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ストリップに心奪われた記者が抱き続けた初期衝動、観客からフォトアーティストになった軌跡とは

惜しまれながら閉館した中国地方唯一のストリップ劇場「広島第一劇場」の最後の日々に迫った写真展「その夜の踊り子」が、10月3~14日に大阪市のキヤノンギャラリー大阪で開かれている。撮影したのは、共同通信大阪写真部の松田優まつだゆう記者。今年7月には大阪・天神祭を前に女性だけでみこしを担ぐ「ギャルみこし」に参加するなど、バイタリティー溢れるフォトグラファーだ。松田はなぜストリップ劇場を撮影しているのか。大阪社会部の武田惇志たけだあつし記者がレポートする。

最初は、いつものサブカル趣味かと思った。

写真記者の松田優とは、2020年にとある記者会見場で初めて顔を合わせた。日本大学の映画学科卒と聞いて、大阪のミニシアターについて軽く話を交わした。レトロな純喫茶ラブホテルを巡るのが趣味だとも言い、トレードマークのボブヘアーが示すとおりのサブカル人、という印象を持った。

後日、再び取材現場で会ったときに「ストリップ劇場って行ったことあります?こないだ初めて行ってから、ハマっちゃったんすよ」と切り出された。純喫茶、ラブホテル、そしてストリップ。なんだ、また昭和レトロ路線のレパートリーが増えたのか。私はその程度の受け止めで、適当に話を合わせた。

しかし、その判断は間違いだったと後で知る。

それから松田とは1、2カ月おきぐらいのペースで現場や会見場で遭遇したが、そのたびにいつも「こないだは〇〇って劇場に行ってきたんすけど」と、全国各地のストリップ劇場の名前を挙げながら語りかけてきた。いつもの低血圧でだるそうな口調ではあるが、話す度に固有名詞が増え、饒舌になっていった。

「今度、大阪・天満の東洋ショー劇場に〇〇ちゃんが来るんすけど、マジで見て欲しいんで絶対来てください」と引っ張って行かれたこともあった。その際、小柄な彼女は店内をアルマジロのように素早く移動しては常連のおっちゃんたちに「おー、松田さん」と気安く声をかけられていた。

社内からは、松田の影響でストリップ通いを始めた同僚が現れ出したとも聞いた。

その間、松田は足繁く劇場に通っては踊り子たちの写真を撮り続け、報道記事としても世に出していった。いよいよ世評が高まって東京と大阪で個展を開くことになったと聞き、私も大阪・中之島のキヤノンギャラリー大阪に駆けつけた。

筆者撮影

暗室にピンスポットで作品が照らされた会場に入ると、場末の劇場に足を踏み入れたかのようだった。中央に置かれたガラステーブルはステージに見立てられているのだろう、天板の下には紫色のライト揺らめく舞台写真が所狭しと敷き詰められ、ひときわ目を引いた。

筆者撮影

会場奥に配された一番大きなパネルに展示されていたのは、衣装を着た踊り子が階段に立ち、こちら側を見上げている写真だった。その力の抜けた、泣き笑いのような表情は、ひとえに撮影者の松田に向けられたものなのだろう。彼女が傾けた情熱の日々と、取材を受けた踊り子との感応の全てを物語っているかのようだった。

ひとしきり見て回ったところで松田を探すと、テーブルを囲んで来場客から話しかけられていた。なんで、ストリップを撮ろうと思ったのですか?そういえば今さら過ぎて聞いたことないなと思い、私も輪に加わることにした。

筆者撮影

「コロナ禍で仕事も減って何かしようと思っていた時に、一人で勇気を出して東洋ショーに行ったんです。そこで初めて、女の子たちが裸で踊っている姿を観て、引き込まれました。彼女たちはどんな人生を経て、この場所で踊っているんだろう。普段なら気にも留めないような体の小さな古傷や、はんこ注射の跡にまで目が行って、想像力が無性にかき立てられました。それが始まりです」

筆者撮影

そして初期衝動に身を任せ、劇場通いが始まったという。そうこうするうち「広島第一劇場」が2021年に閉館するという情報をつかんだ。最後の姿を記録しなければと社長に取材を申し込んだが、「相手にされませんでした」と言う。「『 閉館の時に取材させてほしい、期日が決まったら連絡ください 』と取材のきっかけを待つだけの態度になっていた」と反省し、まずは別の劇場で取材を続けた。

松田は、そこで撮影した踊り子たちの写真を、第一劇場の社長に見せた。そして「閉館どうこうではなく一つの文化として記事に取り上げたい」と訴えて、ようやく取材許可が出たという。今回、展示している写真は全て、広島第一劇場で撮影したものだ。キヤノンギャラリー大阪の会場入り口には、劇場から個展開催を祝して贈られた胡蝶蘭が飾られている。

筆者撮影

それまで彼女の中では、「自分の写真はあくまで事実を記録する報道写真だ」と位置づけていたという。しかし、新聞社などとの合同写真展で一枚の踊り子の写真を展示したところ反響があり、考えが変わった。「自分の写真が作品として見てもらえたんですよね。つまり、誰かに感動を与えることができるものなのだと」

おそらくそれは、彼女が心から感動したものを写し取ろうとしたからこそ、今度はその写真が感動を与える主体になりえたのだと、私は思う。

松田記者の現在の目標は、写真集を作ること。著作権の問題をクリアするために、仕事が休みの日に自腹で各地の劇場を回っては写真を撮りためているという。

大阪写真部・福原健三郎撮影

「前は仕事以外でカメラを持ち歩くことはなかったんすけど、この取材を通じて写真を撮ることが好きになったんですよね。今は、会社の先輩が持っているような良い機材が欲しいですよ」

松田優写真展「その夜の踊り子」は10月3日(火)~10月14日(土)10時~18時、大阪市北区のキヤノンギャラリー大阪で開催中。最終日14日の18:30-19:30には、踊り子のゆきなさんとのトークショーも(飛び込み参加も可)。詳しくはこちらhttps://canon.jp/personal/experience/gallery/archive/matsuda-sonoyorunoodoriko

松田優(まつだ・ゆう)=1995年東京都生まれ、2017年入社。神戸支局、本社写真部を経て大阪支社写真映像部。特技は側転。

武田惇志(たけだ・あつし)=1990年名古屋市生まれ。2015年入社。横浜、徳島支局を経て大阪社会部。著書に『 ある行旅死亡人の物語 』(伊藤亜衣との共著 )。禁煙8ヶ月目を更新。

松田記者の記事はこちら。

武田記者の記事はこちら。


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