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「共同親権の拙速な導入を懸念する」記者会見を行いました(2023.6.15)

 共同親権を正しく伝えたい弁護士の会では、法制審議会家族法部会が、パブリックコメントの結果を無視して、共同親権の導入ありきで議論を重ねていることに危機感をもち、2023年6月15日、司法記者クラブにおいて、標記の件について記者会見を行いました。

朝日新聞
共同親権「導入ありきの議論やめて」 子を危険にさらす 弁護士会見
https://digital.asahi.com/articles/ASR6H67CDR6HOXIE00S.html

東京新聞
「虐待から逃れられなくなる危険がある」…離婚後の「共同親権」 弁護士グループが問題点訴える
https://www.tokyo-np.co.jp/article/256912

 記者会見には、当事者の方にも参加していただきました。弁護士の懸念とともに、貴重な声を広く届けたいと思い、記者会見の様子についてご報告申し上げます。

  *  *  *
 
 私たちは、離婚・DV・虐待などの家事事件を取り扱っている弁護士です。共同親権をめぐる諸問題について、現場からかけ離れた議論がなされていることを危惧し、2021年9月より、「共同親権を正しく伝えたい弁護士の会」として、noteでの発信を続けてきました。https://note.com/kyodo_shinpai 

 今回記者会見をして発信したいことは、以下のとおりです。多くの方に問題意識を有していただけたらと思います。
  
「共同親権の導入の結論ありきで議論を進めないでください。」
1 合意型共同親権においても、DV・虐待ケースが紛れ込む危険性を懸念します。
2 非合意型強制共同親権は、子どもを危険にさらすリスクが高まります。
3 議論の前に、パブリックコメントで集まった意見を公開してください。
4 面会交流が強制されてきたという実情について調査・分析をしてください。
 
 法制審議会家族法制部会において、いわゆる「共同親権」について議論がされています。法務省は、2022年12月6日から2023年2月17日まで、「家族法制の見直しに関する中間試案」に関する意見募集(パブリックコメントの募集)を行い、期間終了後に行われた第23回会議の議事速報によれば、8000件以上の意見が寄せられたにもかかわらず、法務省は、このパブリックコメントを公開せず、5月16日にひらかれた第26回法制審議会では、「父母双方を親権者とすることについて父母が合意することが可能な場面」での共同親権(いわゆる「合意型共同親権」)の導入に向けた議論を開始し、6月6日にひらかれた第27回法制審議会では、父母のどちらかが反対しても、共同親権が適用される、いわゆる非合意型強制共同親権」の案が示されました。

 合意がある場合にも、その合意が積極的で真摯なものであるのか、権力格差により「合意」の名の下に強制されたものにならないのかという議論を始めるということだったのに、「合意がなくても子どものためになる共同親権があるかもしれない」という極めて例外的な場合を想定して、「共同決定」の合意すらできない離婚後の父母に共同決定を命令する議論をするというのです。2011年の民法766条改正以後、面会交流原則実施論と呼ばれる運用により、裁判所が関与するかたちで、事実上、面会交流が強制されてきたことについて見過ごされたまま議論が進められようとしています。

 子ども達を危険にさらすことが懸念される共同親権の導入について、あまりにも早急に議論が進められていることについて、共同親権の導入ありきで、議論が進められていくのではないか、DVや虐待事件を中心に担当してきた弁護士にとって、こうした法務省のやり方に対して危機感が生じています。
(参考報道)東京新聞 
父母の合意なしで共同親権の適用も? 裁判所が判断との新制度案、法務省が初めて提示
https://www.tokyo-np.co.jp/article/255244?fbclid=IwAR2siksQRyNrDST-XkkDjVdpf-pMq8D0ayJQiJMoI_6ezs-RCNJfaAMJu30

 離婚実務の現場の声を世の中に可視化していくために、
   ・合意型共同親権が導入される場合の問題点
   ・非合意型強制共同親権が導入される場合の問題点
   ・裁判所の関与の元で面会交流が強制されてきた事実
について、弁護士からのコメントを集めております。取りまとめ次第、発表しますので、よろしくお願い致します。

