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家出の先にあった、西の果ての海のこと


「もう連絡とるのやめよっか」。最近の私の心はずっと、すぐにでも崩れそうなジェンガみたいだった。下から4番目の左側の直方体。絶対崩れると分かってたのに、これを抜かれた感じ。ガッシャーーン。ひとり暮らしの部屋の四隅に音がぶつかる。余韻が響く。

君に本を返すため、とりあえず泣きやまないといけない。でも涙が止まらない。喉が渇くのに水が飲めない。お腹が空くのに何も入らない。涙が止まるのに2時間かかった。日付が変わる直前で本を返しに行った。涙を隠すために下ばかり向き、言いたいことを何ひとつ言えずに帰った。

へらへらと明るく喋る君は本と音楽の話になるとすごく真剣な声になった。私note書いてるんよって言ったら僕も気が向いたら書いてみようかなって言ってくれた。だからこそ全部悔しかった。私だって好きな本を貸したかったし、君のnoteも読んでみたいって思った。でも彼女との時間を大切にするねという正しい言語で私の未来がぼやけた。いくら私の言いたいことを言ったところで未来は変わらないからその場で泣くことしかできなかった。

最終的に、家に帰って普通の日常を過ごす自分が許せなかった。

ベッドに可哀想に転がっている毛布と枕を車に放り投げ、コンタクトのケースと液体を強く強く握りしめて家を出た。深夜1時。気温は10度。

もうだめだ家出しよう。1日だけでも。

***

気が沈むといつも西側へ逃げたくなる。理由は明確。気候が穏やかであたたかいから。

午前7時。疲れ切っていたせいかぐっすり寝れた。顔を洗ってスウェットで水滴を拭く。コンタクトをつける。新しくできたばかりのこの道の駅には5台ほどしか車が停まっていない。空は眩暈がするほど快晴でまた涙が出そうになった。私が1番好きな空の色をしていたからだ。

そうだ。今日は角島大橋まで行こう。

とにかく西へ進む。途中でまた道の駅に寄る。日本海が一望できる温泉へ浸かる。ぼうっとしてたらあっという間に1時間。また西へ進む。この辺かなーと思い、また道の駅に寄って現在地を確認すると、ここからさらに40分あった。西へ進む。



海が好きだと思った。私がどんなに笑顔だろうが、どんなに悲しい顔をしていようが、天気がいい日は必ず綺麗だから。綺麗さを裏切らないから。

角島大橋を渡って、角島灯台まで行く。車を停めて、歩いて夢崎波の公園まで行く。

もうこれ以上、西へは行けなかった。



家出の先にあった西の果ての海には、どこから来たのか分からないたくさんのゴミが流れ着いていた。透明な青い海と汚れまみれのゴミたち。潮風の匂いとゴミの臭い。あまりにも景色がアンバランスすぎて、まるで私の情緒みたいだなと思って気分が悪くなった。

角島という観光地には、いろんな人がたくさん来る。でも最果ての海に流れ着いたゴミたちには誰も目を向けない。

きっとこんな場所が世界にはたくさんあって、こんな人間関係も世界にはたくさんある。虚しくて、悔しくて、どうすればいいか分からなかった。海は好きだけど、好きだからといって何か答えをくれる訳ではない。私の恋愛みたいでまた気分が悪くなった。腹が立った。

***

元乃隅神社で参拝をしておみくじを引いた。小吉。恋愛は「再出発せよ」。おみくじは紐に括って、百本鳥居をくぐる。龍宮の潮吹をのぼり、海に落ちるか落ちないかのところまで行って、腰を下ろした。

空が薄暗くなった。私の好きじゃない空の色。波の音がうるさくて、風が頬を刺して冷たい。



帰れと言われている気がした。

でも、こんな日があってもいいんじゃない、とも言われている気がした。

***

駐車場に戻るとドッと疲れて眠ってしまった。1時間寝ていた。もう駐車場には、車や観光客どころか、駐車場を案内していたおじさんたちもいなくなっていた。完全にひとりぼっちだった。

フロントガラス越しの夕焼け空を眺めて、私も戻ろうと思った。

やっと家に帰って、普通の日常を過ごす自分を許せるようになった。



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