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レモンサワーの愛


こんにちは。
きょーこです。

noteを覗いてくださりありがとうございます。

最近は地に足をつけ
日々ゆったり丁寧に過ごしています。

しかしながら、かつては
華の客室乗務員として世界を飛び回り

数え切れないほどの男たちと杯を交わして
毎日刺激を探すように生きておりました。

振り返ると・・

めまぐるしい、スピード感。
神経がビリビリ震えるような出会い。

たくさん恋をして愛をして、
実は、今日までに3度、
結婚について真剣に向き合いました。

3人の男たちを通して未来を見たときに
誤魔化せなかったこと。

いろいろありすぎたわけです。笑

職業を武器に
人と出会いまくり、恋しまくり、・・・しまくり。

そんな私のここだけの、2人目の男の話。





今振り返っても狂った数年間だった。

「客室乗務員です」といえばとにかく声がかかる。

18:00からの合コンに行き、
21:00からの飲み会に顔を出して、
9cmのヒールで走って終電に飛び乗る。

ときどき、終電をなくして朝までお酒と過ごす。

日系客室乗務員だけでも1.5万人以上いるというのに
なぜか珍しがられ、重宝された。

いまだに

「どうすればCAと出会えますか?」

なんて質問が何件も届く。

毎日腐るほどのCAを目にしていた私からすると
そのへんに転がってますよ?と言いたくなるのだが、
これにはれっきとした理由がある。

それはCAたちの行動範囲が狭いためである。

世界や日本を行き来する職業と聞くと
顔が広いイメージがなんとなくしてしまうけれど

実際は逆で、職場は実質機内という限られた空間だし、

毎日「初めまして」のクルーと仕事をするので
人との縁も薄いまま。


心のどこかで

「この素晴らしい人と次に仕事ができるのは
いつなんだろう」

なんて寂しくなることもある。
まぁ、逆の意味の方が多かったが。


また、顔見知りや仲良しの同僚がいても
一緒に仕事をするわけではないため

達成感を共有できる存在や
成長を見守ってくれる存在が非常に少ない。


そんな日々を送っていると
無意識にストレス、つまり未発散のものが溜まり

プライベートで「生きている実感」を探すことになる。

私の経験だと、同じようなケースに陥っている人はかなり多く
必死に生々しい感情探しの旅に出ている、
といったところ。

ざっくりまとめると、
うまくガス抜きできないといいサービスもできないし、
心が苦しくなってくる仕事、それがCAだった。





そのあと、ガス抜き方は人それぞれで

趣味、美容、筋トレ、合コン、ワンナイト、不倫、、
などなど。

私の場合は酒と男だった。

本能のままに酒を飲み、
本能のままに好きな男と夜を食す。

例えるなら、日頃つけられた傷がかさぶたになり、
ぺりりときれいに剥がれていく。


治療のような一連の行為でもあった。
完治すれば、また空を飛ぶ。


当時付き合っていた彼のことは好きだったけれど
向こうも忙しくてなかなか会えなかったので
付き合いたての時期からベタベタとはほど遠い、
さっぱりとした関係。

そう、レモンサワーみたいな。

数ヶ月ぶりに会うというのに、
LINEの通知をオフするのは絶対に忘れない習慣になるくらい
私には余裕があった。


ただ、好き勝手過ごしながらも心の奥では
「女はいつか結婚するもの」と思っていたので
「(彼は)どうするつもりなのか」とときどき思いながら

会えば会えなかった分を埋めるように濃厚な夜を過ごす。


ある朝
彼のTシャツを一枚だけ羽織りキッチンに立っているとむくりと起きた彼が後ろから覆うように抱きしめてくる。

寝起きだからか、いつもよりあたたかくて、少し、どっしりと重い。


顔も見ずに言った「おはよう」の返事は

「ずっとここにいていいよ」だった。



長い沈黙になったと思う。


頭の動きはぴたりと止まり
鳥の声とか、子どもの声とか、

