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人は、会社を二度辞める。

会社を辞めたい。
そう思ったことは、ありますか?


私は、あります。
何度もあります。

実際、何度も辞めました。
何度も、何度も、何度も、何度も。
というか4回なんですけど。

多すぎますね。完全にジョブホッパーです。

こうして、いわば「退職のプロ」となった私ですが(威張ることじゃないよ)、会社を辞めるという行為について一つとても大事な気づきがあったので、この記事で共有したいと思います。

別に、人材業界のベテラン転職エージェントでも、元リクルートの事業部長でも何でもない、ただの転職回数多めの元会社員の私がたどり着いた、リアルな「会社の辞め方」です。

ぼんやりと退職を考えている人、いずれは転職したいと思っている人にとって、少しばかりの思考プロセスのヒントになれば幸いです。

人はみな、会社を「2回」辞めている。


退職をするとき、実はみんな会社を2回辞めています。

これは、「日本人の大半は人生の中で2回以上の転職する」という意味ではありません。それはそれで事実かもしれないけど、この記事はそういう趣旨ではないです。

1回の退職につき、2回辞めるんです。
私なんて過去に4回転職をしているので、合計8回辞めています。

なんだか意味の分からない話になってきました。ちょっと軌道修正しましょう。

多くの人が会社を辞めるとき、2回「退職するタイミング」があります。
一度目は、心の中で退職届を出すとき。
二度目は、実際に会社に退職届を出すとき。

この2回です。
一度目は、目に見えません。
二度目は、誰の目から見ても明らかです。

通常、「退職」と呼ぶのは二度目のことです。一度目、心の中で退職届を出す段階では、実質まだその会社の社員として働いていますし、明日も明後日もその会社で仕事をするので、厳密に言えば「退職」ではありません。

しかし、私は過去の退職経験の中で思ったのです。
この目に見えない一度目の退職は、確かに存在すると。

人はみな、ほぼ例外なく、一度目の退職を経て最終的な二度目の退職に至っているのではないかと。

心の中で退職届を出す


ほとんどの人は、「会社を辞めたい」と思っても、その次の瞬間に退職届を出すようなことはしません。
解雇規制が根強く、労働者の雇用が手厚く守られている日本社会において、そう簡単にホイホイ退職届を出すほどクレイジーな人はなかなかいないと思います。

「会社を辞めたい」と思ったとしても、次に「現実的にどうやったら辞められるか」を考えるのが普通です。

というか、「会社を辞めたい」なんて誰しも働いている中でたまには思うことなので、その漠然とした考えが頭を過ぎったくらいで本当に会社を辞めていたら、流石にキリがありません。

いきなり退職届を出しても、その翌日から無職になるだけです。
無職でも生きていける裕福な家庭の人ならそれでもいいかもしれませんが、大抵の人はそうはいきません。生きるためにお金を稼がないといけない以上、感情的な勢いだけで無職になる人はあまりいないでしょう。

結果として、みんな心の中ではもう「退職モード」だとしても、実際にはすぐには退職届を出しません。感情的な勢いに駆られてすぐに辞めるより、慎重に動いた方が得だと知っているからです。

転職活動においては、「次の仕事が決まる前に今の職場を辞めない」のが鉄則です。
精神的にどうしても耐えられない場合は仕方がないですが、できるだけ現職は辞めずに、仕事を続けながら転職活動をすべきです。実際、大多数の人はそうやって転職しています。

ただし、身分としてはその会社の社員であっても、その人はすでに「次の職場」に思いを馳せています。
もう、今の職場に長く居続けるつもりはありません。次が決まり次第、すぐにでも会社を辞める覚悟ができています。

精神的には、もう「退職している」状態


この覚悟ができた状態を、私は「一度目の退職」と呼んでいます。

つまり、心の中で退職届を出す行為です。

もう「辞める」と心に決めているので、精神的には退職している状態に近いです。

かつて、その会社の社員として将来の出世や人事評価などを考えていた頃のあなたとは、明らかに様子がちがいます。
もう昇進などに一切興味はないですし、人事評価が多少悪くなったところで気にすることもありません。どうせすぐに辞める職場ですからね。

すでに一度、その会社の中での人生が終わっているのです。
精神状態としては、もう退職をしています。

なぜなら、その仕事に対しては、もう心が入っていないのだから。
今後その会社の一員として生きていくつもりが、もはや毛頭ないのだから。

ある意味で、その会社の社員の「仮面」を被っているだけの状態です。
精神的には辞めているけど、書類上はまだ辞めていないだけです。あくまで「まだ」辞めていないだけで、いずれは辞めることが確定しています。これが一度目の退職です。

この「心の中で退職届を出す」前後の変化は、ことのほか大きいものだと私は考えています。

一度目の退職の重要性


なぜ、この一度目の退職が必要なのでしょう?

