本日付(2024年1月24日付)で、法務省に対して、標記の申入れをいたしましたので、ご報告申し上げます。
私たちは、法制審議会において、共同親権の導入について、実態を無視した議論がなされ、拙速ともいうべきスピードで押し進められようとしていることを強く危惧しています。昨年の8月には、以下の4点を要望する申し入れを行うとともに、現場からの懸念の声をお伝えし、賛同者は375名にのぼりました。
1 合意型共同親権においても、DV・虐待・父母の葛藤が激しいケースが紛れ込む危険があります。
2 非合意型強制共同親権は、子どもを危険にさらすリスクが高まります。
3 議論の前に、パブリックコメントで集まった意見を公開し、議論に反映してください。
4 裁判所に面会交流が強制されてきた実態について調査・分析をしてください。
https://note.com/kyodo_shinpai/n/n50dd1c20f5de
昨年の6月には、「共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会」が、「共同親権の拙速な導入を懸念する」記者会見を行いました。
https://note.com/kyodo_shinpai/n/n5145c9b7cfef
昨年の9月には、弁護士ドットコムのアンケートにおいて、現在の状況で共同親権が導入された場合に、家裁が機能しないであろうことの深刻さが明らかとなるとともに、具体的な懸念について、多数の声がよせられました。
「共同親権を導入する民法改正要綱案「たたき台」、弁護士たちの評価は?」
https://www.bengo4.com/c_18/n_16520/
(以下は、コメント全文1~4)
https://www.bengo4.com/c_18/n_16530/
https://www.bengo4.com/c_18/n_16531/
https://www.bengo4.com/c_18/n_16532/
https://www.bengo4.com/c_18/n_16533/
昨年の10月には、家事事件をメインに扱う弁護士有志から、具体的な事案に関する検討が不十分であるという意見が法制審議会宛に提出されています。
実務家からみた「部会資料についての疑問と意見」
https://note.com/kyodo_shinpai/n/nb7b277b27088
昨年の11月には、札幌弁護士会が、共同親権制度に反対する意見書を発出しています。
https://satsuben.or.jp/statement/2023/11/22/672/
このように実務に関わる弁護士から強い懸念が相次いで示されているにもかかわらず、法務省は、こうした現場の声をすべて無視し、パブコメで集まった当事者の切実な声も明らかにしないまま、原則共同親権とも誤解されうる要綱案を法制審議会に提出しました。多くの国民の行為規範としては極めて不適切であり、誤導により現場を混乱させることは明白です。ところが、報道によれば、今月中にもとりまとめを行う見込みであるとされています。
しかし、この要綱案が、同居中の共同親権にも適用されれば、急迫の事情がなければ子連れ別居が違法とされるように誤解され、支援の現場を萎縮させ、DVや虐待の被害者の避難が困難となり、ただでさえ他国に比べてDVや虐待に対する保護法制や社会的システムが劣る日本において、極めて深刻な事態をもたらします。離婚時に監護者指定をしなくてもよいとすれば、紛争の火種を残し、紛争が複雑化、長期化することが避けられません。また、父母以外の第三者をも面会交流の申立権者と認めれば、審理が長期化し、濫用的な申立てが起こるなど、同居親にとって多大な負担が生じるであろうことも予想されます。
上記各意見書等では現場で家事事件に関わる多くの弁護士が、具体的な事例をあげて様々な懸念を明らかにしていますが、法務省は、それらの懸念に対する検討を一切せず、抽象的な用語の解釈も明らかにしないまま、採決を強行しようとしています。これは、債権法の改正の際には具体的なケースについて事細かに検討されてきたことと比較すると、異常事態ともいえるでしょう。
この要綱案に従えば確実に多発するであろう深刻かつ複雑な紛争に対応するのは家庭裁判所ですが、離婚事件の調停期日が月に1回すら入らない現状で、確実に増加する監護に関する紛争に対し、家庭裁判所が適切な審理することができるとは到底思えません。
最高裁判所事務総局家庭局・民事局がとりまとめた、「家族法制の見直しに関する中間試案に対する各高等裁判所、各地方裁判所及び家庭裁判所の意見」においても、裁判紛争が複雑化長期化するという懸念や裁判実務上の支障が生じるという指摘が複数見られ、緊急を要する場合において、適切な審理を尽くすには審理に要する期間がかかり、それは、保全手続きの場合も同様であり、慎重な検討を要すると指摘されています。
ところが要綱案は、実務に関わる弁護士と裁判所が共通で示すこうした強い懸念に対する解決策を何ら示しておらず、余りに実態を無視したものと言わざるをえません。
さらに、児童精神科の医師を中心とした医療関係者や、DV被害者支援者らからも、共同親権制度の導入に関して、反対の意見があがっています。専門的知見を軽視し、家族に関わる支援にかかわる現場から噴出している懸念について、何らの対策もとらずに、法制審議会が、共同親権制度導入の結論ありきで突き進むのであれば、多数決ではなく、専門家集団として、慎重に法制度の改正について議論するという、法制審議会の設置意義を没却するといわざるを得ません。
一般社団法人日本乳幼児精神保健学会の声明
全国女性シェルターネットの声明
日本フェミニストカウンセリング学会の緊急声明
私たち実務家は、要綱案に従った法改正が行われた場合には、子どもとその養育親に対する深刻な事態を招くことを強く懸念します。法制度で子どもと同居親に別居親との一定の人間関係を強制することは、子どもの健全な成長を妨げる深刻な危険があるのみならず、別居親にとっても、長期的にみたときにむしろ悪い結果を招きかねません。民法は基本法で、DVや虐待は特別法や支援策でなんとかなるという甘い見込みで議論がなされているように思われてなりません。私たちは、一般論として、可能な場合には、離婚後も父母が協力し合って子育てをしていくこと自体に反対するものではありません。しかし、それは、法で強制してできるものではありませんし、強制すべきものでもありません。
紛争を解決するという法の目的にかんがみたときに、法が適用される離婚紛争の現場で活動する弁護士の懸念を無視し、その疑問に答えないまま、拙速な法改正をすることがないよう、法務省に対し、再度の申し入れをいたします。
2024年1月24日
共同親権の問題について正しく伝えたい弁護士の会
(呼びかけ人)
共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会
太田啓子(神奈川県弁護士会)
岡村晴美(愛知県弁護士会)
斉藤秀樹(神奈川県弁護士会)
赤石あゆ子(群馬弁護士会)
石井眞紀子(東京弁護士会)
伊藤和子(東京弁護士会)
角田由紀子(第二東京弁護士会)
寺町東子(東京弁護士会)
中野麻美(東京弁護士会)
中山純子(埼玉弁護士会)
橋本智子(大阪弁護士会)
長谷川京子(兵庫県弁護士会)
花生耕子(岩手弁護士会)
雪田樹理(大阪弁護士会)
吉田容子(京都弁護士会)
和田谷幸子(兵庫県弁護士会)