見出し画像

中国 商標の使用証拠について

中国の現在の商標法は、2019年11月1日より改正施行されており、第4条に「使用を目的としない悪意のある商標登録出願は、却下しなければならない。」との一文が追加されて、悪意先取り商標は認めないとの規定が明記されましたが、いずれにしても、第7条に規定されるように信義誠実の原則のもと、商標の品質と出所を識別させる社会的な責務があります。そして、使用については、第48条に「本法にいう商標の使用とは、商標を商品、商品の包装若しくは容器及び商品取引文書上で用い、或いは広告宣伝、展示及びその他の商業活動において用いる、商品の出所の識別のための行為を言う。」と定義しています。また、商標法実施条例第63条には、「登録商標を使用する場合、商品、商品の包装、説明書或いはその他付随するものに「登録商標」或いは登録記号を表記することができる。登録記号には㊟とⓇが含まれる。登録記号を使用する場合、商標の右上角或いは右下角に表記しなければならない。」と、登録商標の表示(マーキング)の規定があります。登録商標のⓇやTMの記載は各国でのルールが統一されていませんので、記載するときには注意をしなければならないですが、中国では登録商標の態様と同じ記載の場合はⓇを使用し、他の文字列と一体で併記するような場合や出願中で未登録の場合はTMを使用することが望ましいです。商標の記載が虚偽表示となると処罰を受けることがありますので、適切に必要な配慮をするようにします。
 いずれにしても、商標の使用とは、商標のビジネス上の使用をいい、商標を商品、商品の 包装或いは容器、商品の取引書類に使用する行為、或いは商標を広告宣伝、展示及びその他の事業活動に使用して商品やサービスの出所を識別させる行為をいいます。従って、商標権者は、登録された標章を登録された指定商品やサービスに使用している場合、当該登録商標権を維持することができます、しかし、登録された標章に類似する標識を使用したり、登録された指定商品以外の類似商品にの登録商標を使用ている場合、当該登録商標権を維持することはできないことになります。
 ここでは、商標の使用をどのように証拠とともに立証するか、特に、3年連続不使用取消の申立を受けた場合の自身の商標の使用証拠、或いは悪意先取り登録商標に不使用取消をかけた相手が提出した使用証拠について検討します。  


1. 使用証拠の基本的条件

1.1 対象登録商標の使用地域
 登録商標の権利は、中華人民共和国の「商標法」の効力が及ぶ地域範囲内で使用ができるため、その地域、つまり、香港、マカオと台湾は除き、大陸内での使用を証明する証拠が必要となる。
 インターネットでの電子商取引の場合、サーバーが中国以外に存在する場合、例えば、アリババグループの香港T-mallを通じて中国向けに商品を販売するような場合、サイト自体が中国語であることや料金が中国元であるように中国向けであることが望ましく、英語や日本語のサイトで料金もドルや日本円の場合は中国向けとは言えない。

1.2 対象登録商標の使用者
 登録商標の使用者と法律で明示されているのは、商標登録者である商標権者自身及び当該登録商標の使用許諾を受けた第三者(ライセンシー)が対象となる(商標法実施条例第66条2項)。
 これに加えて、司法解釈では、商標権者の意思に反しないその他の者による使用も商標法第49条2項の使用と認定できるとしている(最高人民法院司法解釈:法釈[2017]2号の第26条、北京高級人民法院商標指南(2019年)第19.6節)ため、現地法人や製造委託先なども使用者と言える。
 日本企業が直接、中国での登録商標を中国で使用するのは、日本からの中国に商品を輸出する場合などに限られており、販売代理店、委託製造先などのライセンシーに加えて、自社の現地法人、製造委託先や特定目的の事業のための合弁会社や関係会社が登録商標を使用する立場である場合、意思に反しない者による使用と言えるでしょう。この他に、顧客やライセンス関係のない正規販売代理店なども対象なるでしょう。但し、第三者への使用許諾や意に反しない使用者の使用証拠を利用する場合、使用許諾関係や意に反しないことを併せて証明できなければならないことは言うまでもないことです。いずれにしても、商標権者、ライセンシー、現地法人、製造委託先など以外の者の使用は客観性はあるものの、主体性が弱いために商標局では使用と認められない可能性があるので、補強証拠とすることが好ましいと思います。
 また、証明する期間中に商標権者や使用者に譲渡や変更などがあった場合は、そうした譲渡や変更の事実を証明する証拠書類を提出しなければなりません。
 こうしたことからすると、ライセンス契約を締結せずに、製品の販売や商標の使用を許諾する授権書を発行し、その対象者の商標の使用が正当なものであることにしておくのは立証には役立つことになります。

