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中国 最高人民法院による独占禁止と不正競争の典型事例(9月27日)

最高人民法院は、9月27日、人民法院の独占禁止及び不正競争関連の裁判のための指針の発表に合わせて、典型事例10件を発表した。以下は、その紹介分の仮訳でご照会する。個人的には営業秘密侵害と最後のFrandの事件に関心があるが、営業秘密侵害については司法もかなりその立証に協力的になってきたので、自衛する側も行政や司法が協力してくれるような立証の体制を整備し、それを着実に実施し続けることが肝要です。体制整備については多くの経験がありますのでお問合せ下さい。以下は、ご参考まで。

(1)「位置決め鋸」営業秘密侵害事件

-技術秘密権利侵害行為の認定と責任の引受
【事件番号】(2019)最高法知民终7号
【事件情況】優鎧(上海)機械有限公司(以下、優鎧公司という)は、位置決め鋸製品を製造販売する会社であり、当該会社は「測定しながら鋸で切る」という技術秘密を享有しており、李氏、周氏らは優鎧公司を退職後、上海路啓機械有限公司(以下、路啓公司という)を設立するとおもに優鎧会社の技術秘密を位置決め鋸製品の製造販売に利用していると主張した。寿光市魯麗木業股份有限公司(以下、魯麗公司という)は位置決め鋸製品を使用し権利侵害を構成している。第二審で当事者の申立に基づき、最高人民法院は各当事者とともに現場検証を行い技術比較を行った。最高人民法院は審理を経て、第二審での現場検証での実験結果に基づき、被疑権利侵害品の切断方法と結果は係争技術秘密のプロセスに従っているとともに係争技術秘密の技術的効果を実現しており、技術秘密の侵害行為に属するとして、第一審判決を取消し、路啓公司に権利侵害の停止、経済的損失と合理的支出の600万元の賠償を命じた。同時に魯麗公司が正当な理由なく人民法院が差し押さえた証拠を毀損した行為に対し、魯麗公司に罰金を科す決定を下した。
【典型事例としての意義】本件は複雑な技術的事実の究明と法律適用の問題に関連しており、何度もの審理を通じて技術秘密の本質的内容を逐次明確にし、現場調査により侵害事実を明らかにし、立証責任を合理的に分配して権利者の立証負担を軽減し、不誠実な行為に対する厳罰、公正な競争秩序を守るための司法指針を十分に示した。また、当事者の重要な証拠の毀損行為に対する罰金の決定は人民法院が信義誠実の提唱、背信の懲戒し、知的財産権訴訟での信頼性を構築する司法的態度を表明したものである。

(2)「必沃」営業秘密使用許諾契約事件

―営業秘密侵民刑事交差事件の処理
【事件番号】(2019)最高法知民终333号
【事件情況】寧波慈星股份有限公司(以下、慈星公司という)は寧波必沃紡織機械有限公司(以下、必沃公司という)が契約の約定に違反し、慈星会社が秘密保持を要求した技術図面を利用し平編み機設備を生産する行為は慈星会社の営業秘密を侵害するとして、裁判所に提訴した。浙江省寧波市公安局は必沃公司に営業秘密侵害の疑いがあるとし関連事項を立案して捜査した。第一審裁判所は、浙江省寧波市公安局の捜査事実は事件に関わる契約と関連図面の内容をカバーしていると判断し、事件を公安局に移送し処理すると裁定した。必沃公司は不服で最高人民法院に控訴した。第二審の最高人民法院は本件は慈星公司が必沃公司の契約約定違反を提訴した契約の事件であり、技術秘密使用許諾契約の法律問題であると認定した。浙江省寧波市公安局の立件捜査は必沃公司の被疑営業秘密犯罪であり、必沃公司が慈星公司の営業秘密を侵害する権利侵害法律問題である。両者の関連する法律関係は異なり、同じ法律事実に基づいて生まれた法律関係ではないが、それぞれ経済紛争と被疑経済犯罪に関し、両者の係争事件では事実のみが重複している。第一審裁判所は本件は相互に関連があるが、本件とは同一の法律関係にはなく被疑犯罪の手がかりや資料を浙江省寧波市公安局に移送すると応じた。しかし、本件に関わる技術秘密使用許諾紛争も引き続き審理するべきであるため、第一審の裁定を取消し、第一審裁判所での審理を指示した。
【典型事例としての意義】本件は党中央の財産権保護及び企業家の権益保護、法治国家での良好な事業環境の構築に関する政策の要求の実施を徹底し、営業秘密刑事・民事の交差する事件の処理原則を明確にしたもので、民事訴訟担当者が被疑犯罪を理由に民事訴訟手続きの正常な遂行を回避し、民事事件の公正と速やかな処理を保証するだけでなく、公安機関が経済紛争を理由に刑事立件を拒否することを回避し刑事責任と民事責任の混同を招き、司法の公正と権威に影響を与えることも避ることができた。

