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中国 北京知識産権法院の商標権取消復審不服行政訴訟事件と偽証罪に関する報告(9月10日)

北京知識産権法院は、9月10日、商標権取消再審不服行政訴訟における偽証での処罰状況の説明会を開催した。説明会では、商標権取消復審不服行政訴訟事件の審理状況を報告するとともに、この種の事件で三年連続不使用の使用証拠の偽証行為の現状、規制する主な方法と知的財産権の一連の保護強化に対する提案、及び典型的事例6件を発表した。本報告は不使用取消でどのような不正な証拠が提出されおり、裁判所がどのように対応しているかを知るうえで有用である。当職には驚かない事実であるが、日本の商標実務家や経営者には知ってもらいたい状況である。以下は、その報告の仮訳で全文を紹介する。

1.商標権取消復審不服行政事件に関わる偽証での処罰情況の報告
(1) 北京知識産権法院での商標権取消復審不服行政事件の審理状況
 2019年以降、本院は商標登録権利確認事件40,114件を結審した。その内、商標権取消復審行政事件は3,843件と全商標登録権利確認事件の9.6%を占める。この内、国家知識産権局が商標を取消した事件は970件と取消率は27.7%で商標登録権利確認事件の平均取消率を上回る。
 中国の商標法では、登録商標がその有効期間内に3年間使用されていない場合、誰でも国家知識産権局に当該登録商標の取消を申立てることができる。登録商標の取消或いは取消の決定に不服がある場合、通知の受領日から15日以内に国家知識産権局に復審を申立ることができる。また、当事者は復審の決定に不服がある場合、通知の受領日から30日以内に人民法院に提訴することができる。即ち商標権取消復審行政事件である。
 本院が審理したこうした商標権取消復審不服行政事件には以下の特徴がある。
①商標権取消復審不服行政事件は商標3年不使用行政事件が占める比率が高い。
 中国の商標法の規定に基づき、誰でも3年連続正当な理由なく使用されていない登録商標は取消すことができる。そのため、商標取消手続きを開始することは比較的簡単である。また、商標権者は行政段階で敗訴後に行政不服訴訟を提起するとともに、訴訟段階で新たな商標の使用情況を証明する証拠を補充提出する、商標権取消復審行政案件の数が比較的多く発生している。
②商標権者は通常行政訴訟手続きで新しい証拠を補充提出する。
 行政訴訟の争点は、指定期間内に登録された使用商品に、商標が実際に、合法的に、有効な商業的に使用されていたかどうかである。一部の商標権者は行政手続きにおいて証拠収集が不十分であるか、或いは提出された証拠が商標の使用を証明するに十分な証拠に対する理解の逸脱やその他の問題があり、その登録商標は行政手続きで取消された。そのため、ほとんどの商標権者は商標登録を維持するため訴訟手続きで更なる新しい使用証拠を補充している。
③商標権者は十分な使用証拠を提出できない場合、虚偽の証拠を提出することさえある。
 商標権者が行政訴訟で提出する使用証拠の多くは売買契約書、売買伝票、領収書(発票)及び関連宣伝資料などであるが、司法実務でよく見られることは、契約書と領収書が対応していない、関連証拠が商標表示されていないなどである。同時に複数の登録商標を持っている場合、一部の商標権者は使用する情況を混同し、各商標がその登録された使用商品と対応しないことがある。商標登録を維持するために、偽造した領収書、取引契約、検査報告書などの証拠を提出する商標登録者もいる。
④行政訴訟での取消率は行政事件の平均取消率より高い。
 商標権者は往々にして行政決定の結果を変更しようと訴訟手続きで新たな使用証拠を追加提出し、使用状況を補足し、その結果行政決定が変わる。一方で、司法手続きで商標権者に使用証拠の原本の提出を求めるからでもある。しかし、商標権者が証拠の原本を提出できない場合、或いは提出した原本とコピーが一致しない場合、行政手続に提出された一部のコピーなどの関連証拠資料は受け入れられない結果となる。