1.3 対象登録商標を使用した日
 登録商標の使用は、登録日から発生するため商標公報に登録が公示された日から登録は発生するため、その日以降の使用が法律上の登録商標の使用に該当する。中国では、通常、異議申立がなかった場合、公告日の3か月後の翌日が登録日になる。
 3年連続不使用取消は、登録の公告日から満3年後から申立てることができる(商標法実施条例第66条3項)ために、先登録商標が審査で引用されたが、まだ登録後満3年経っていない場合、3年後まで待つか、無効取消を主張することを検討することになります。
 3年連続不使用取消での使用証拠は、申立日の前日から遡って3年間のいずれかの時期での使用の証拠を出さなければなりません。この期間以外の使用証拠は提出しても証拠として認められません。

1.4 対象登録商標の標識の使用
 登録商標の標章の態様は、商標法第8条に保護対象とされている、「文字、図形、アルファベット、数字、立体、色の組合せ、音(2014年5月1日以降可能になった)、及びこれらの組合せ」となります。
 文字、アルファベット、数字は、縦書きと横書きの場合があります。2010年の司法解釈(法発2010-12号)が出されるまでは、登録された態様での使用でなければならないと考えられていたが、これ以降、識別性(顕著性)が変更されていないならば実際の使用行為と認定されるようになりましたので、登録された態様と比べて極端に判断しずらい変更がされていなければ使用と判断されるでしょう。なお、会社名や会社名の固有な部分の文字、アルファベット、数字を標章として商標登録している場合は、商号としての使用、或いは、他の文字列と組合せ、例えば、スローガンやキャッチコピーのような一文での使用などは登録商標の使用と認定されません。
 こうした文字、アルファベットや数字、図形のが白黒以外の特定の色をクレームして登録した場合、また、特定の色の組合せの標識を登録した場合、特定した指定色以外の色での使用も登録商標の使用と認定されません。
 さらに、文字、アルファベットや数字と図形が複数の要素として組み合わせた標章の場合、使用した標章が登録商標と同様に全ての要素が含まれていなければ使用と認定されません。つまり、登録商標に含まれるの文字や図形のみを単独で使用している場合は、登録商標の使用と認定されなません。
 また、商品のパッケージやラベル、或いは店舗の看板などをそのまま商標として登録している場合、その内容が変更され要素が変わっている場合も登録商標の使用と認定されなません。
 以上のように、要素の変更は識別性に変更が生じたことになり、使用とは認定されないと理解しましょう。

1.5 対象登録商標の登録指定商品やサービス(役務)での使用
 登録商標を使用する上で最も重要なことは、登録された指定商品やサービス(役務)での使用があることです。使用の具体例を説明すると、例えば、パソコン用のインクジェットプリンター(9類)を指定商品とする登録商標を指定商品の登録のないインクカートリッジ(2類)に使用した場合、登録商標の使用とはなりません。また、お茶の飲料(30類)を指定した登録商標をアルコール飲料(33類)で使用しても、登録商標の使用とはなりません。スポーツジムを経営(41類)するために取得した登録商標をインターネットの広告(35類)にのみ使用している場合も、登録商標の使用とはなりません。なお、「小売り」にかかるサービスの指定が中国では薬品や医療用品に限られているため、これらの商品以外の小売りを35類で登録することはできませんので、商標登録時に商品に対応する区分での登録をするなど相応の対策をしておくことが必要です。
 いずれにしても、商標の登録時には、その専用権として商品や役務の範囲を自ら指定(限定)し、登録を受けているのです。従って、専用権の範囲を超えた、或いは関係のない商品やサービスで使用しても、使用(専用権を実施)したことにはなりません。
 ここで注意しなければならないのは、直接対象商品を指定せず、上位概念の用語に該当する商品名や何かの商品の付属品のような形で指定商品を登録している場合、使用している商品がその登録指定商品に該当するのかどうか、疑義が生じることになります。中国では、「類似商品役務区分表」を参考に商品やサービスを決定、或いは確認します。「類似商品役務区分表」に記載されている商品やサービスの名称は規範的表現とされていますが、登録商標の指定商品の名称と区分表の名称が単に異なるだけで、実質的に同一の商品である場合、或いは実際に使用しているのものが同一の商品である場合、またはその指定商品は区分表の商品の下位概念に商品に属する場合、指定商品の使用と見做すことができます。
 区分表は機能に基づく分類になっていることや登録指定商品やサービスは列挙主義を採用していることから、商標を出願するときから使用の立証を前提とした商品やサービスの選定をすることが肝要です。なお、区分表の変更により、適用が変更になっても使用と認められることもあります。