(3)「愛奇芸アカウント」不正競争事件

-VIPアカウントのタイムシェアリング行為の認定
【事件番号】(2019)京73民终3263号
【事件情況】北京愛奇芸科技有限公司(以下、愛奇芸公司という)は、愛奇芸ウェブサイトと携帯端末用愛奇芸アプリケーションの事業であり、ユーザーは相応の対価を支払い愛奇芸VIP会員になると、広告を飛ばしたり、VIPビデオを見たりする会員特権を受けることができる。杭州龍魂インターネット科技有限公司(以下、龍魂公司という)、杭州龍境科技有限公司(以下、龍境公司という)は運営する「馬上玩(すぐに遊ぶ)」アプリケーションを通じて購入した愛奇芸VIPアカウントを時間貸ししている、これはユーザーが愛奇芸VIPアカウントを購入する必要なく、クラウドストリーミング技術を通じて、愛奇芸アプリケーションの一部の機能を制限できるものである。愛奇芸公司は裁判所に提訴し、影響の排除、経済損失と合理的支出の300万元の賠償を求めた。第一審裁判所は、龍魂公司と龍境公司の係争行為は不正競争を構成すると認定し、権利侵害の停止、愛奇芸公司の経済的損失と合理的支出の合計300万元の賠償を命じた。龍魂公司と龍境公司は一審判決に不服で控訴した。第二審の北京知識産権法院は龍魂公司と龍境公司の行為は愛奇芸公司が合法的に提供するインターネットサービスの正常な運行を妨げ、主観的な悪意が明らかであると認定した。龍魂公司と龍境公司がインターネットの新技術を利用し社会に新製品を提供することは業界の新たな発展を促進するニーズに基づいているのではなく、当該行為は長期的に見て徐々に市場の活力を低下させ、競争の秩序とメカニズムを破壊し、インターネット動画市場の正常で秩序のある発展を阻害し、最終的には消費者の福祉の減損をもたらすことになり、正当なものではない。北京知識産権法院は控訴を棄却し、一審判決を維持した。
【典型事例としての意義】本案件はインターネット環境における新たな不正競争行為を効果的に規制する典型例である。当該事件は人民法院がインターネット事業者と消費者の合法的利益に対する効果的な保護を体現していると同時に人民法院のイノベーション要素に対する考慮も反映している。本件は、インターネット動画業界における新たなビジネスモデルの合理的境界を明確化し、人民法院がインターネットプラットフォームの秩序ある発展を促し、社会のイノベーション活力を奨励し、公正な競争市場環境を構築するための司法指導を明確にした。

(4)「陸金所金融サービスプラットフォーム」不正競争事件

-インターネット上の買占サービス行為の認定
【事件番号】(2019)沪0115民初11133号
【事件情況】上海陸家嘴国際金融資産交易市場股份有限公司(以下、陸金所公司という)は有名なインターネット財産管理プラットフォームであり、上海陸金所インターネット金融情報サービス有限公司(以下、陸金服公司という)はその全額出資子会社である。両者は金融サービスウェブサイトと携帯電話アプリケーション(以下は関連プラットフォームという)を開設し、債権譲渡商品取引はその中の人気サービスである。債権譲渡商品を買占めるためには、ウェブサイト会員は常に関連プラットフォームに登録し、注目債権譲渡商品の情報を頻繁に更新しなければならない。西安陸智投ソフトウェア科技有限公司(以下、陸智投公司という)は「陸金所代理購入ツール」ソフトウェアを提供しており、ユーザーは当該ソフトウェアをインストールして実行することにより、関連プラットフォームが公開している債権譲渡商品の情報をきにすることなく、予じめ設定された条件により自動的に買占めることができるとともに、手動で購入する会員よりも先に取引を完了することができる。陸金所公司、陸金服公司は、陸智投公司の上述の行為は不正競争を構成するとして、裁判所に提訴した。上海市浦東新区人民法院は陸智投公司が提供した買占サービスは技術手段を利用してユーザーに不当な買占めの優位性を提供し、関連プラットフォームの既存の買占めルールに違反し、その監督管理措置を故意に回避し、事件関連プラットフォームのユーザーの粘り強さと事業者の環境に深刻な損害をもたらしており、不正競争を構成すると認定しなければならないとした。上海市浦東新区人民法院は陸智投公司に不正競争行為の停止、影響消除の公開及び陸金所公司、陸金服公司の賠償請求を全額支持した。
【典型事例としての意義】インターネット買占めサービスはインターネット金融の急激な発展に伴うものである。本件はインターネット上の不正競争事件の審理の構想と裁判規則を明確化し、社会の関心事にタイムリーに応え、科学技術金融企業の競争利益と投資ユーザーの消費者の権益を考慮し、更に金融プラットフォームのビジネス環境の維持に重要な意義がある。科学技術金融業界の秩序ある発展のために明確な規則とガイドラインを提供した。本件の判決後、当事者は和解し判決を受入れており、事件は比較的より良い法的効果と社会的効果をもたらした。