<記者会見に参加した当事者の声>

Aさん(子どもとして)
 父と母には「同意」という概念がなかった。子どもである自分も意思を表明するという考えすらなかった。家族は父の言いなりになるしかなかった。共同親権で離婚することを父が望めば、母は従うしかなかったと思う。父から虐待され、母が子どもと逃げることもできなくなると、子どもには逃げ場がない。

Bさん(同居親として)
 DVが原因で離婚した。子どもの面前で身体的DVがあった。最低限の荷物を持って命からがら逃げた。DVとは認めないと裁判所に判断された。過小評価されて傷ついた。慎重に慎重を重ねて議論してほしい。

Cさん(同居親として)
 DVが原因で数年前に離婚。二人の時だけ豹変。首を絞める、怒鳴る罵る。車を荒く運転。料理が気に入らないと言って自傷行為を見せつける。性行為が数日ないと不機嫌に。実家に逃げた。ストーカーのように彼が実家付近をうろつく。誘拐犯だと言われている。弁護士を誹謗中傷。確固たる証拠を提出しても、骨折などをしていないので面会交流除外の対象ではない。年に数回面会交流を命じられている。元夫は共同親権の議員ロビー活動をしている。今後共同親権になったら嫌がらせがあることが目に見えている。どうか背中を押さないでほしい。

<当日までに集まった弁護士の声>
【合意型共同親権が導入される場合の問題点】
・今の協議離婚制度は、「協議」「合意」が前提になっているはずだが、「意に反して」親権者を譲る内容の「協議」離婚届けに署名押印し、提出してしまい、区役所で泣き崩れた。相談員が見止めて弁護士に相談に行き、離婚直後に親権者変更の手続きをとったケースがあった。

・「養育費はいらないからすぐにでも離婚して」と言って協議離婚したから、後から養育費をもらえないと思っている人がとても多いという実態(対等に話し合いができているなら、そんなことは起こらない)。

・海外の事例で、DV加害者と離婚協議中、「50:50の監護割合に同意するなら別居する」と言われてやむを得ず同意。その後裁判所で、出て行ってほしいからやむを得ず合意したことや、子どもの面前でのDVなどについて主張したが、「DVの証拠がない」「一度合意したこと」と認められず、正式に50:50の割合での共同監護が命じられた。子らは一週間ごとに父母の家を行き来したが、別居後も続く嫌がらせで板挟みとなり次第に体調を崩した。DV加害者である父からは「子らの体調変化は母親のせい」と主張され何度も監護権割合を変更する裁判を起こされている。長子はうつ病となり精神科に通っている。

・協議離婚後のトラブルの法律相談は多い。しばしばあるのが、暴力的な夫と離婚するためには、養育費や財産分与など全て放棄しないと離婚に応じてもらえなかった、という例。当事者のみの協議で離婚し、その後トラブルになって弁護士のところにやってくる。非常に偏った、不利益な条件で「協議」離婚させられている当事者はとても多いはず。養育費の合意さえせず協議離婚している事案の相当割合は、子の親権者となった側(多くの場合母親)が、要求したいことを萎縮してできていなかったためにそうなっているはず。
   
・協議離婚が対等な当事者間の公平な合意形成だというのは幻想である。今後、「離婚はしてやらない。どうしても離婚してほしいなら共同親権にしろ」ということになり、なんとか離婚したい一心で共同親権を「選択」し、離婚後も、子の進学や医療等の意思決定にかこつけて生活に介入してくる事例が多発することになるだろう。婚姻期間中の係争が離婚しても終わらないことになり、子の福祉を害する。

・配偶者との間で事実婚を選択し、出生した子については、母である配偶者の単独親権となったため、親権を有さずして、18年間子育てをしてきた。この経験からすると、子育てに親権の存否は関係ないし、不便でもない。子どもにとって必要なのは父母の信頼であると考えるが、信頼を持つということは誰にも強制できない。同性婚や、別姓婚を念頭に置いて、事実婚にも共同親権を導入すべきという考えがあるが、弥縫策であり、それらについても法律上の婚姻として認めるべきである。婚姻の在り方として、事実婚というものを法律的にどこかに位置づけるということに、選択者側のニーズがあるとは思えない。婚姻は多様化しているが、婚姻制度の多様化(例えば法的保護の程度にグラデーションを設けるなど)は、むしろ差別を固定化するのではないか。