2.使用証拠の具体例

2022年1月から改正施行された商標審査審理指南の第17章5節では、商標の商品やサービス(役務)での具体的な使用方式を以下のように例示しています。

2.1 商品での使用
(1) 商品、商品の包装、容器、ラベルなどに直接貼付け 、刻印、烙印 (焼き印)或いは織込みなどの方式で商標を付着させる、或いは商品のタグ、製品説明書、紹介案内書、価格表などでの使用;
(2)商標を商品販売に関連する取引文書での使用で、商品の販売契約書、公的領収書(発票)、伝票、受領書、商品の輸出入検査検疫 証明書 、通関書類、電子商取引( ECサイト )取引伝票或いは販売記録などでの使用;
(3)商標をラジオ、テレビ、インターネットなどのメディアにおいて使用 、或いは発行された出版物で発表、及び広告看板、郵送広告、その他の広告として商標や商標を使用した商品を広告宣伝で使用;つまり、商標を直接サービスの提供場所での使用を意味し、サービスの紹介案内書、提供場所の看板、店舗の装飾、スタッフの服装、ポスター、メニュー、価格表、クーポン 、事務用品、便箋及びその他の指定サービス関連用品での使用が含まれる;
(4)商標を展示会、博覧会で使用;つまり、展示会の印刷物とその他の資料、出展者パス、案内掲示板、バックボード などでの商標の使用;
(5)商標の使用を国家機関、検査或いは鑑定機構及び業界団体が発行する法的書類、証明書類での使用;
(6)法律規定に適合するその他の商標の使用。
なお、商品での使用においては、中国国内での販売、販売の申し出に加えて、輸出も使用の対象となるので、輸出関係書類も証拠となりうる。

2.2 サービス(役務)での使用
(1)商標をサービスの提供場所での直接的使用;サービス紹介マニュアル、提供場所の看板、店舗の内装、スタッフの服飾、ポスター、メニュー、価格表、クーポン、事務用品、便箋及びその他の指定役務関連用品での使用を含む;
(2)商標をサービスに関連する書類資料での使用;領収書、送金伝票、役務 の 提供契約 書 、修理・保守証明書、電子商取引( EC サイト)取引伝票或いは販売記録などを含む;
(3)商標をラジオ、テレビ、インターネットなどのメディアでの使用、或いは公開発行される出版物においての発表、及び広告看板、郵送広告或いはその他の広告での商標自体、或いは商標を使用するサービスを宣伝する目的で行った広告宣伝での使用;
(4)商標を展示会、博覧会での使用;展示会、博覧会において提供される当該商標を使用した印刷物とその他の資料における使用を含む;
(5)商標の使用を国家機関、検査或いは鑑定機構及び業界団体が発行する法的書類、証明書類での使用;
(6)法律規定に適合するその他の商標の使用。

 証拠には3要素があり、真実性、関連性、合法性です。関連性は当然のことですが、対象の登録商標に関連し、合法性とは法律に基づいていることですが、最も問題になるのは真実性です。使用証拠は、原則、商標を使用した「原本」を提出しますが、商品やサービスのカタログ、チラシ、サンプル、包装、見積書などは商標使用者自身が作成した資料であるため、ビジネス活動で顧客や利用者などの第三者に提供されたものかどうか客観性が不足しています。一方、領収書、販売契約書、広告宣伝資料などは、第三者との契約に基づくものであり、第三者の押捺や支払い記録などがあれば真実性を認めることができると言えます。従って、商標使用者自身が作成した資料の場合、その配布や使用を立証する補助的証拠があると真実性があり、商標局では比較的真実性が高い証拠と判断できるような場合コピーでも証拠として認定します。しかし、評審や裁判所ではコピーや写真を認めず、原本或いは公証付きであることが求められます。外国で形成された証拠の場合は、公証と領事認証が必要となります。また、証拠が中国語以外の場合、翻訳文を合わせて提出することが不可欠です。このように証拠の真実性について、十分配慮をしないで提出すると後日無効取消の理由になるため、細心の注意が必要です。