(5)「720ブラウザ」不正競争事件

—ブラウザの広告ブロック行為の認定
【事件番号】(2018)粤73民终1022号
【事件情況】湖南快楽陽光インタラクティブ娯楽メディア有限公司(以下、快楽公司という)はマンゴーTVサイトの事業者である。広州唯思ソフトウェア股份有限公司(以下、唯思公司という)は2013年より720ブラウザの運用を開始している。インターネットユーザーは720ブラウザの内蔵機能により、マンゴーTVサイトのオープニング広告と一時停止広告をデフォルトでブロックし会員に広告なしの機能を実現している。快楽公司は唯思公司の行為が不正競争を構成するとして、裁判所に提訴した。第一審裁判所は快楽公司の訴訟請求を棄却した。第二審の広州知識産権法院は唯思会社の技術の中立性の抗弁は成立せず、唯思会社の行為は信義誠実の原則と一般に認められる商道徳に違反し、社会的経済的秩序の混乱させ、不正競争を構成するとして、唯思公司に快楽公司の経済的損失と合理的支出80万元の賠償を命じた。
【典型事例としての意義】ブラウザによるの動画広告のブロックは社会的に関心が高いインターネット競争行為であり、司法実務での認定の難しいポイントでもある。本件の第二審判決はブラウザによる動画広告のブロック行為を多角的総合的に評価し、インターネット上の不正競争行為を認定するための構成要素と適用の場面を細分化し、不正当競争法の一般条項の適用などの法律適用の難しさについて有益な検証を行った。本件は人民法院が新技術新業態の新分野に対して絶えず競争法の法律規則を改善していることを生き生きと体現している。

(6)「微信グループコントロール」不正競争事件

-データ権益の不正競争防止保護
【事件番号】(2019)浙8601民初1987号
【事件情況】深圳市騰訊コンピュータシステム有限公司、騰訊科技(深圳)有限公司(以下、テンセントという)は、共同で運営する個人用WeChat製品を開発し、消費者にインスタントコミュニケーションサービスを提供している。浙江捜道インターネット技術有限公司、杭州聚客通科技有限公司(以下、被告という)じが開発運営する「聚客グループコントロールソフトウェア」は、Xposedプラグイン技術を利用し、このソフトウェアの「個人アカウント」機能モジュールを個人のWeChat製品に組込み、このソフトウェアサービスを購入したWeChatユーザーが個人用WeChatプラットフォームでのビジネスマーケティングや管理活動を行うための支援を提供していた。テンセントは、被告が無断で事件に関連するデータを取得し使用したことは不正競争を構成するとして、裁判所に提訴した。杭州鉄道運輸法院は、インターネットプラットフォームのデータはデータリソース全体と個別単一のデータに分割され、インターネットプラットフォームの当事者はさまざまなデータの権益を享受していると認定した。被告の関連被訴行為はWeChat製品のデータセキュリティを危険にさらし、関連法律規定及び商道徳に違反し、不正競争行為を構成する。杭州鉄道運輸法院は両被告に直ちに事件に関連する不正競争行為を直ちに停止し、両原告の経済損失と合理的な経費260万元を共同で賠償するよう命じた。
【典型事例としての意義】本件はWeChatデータ権益認定に係わる中国初の案件である。デジタル経済の重要な生産要素として、データは市場における激しい競争の重要な資源となている。データの権益の帰属、権利の境界、及びデータキャプチャー行為の不適切さをどのように判断すべきかは社会から広く注目を受けている。本件の判決はすべての当事者の利益のバランスをとり、データ権益の司法保護のための合理的な分析の基礎を提供し、またデータ帰属の規則を構築し、デジタル経済法制度を改善するために参考になる司法事例を提供した。データ独占を防止し、デジタル経済の革新的な発展を促進することにも積極的な意義がある。