【非合意型強制共同親権が導入される場合の問題点】
・何度も「話し合い」を求められる。話し合っても折り合いがつかない(相手は絶対に言い分を曲げない)ため、最終的には、妻側が折れるしかない。話し合いが夜中長時間続く。ずっと責め立てられていると感じる(録音を聞くと、夫が時々大声になりながら滾々としゃべる。妻は黙っている)。別居してもその状況が変わらない。調停で話し合いがつかず、審判に移行しても、「十分に話し合ってない」と言われる。

・「話し合い」のために、「報告」が求められる。別居親の求めるクオリティに達しないと、何度でもやり直しを命じられる。おびただしい数の質問がされ、回答に対する揚げ足取りが行われることが予想されるため、慎重に回答することになる。学校や病院に対するアクセス権を主張され、長々と話し込むだろう。無碍に扱えばクレーマーとなりかねず、迷惑をかけるであろうことも苦痛である。

・子どもに対する思い込みが強いケース。「子どもはこうあるべき」と思い込みが強く、同居中から子どもに対する暴力が絶えなかった。離婚調停の中でも、自らの養育方針に疑いを持っておらず、子どもが嫌がっているから直接連絡をしないでと繰り返しお願いしても、手紙を送ってきたり、他の親族を通じてプレゼントや手紙を渡してきていた。学校に様子を見に来るなども見られた。

・妻が子どもとDV逃避して施設入所しているにもかかわらず、調査嘱託等で執拗に居場所を探そうとしているケース。「妻が離婚したいはずがない」「弁護士がさせている」「直接話せばわかるはず」「帰ってきてほしい」を繰り返す。妻子の状況を尊重する様子が見られないため、共同親権になると間違いなく居場所を突き止められ、更なる逃避が必要となってしまう。

・離婚訴訟の尋問で、離婚したくない理由について、子どもを特定の大学に入れたいからだと述べた父親。なんとか離婚できた後も、子どもの進学について色々と自分の希望を押しつけたがり、既に中高生の子どもにも嫌がられても理解しようとしない。面会後に、「○○大学なんて受験することは認めない」などと連絡してくるので子どもも嫌になり、会いたがらないが、それについては子どもの意思ではなく同居親による面会妨害だといってクレームしてくる。

・妻の意に反する性行為を繰り返されていた性的DV事案。妻は、性行為を断ると夫が不機嫌になるのが怖くて、したくなくても応じ続けていたが、それによって心身の不調をきたすようになってしまった。 しかし夫はそれを認めず、妻の体調不良について自分が原因ではない、妻を愛しているから、妻の心の病気を治してあげられるのは自分だけであるというように強い信念を抱き、離婚は強く拒否。妻は訴訟の尋問の場で泣き崩れたが、夫はそれでも理解せず裁判離婚。 面会の際、ルールをもうけてもそのルールに反し、子どもの所持品に妻宛の手紙を入れるなど、一方的な感情の押しつけが続き、妻が到底夫とやりとりをできる状態ではない。それでも子に対する明確な虐待などあるわけでもなく、子は、面会にいったほうが同居親が困らないならそうする、という態度で、淡々と面会を続けている。このような関係性で、進学や医療について父母が協議して共同意思決定をするというのは到底無理。

・非常勤裁判官として採用され、家事調停官として家庭裁判所で勤務し、 離婚事件を中心とした家事調停事件について取り扱った経験を有する。自分の経験上、離婚調停における親権と監護権の分属はほとんど採用されなかった。当事者が希望しても、離婚後のトラブルを誘発する元であることから、 調停委員会として説得して再検討させるようにしていた。共同親権には、分属と同じ懸念があり、当事者に合意があったとしても、本当にそれでよいのかを確認する必要がある。合意のない父母に分属を命じることがない以上、合意のない父母に共同親権を命じると言うことはあり得ないだろう。

・面会交流に関してはサポート団体があるが、それも当事者の合意がないと利用できない。共同決定のサポートは、弁護士が関与せざるを得ないだろうが、その費用を当事者が負担することは、多くの場合がシングルマザーということになるだろうから、経済的に困難を強いるだろう。また、共同決定のサポートは、弱い立場の人々を説得する方が楽であるため、経営のために効率性が要求される民間団体(ADR)が担当するべきではない。

