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評㊺花村想太の声『ジャージー・ボーイズ』@日生劇場、S席割引

 今まで全く興味のなかった、存在すらよくわかっていなかった花村想太(32)の声、その音域の広さ(4オクターブ出るらしい)に、まさに文字通り「魅了」された。その声を潰してしまわないよう、祈るまでに。

 ※以下、ミュージカルその他にずぶの素人の文章。無知の数々お許しを。
  単に、知人に誘われ、中身も出演者もろくに知らずに、「たまには日生でミュージカルもいいか」と出かけた公演。

「フォー・シーズンズ」の出会いや別れ、成功あるいは闇

 ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』(チームGREEN)@日生劇場(日比谷)、S席13000円を「割引料金」で観る。A席9500円、B席4500円。10/6~10/29(10/6、7はプレビュー公演)。2022年全国ツアー後、最終公演は横須賀(12/10、12/11)。
 演出:藤田俊太郎、脚本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス、音楽:ボブ・コーディオ、詞:ボブ・クルー。

 (※後から検索)いずれも米国ニュージャージー州出身で、1960年代に活躍したブルー・アイド・ソウル(白人が演奏した黒人音楽)のロックンロールグループ「フォー・シーズンズ」の出会いや別れ、成功あるいは闇までを描いた物語。「シェリー」他ヒット曲多数。ソロ「君の瞳に恋してる」を出しているリードボーカルのフランキー・ヴァリの声は「ポップ史上最も高い男性ファルセット」(Wiki)。作曲や後にプロデュースを担当したボブ・コーディオとヴァリが中心的存在で、他のメンバーは入れ替わった。

日本語版は2016年、フランキー役を中川晃教でスタート

 本場米国ブロードウェイで2005年初演。舞台作品に贈られるトニー賞最優秀ミュージカル賞、音楽のグラミー賞を受賞。映画化もされた。
 日本では2016年初演(シアタークリエ)。フランキー役を中川晃教(39)が務めた。第24回読売演劇大賞で、ミュージカルとして初めて最優秀作品賞に。併せて中川が最優秀男優賞、(今回と同じ)演出の藤田俊太郎優秀演出家賞を受賞。2018年再演。2020年帝劇公演予定はコロナ禍中止、今回へ。
 今回、日本語版では、フランキー役の2人目を花村が担当。フォー・シーズンズの4人はWキャストで、以下4種の組み合わせ(ややこしい)。
 ・チームBLACK(中川、藤岡正明、東啓介、spi)
 ☆チームGREEN(花村、尾上右近、有澤樟太郎、大山真志)※今回観た
 ・中川GREEN
(尾上、有澤、大山)
 ・花村BLACK
(藤岡、東、spi)

超無知な自分に、突然、花村想太

 普段の観劇傾向は正統派(?)「ザ・演劇」が中心で、商業ベースバリバリのショービジネス的な方にはあまり足を運ばない、選ばない。その実情も知らない。中川晃教も井上芳雄(43)も生で聴いたことはない(……)。実のところジャージー・ボーイズも知らなかった(……)。更なる無知を白状すると、実のところ、フォー・シーズンズの曲は耳憶えあるが、メンバーの名前や曲名など全然合致してなかった(……)。洋楽はよくわからん(言い訳)。

 そこに、突然、花村想太。
 うわぁ。
 文字通り、文字では表しようがない。
 女性の声を上回る高音、伸び、声量、歌う曲の多さ、そして勿論演技も。
 

 自分はもちろん素人だが、以前「大人の声楽教室」に通い、いわゆる「ハ(⤴)ッハッハ(⤴)ッハッハ(⤴)ー」の、眉間を広げて音を集める的な発声練習に苦しんだ覚えがある。できないながらもファルセットに挑戦し、この発声だと喉を潰すのではないか、みたいなところはウロウロした。加齢による声帯の劣化も近年感じる(カラオケだがww)。

 宝塚は一度観たきりで、特に男役トップが一部の芝居&歌をこなし、さらに二部で歌声を披露するオーラと体力に感嘆したが、発声は違う。あの発声は全身を使っているが、喉への負担を抑えた、ロングラン公演を日々継続することに適した発声と思える(間違っていたら申し訳ない)。

 しかし、花村の発声は、素人には説明しがたいが、喉を可能な限り生かさずに表現できない発声だ。勿論、使い過ぎて潰さないように訓練し、加減していると思うが、花村の声に震えて感動するたびに、その声に出会えた僥倖に感謝すると同時に、その声を潰してしまわないよう、ハラハラし、祈った。
 長く、その声を、多くの観客に響かせてほしい。
 