(7) 数推公司、譚氏の不正競争事件

—インターネットやらせ行為による不正競争の認定
【事件番号】(2019)渝05民初3618号
【事件情況】数推(重慶)インターネット科技公司(以下、数推公司という)は自然人独資有限会社であり、譚氏は数推公司の執行役員兼総経理であり、同社の唯一の株主である。数推公司と譚氏は2017年12月から2019年7月まで「ペンギン代商ネット」「金招代刷ネット」など6つのウェブサイトを開設し、顧客の注文の受付、注文の転送或いは譲渡し、インターネット技術を利用し、深圳市騰訊コンピュータシステム有限公司、騰訊科技(深圳)有限公司(以下、テンセントという)のウェブサイトと商品サービスのコンテンツ情報のクリック数、閲覧数、読取数を偽って増加させるとともにこれを宣伝し、注文と送金の差額を得ていた。重慶市第五中級人民法院は、数推公司、譚氏の有償でのやらせ行為は不正競争を構成し、数推公司と譚氏は連帯して原告の経済損失と合理的な支出の合計120万元を賠償するよう判決を下した。
【典型事例としての意義】本件はインターネット上のブラックとグレーの産業に対抗するための典型的事例であり、インターネット事業者が有料で虚偽のやらせービスを提供する行為は信義誠実の原則と商道徳に違反し、合法的な事業者、ユーザーと消費者の権益を損ない、正常な競争秩序を乱し、不正競争法にの対象として規制すべきであることを明確にした。本件は不正競争防止法第12条に規定される「その他」の不正競争行為について有益な探究を行い、インターネット上のブラックとグレーの産業に係る類似事件を審理するために裁判指針を提供した。

(8)「供水公司」の市場での支配的地位濫用事件

-公営企業による独占行為の認定
【事件番号】(2018)桂01民初1190号
【事件情況】永福県供水公司(以下、供水公司)は水道の公営会社である。呉氏は同社に水道を申込み、供水公司は「水道設置申請書」を記入するよう求めた。当該申請書は水道と水道メーター設置の両方に契約し、同時に水道契約書への署名と設置工事の前払金の支払いが必要であった。呉氏は水道メーター料金と設置費用合せて2500元支払った。その後、呉氏は「個人ユーザー水道設置工事契約書」に署名することに同意せず、水道メーターを自分で購入し、工事サービス料の返金を求めた。供水公司はまだ呉氏に返金も水道サービスも提供していない。呉氏は供水公司の行為が抱合せ取引など4つの市場での支配的地位の濫用行為を構成するとして、裁判所に提訴した。広西チワン族自治区南寧市中級人民法院は供水公司には永福県の所轄地域内の都市公共水道サービスにおいて市場での支配的な地位を備えていると認定した。供水公司は、その過程で、呉氏に水道施設資材の購入や設置サービスを他から購入する選択肢を与えなかったため、供水公司はユーザーが水道を申込むときに、同時に水道施設の設置を購入するという形で抱合せ取引を行っており、当該契約は無効と認定されなければならない。南寧市中級人民法院は、供水公司は呉氏の設置費の返還、利息の支払い、経済的損失と合理的支出を賠償の判決を下した。
【典型事例としての意義】本件は公営会社の独占的行為の認定に関する。水道、電気、ガスの供給企業などの各種の公営会社は初期設置時に初期設置料金と設備費をまとめて徴収する場合がある。本件は公営会社の市場での支配地位と市場での支配地位の濫用行為の認定基準を明確にし、同種の事件に参考となる意義がある。本件はまた公営会社の経営規範に明確な行動指針を提供し、公営会社がサービスを提供するときに、その市場での支配地位を濫用し、市場競争を損なわないようにすることに役立つ。

