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わたしと作品と最後の通学
今日は大学生活最後の通学だった。大学のある京都から引っ越していなければそんなことはなかったのだろうが。対面授業の日程を全て消化したいま、安くはない交通費と片道約2時間を費やし大学に行く用事はもうない。
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学部のゼミが、私にとって大学で受ける最後の授業となった。簡単に卒論のフィードバックをされたくらいではあったが、きちんと評価されたことは素直に嬉しかった。見慣れた坂道、学部棟、喫煙所。次に見るのはそれこそ卒業式の日だろう。今季初めて見る大粒の雪が、この場所での学びの日々の終わりを祝福しているかのように思えた。
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この週に一度のゼミの日に、決まって喫煙所でお話しした教授と会うこともこれで最後か。終盤の大学生活で日常として思い出に残っているのは、その方との時間くらいだ。他はコロナに全部持っていかれたな、とも思ったが、引っ越しをしたことがやっぱり大きかったな。因みにその教授、2月に本を出されるそう。また紹介させてもらいます。
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帰り道、電車を降りてからすっかり暗くなった海岸線を歩く。イヤホンで聴いていたのは、昨夜観た映画『トゥルー・グリット』の劇伴。映画は主人公の女性が、過去を振り返るという形で幕を開ける。私自身、大学最後の授業の帰りという点で、少なからずセンチメンタルな気持ちになっていたのかもしれない。物語の構図の中に、感覚が溶けだしていく。
海岸線に沿った遊歩道。等間隔に設置された腰の高さくらいの照明が、地面を薄くオレンジに染める。そこに映る私の影を、数年後から見ているような、そんな感覚に襲われた。こんなこともあったな、と。この道を通っていたな、と。曲がもたらす懐かしさが、映画の内容と混ざり合い、私もその関係の中に吸い込まれていくような体験だった。
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ちょうど先ほど読み終えた小説『テスカトリポカ』にも重なるところがある。物語の核となる登場人物らの作中での体験は勿論だが、いま言及すべきはこの作品が私にどう作用したか。簡単に言うと、1分にも満たない(だろう)が作品の世界にいる夢を見た。大学から京都駅に向かうバスの中。到着前に本をを閉じた直後、自然と眠っていた。目が覚めたときの混乱からの安堵感と興奮。
この『テスカトリポカ』という小説の魔力はすごい。暴力、血、呪術、死。脳が受容するワードの数々が、私にとっての日常とはかけ離れている。通常と違うモードに脳も入るのだろう。本を開いてすぐに作品に吸い込まれる。ページをめくる手が止まらない。時間を忘れる。事実、読み終えた現在の疲労感が凄い。
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バスの中で垣間見た作品世界。私にとって、一瞬ではあったが確かに現実だった。紛れもなく。そして実際に存在する世界。ちょっと疲れているな、私。変な夢を見ないか心配ではあるが、今夜は早めに寝よう。
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