって再回収されるからなんです。菌糸瓶内リサイクルです。これも、天然腐朽材中で確認できる状態です。
 要するに、殆どの市販菌糸瓶は、オガ培地のリグニンの分解が甘いのと、添加剤による窒素源含有度が高いので、それらが相まって、食痕が画像のように白色化することがないんですよね。それらは無理に肥え太らせるという発想が極限まで高まった結果、窒素含有量が多く、低C/N比培地になってしまっているからだとわたしは考えています。

採取天然材中を観察する
 つまり、実は、天然材に見られる腐朽菌と虫との関係は、幼虫による一方的な栄養搾取ではなくてですね、双方で——持ちつ持たれつの相互依存環境が成立している——ということなんです。天然材中のオオクワガタ幼虫の食痕はその坑道内にガチガチに堅く詰められています。ほんと、びっくりするくらいに堅く、です(下の画像参照)。その理由を考察するに、一つは、腐朽材の強度を物理的に保たせるため。それは生存環境を維持するためですよね。もう一つは、腐朽菌の再発菌を容易にするためだとわたしは分析しています。何れも、幼虫は腐朽材中の空隙率を高くしないようにしているということです。
 また、同時に、これまでのわたしの野外採取材の観察では、よく言われる「食痕(糞)の食い直し」という形跡は、坑道内の食痕の観察からは見受けられないのです。健康な幼虫の食痕は、やはり綺麗な木肌色で、一般的な菌糸瓶で見られるような低C/N比培地に起こる褐色の食痕は見られません。これは、上に示したように、腐朽菌の餌になるように他の空気中の微生物群の過増殖を防ぐためにオオクワガタは自身の糞を坑道内にあれほど硬く詰めているのだとわたしは分析します。

京都市内の天然腐朽材中に居たワイルド・オオクワガタ3令幼虫(2022/12)

古い食痕移入の悪手は論文の誤解・拡大解釈が原因
 オオクワガタの菌糸瓶飼育の場合、上記のC/N比の問題、腐朽菌と幼虫との共生リサイクル環境維持を考えると、マット飼育の応用的な空気中の微生物(バクテリア)を積極的に導入した培地はまったく有効ではないと思われます。それは培地内での菌糸再生能力を阻害するからです。最も適正な環境は、培地のC/N比と菌糸の活性とのバランスの取れた状態として、暫く経つと食痕に菌糸の再生が見られるような環境です。食痕が褐色化し、特にその色が濃いままのような状態、また、その水分量も多いような状態、そんな培地はオオクワガタには適応外の「劣化(窒素化合物過多)」培地と考えてよいと思います。従って、新しい菌糸瓶交換時に旧菌糸瓶からの食痕の移入は培地の劣化を促進させるようなものなので、悪手であり、禁止行為と言ってよいと思います。また、それはその後のその菌糸瓶内の状態を観察すれば一目瞭然かと思います。
 要するに、一部の論文で紹介されたようなバクテリアの存在の有用性は、自然界での高C/N比環境での場合を指すのであって、人工的に高窒素源添加された菌糸瓶環境での効果を言っているわけでは決してないということです。それは、素人が学術論文中の言及を拡大解釈した末の悪手なのです。

 

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