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雑感ノ門 ~頭の悪いサッカーって?

「なんでそうなるんや…」
4失点を喫した第4節磐田戦・4失点目の時、思わず口を突いて出そうになったが、グッと飲み込んだ声である。声を出さないことこそ、究極の感染予防だ。そしてその夜、「言ってしまえば頭の悪いサッカー」などとつぶやいた。このことについて少しだけ自分の思うところを補足したいと思う。


4失点目の経緯

〈状況〉2-3の状況で残り10分ほど。
●磐田がセンターライン付近からカウンター発動
 →15伊藤洋輝がクロス
 →中には上がってきた14松本とCF11ルキアン
 →11ルキアンのヘッドをGK34若原がキャッチ
★【ポイント1】GK若原は時間を置かずスローを選択
 →投げた先は24川﨑だったが、24川﨑は29中野に任せて上がる
 →29中野は背後からプレスにきた14松本を躱す
 →そこに10山田のプレスを受ける
★【ポイント2】29中野には3つのパスコース、クリア、山田を剥がすという選択肢があった中、10山田を剥がそうとする
 →29中野は10山田のプレスを剥がしたが、ボールコントロールが長くなって14松本の足元へ
●ボールは14松本からダイレクトで4大津に出て、イージーなシュートを決められて失点

 簡単にいえば連携がズレたところにハイプレスを浴びて、ボールロストして、そのまま決められたというだけの話なのだが、何度か「なんでそうなるんや…」という選択肢を選んでしまっている。検証してみよう。

【ポイント1】若原智哉の選択

▼GKから速く、確実なルートで攻撃をスタートさせようとした
GK若原は捕球してから時間を置かず、おそらく24川﨑にスローした。しかし24川﨑が29中野にボールの管理をスイッチしてスローダウンした間に10山田と14松本のプレスに遭う。さて、若原の選択肢は正しかったのだろうか?この場面は磐田の速攻直後だったので、磐田の陣形は一部が崩れていた状態。ここをスピードアップして衝くことが今季ここまで京都が貫いている流儀だ。クイックスローを使って中央から繋ごうとしたのは、ロングキックを蹴るよりも「確実に前に繋げる」と踏んだのだろう。クイックスローの段階ではそこまでハイリスクな選択ではなかったのだが、24川﨑と29中野が次のプレーのビジョンにズレがあったため、結果的に「なんでそこに投げたんや」ということになった。

【ポイント2】中野克哉の選択

▼苦しい体勢でも逃げない意思を貫いたが…
そうして意図せず?ボールを持った29中野。ワンタッチでボールを捌いていれば何のこともない状況だったが、ほんの1~2秒遅れたため前後から14松本と10山田のプレスを受けてしまう。14松本を躱したあと10山田に詰め寄られ、図のような状況となった。

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このとき、29中野には3つのパスコースがあった。
× GK若原(←11ルキアンがコースを完全に消していた)
△ 23バイス(すぐ近くにいたが、14松本にも10山田にも寄せられる位置)
△ 6本多(4大津がパスコースを警戒。角度も悪い)

いわゆる磐田が「ハメて」いる状態。一番楽なのはバイスの後ろに蹴って逃がす方法。もしくは大きくクリアしてしまう方法。逃げの一手だが、曺貴裁監督は逃げの選択肢を排除するチームを作ろうとしている。

ここで29中野は10山田を独力で剥がすルートを選択。上手く剥がして、次のパスコースを作ろうと上がっていった24川﨑、または33三沢へボールを通せば、まだ相手が整っていない状態で攻撃に転じることができる。ただし、それが確実にチャンスになるにはまだ敵陣からは遠い位置。非常にリスキーな判断だった。結果、29中野のボールコントロールのミスが失点に繋がってしまう。現地で「なんでそうなるんや…」と思った時は単なるパスミスに見えたが、そうではなかった。攻めた選択が生んだエラーだった。

リスクに突っ込む頭の悪いサッカー

GK若原が生んだエラーも、29中野の技術的エラーも、実はそれぞれのスキルが高ければ起きなかったかもしれないミスだ。代表レベルで足元の上手いGKならあそこで速く正確なキックを蹴って前線に通すだろうし、29中野が陥った状況でミスタッチせず繋ぎに転じるJ1レベルのプレーヤーは結構いるはずだ。成功:失敗が5:5の状況を、6:4とか、7:3に持っていくのは個人スキル。それは厳しい状況にチャレンジして上げていくものだと、おそらく曺貴裁監督は考えているフシがある。

一方、5:5の状況ならば逃げのルートを選んで組み立て直すチームも多い。リスクを避けて、突発的な事故が起きないようにボールを自分たちでコントロールしながら、相手のエラーを衝いていくサッカーだ。今はこれが効率的で無駄の少ない「賢いサッカー」とされている。「逃げるは恥…」でも何でもない。これに対して、曺貴裁京都のように成功3割:失敗7割くらいの状況でもわざわざリスクが大きいルートに火の玉のように突っ込んでいくサッカーは「頭の悪いサッカー」ということになる。

険しい道、その先には…

山を登るとき、整備されて歩きやすい登山道と、岩場をよじ登る崖道ルートどちらを選ぶだろうか。サッカーも「先人たちが整備してきた道」というのはそれなりに歩きやすいもの。だが、どうやら曺貴裁監督は危険と隣合わせの崖道ルートを選んでいる。岩場を自分の手だけで登るスキルを身につけるまでは、たぶん傷だらけになるだろう。しかしリスクを安易に回避するやり方のままでは、一生岩場の崖道は登れない。イージーに回避ルートを使えば失点しなかった場面に遭遇して「なんでそうなるんや…」と思いながらも、チャレンジを優先する果敢さは痛いほどに理解できた。そして、逃げのパスで安全圏を確保しながら整備された道をゆくサッカーをしても、出来上がるのは所詮平凡なチームだろうことも。

もっとも、険しい道に挑もうがファミリー登山道を歩こうが、その先にある頂上から見える景色が同じなのもまた事実。単純に山頂に登ることだけが目的ならば効率は悪いし、もっと賢いやり方はいくらでもある。それでもリスキーな選択をする理由は何か?今チームに仕込んでいるのは、戦術よりもマインドではないだろうか。安易に逃げず、厳しい局面にチャレンジするマインドをコンクリートのように流し込んで「礎(いしずえ)」としようとしているのではないか。粗ばかり目立つ戦術面のブラッシュアップは、その基礎固めの次の段階…だと思いたいが。

[ 曺 貴裁監督 ] ただ、状況判断というのは全力でやった中で生まれてくるもの。いまはそういうものを咎めるだけじゃなく、自分たちが全力でやった上でどういう現象が起きたのかに向き合ってこれからやっていきたいと思います。

「なんでそうなるんや…」という嘆きの声は、守備に人数を掛けても崩された時の溜め息や、闘志なくひたすら寒かった昨年最終節の失望の声とは根本的に違う。「頭の悪いサッカー」を貫いた先に、このチームが厳しい局面を逃げることなく勇敢に切り抜けられるようになるかはわからないが、やるだけの価値はある。さすがにリスク判断の基準点(これ以上はさすがにやめておこうという基準)がピーキーすぎるのでもうちょっとはセーフティエンドに調整してほしい気もするが、知的なカードはまだいくらでもありそうなので、「頭の悪いサッカー」が「勇敢なサッカー」へと変化し、「知性を備えた勇敢なサッカー」へと進化する日までしっかり見守りたい所存。…間に合うのか?

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