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散歩する侵略者

U-NEXT で映画版「散歩する侵略者」を観ました。
黒沢清監督。

素晴らしかったです。
とても面白かった。

なんとなく「ウルトラセブン」のメトロン星人の話……例の、モロボシ・ダンとメトロン星人が卓袱台ちゃぶだいを挟んで会話するシーンを思い出しました。

宇宙人の侵略(非日常)と、日常の小さな出来事が隣接している感じが気持ちよかったです。
1950年代~60年代あたりのアメリカの短編SF小説とか、「トワイライトゾーン」をはじめとする1話完結型のSFテレビドラマとか、日本で言えば星新一とか、それこそ初期ウルトラ・シリーズなんかに通じるテイストを感じました。
藤子不二雄が言うところの「少し不思議」でしょうか。

リアリズムの延長線上にあるハードSFというより、ダークな現代の御伽話おとぎばなしといった感じです。

宇宙からの侵略者ものというと、1950年代アメリカで作られたB級映画を連想しますが、それとはだいぶ違うように思います。
50年代B級映画の異星人は、モンスターに近い感じで演出されます。
一方、この映画における異星人にモンスター感は全く無い。

派手々々はではでしい特撮とかCG合成に頼っていない普通の描写が、逆にSF的な不気味さを増幅させています。
さすが黒沢清監督です。

以下、ネタバレ感想を少しだけ話しましょう。

(少し、間を空ける)

役者陣が、皆さん素晴らしかったです。

中でも、長澤まさみが素晴らしかった。
自分勝手な夫に振り回されて、ずーっとイライラさせられている演技が素晴らしかったです。
好きだからこそイライラさせられる、好きだからこそ、ちゃんとして欲しいっていう女の心情を、見事に表現していました。

妻の「愛」を夫(異星人)が奪う事で、夫は妻を愛するようになり、代わりに妻は夫への愛を失うというオチは、わりと早々に予想できました。
それでもラストに感動できたのは、やはり長澤まさみによる夫への愛の演技、その積み重ねが素晴らしかったからでしょう。

それと、長谷川博己が演じたフリー・ジャーナリストも良かったです。
自称「社会派」で、どこか反体制的で、やさぐれているように見えて、実は良識的な一面も持ち合わせている。
特ダネ・スクープのために異星人の侵略に加担しつつも、彼らが警官を殺せば「なにやってるんだ!」と怒る。
その彼が、最終的には異星人の地球侵略・人類滅亡のボタンを押す。
そこに至るまでの心境の変化の理由付けは、描写されません。

「最初はAという性格の持ち主だった、それがBという出来事を経て、Cという性格に変わった」

っていう、近ごろのドラマ作りに有りがちな悪い意味での「理屈っぽさ」「説明っぽさ」をバッサリと捨てています。
それなのに、インチキ・ジャーナリストが最終的に人類滅亡の引き金を引くという飛躍に、見事な説得力が有ります。

長澤まさみにしろ長谷川博己にしろ、人間の役です。
今さらですが、この物語の主役は人間(個人)なんだな、と気づきました。

異星人のがわ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里も良かったです。
とくに高校生カップルのクソガキ・ムーブが最高でした。

ジャーナリストと男子高校生(異星人)が初めて出会う場面で、ワゴン車の反対側に回り込むと、日陰の中に高校生がヌッと立っていて、そこだけ暗いという不気味なシーンがあります。
単なるクソガキが、異星人に変わる瞬間です。(といっても、外見は男子高校生のままです)
なんとなく諸星大二郎を思い出しました。
諸星の漫画も、ときどき登場人物を日陰に置きます。

エピローグに出てくる小泉今日子演じる女医のセリフに関しては、ちょっと説明っぽ過ぎると思いました。
まあでも、物語をきれいにしめるには、これが必要だったのかな。

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