見出し画像

離別後のパートナーに対する嫌がらせーリーガルハラスメント、その実態

 イギリスのDV法改正では、多数の新しい修正案が提示され、被害者の保護を強化し、加害者をさらに厳しく制限することをめざしているとのこと。リーガルハラスメント禁止令が追加されるという話もあるようです。
https://www.gov.uk/government/news/new-laws-to-protect-victims-added-to-domestic-abuse-bill


 日本でも導入されて欲しい非常に関心が高い改正です。リーガルハラスメントは、司法手続きを使った嫌がらせです。離婚や別居の後に、(元)パートナーに対する嫌がらせとして起こります。日本でも、数年前から特徴的に生じている現象で、家裁の事件の多い弁護士で、その凶悪性を知らない人はいないと思います。

 該当部分を抜粋すると、 clarify the use of ‘barring orders’ in the family courts to prevent abusive ex-partners from repeatedly dragging their victims back to court – which can be used as a form of continuing domestic abuse.
 和訳は、「家庭裁判所における禁止命令の使用を明確にして、虐待的な元パートナーが(家庭内暴力を継続する方法として)被害者を繰り返し法廷に引きずり戻すことを防ぎます」ということになるでしょうか。

 離婚事件のうちでも、DVやモラハラが存在するケースでは、加害当事者から被害当事者への嫌がらせが、別居後・離婚後も続きます。憲法上の基本的人権に基づく権利行使として、加害者は独善的な「正義」を振りかざし、何度も被害者を法的紛争に引きずり込みますが、被害者にとっては精神的にも経済的にも苦痛です。

 これが、リーガルハラスメントと呼ばれる問題です。私は、個人的な関心から、いわゆる「弁護団事件」のような位置づけで、別の弁護士が代理人を継続することが困難になった事件を実費+αで引き受けてきました。そうすると、どういうことが起こったと思いますか?

・弁護士会へ苦情を言われる
・繰り返し懲戒請求される
・繰り返し民事裁判を提起される
・ネット上に悪口や情報収集したいなど書き込まれる
・質問と称した、おびただしい架電を受ける
・裁判にお仲間の傍聴人が押し掛ける
・調停が演説の場と化す

 これらの嫌がらせは、辞任するまで続きますが、辞任したら思うつぼです。皆がやりたがらない事件を受けて、懲戒請求や民事裁判は誰からも報酬が出ないのに、むしろ自分が被告となった事件に代理人をつければ、その費用は自分持ちなのに、そういうことをしてくる人たちの主張によれば、私は「連れ去り指南」「面会妨害」の「ビジネス離婚弁護士」だそうです。
 家裁の事件が多いのに、リーガルハラスメントの問題を知らない弁護士がいるのだとしたら、安全な事件しか受けていないだけ。ビジネス目的で離婚事件を受けていれば、そうなるのも分かるのですが、その人たちがそのような誹りを受けることはありません。「ビジネス離婚弁護士」という言葉を使う人の多くは、離婚後共同親権を主張する人と重なっており、そういう相手とたたかってる弁護士に対して投げつけられる言葉です。
 また、離婚後共同親権主張をする依頼者にあたってしまったことでメンタルを削られる弁護士は少なくないけど、そうした弁護士がこの問題について発信することはありません。関わりたくないのです。

 以上は、弁護士に対する嫌がらせですが、依頼者に対するものとしては、もっとカジュアルに行われています。子の監護に関する調停や審判が何度も何度も繰り返され、刑事告訴をされたり、児童相談所に虐待通告されたり、実家の親に対する損害賠償請求が起こるケースもありました。

 リーガルハラスメントには、同時期に複数の事件を量産する横展開と、面会交流の拡充を求めて次から次へ申立てがエンドレスな縦展開があり、依頼者は精神的にも経済的にもおいつめられます。そして、もう一つ、深刻なことは、その書面の凶悪性です。

 法的手続の獲得目標とは脈絡なく、同居親に対する誹謗中傷、もしくは元妻を「洗脳した」代理人弁護士に対する誹謗中傷が書かれます。

 「誘拐犯」「警察も虚偽DVだと言って呆れていた」「子どもを虐待している」「何度も児相通告されている」「精神病」「働きもせず社会の役にも立っていない」「皆から嫌われている」「支配的」「子どもが面会を拒むのは忠誠葛藤」「家事が苦手」「ゴミ屋敷」「強欲」「男がいる」「感謝がない」等々。

 縦展開の場合、子どもに会えていても、面会交流は元妻を誹謗中傷するための証拠を取ることが目的となります。子どもに対して、根掘り葉掘り質問してあらを探し、写真・動画撮影に明け暮れます。子どもが楽しそうにすれば、「ほら見たことか」「子どもがこんなに喜んでいるんだからDVがあったはずがない」という写真や動画を提出して、面会交流のさらなる拡大を目指します。
 成長した子どもが、面会交流に拒否的になると、「片親疎外」「挨拶もできない」「躾がなってない」となじる。それはすべて同居親のせいだと言われます。
 子どもが、どちらの親にも良い顔をしてしまい、板挟みになるケースもあります。子どもにとっては、どちらの気持ちも本当であり、嘘であり、気持ちは時期によっても異なるし、多くの場合重層的です。

 そして、横展開の場合、地裁で損害賠償請求が起こることもありますが、パートナーの実家の両親が被告となる場合すらあります。意味不明な求釈明や証人申請の嵐。それを言ってどうなるか?どうもなりませんよ。こちらも答える必要のないものに答えなくてもよいし、証人申請も採用されません。しかし、応訴せざるを得ないし、逃げられない。電話やメール、訪問は拒めても、裁判は拒めません。悪意ある悪口に晒されて、認否・反論をしないといけない。そのせいで精神症状を悪化させれば、「いつまでたっても働けない」「多額の弁護士費用がかかっているはずだ」「親権者として不適切」。

 質だけじゃない。量も多い。ほとんど意味のない主張です。でも読まないといけない。認否の必要がないという認否をするにも、読まないわけにはいかないです。裁判に負けたら負けたで、裁判官の実名を晒して忌避の呼びかけ、酷い時は訴追請求。そして思うようにならないのは、単独親権制度のせいである・・・。人権を護るための法的手続きが、私の依頼者の人権を傷つけていることに、弁護士として大きな失望を感じています。DV加害者が、「共同親権」というものにすがり、その考えを利用し、リーガルハラスメントを繰り返しています。彼らは、勝たなくてもいいのです。SNSで、司法がおかしいと発信すれば良いのですから・・・。

(kana)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?