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ある行旅死亡人の物語

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「ある行旅死亡人の物語」に関するnoteをまとめています。
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ストリップに心奪われた記者が抱き続けた初期衝動、観客からフォトアーティストになった軌跡とは

最初は、いつものサブカル趣味かと思った。 写真記者の松田優とは、2020年にとある記者会見場で初めて顔を合わせた。日本大学の映画学科卒と聞いて、大阪のミニシアターについて軽く話を交わした。レトロな純喫茶とラブホテルを巡るのが趣味だとも言い、トレードマークのボブヘアーが示すとおりのサブカル人、という印象を持った。 後日、再び取材現場で会ったときに「ストリップ劇場って行ったことあります?こないだ初めて行ってから、ハマっちゃったんすよ」と切り出された。純喫茶、ラブホテル、そして

バズり記事の裏側は? ダメ出し続けたデスクの真意

ネットニュースの世界は目まぐるしい。私たちが丹精込めて取材し、執筆した記事は、ヒットすれば瞬間風速的に読まれるものの、数日もすれば読まれなくなるのがほとんどです。「そういう世界だ、仕方ない」と考えるものの、少し寂しい思いを抱いてしまうのも、確かです。 そこで今回は、共同通信大阪社会部が送り出した過去のバズり記事を振り返って紹介したいと思います。 記事のジャンルや方向性はさまざまですが、記者が書いた最初の原稿は必ず「デスク」と呼ばれるエディター(編集者)が客観的な視点で筆を

偶然を追いかけたら忘れられない物語に出逢った話

信じられないような偶然の連続が、もたらしてくれた物語がある。 11月に公開した、以下のリンクのウェブ記事だ。 長年、音信不通で人嫌いだった関西出身の男性が、なぜか札幌市で孤独死した。その背景を姉が追ううち、天涯孤独だと思っていた弟に、大切な人と生活を営んでいた過去が浮かび上がったというストーリーである。 実はこの話、私が記者としての仕事をこなす過程で出会ったものではない。確率で考えれば到底あり得ないような偶然が何度も重なって、私の胸に飛び込んできた物語だった。 そう、そ

きっと誰かが覚えている 記憶に残る生きた証 ー 「ある行旅死亡人の物語」(11/30出版)著者インタビュー【後編】

共同通信・大阪社会部の記者2人が、兵庫県尼崎市で亡くなった身元不明の高齢女性について取材し、その謎めいた人生をたどった記事が先月、「ある行旅死亡人の物語」として書籍化されました。 今回の note は筆者の伊藤記者と武田記者に聞くインタビューの後編です。2人は何を考えて、どう記事を書いたのか。名もなき個人の人生を報道することの意味や、公開に至るまでの葛藤、読者に伝えたかったこと。それぞれの思いを語ってもらいました(聞き手= note 担当・山本)。 ※インタビューは書籍の刊

私たちが名もなき女性の生涯を記事にした理由 ー 「ある行旅死亡人の物語」(11/30出版)著者インタビュー【前編】

「行旅死亡人」 あまり聞き慣れないこの言葉。身元が分からず引き取り手がない遺体のことを指す法律用語です。「行旅」という言葉が付いていますが、外出先だけでなく自宅で亡くなった人も含まれます。 今年2月、ある行旅死亡人の女性の人生を追った2本のネット記事が話題になりました。 兵庫県尼崎市のアパートの一室で亡くなっていたのは、1人の高齢女性。部屋からは彼女のものと思しき年金手帳が見つかったものの、身元を確認できる家族や友人は見つからず。住民票も既に消去されていて、市役所のデー