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にゃんこが教えてくれたこと

夜眠っている間、ルルちゃんが物音を立てる度に妻は飛び起きてオシッコの面倒を見たり世話を焼いていたので寝不足気味だった。
4月23日夜、前夜もあまり眠れていないので早寝しようと、点滴のタイミングを1時間早めた。その直後に初めての痙攣。
ちょうど数時間前に似たような病状の猫について検索していて、痙攣について読んだところだった。知らなければかなり慌てたと思う。
暫くすると落ち着いたけれど、グッタリ加減が今までと違う。昼間は少しだけ散歩できたのに。暫く様子を見守る。

ぼくはいつの間にか寝落ちしてしまい、夜明け前に気づくと妻は徹夜でルルちゃんを撫でていた。呼吸が浅く苦しそうで、ときどき痙攣がおそってくる。撫でてあげると少し落ち着くようだ。ふたりでルルちゃんを撫でて交互にウトウトしながら夜明かし。長毛種だからあまり目立たないけれど撫でると骨がはっきりわかるほど痩せてしまっている。
おそらく血中のヘモグロビン濃度が少なくなりすぎて、充分な酸素を運べなくなっているんじゃないかと思う。貧血を獣医さんに相談していたけれど、それに関してはどうしようもないとのことだった。余命僅かなネコに輸血のようなリソースを割ける状況ではなかったのかもしれない。

陽が高くなってもルルちゃんは口呼吸で息をして一生懸命酸素を身体に送ろうとしている。
もう長く保ちそうにない。
あと3日で15歳の誕生日だからせめてそれまでは、と願っていたけれど、もうこれ以上この苦しみを長引かせるなんて無理だ。

昨夜から既に半日以上も苦しんでいる。飢えと乾きで死ぬ方がまだましだったのではないか?という疑問はどうしても付き纏う。
–––– もし自分が不治の病で死にかけたとき、延命して欲しいかどうか。
夫婦で話し合うと、ふたりとも「しなくていい」という意見だった。
なのに何故、ルルちゃんには延命措置をしたんだろう?
矛盾夫婦か?
ルルちゃんとの別れがあまりにも嫌すぎて先延ばししたかったために余計に苦しめてしまったのかもしれない。この3週間の僥倖の対価をルルちゃんが苦しみで支払わなければならないとしたら酷すぎる。

ルルちゃんがいつもとは違う声で鳴いてももう撫でて見守ることしかできない。
ごめんねごめんね
ありがとうありがとう
感情を自覚するよりも先に眼から涙が止まらない。
呼吸が止まり、間をおいて息を吹き返す。それを数回繰り返す。
もう無理しなくていいんだよ
楽になっていいんだよ

4月24日夕方、鳥のさえずりの聞こえる中でルルちゃんは旅立った。
黄昏時の光の中でルルちゃんの長毛が黄金の草原のようだった。毛玉多めだけど。
妻は号泣しながら2時間以上かけてルルちゃんの身体を綺麗にした。普段だったら猫パンチが飛んで来て決して触らせてくれないような隅々まで念入りに丁寧に。
猫パンチと云えば妻は最後にルルちゃんに腕を引っ掻かれたとき、わざとかさぶたを剥がして傷が後々まで遺るようにしたのだった。

それにしても、ペットと暮らす人なら誰でも避けて通れないとはいえ、初めて味わうようなこの感じは何なんだろう?
正直に言うと、どういうわけか人間が亡くなったときよりも悲しいんだけど。
眼から水がどばどば出て、涙ってこんなに出るもんなんだ!?って驚く。暫くして落ち着いたと思ってもルルちゃんの話をするとまた溢れてくるので脱水になりそうだ。申し訳ないけれど父が亡くなったときの数倍の涙の量。
死には慣れている方だとすら思っていたのに、思い上がりだった。ぼくに足りない部分を、ルルちゃんが時間をかけて育ててくれたのかもしれない。

しんみりとお通夜をして強いお酒を飲んでみても全く酔うことができない。
ルルちゃんが逝ってしまった喪失感に抗って蓋をするなんて今は無理だ。
寂しいよ。寂しくてたまらないよ。

「でも思い出す度に悲しんで、ルルちゃんを哀しみの象徴にしちゃいけないよね…」と、ぼくより重度の思い出し泣き発作に見舞われている妻。
確かにそのとおりだね。一緒に過ごした素晴らしい日々とたくさんのあったかい想い出をくれたんだから。
妻はいつもまるで初めて言うみたいな感慨を込めて、同じことばを繰り返す。
「ゲージツ的にかわいい」
「こんないいコいないよね」
「ウチにルルちゃん来てくれて良かったね」
ほんとうに、よく来てくれたよね。
うちの子になってくれてありがとう。

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