一度目の段階では、法律的・身分的には何の変化もありません。一体なぜ、わざわざ一度目と二度目に分けて退職を考えないといけないのでしょう?

その主な理由は、この二段階のプロセスを経て退職をすることが、転職成功の一番の近道だからです。

一度目の退職が上手くいかない人は、二度目の退職も上手くいきません。
つまり、「現職の会社を退職して次の会社に転職する」という流れのどこかで、高確率で失敗します。

きちんと一度目の退職ができていない人は、「どうしようかな…。会社を辞めたいなぁ。でも無理かもなぁ。やっぱり今の職場に残ろうかな。でも、辞めたいよなぁ、どうしようかな……」と優柔不断にフラフラしてしまいます。
結果として、次の仕事を探すための覚悟が薄く、良い転職先が見つかりにくくなります。

考えてみれば、分かりますよね。

「今の会社をなぜ辞めたいのですか?」と聞かれて、「いや、まだ辞めると確定したわけではないのですが……」と歯切れの悪い人。

「次の会社に求める条件はどのようなものですか?」と聞かれて、「あ、えっと、まだそこまで深くは考えられていないのですが……」と曖昧な態度の人。

こういう人材を積極的に雇いたい会社はありません。

「もう自分は今の会社を辞めるんだ」「絶対に次の会社を見つけてやるんだ」という強い意思があるからこそ、転職先の職場について現実的に考え、面接で自分のスキルと経験を真剣に売り込むことができます。

ある意味で、背水の陣です。一度目の退職を通して、転職活動という試練から逃げない覚悟ができているかどうかの問題です。

一度目の退職が生み出す、強力なメンタル


「辞めるかどうかはまだ分からないけれど、とりあえず転職活動をしてみようかな」などという軽はずみな姿勢では、そうそう良い転職先は見つかりません。

今日において、それほど日本の労働市場は甘くはありません。

もちろん、転職活動を始めたからといって、短期的に面接を受けた会社に絶対に入社しないといけないわけではありません。条件が合わない、業務内容が希望に沿わないなどの理由で、選考を辞退したり、内定オファーを断ったりすることもあるでしょう。

ただし、それは「転職をやめる」「あきらめる」ことを意味しません。ただ「次の機会まで待つ」だけです。
今回応募した会社はちょっとちがったけれど、この先まだいくらでもチャンスがあるよな…… と信じて、転職時期を延期するだけです。

このとき、一度目の退職が心の中でしっかりできていない人は、「希望に合う求人が見つからない」「転職すると年収が下がるかも」などと不安になって、転職が成功する前に早々にあきらめてしまいます。
しかし、その先に待っているのは、本心では「辞めたい」と思っている会社との今後の長い長い付き合いです。定年退職までの地獄のような会社員生活です。

一度目の退職ができている人は、焦りません。

「今回は少しちがっただけ。まだ次がある。世の中にはたくさんの会社があるのだから、転職先の選択肢はいくらでもあるはずだ」と信じて、虎視眈々と機会を待つことができます。こういう人は、最後には素晴らしい転職先と出会えます。

転職活動は、仮に何十社、何百社と落ち続けたとしても、最後の最後にたった1社、自分にとってベストな会社の内定を獲得できれば勝ちなのですから。

転職に成功する人は、みんな無意識のうちに、一度目の退職を経験しています。振り返ってみれば、あの時がそうだったのかも、と思い当たる人も多いのではないでしょうか。

20代、初めての「一度目の退職」


私が20代の頃、初めての転職を経験したとき、「一度目の退職」は本当の退職日=「二度目の退職」より1年以上も前のことでした。

当時、「このまま今の職場にいても、もうあまり未来がないな」というところまでは薄々と考えていました。
ただ、具体的にいつ、どのタイミングで辞めるべきなのか、次の職場としてどんな会社を選ぶべきなのか等はまだ明確に定まっておらず、転職活動もその段階では始めていませんでした。

契機となったのは、ある社内のミーティングです。

50人以上が参加する大きな会議でしたが、その場で発言をするのは真ん中のテーブルに座っている部長クラス以上の5人程度だけ。役員決裁のための会議で、いわゆる「偉い人だけで物事を決める場」でした。
他の一般社員は、会議室の後方にずらりと並んだ椅子にただ座って聞いているだけです。

