セカンドオピニオン
老獣医師の見立てを疑ったというわけではなかった。彼がルルちゃんを診て最初から「年齢的に仕方ないよ」というスタンスだったのは、長年の経験から判ることだからなのだろう。
それはそれとして、うちからすぐのところにヴェテリネール(動物病院)があって。今後もし何か緊急事態が起きたときに、即座に駆け込める至近の動物病院にカルテがあれば心強い。
それにこれはまぁ、いいんだけど、老獣医師のホームページが犬の写真なのに対し、すぐそばの動物病院のそれは猫がメインビジュアルで獣医さんも多そうだ。犬派と猫派の覇権争いはホームページの写真バランスに反映されるに違いない。(当社比)
じゃあどうして始めから近い方に行かなかったのかというと、入り口に段差が4段あるので車イスだと入れないからなのだった。
もはや自分の都合なんて構っていられない。
まず段差を乗り越えるための板をAmazon.frで注文。届いてから予約の電話をかけた。
予約した2月14日(今書いて気づいたけど結婚記念日だった)、検査結果やレントゲン、飲んでいる薬など全てのデータを持って出かける。板はけっこう大きくて重いけど、すぐ近くなのが救い。
入り口の階段に板を渡すとかなり急なスロープになって車イスを押す妻が大変だったけれど、動物病院の人が手を貸してくれてなんとか登ることが出来た。
ルルちゃん不安そうだけど、今日は痛いことはしないよ。
担当の女医さんにルルちゃんの口とデータを見てもらい意見を聞く。
手術は出来ないので、するなら放射線治療になる。希望すれば放射線治療が出来る医療機関を紹介してくれるとのこと。
「ですがよく考慮しなければいけないのは、それをしても期待するほど延命できないということです」
とハッキリ言われた。
(もし先生のネコだったらどうしますか?)と訊きかけて、やめた。ルルちゃんはぼくたちの家族なのだから、ぼくたちが決めなければならない。
「心臓にやや雑音がありますし、眼圧が高いことも麻酔をかける際に問題になります」
これで方針は決まった。残された時間をルルちゃんにとってストレスになる効果の薄い治療に費やすより、寿命は天寿として受け容れ、今まで通り家族の時間を過ごそう。
「彼にはあとどのくらい時間がありますか?」
「1年もたないことは疑う余地はないです。2〜3ヶ月でしょう」
こう文字にすると冷たい感じだけど、とても親身になってくれて有り難かった。
もしかしたら今服用している消炎剤 Megasolone 5よりも良いかもしれないというMeloxidylと、いざというときの痛み止めを処方してもらう。
ただし同時に服用はできないので、使う場合はMegasoloneはやめて、もし効果が思わしくなければ戻すようにとのこと。
「また経過を知らせてくださいね」と先生。
別れ際に「Bon courage(頑張って)」と言われて妻は、
(最期は壮絶なんだろうな…)と覚悟したそうだ。
その後実際Meloxidylを試してみたところ、口からの出血が増えてしまったので、5日で元のMegasoloneに戻した。ただこの薬は効くけれど副作用の記述に怖いものがある。
医原性高皮質性、多尿多飲症(PUPD)、免疫抑制、過食症、および体の脂質貯蔵の再分布を引き起こす可能性があります。
長期間使用すると、消化器疾患(消化性潰瘍)、眼疾患(緑内障または白内障)、筋骨格障害(筋萎縮)および皮膚障害(治癒遅延)も観察される場合があります。
何かのために、何かを犠牲にする。
緑内障も疑われるルルちゃんは、どこかのタイミングでこの薬を使えなくなるかもしれない。
そのときは、食べることが難しくなってくるだろう。
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