見出し画像

雑感ノ門 ~5連勝のキーマンは?

J2リーグは1試合悪天候延期があったものの、J1やJ3のようにコロナによる中止カードはなく、順調に第10節まで全試合を消化。新潟と琉球が超ハイペースで飛ばす中、京都も7勝1分2敗というまあまあのハイペースで追走している。

5節まではリスキーで血気さかんな試合運びで、ミスからの失点が相次いでいた京都。その後6節~10節は5戦全勝、13得点・2失点という安定ぶり。さて何が変わったのか?「献身的なNEWウタカが好調だから」という回答はもちろん正解。よほどのことがない限り4月のJ2月間MVP。しかし“通”ならばドヤ顔で「好調の要因は武田将平」と、6節に初めて起用され、以降フルタイム出場を続けている武田の名を挙げるだろう。激しく同意。だが武田の起用と同時にもう1つ変わったポジションも忘れてはならない。松田天馬のFW起用、であーる。

画像5

↑ 6~10節の基本布陣

連勝のキーマン=松田天馬派

武田を起用したかったから松田のポジションを1つ前に上げたのか、松田を1つ前で使いたかったから武田を起用したのか、卵が先か鶏が先かはわからないが、連勝の始まった6節から松田は基本的に「3トップの左」として起用され続けている。松田の持ち味といえば豊富な運動量と戦術理解度の高さ。けれども5節までは、よく動くのにイマイチボールに絡めない部分も多かった。

“FW”松田として最も生きているのは、ボール非保持の場面。言い方を換えれば「前線からの追い込み」。広範囲にタフに走り続けられる松田がいれば、相手に最終ラインや中盤の底あたりの自由をガンガン狭めることができる。たとえボールを奪えなくても、次のフェイズで京都の中盤~DFが奪回すれば[守→攻]を入れ替えられる。5節まででこの役割をこなせていたのは宮吉拓実だった。そして7節からは左・松田+右・宮吉という夢のフロントツインチェイサーが揃い踏み。前線2人の献身性抜きに6~10節の5連勝は語れない。

ちなみに松田は攻撃でも5連勝中にこれだけの得点シーンに関わっている。
 ・6節千葉戦1点目【得点】←起点も松田のプレスから
 ・6節千葉戦2点目の起点となるウタカへの超ロングクリアパス
 ・7節町田戦1点目に繋がる荻原への落とし
 ・8節北九州戦5点目FKからバイス砲の【アシスト】
 ・8節北九州戦6点目につながるCK
 ・10節山口戦1点目【得点】

やはり連勝のキーマンは松田天馬のFW起用である。

連勝のキーマン=武田将平派

松田(と宮吉)が前線から相手に規制をかけてくれるから、中盤で奪いやすくなる。ここでその中盤に6節からフルタイムで起用され続けている武田将平の存在がクローズアップされる。武田は、とにかく気が利くポジションに立っているのである。

5節までは3人の小型MF(主に松田164cm+福岡慎平170cm+川﨑颯太172cm)が走りまくって機動力で中盤を制圧しようとしていたが、激しく動き過ぎるがゆえに穴が開ける場面も散見した。この情熱的で闘志を前面に出す3人に対して、武田181cm(左利き)のプレースタイルはクール。状況を冷静に判断できる選手が1人いることで、過度にバランスを崩すしてプレスに行く必要もなくなり、リスキーな判断を迫られるシーンが大幅に減った。松田・宮吉の前線プレスによって相手のパスコースもある程度限定されていることもあり、冷静にそこに対処すればいい。

ちなみに武田同様に三沢直人もクールにプレーできるMFであり、2人が同時に出るとかなりチームの性格がかなり変化する。6節千葉戦は少し温度が低すぎたが、大勝した8節北九州戦は2人がつるべ落としのように補間し合う関係性がチーム全体を活性化させた。