花村は「Da-iCE」(エイベックス)のボーカル

 後から検索すると、花村想太は5人組ダンス &ボーカルグループ「Da-iCE」(エイベックス)のボーカル。「Da-iCE」は聞き覚えがあると思ったら(今時の音楽シーンは良く知らない、国内でも)、「CITRUS」という曲で昨年2021年の第61回日本レコード大賞を受賞。ネット上に「知らない」という声が出たという記事が出ている。自分もその時に映像で聴いた。誰かが高音から入っている記憶はある。ただ、申し訳ないが、ああ、エイベックス推しなんだね、と思ったグループだ。
 「CITRUS」をネットで聴き直しても、確かに花村の高音を生かした曲ではあるが、あくまでアイドル的な、商業的な楽曲の中の高音に思え、それほど心に刺さらない。

 全身で発するミュージカルの歌声は、全く異次元だった。そりゃ、マイクとか、劇場の音響効果はあるけれど。

ショーマンシップ、中川のコメント動画

 さて、実舞台で観られない中川の方を、公演サイトのPR用コメント動画で見る。花村の動画は素直に淡々と話す感じに受け止められるのに比べると、中川はなんというか、話し方、たたずまいが、座長であり、スターだ。
 例えば、以前に舞台で観た石丸勘二(57)のように、お客さんへのショーマンシップがあふれている、動画なんだが。

 日本語版において、中川以外の3人はWキャストでやってきたが、フランキーは中川の単独配役が続いた。そこに今回初、フランキー役で登場した花村。
 中川は花村について「日本人キャストの中で、二人目のフランキー・ヴァリに選ばれた花村くんだからこそ、新しい風をこの作品に運んでくれるだろうと、期待も込めて、僕は僕なりに、またできることを一所懸命やっていきたいなと思わせてくれています」。「僕は僕なりに」のところに、何らかの思いを感じるのは自由。 

三階建て、頻繁にくるくる回る舞台

 舞台装置だが、三階建てで、それだけで上演前からわくわく感(単純)。やはり、大きな舞台は空間を縦横に使ってもらうと、お得感がある。
 上手と下手に大小のスクリーン画面が多数、縦横に置かれている。このスクリーンは、開演前は客席を映し、始まるといろんな場面が次々に大映しされた。このスクリーンの横にさらに大道具としての画面が複数出てくることもあった(舞台中央だけをプレイゾーンとする)。舞台三階部分にある大きな横長の鏡と合わせ、一階席だけでなく、中二階、二階席の客にも全体がよく見えるよう工夫されていたようだ。
 また、舞台中央は回転舞台になっており、一階から二階への階段と手すりと背面の壁を合わせて一挙にぐるぐる回る作り。ショー舞台の裏と表をアッという前にひっくり返す細工。回る最中に、その動く柱の間をかいくぐり、ぶつけもせずに大道具を運び出す姿に感動した。

心に残った台詞は「自分がリンゴ・スター」

 とはいえ、「フォー・シーズンズ」が、さらにその人間的マイナスも含めた書いた脚本が素晴らしいことが、基にある。

 花村想太の声に感動し、舞台装置に感心した。
 しかし、心に残った台詞は、4人組のひとりで途中で仲間から離れたニック・マッシ(私が観たのは大山)が去り際に言った(うろ覚えだが)「なぜ、フォー・シーズンズを止めたかって? 口に出てしまったし、家に帰りたかったんだ……自分が、(ビートルズの)リンゴ・スター、なんてね」。
 嗚呼。

 フランキー・ヴァリ、ボブ・コーディオは天才。トミー・デヴィートは、過去に窃盗などを起こしたり、借金まみれになったりのどうしようもないチンピラだが、フランキーを発見し、グループを作った。
 ニックは悪でもあり途中からフランキーを育て、トミーの面倒も見たが、ずーっと4人目の男。
 おそらくは、客が一番感情移入しやすいのが、ニックだ。この4人の中では相対的に平凡な男の苦悩。

 脚本の秀逸な点の一つだと思う。

いいね、「異」

 なお、この日はアフタートークがあり、MCは加藤潤一(37)。この人のボブ・クルー(グループ育ての親)は舞台回し的な役割で要所要所を締めた。
 さて、トークで、演出の藤田は、トミー役を演じた尾上右近に「歌舞伎俳優の右近君くんは異国人と思っていた。それがいい意味で生かされた」と言った。
 いいね。「異」。
 「異」が入ることでいろんなことが壊れてまた生まれて、そんな一瞬を発見するのが、舞台の醍醐味なんだと思う。とりあえず強引にまとめた。 


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