見出し画像

小さな画家

彼女の夢は画家になることなのでした。

彼女の友達や家族は、才能で決まる職業にはつかない方がいいといいました。
しかし、彼女にそれは無理なのでした。

冬の始まりに、彼女は家を飛び出しました。

荷物はほとんど持たずに、深夜に駅に向かいました。
高校も無断で欠席するつもりでした。

そのくらい、彼女は画家になりたいのでした。

彼女の母親は、しばらく彼女のいない生活にさみしさを感じていました。
しかしそれも、半年くらいすると終わってしまうのでした。
母親は彼女の弟にあたる息子のことを育てることだけに集中しました。

母親がやがて80才を迎えました。
頑固だった性格は、今でも変わりません。
息子も自然と離れていきました。

母親は、久しぶりに町へ行ってみることにしました。
しばらく歩いても、疲れは感じませんでした。

「あら、この絵。」


母親が目にとめたのは道端で売られていた綺麗な綺麗な女性の絵でした。
題名は、お母さん。

「この絵、買います」

そう呼ぶと、一人の若い女性がかけてきました。

「あ、、、」

母親は思わず声を出しました。
ずっとあっていなかった、彼女に似ていたのです。
いや、間違いなく彼女でした。

「この絵、一枚一万円となります」

「わかりました。…はい。一万円」

「ありがとうございます。」

「結婚はしていらっしゃるの?」

「はい、今は三人のこどもの子育てと絵の方を両立しています」

母親は自分があなたの母親であると、いうつもりはありませんでした。
ただ、背中を丸めてきた道をゆっくりと歩いていくのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?