なお、武田は5連勝中これだけの得点シーンに関わっている。
 ・7節町田戦1点目の起点となる松田へのパス
 ・8節北九州戦1点目ウタカへの【アシスト】
 ・8節北九州戦2点目に繋がるゴール前への折返し
 ・9節東京V戦1点目ウタカへの【アシスト】となるクロス⇒〈おまけ〉で詳述
 ・10節山口戦2点目に繋がる前線でのウタカへの落とし

やはり連勝のキーマンは武田将平と言っても過言ではない。

情熱と冷静の間に、あの男

5節までは目先の勝利以上にミスを恐れずチャレンジすることが優先され、「熱いプレー」を貫くという価値観でチームが作られていた印象だったが、6節からは「冷静なプレー」に長ける武田を加えることでチームの根幹が太くなった。負傷した本多勇喜の代わりに6節途中から出番を掴んでいる麻田将吾も冷静なプレーぶりが光る。5節までは一見軽視しているかに思えたクールなプレイヤーたちがどんどん頭角を現しているのは、意図的なチーム作りの手法だったのかもしれない。曺貴裁監督は山口戦の後、「選手が少し大人になった感じがベンチから感じとれて」とコメントしているが、子供みたいにヤンチャで活発なチームカラーで出発させたのはあなたでしょ?とツッコミたくもなる。

5節までに「失敗を恐れずチャレンジするマインド」を叩き込んでおいて、次の5節では冷静な判断力や主導権に握れなかった時の対応力や我慢強さを引っ張り出した。でも実は武田や麻田以上にクールなプレイヤーがいる。ピーターウタカだ。一見すれば情熱の塊のようにも見えるが、プレー中は誰よりも冷静。しかもここぞの時には爆発的にパッションを燃焼できる。6節以降に監督が課した「変化」と「進化」に見事に適応しながら、情熱の高気圧と冷静の低気圧が大きな渦を作る中心にいてチーム全体の成長を促しているのは、結局ウタカだということになる。京都は今年もウタカのチームなのだ。去年とは意味合いが違うが。

次の5節では、どんな成長を遂げるのか、どんな試練が与えられるのか。この先、愛媛→琉球→山形水戸→新潟という今季のJ2を占うような、骨のある相手が待っている。


〈おまけ〉今月のピックアッププレー

9節東京V戦の1点目は、前線からのプレス守攻の切り替えレーンの入れ替わりを数秒間のうちに連続させた、現時点ではかなり理想的な得点だった。経過は以下の通り。

画像1

・16武田と9ウタカが4梶川にプレス
・9ウタカが追い込んでボールを奪取
・9ウタカ、16武田、24川﨑という3人が前向きに(画面外だったが、右大外には13宮吉)

画像2

・9ウタカが17加藤を剥がしながら内側へレーン変更
・それに合わせて16武田がレーンを外に変更
・24川﨑は中央を締める5平と16福村の間を狙う動きだが、外側へのレーン変更(破線)の選択肢を持っていた

画像3

・9ウタカが24川﨑にパス。同時にお互いにレーンを変える
・ここで左から16武田、24川﨑、9ウタカ、13宮吉のレーンが完成
・24川﨑は相手を引きつけて16武田にパス

画像4

・16武田はフリー&利き足でディフェンスラインとGKの間にクロス
・2つ先のレーンに移った9ウタカが仕留める

この6~10節ではレーンを意識した攻撃が増えてきており、これらはアドリブではなく、かなり再現性が高いもの。上記のシーンには関わっていないが、松田天馬もレーン攻撃のキーマンで、松田が左大外のレーンに立ってその内側のレーンを荻原拓也がインナーラップしていく攻撃はもはや定番。北九州戦の3点目は宮吉が右大外に張ってその内側のレーンに飯田貴敬が進出してのゴールだった。

セットプレー(スローイン含)からデザインされた得点パターンに加え、レーンをしっかり意識した攻撃など、6節以降の京都は急速に「知性」を持ち始めている。球際のインテンシティ(強度)や90分のタフネスは落とすことなく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?