(2) 商標権取消復審行政訴訟事件における偽証行為を規制する主な方法
 商標の価値はその使用にあり、使用を通じて商品或いはサービスの出所を識別する役割を発揮する。しかし、商標権者が行政訴訟で商標の使用証拠を偽造する行為は、商標の使用事実を捏造し、信義誠実の精神の欠如や希薄な遵法意識などの問題を反映している。このような行為に対して、本院は多くの商標権取消復審不服行政事件で処罰を科した。2016年10月、登録商標第146278号「家家JIAJIA及び図」の商標権者には虚偽の証拠を提出した行為があると認定し行政訴訟で初めての偽証に対し、行政訴訟法の関連規定に基づき1万元の罰金を科した。信義誠実での商標登録と使用の秩序を構築するため、本院は今後も以下の多くの措置を採り全面的に偽証行為を規制する。
①証拠原本との検証や証拠審査のレベルアップする。
 商標権者に所有する使用証拠の原本提出を要求し、証拠規則と実務経験を総合的に運用し、当該証拠の真実性と証明目的に対する審査レベルを強化し、商標権者が「運が良ければ心理」で虚偽の証拠を提出することを抑制し、信義誠実を守る商標登録と使用秩序を維持し、優良な事業環境を持続させる。
②公的サイトを利用し、主導的に証拠の真実性を検証する。
 商標権者が提出した領収書(発票)、商品包装写真、売買契約書、オンライン取引注文書、新聞報道などの証拠に対して、本院はそれぞれ国家税務総局の全国増値税領収書検査プラットフォーム、中国商品情報サービスプラットフォーム、企業信用情報サイトと相応のショッピングサイト、メディアサイトなどで検証を実施する。必要に応じて地方税務機関と工商行政管理機関に真偽をさらに確認する。
③提出理由の説明と偽造証拠の結果の釈明を命じる。
 真実性の疑わしい初歩的な証拠に対しては、係争商標権者に証拠の原本の提出を命じるとともに、偽造証拠の法的結果をさらに釈明させる。もし、商標権者が証拠の原本を提出できず、かつ不実の点に対して合理的な理解ができない場合、本院は上記の証拠を偽証と認定する。
④審査基準を厳格化し、3年連続不使用の商標を取消す。
 商標権者が提出した偽造証拠は採用できず、そのため他に提出された証拠については厳しく審査する。証拠の原本照合の審査の外に、商標権者が実際の使用意図を証明するのが難しい一回限り或いは散発的な象徴的使用証拠には、真実性、合法性、有効な事業上使用ではないと認定し、商標登録を維持する効力がなく、当該商標は法により取消す。
⑤偽証行為を厳格に処分し、法に基づき処罰する。
 行政訴訟法第59条の規定に基づき、訴訟参加者の偽造、隠蔽、証拠隠滅或いは虚偽の証明資料行為に対して、情状の軽重に基づき1万元以下の罰金を科することができる。商標権者の偽証行為に対し本院はすでに多数の商標権取消復審行政事件で最高レベルの処罰を決定し偽証行為を直ちに停止させた。
⑥原因を整理し、訴訟ガイドラインを強化する。
 多数の商標権者が商標権取消復審行政事件で虚偽の証拠を提出する現象に対して、本院は上述の業務を展開すると同時に、速やかに裁判実務での経験を総括し、問題発生の原因を分析した。このような偽証行為が集中している主な原因は、一部の商標権者には事業管理過程で証拠を保存する意識が欠けており、証拠の保存に注意を払っていないことにある。一部の商標権者は使用を目的とせず商標を悪意で先取りしており、商標を実際に使用する意図と行為に欠けている。従って、商標権者の中には偽造の証拠により登録商標を維持する「運が良ければ心理」が働くのである。

