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-暴力のない明日のために- 正しく知ってください離婚後の共同親権 その3

(面会交流について)
 離婚後の子どもと別居親との関わりについて、平成24年に、細矢郁裁判官らの 「面会交流が争点となる調停事件の実情及び心理の在り方一民法766条の改正を踏まえて-」という論文 (家裁月報64巻7号1頁)が発表されました。
 同論文が発表されたのを機に、家庭裁判所の実務において、 別居親が面会交流を申し立てた場合には、面会交流を禁止するべき特別の事情がない限り、 直接の面会交流を実施すべきという方針がとられるようになりました。「面会交流原則実施論」と呼ばれる運用です。
 上記の論文においては、別居親による虐待のおそれ、別居親の同居親に対する暴力、子の拒絶等などの禁止・制限すべき事由がある場合や、面会交流の実施がかえって子の福祉を害するといえる特段の事情がある場合は除外できるとされていました。
 しかし、実際には、面会交流はできるものならした方がよいという「理念」のもと、面会交流の実施を前提とし以下のような調停運営がなされるようになりました。

(虐待のおそれの軽視)
 「どんな親でも親は親だから」 「虐待をされてきたからこそ、面会交流を通じて親子関係を修復した方が 子どもにとって幸せではないか」などという言葉で、別居親が子どもに対し虐待を行っていたような場合でも、面会交流に応じるよう説得がなされています。

(DVの軽視)
 「夫婦の問題と親子は別」「過去のことよりこれからのことを考えましょう」「相手を刺激しない方がいい」などの言葉で、同居中の暴力について主張すらさせてもらえない、主張したところで論点として取り上げられません。

(子の拒絶の軽視)
 小学生以下の年齢の子どもたちの 「拒絶」は、軽視されました。子どもが、別居親との面会交流に拒否的な意見を言った場合、「どうして?」 「楽しいときもあったんじゃないかな?」 「お父さん(お母さん)、会いたがっていたよ」 「短い時間ならどうかな」「どういうふうだったら会えるかな?」などと、面会交流に応じざるを得なくなるような誘導的な質問がなされています。

(面会交流原則実施論の弊害)
 「離婚しても親は親」、「両親に愛されることが子どもの健全な発育に寄与する」、といった美名のもと、面会交流は原則実施という調停運営がなされてきましたが、その理念とは裏腹に、実際には、離婚したあともDVや虐待による支配が継続されてしまうことが、問題になっています。

 例えば・・・
 2017年、長崎県で、面会交流中に子どもを元夫宅に連れて行った元妻が殺害され、兵庫県では、面会中の娘が殺害された事件が発生
 威圧的な別居親が、面会交流の拡充を求めて、同居親を繰り返し法的手続きに引っ張り込むリーガルハラスメント
 危険をともなう無理な取り決めを守ることができず、同居親が高額な間接強制金(1回につき10万円を超えることも)を支払わされている
 意思に反して、面会交流を強制されてきた子どもたちの面会交流の中止等を求める申立の増加

 現在の家庭裁判所の面会交流の運営が、本来のあるべき姿から乖離し、DV被害者や子どもの意思が尊重されない、という状態となっていることについて、私たちは警鐘を鳴らさずにはいられません。このような状態で、さらに、共同親権制度が導入された場合、DV加害者が、別れた家族に対する支配の継続のために制度を利用し、被害者がさらに追いつめられることは容易に推測できます。

面会交流原則実施論となってから10年ほどしか経っておらず、子どもたちの調査は何一つされていません。 DV被害者や子どもたちは、離婚後も紛争にさらされており、公に意見を届けることが困難な方々が多く、 別居親とは、権力に格差があり、発信力という点においても非対称的ということも、知ってください。

(海外ではどう考えられているの?)
 英国、オーストラリア、カナダなど、これまで離婚後の共同養育を推し進めてきた国々は、今、同居親と子どもの安全を第一に考える方向で、法制度を転換しはじめています。日本は、周回遅れのトップランナー。離婚後共同親権の導入には、慎重な議論を求めます。

共同親権を正しく知ってもらいたい弁護士の会
Emailはこちら kyodoshinken.shinpai.bengoshi@gmail.com

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