中国特許法第4次改正内容(1)

今回、中国知識産権局(CNIPA)は、2021年10月17日に第4次の特許法(専利法)の改正を公布し、2021年6月1日の施行を公示しました。何回かに分けて、主な改正事項の紹介とコメントを提供します。一部有料になるものもありますが、ご了承ください。

中国では経済と社会の発展に伴い、製品の競争力を高めるためのデザインの役割はますます重要になっています。 近年、中国企業のデザインのレベルや質は目的に応じて向上しているものの、ご存じの通り、意味のない或いは冒用を含めた大量な意匠特許出願の傾向は変わっておらず、量的には世界一位にランクされています。訴訟や行政摘発からみても、デザインの意匠特許での保護の強化はますます強く求められており、企業の実際のニーズに対応するためにも、今回の特許法の改正により、多くの改善がされましたので、3つの視点からご紹介します。

(1) 部分意匠の追加保護(第2条)
 デザインのイノベーションでは、デザイナーはしばしば既存の製品のデザインを破壊し製品全体の再設計をすることがありますが、多くの場合は製品の一部に新たな特徴を加えたり、変更や改良を加えるといった改善の設計をすることが一般的アプローチです。そのため、中国での製品設計のイノベーションの角度や追加開発の観点から製品の部分的なイノベーションに対する保護は重要なテーマとなっています。一方、日本や欧米、韓国などの主要国では部分意匠を保護する制度があるために、製品の一部のデザインを保護することが企業のニーズに対応しており、国際的に標準的な保護方法でもあるため、中国政府はその必要性を理解し、中国企業が更に新制度を活用するとともに外国市場の開拓で国際競争力を高めることができるように導入しました。
 部分意匠の導入は、部分意匠制度のある日本からの優先権主張出願において、破線部分を実線に修正しなければ保護がされない制限があるために長期にわたり日本から圧力をかけてきましたが、今回の改正の趣旨は、中国政府として、ハーグ国際意匠登録協定に法改正とともに加盟すること、更に現行法を維持すると中国企業がハーグ国際意匠登録協定や欧州共同体意匠制度を利用する場合、他国の意匠権者と同等の保護を享受できないことを予想したために、国内でも部分意匠制度の導入に強い反対があるものの、導入に踏み切った背景があります。筆者も部分意匠制度に基づくデザインの権利保護は限定的であり、権利行使でも不安定であることから物品の要件を求めない中国では部品意匠や類似意匠の活用をお勧めしています。

(2) 意匠特許の保護期限の延長(第42条)
 意匠特許の保護期間が10年から15年に延長されました。これは、前出の通り、中国政府は既に「ハーグ協定のジュネーブ改正協定」を批准し加盟することを決めているために保護期間を調整することが不可欠であり、一方、この改正がイノベーションの主体である企業の多元的ニーズを満たすと考えられています。

(3) 意匠特許出願に国内優先権制度を導入(第29条)
 中国では、特許のカテゴリーに発明特許、実用新案特許及び意匠特許が含まれますが、これまでは発明特許と実用新案特許にのみ国内優先権制度が認められています。今回は、これに加えて、意匠特許出願でも国内で最先の意匠特許出願日から6か月以内に、同じ主題について国内で意匠特許出願をする場合に最先の意匠特許出願の優先権を主張することを認めるものです。
 国内優先権を認める意義は、中国では関連類似意匠の保護は同日出願を原則としており、そのために10件までの関連類似意匠を同一出願にまとめることを認める制度となっています。しかし、中国国内では模倣品業者が本来の意匠特許権者の意匠特許の保護範囲に入らない周辺のデザインを模倣・盗用して製品化し販売する行為がしばしば見られており、意匠特許権者やデザイナーから強い不満が表明されていました。そうした状況を改善し、デザイナーのイノベーション意欲を維持するとともに出願コストの低減、意匠特許のデザイン設計のさらなる充実、そして、保護範囲を調整する機会が得られるようにするものです。
 日本企業は、日本での意匠出願を優先権主張して中国で意匠特許出願をする場合、或いは今後ハーグ協定を利用して中国意匠特許出願をする場合、この国内優先権主張を利用できないため、日本出願する段階から中国にも同時出願するような対応を採ることがこの新制度を活用するためには不可欠です。
 なお、中国は日本のように種別変更を原則認めていません。しかし、国内優先権主張の場合は種別変更ができるために、従来の特実での種別変更に加え、意匠との間にも種別変更が可能で利用できるかどうかを特許法実施条例や特許審査指南の改正で確認する必要があります。

以上、ご参考まで。

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