(9) 「煉瓦協会」独占紛争事件

―水平独占契約実施者の損害賠償請求権の認定
【事件番号】(2020)最高法知民终1382号
【事件情況】張氏は宜賓市煉瓦協会((以下、煉瓦協会という))の発起人である四川省宜賓市呉橋建材工業有限責任公司(以下、呉橋公司という)、宜賓県四和建材有限責任公司(以下、四和公司という)、曹氏などの強要のもと、当該煉瓦協会に加入し、「生産停止改善協定」を締結し、当該契約のために生産停止を迫られたと主張した。煉瓦協会及びその発起人は上記の協定を広く締結することにより、宜賓市の一部の煉瓦会社に生産を停止させ、煉瓦の供給量を減らすことにより価格を上げ、不当な利益を獲得していた。上記の行為は明らかに競争の排除或いは制限を目的としており、一定期間内に競争を排除或いは制限する効果を達成しており、独占禁止法に規定される水平独占協定を構成している。しかし、煉瓦協会とまだ生産を続けている煉瓦企業は、少額の生産停止支援費を支払った後、協定の条項に基づき支払いを中止したため、その行為は張氏を競争への参加を排除するものであり、独占禁止法違反を構成するとして、裁判所に提訴された。第一審裁判所は、告発された行為は独占禁止法違反を構成し、張氏の権益を侵害したと判断し、呉橋公司、四和公司、曹氏、煉瓦協会は連帯して経済損失33.6万元と合理的支出5000元を賠償する判決を下した。呉橋公司、曹氏、煉瓦協会は不服で最高人民法院に控訴した。第二審の最高人民法院は、当該事件の核心問題は張氏が当該案件の水平独占協定の実施者の一人として、他の実施者に対しいわゆる経済損失の賠償を要求する権利があるか否かであると判断した。水平独占協定の実施者が損害賠償を主張していることは、実質的に独占の利益の分割を要求していることに鑑みて、一審判決を取消し張氏のすべての訴訟請求を却下した。
【典型事例としての意義】水平独占協定の実施者が他の実施者に対して、当該水平独占協定の実施により被った損害の賠償を要求した場合、本質的に水平独占協定の実施者間で独占の利益の再分配を要求したことになる。本件は独占による民事救済の目的と方向性を明らかにし、損害賠償救済者のその行為が正当かつ合法的でなければならないとの基本原則を明確にし、水平独占協定実施者が他の実施者に、いわゆる損失補填を賠償するよう要求したことで、独占の利益の分配の本質を明らかにした。水平的独占行動を取締り、公正な競争秩序を維持し、業界団体の健全な発展を導くことには重要な意義がある。

(10) Sisvelによる市場での支配地位濫用事件

-外国標準必須特許独占紛争管轄権の確定
【事件番号】(2020)最高法知民辖终392号
【事件情況】OPPO広東移動通信有限公司(以下、OPPOという)とOPPO広東移動通信有限公司深圳支社(以下、OPPO深圳という)は全世界的スマホメーカーとモバイルネットワークサービス事業者であり、共同して広州知識産権法院に、無線通信分野に関する標準必須特許(以下、SEPという)を保有するSisvel International S.A.とその子会社の西斯威爾香港有限公司(以下、シズベルと略称)を市場での支配的地位を有し、SEP使用許諾協議において公平、合理的及び非差別的(FRAND)の原則に違反し、不当に高いライセンス料を徴収するなど市場支配の地位を乱用する行為を行い、そして、同一特許でさまざまな国で訴訟を起こし、OPPOおよびOPPO深圳の事業活動に悪影響と経済的損失を与えたと主張し訴訟を提起した。シズベルは管轄異議を申立て、広州知識産権法院が本件を管轄権する事件証拠が不十分であり、シズベルはすでにSEP許諾問題でイギリスの裁判所で訴訟を起こしており、この件はイギリスの裁判所で審理されるとると主張した。広州知識産権法院はシズベルの管轄異議を却下した。シズベルは不服で控訴した。第二審の最高人民法院は、SEP許可市場の特殊性を考慮し、シズベルが他国で特許権侵害訴訟を提起していることも鑑み、OPPOなどが参加する国内関連市場で競争を排除し、制限する直接的、実質的で、重大な影響を及ぼす可能性があると判断した。OPPOの所在地である広東省東莞市は本件の侵害結果発生地とすることができるため、広州知識産権法院は本件に管轄権を有する。
【典型事例としての意義】本件はSEPに関連する市場での支配的地位の濫用に係る独占紛争の管轄問題に関する。本件は双方当事者が全世界のさまざまな司法管轄区で並行するSEP特許権侵害紛争が中国の裁判所が管轄する独占紛争への影響に関連しているだけでなく、独占紛争に関連する事件の事実が国外で発生した場合に不便宜な法廷(forum non conveniensの原則)が適用されるか否か問題が発生した。本件の裁定は、独占禁止法第2条に規定される域外適用の原則に基づき、独占紛争の域外管轄問題を調査し、国際的SEP独占紛争事件に関わる管轄規則を明確にし、人民法院が法により独占禁止事件に対する司法管轄権を積極的に行使し、公正な競争の市場環境を維持するために司法機能を十分発揮した典型的な事例としての意義がある。

参照サイト:http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-324491.html

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