普段気にならない音に助けられているように感じたから
おはようのキスで誤魔化した。


本人はたぶん気づいていないのだが
彼の口内は24時間無臭なので
いつでも気兼ねなく舌をねじこめる。


目が合った瞬間、
太ももに熱くて硬いモノに今気づいたフリをして
ふふっと笑ってそのまま、シた。


言葉も交わさず
上と下の体液がどちらのものがわからないくらいに混ぜ合ったころ
気がつけばベッドルームで彼は小さな寝息を立て、再び眠りについていた。

これはチャンスとささっとシャワーを浴び、
慌てて服を着る。


玄関への一歩を踏み出したとき
なんとなく、「これで最後」
そんな直感がぴんと働く。



音を立てないように、起こさないように
彼のそばへ寄る。


汗で湿った前髪をそっとあげ、
見えたおでこにキスをしたあと、家を出た。


「ずっとここにいていいよ」



彼の、低い声がこだまする。
あれはどういう意味だったんだろう。

その後、彼の近くへのフライトがめっきり減り
しばらく疎遠になってしまった。

私はいつもそう。
心が離れると距離も離れていく。
それも、自然に、じわじわと。


結果的に、彼と会ったのはそれが最後になった。



本当は気づいていた。


私の母にまた会いに行きたいと言ってくれたこと。


いつの間にか
車庫付きファミリーマンションを購入していたこと。


デパートに行ったとき
どこのブランドが好きか聞いてきたこと。


あるときから
〝俺〟よりも〝俺たち〟が増えていった彼。

ほんとうは全部わかってた。

プライドが高くて、あまのじゃくで、
やりたくないことはやらない素直なあの人から私は逃げ出した。


かわいい女を装って

「ありがとう」「嬉しい」「とても幸せ」

そう言うのが正解だってことくらい、よくわかっている。



あの頃は仕事もちょうど楽しかったし
行きたい国もまだまだあった。

「青い色」は69色も存在する。
どれも美しく、きれいな「青」。

たとえば感情の「好き」が69種類あるとしたら
どの「好き」が一番のお気に入りなのかわからない。

仕事、プライベート、人間関係。

たくさんの「好き」に囲まれることは一見幸せに見えるかもしれないが
時間が有限であるように、誰にでもキャパシティーがある。


すべてを横並びにしたとき
彼との未来を選ぶには“ガス必須”の今の生活を捨てなければ。
そんなことは明らかだった。


今の刺激的な生活をとった私は
タバコをやめられないヘビースモーカーと一緒だ。






「そういえば、結婚したわ」

正直言うと、驚いた。

別れを告げてからちょうど一年、
彼は6歳上の女性と籍を入れていた。


年上の女につかまっちゃってさ、と
ふざけたスタンプと一緒に送ってきたが
幸せそうにやっているのがよくわかった。

男性が心からの幸せを感じられる、王道のパターンはこれだ。


出会った初期は追いかけて、
安定したらドヤお顔で愛されているアピールをする。

愛されているかと思いきや、
実は自分のほうが愛しちゃってるわけ。

しかも、本人は気づいていない、というのが一番いい。

底なしの体力があっても
ずっと追いかけることは不可能だから。



きっとドライな関係が心地よかったのは私だけ。


彼は心の奥では愛し、愛される甘い毎日を求めていたから
自ら最適な女性を選べたのだ。


きっと彼は
私が結婚よりも仕事を選んだと思っているし、それでいい。


10年以上の付き合いだったから
角を作らずに済んでほっとしている。


大の甘党だった彼はいつもカルーアミルク。


でもたまにかっこつけて飲んでいたレモンサワー。

「これくらいならイケるぜ」

と得意げにオーダーして
いつも飲みきれずに私が飲んでいた。



甘酸っぱい彼との数年間。
彼はもうレモンサワーを飲むことはないだろう。






※実話を元にしたフィクション、かもしれません。

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