なぜ部長クラス以上だけで会議をやらないのか謎ですし、極めて意味のない仕事ですが、日系老舗企業ではよくある光景です。

その会議中、珍しく私の当時の所属部署のトップである営業部長が、私に意見を求め、発言を促しました。
偉い人もいる中でいきなり指名されてびっくりした私は、緊張しながら答えましたが、その答えを聞いた部長は「そんなんじゃ全然ダメだね」「はい、やり直し」「君は何も分かってないんだなぁ、まったく」などと言って、50人以上の社員の前で私を徹底的に詰めました。

周りで聞いている人たちも、気分は決して良くなかったと思います。社内の関係部署の部長が、みんなの前で部下の一人を堂々といじめているのを密室で10分以上見せられているのですから。

その会議の後、部長から「さっきはちょっとやり過ぎた。すまなかった。君の能力を試そうとしただけなんだ」というメールが入っていました。
もしかしたら、他の部長か、役員あたりから「あれはやり過ぎじゃない?」と諭されたのかもしれません。

私は、そのメールを無視しました。

直属の上司の、そのさらに上の上司のメールを、完全無視しました。通常、許されることではありませんが、もうその時の私にはどうでもよかったのです。

私はその日、その会議の後に、一度目の退職をしていたのだから。

「もう辞める」と決めた瞬間


もともと、「もうこの会社に長くは居ないだろうな」と以前から感じていました。50人以上の社員の人件費を使っておきながら、数名の役員だけで偉そうに話を進める、まるで儀式のような会議も本当に嫌でした。

そういう古臭くて非効率な文化をいつまでも変えられない昭和の企業風土にも心底うんざりしていました。

日々このような無駄な仕事に追われているせいなのか、過去30年以上にわたって売上高がほとんど伸びておらず、昔々に作り上げたブランドのおかげで何とか生き残っているハリボテのような会社に、もう心から誇りを持てなくなっていました。

その矢先、急に部長から公衆の面前で吊し上げのような扱いをされて、私は完全に吹っ切れました。
退職自体は前々から考えていましたが、それが最後のトドメでした。

「もうあの部長の下では働かない」と心に決めました。あのとき、すでに、私は精神的にはその会社の社員ではなくなっていたのです。

これが、一度目の退職です。
もうこの会社は絶対に辞める、と心の中で決断をする瞬間です。

物理的に退職届を出していないだけで、もはや、精神的には退職を決めています。これは、すべての人に起こり得る状態だと思います。

一度目の退職によって起こる変化


私が言っている一度目の退職とは、単なる精神論ではありません。
一度目の退職を経た後には、翌日から、具体的な行動が変わります。

昨日までは、上司の顔色ばかり伺って仕事をしていました。人事評価が気になるし、ボーナスを減らされたりしたら嫌ですからね。

今日からは、もう上司の顔色は気にしません。どっちにしろ、もう近々辞める会社です。お付き合いのような無駄な残業をする必要はありませんし、行きたくもない飲み会には付いていきません。

社内の人事異動なども、昨日までは気になって仕方がなかったはずです。期初の異動の時期に自分はどうなるのか。希望の部署に行けそうか。もし地方転勤になったら単身赴任かな…… など、ビクビクしながら異動辞令が出るのを待っていました。

そんなことは、もう今日からは気になりません。部署異動の希望を出すより、転職した方がよっぽど早いだろうと思い始めています。
理想の仕事を手に入れる手段は、社内異動ではなく転職になりました。仮に部署の異動があったとしても、そのまま様子を見つつ、引き続き転職活動を続けるだけです。

目の前の仕事に対する姿勢も、ガラッと変わります。

今までは、「時間の無駄だ」「こんな仕事には意味がない」と思っていたとしても、上司命令だからやるしかない… 部署の決まりだから仕方ない… と我慢して続けていたかもしれません。

しかし、一度目の退職を経た後であれば、もう「無駄なことはやらない」「意味がない仕事はしないで早く帰る」と割り切ることができます。
精神的には、もうその会社の将来を作るメンバーではないので、毎月もらっている給料分以上の働きをする必要はないのです。

「転職モード」に切り替わった自分


当然ながら、仕事で結果を出すことより、転職活動の進捗を優先することもあるでしょう。
現職の仕事を続けながら転職活動を進める以上、面接のために半日休暇を取ったり、面接準備のために定時退社して時間を確保したりする努力は必須です。

「そんなのとんでもない、なんて不真面目なヤツなんだ」と批判する人もいるかもしれませんが、私は、その態度でまったく構わないと思っています。

結局のところ、本気で転職活動をするためには、ある程度は現職の仕事を犠牲にするしかありません。
あからさまに仕事をサボるのを推奨するわけではないですが、現実的に、転職活動も100%全力でやる、同時に現職の仕事も100%本気を出すというのは無理でしょう。