【裁判所の関与の元で面会交流が強制されてきた事実】
・子どもは面会交流に対して消極的な意向を示していたが、別居親が強く面会交流を求め、調停委員からも、調査官からも、子どもが嫌がるのも最初だけで、そのうちに慣れると言われ、応じないと、離婚裁判を余儀なくされるため、妥協して、月に1回程度の面会交流に合意した。面会の日が近づくと、嫌がる子どもを連れて行くのに苦労した。なだめたり、励ましたり、時には叱ることもあった。そのうち、面会の日に、お腹が痛くなったり、嘔吐するようになった。「調子が悪い」と言っても信じてもらえないので、診断書をとらざるをえなかった。

・月に1回の面会交流だったはずが、強引にねじこまれ、月に2回になった。月に2回やれると、毎週もできるだろうと言われた。そうなることは予想できたが、調停でそのことを話しでも、「大丈夫だと思いますよ」と言われた。DVやモラハラの加害者は外面がよいということを理解して欲しかった。

・夫からのDVで骨折したことがあるが、調査官から、子どもに対する暴力はなかったと言われ、面会交流を拒むことはできなかった。

・性的なマルトリートメントがある事案だったが、父が反省していたので、裁判所からは、面会交流は拒めないという説明をうけた。1年後、深刻な性虐待が起こった。母親は、調停において、「面会交流から子どもが帰ってきたときに、なにがあったのか、根掘り葉掘り聞いてはいけない」と言われており、面会交流で何をしたかという話がタブーになってしまっていたため発見がおくれた。

・子どもが面会交流に拒否的であるが、その理由については要領を得なかったため、裁判所から説得されるかたちで、試行的面会交流をすることになった。ところが、それが決まると、子どもが夜驚や夜尿をするようになった。病院で診察を受けたところ、同居中に深刻な性虐待を受けていたことが発覚した。裁判所に言われるまま、試行的面会交流をしていたら、子どもにとって深刻な二次被害を生じていただろうと思う。

・面会交流を拒むと、裁判所から、監護者や親権者の変更をほのめかされるため、依頼者には、「DVや虐待の明確な証拠がないと面会交流は拒めないと思って下さい」と説明していた。面会交流に関しては、司法による「強制」が行われていたと思う。

【法制審議会に対する懸念】
・せっかく法制審で現場の声を届けてくれている人もいるのに、議員の圧に押されている感じが否めず、非常に残念。

・片方が共同親権に反対しているのに裁判所が共同親権を命じることができるということの暴力性と非現実性は、離婚事案当事者女性が最もよく知っている。ただし、シングルマザーは、世論に訴え、政治家にロビイングする時間的余裕、精神的余裕、経済的余裕が全くない。共同親権を強く求める親(多くは父親)が政治家への人脈、時間的余裕、経済的余裕に裏付けられて活発なロビイングや運動を展開しているのとまったく非対称であるということ自体の認識をもっと強くもってほしい。

・共同親権に危機感を抱く当事者の声がなかなか法制審議会の全メンバーに理解されていないことにもどかしさがある。

・パブリックコメントのうち、共同親権を求めている意見の大半が、「片親疎外」を訴えているのではないかと思われる。国連の特別報告者が、えせ科学であり、被害者をおいつめるものだと指摘しており、「片親疎外」と一体・両輪となった意見について取り上げることは子どもを危険にさらすだろう。とりまとめの際に、意見を論点ごとに細分化すると、そうした危険を見過ごすことになるため、慎重な分析が必要である。

・離婚事案を多く扱う弁護士の声をもっとよく聞いてほしい。理論、理念だけで、「共同親権」が素晴らしいものであるかのように語られることに非常に違和感がある。

・「共同親権にすること」の合意さえできなかった当事者が、共同親権を命じられた後、スムーズに合意形成できるはずがない。色々なトラブルが予想されるが、そのようなトラブルの対応にあたるのは弁護士であって、家族法研究者ではない。紛争の現場の声を法制審議会はもっとよく聞いてほしい。 
                                  以上



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