(3) 偽証行為のさらなるの規制と全でのチェーンの保護強化に関する提案
 知的財産権保護は一つの体系的プロジェクトであり、審査登録、司法保護、業界自律などのリンクにおける協同と協力を必要とし、知的財産権の大規模な保護活動の枠組みを構築する必要がある。商標権取消復審不服行政事件での偽証行為をさらに規制し、知的財産権の全てのチェーンの保護を強化するため、本院は以下に掲げる内容を提案する。
①商標の使用行為を完備する。
 商標法第4条は、使用を目的としない悪意のある商標登録出願は却下されなければならないと規定している。商標権者は商標の使用意図を強化し、商標の使用を通じて主体的に商標の生命力を守らなければならない。中小企業は日頃の事業活動で、広告宣伝、オンライン取引プラットフォームでの販売などを通じて、商標の使用証拠を固定することができる。オフラインでの生産、仕入、販売などでは、文書による契約を締結し、対応する銀行での証明書類と売買領収書(発票)を保存しなければならない。もし商標権者が複数の種類の商標で商品を販売する場合、領収書に商品名、商標などの情報を詳しく記載し、契約と領収書及び商標の対応関係を明確にし、商標の使用を証明する完全な証拠のチェーンを形成しておかなければならない。
②信義誠実の原則を強化する。
 商標法第7条は、商標の登録出願及び使用する場合、信義誠実の原則を遵守しなければならないと規定している。信義誠実の原則は商標の登録と使用過程において遵守すべき原則であり、誠実な事業を保護するための明確なガイダンスである。全ての市場主体はさらに信義誠実の事業意識を強化し、信用を守ることを約束し、訴訟では信義誠実の訴訟義務を履行し、断固として偽証行為を共同で抵抗し、信義誠実での商標登録と使用の秩序を維持しなければならない。関連代理機構は職業道徳を遵守し、法律の規定及び業界規律の要件を自覚し、偽証の提出などの違法行為に自発的に抵抗することを自覚し、委託者と共同で信義誠実の訴訟秩序を構築しなければならない。
③商標の使用証拠の審査と処罰レベルを強化する。
 司法機関は最後の防御線として、商標権取消復審行政事件における証拠使用の審査を引き続き強化し、偽証行為を厳正に処理するとともに法に基づき処罰する必要がある。統一的な推進、情報源のガバナンスを重視し、司法の宣伝を強化し、司法裁判の誘導機能を十分に発揮させ、社会全体に商標の正しい使用意識をさらに確立し、知的財産権の高品質な発展を推進し、良好な事業者環境の構築を支援する。
④司法手続きと行政手続きの連携を強化し、連動メカニズムを確立する。
 国家知識産権局は昨年、「使用を目的としない悪意商標登録出願行為に対する厳しい打撃に関する実施意見」を制定し、今年3月には「商標悪意先取行為対策特別アクションプラン」を発布した。上記の取組みは知的財産権の高品質イノベーションを導き、社会的懸念に応え、信義誠実の原則に著しく違反し、商標登録管理秩序を乱す行為を厳しく取締ることになる。今後、本院は商標権取消復審行政事件の裁判業務において、行政と司法の手続きの連携をさらに最適化し、証拠審査の基準を統一し、市場主体の信用監督管理を強化しする。虚偽の証明に関わる典型的事例の公表などの面で業務協力関係を形成し、「大衆のために何かをする」を実践する。信義誠実の商標登録と使用の秩序を維持し、知的財産権の全チェーンの保護を強化し、市場化、法治化、国際化の事業環境の構築に注力する。

2.商標権取消復審行政事件での偽証処罰典型事例
①登録商標第1486278号“家家JIAJIA及び図”事件 (2015)京知行初字第1165号
 提出された検査報告書のコピーと原本の商標の不一致、ハラル食品営業証の事業対象の不一致、屋外広告登録証の宣伝期間の不一致、提出さ有れた領収書の品名が不一致などで、1万元の罰金。対象登録商標取消。
②登録商標第3084001号“茶馬古道及び図”事件 (2020)京73行初14664号など6事件
 提出された商品の写真にある商標と中国商品情報サービスプラットフォームでの商標が不一致、領収書に記載された販売者が国家企業信用情報公示システムと当該地区の工商行政管理局で確認したが不存在及び納税者識別番号もそれぞれ不一致、領収書のコピーに記載の商品と全国増値税領収書検査プラットフォームのデータに記載されている商品とが不一致及び商標の表示なしなどで、3万元の罰金。対象登録商標取消。
③登録商標8403409号“緑森林小屋”事件 (2020)京73行初13177号
 提出された3枚の領収書の記載と全国増値税領収書検査プラットフォームのデータの内容が不一致などで1万元の罰金。対象登録商標取消。
④登録商標第9841494号“ITSTYLE ”事件(2020)京73行初13083号
 提出された領収書のコピーには商標と商品の記載があるが、全国増値税領収書検査プラットフォームのデータに記載されている商品が不一致などで、1万元の罰金。対象登録商標取消。
⑤登録商標第10048229号“美琪琳”事件(2021)京73行初8597号
 提出された5枚の領収書には商標の記載があるが、全国増値税領収書検査プラットフォームのデータには記載がないく、商標権者が不一致を認め証拠を撤回したため1万元の罰金。対象登録商標取消。
⑥登録商標第4579231号“BlackDiamond”事件(2021)京73行初3275号
 提出された2枚の領収書のコピーは領収書の作成日と番号が同じで商品名は不一致のため1万元の罰金。対象登録商標取消。

参照サイト:北京知識産権法院SNSサイト

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