例えるなら、2つの会社に同時に所属して両方にフルタイムでコミットするのが不可能なのと同じです。

一度目の退職によって手に入る精神状態とは、「もう今の会社が第一ではない」「会社の中の人生より、会社の外の人生を優先する」という一種の割り切りです。

この割り切りができるようになるからこそ、一度目の退職には意味があり、それが二度目の退職にまで良い効果をもたらすのです。

一度目の退職をしてから、二度目の退職までに起こること


一度目の退職と、二度目の退職の間にあるのは、基本的には「転職活動」です。

その期間が2週間程度という人もいれば、2年以上かかる人もいるでしょう。短ければ短いほど良いというわけでもないですし、時間をかければかけるほど良い結果が出るわけでもないので、この辺の塩梅は難しいです。

ただ、明確に言えるのは、一度目の退職による「覚悟」がきちんとできていない人は、二度目の退職が最終的に良い形にならない可能性が高いということです。

一度目の退職で「会社を辞める」と心に決めた後、自己分析をして自分の強みを明らかにして言語化し、企業分析や業界分析をして強みを生かせそうな職場を探し、さらに、転職エージェントとの面談や、企業との面接を経て、「次の職場への期待」を確信に変えていく。そして、最高の形で内定オファーを獲得する。

この一連の流れを無事に終えた先に、やっと、二度目の退職のタイミングがやってきます。

二度目の退職、つまり退職届を会社に出す時点で、もう勝負は終わっています。すでに「勝ち」確定した状態で迎えるのが、二度目の退職です。
転職活動の末に、もう次の職場が決まっているわけですからね。満足のいく形で転職先を見つけることができているのですから。

「会社を辞めるとき」よりも大事なタイミング


つまり、実は本当に大事なのは二度目の退職ではなく、一度目の退職なんです。

二度目の退職は、戦いが全部終わった後に結果として付いてくるものです。一方で、一度目の退職は、「さあ、ここから戦いを始めるぞ」というゴングを鳴らすものです。

一度目がなければ、二度目もありません。

そして、一度目の退職で心を決めた瞬間から始まった戦いを制した者にだけ、二度目の退職が訪れます。
転職活動という過酷な戦いです。そこから途中で逃げ出した者、最初から戦いもせずに早々と退職届を出してしまった人には、二度目の退職 = 本当の退職は良い形では訪れません。

なぜ、一度目と二度目、わざわざ二段階で退職を考える必要があるのか?

なぜ、一度目の退職として「心の中で退職届を出す」のが大事なのか?


少しは分かっていただけましたか。

もちろん、これは私が勝手に考えたことです。世間一般的には、一つの会社を辞めるのに退職は一回だけです。その中に一度目や二度目なんて区切りは存在しません。

でもね。

もしかしたら、少しだけあなたにも、見えてきたんじゃないですか?

本来存在しないはずの「一度目の退職」が。
今まで意識してこなかった、心の深いところにあった「一度目の退職」が。

おわりに


人はみな、会社を「2回」辞めています。
意識していなくても、実はそういう辞め方をしています。そして、そういう辞め方をした方が、退職はきっと上手くいきます。

あなたにとって、一度目の退職は、いつですか?
1年前ですか? 3ヵ月前ですか? 今日ですか?

いつでも構いません。
会社を辞める覚悟ができた時が、その瞬間です。

さあ、戦いのゴングを鳴らしましょう。

転職活動という試練を、たった一人で戦い抜く覚悟を決める。
今の職場を捨てて、後ろを振り返らずに次のステージに進む決心をする。

そのとき、あなたはすでに一度、退職をしています。

退職おめでとうございます。
本当の勝負は、ここからです。



※あとがき

この文章は、note創作大賞2024 応募用のショートコラムとして書かせていただきました。

普段は、書類選考対策や面接の準備など、よりテクニカルな転職活動ノウハウについて書いている私ですが、今日はちょっと視点を変えて、それより少し前の段階での「覚悟」の話をしています。

「会社を辞める」ための一連の流れの中では、面接対策などの実践的な準備と共に、「心の準備」が必須だと私は思っています。
それを、実体験に照らし合わせて「一度目の退職」と表現してみました。多くの方にとって、振り返ってみると「確かに」と思える内容ではないでしょうか。

「一度目の退職」という考え方に少しでも共感できた人は、是非この記事の「スキ」ボタン(♡)を押してください。

このnoteを読んだすべての方へ、満を持して戦いのゴングを鳴らしたあなたへ、今後幸せな「二度目の退職」が訪れることを、心から祈っています。

以上、お相手は、安斎響市でした。


サポートいただいたお金で「餃子とビール」を購入させていただき、今後の執筆活動に役立てたいと思います。安斎に一杯おごりたい方は、ぜひサポートをお願いいたします。