2.3 使用と見做されない証拠
(1)登録商標の記載や表示或いは商標権者による登録商標権保持の声明;
(2)単なる景品としての使用、一般に公開されたビジネス事業での使用ではない;
(3)登録商標の要部と顕著な特徴を変更した使用;
(4)商標の譲渡や許諾、或いはその登記があるが、実際の使用がない;
(5)単に登録商標を維持する目的でのみの象徴的な使用;
(6)登録指定商品やサービス以外の類似商品やサービスでの使用。
 類似商品とは、機能、用途、主要原料、生産部門、販売経路、販売場所、消費者層などが同一または緊密に関連している商品になります。

3.使用証拠としての認否

単に以下に掲げる証拠を提出するだけでは、商標法上の商標使用とは見做されません。
(1)商品の売買契約書、或いはサービス提供合意書、契約書。
(2)書面による証言や陳述。
(3)改ざんの有無が識別できない物証、視聴資料、ウェブ情報など。
(4)実物やコピー。

 使用証拠は、少なくとも、登録商標+指定商品+使用日付(過去3年以内)+使用場所(中国大陸)+使用者(商標権者或いはライセンシー)を同時に示すものでなければなりません。
 つまり、登録商標が付された商品現物を提出しても、日付や製造・販売地の記載がない場合、使用期間や使用場所を立証できないために何の意味もありません。日付や場所などの情報がバーコードで記載されている場合はそうした記載ルールとともに読み取った結果を示す補助資料がなければ、十分な証拠にはなりません。こうした観点からは、梱包用の段ボールに、商標と品名があり、更にバーコードで日付や出荷地などの情報がある場合、現物よりも証拠としては必要条件を揃えていると言えます。
 売買取引の場合には、納品書や領収書に商品の型番の記載があっても、登録商標が記載されていない場合があります。こうした場合も型番と商品+商標を結び付けるカタログなどがないと十分使用を証拠立てていないことになります。
 宣伝資料やインターネットでの紹介サイトでの商標の使用の場合、過去のそうした使用状態を立証することは容易でありません。展示会での商標の使用では使用証拠と展示会主催者の作成した参加を証明する書類や資料、出店時の支払い記録など、インターネットでの掲載では定期的に中国国内でそのサイトを閲覧できる状況を公証した記録などを残しておくことで、使用を証拠だてることができます。このように、定期的に使用の事実を立証する証拠を作成しておくことは肝要です。

4.正当な理由がないことでの例外

 商標法実施条例の第67条には、下記の情状を使用をしていない場合の正当な理由として認めると規定していますので、これらの事情に対応した証拠や陳述を提出することで、無効取消から免れることができます。
(一)不可抗力
(二)政府の政策による制限
(三)破産清算
(四)商標登録人の責によらないその他の正当な事由。
 こうした規定について、最高人民法院の司法解釈によると「商標権者に商標を真正に使用する意図があるとともに、実際に使用するための必要な準備があるものの、その他の客観的な原因により未だ登録商標が実際に使用されていない場合」としていますので、例えば、(二)については、工場まで建設したが製造承認や販売承認が未だ政府や地方政府から出されていないような場合が考えられます。
 こうした条件はケースバイケースであることが多いため、提出できる証拠や陳述書については、代理人と相談することが良いでしょう。

上記に関連する法律は本文中に記載していますが、他には以下の商標局の説明書、基準や裁判所による司法解釈があります。
商標局関連
①商標審査審理指南
②商標使用証拠の提供に関する説明
裁判所関係
③北京市高級人民法院商標登録権利確定行政事件審理指南
④最高人民法院による商標登録確定行政事件の審理に関する若干の問題に関する規定(法釈[2017]2号、法釈[2020]19号)

■著作権表示 Copyright (2021,2022,2023) Y.Aizawa 禁転載・使用、要許諾
上記は情報の一つであり、その結果に何ら保証や責任を負うものではありません。なお、転用、転載する場合は事前にご連絡ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?