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中国 「丁真」大量な悪意商標出願却下

中国やアジアの一部で大人気の「丁真(Dingzhen)」くんをご存知でしょう?彼は今20才、四川省カンゼ・チベット自治州理塘県(Litang)に住むチベット族の青年です。理塘は海抜4000メートルの高地で「天空の街」とも呼ばれる風光明媚な地で、ダライ・ラマの生誕地としても有名であるが、観光などは少なく住民は約7万人とあまり裕福な街でもない。彼はこうした地方の町で家族とともに暮らしいるが、ある旅行者がSNSに彼を投稿したところ2020年11月からその純朴な素顔などから中国の若者たちから注目され、一躍有名人となった。その後、地元の観光大使に就任し、彼のプロモーション動画が掲載されると大量にアクセスされ、中国のCCTVのみならず、アジアや日本のテレビ局でも報道がされて、多くの人々に知られる存在となった。「丁真」とグルっていただければ、YouTubeを含めかなりの情報が簡単に出てきます。

いつものように、そんなところに注目した中国人は「丁真」の先取り商標出願を競い合い、「丁真」を含む関係の商標出願が168件(2月12日現在)されています。このうち、丁真との観光業務での関係のある「理塘県文旅体投資発展有限公司」はその関係から正当な商標出願と言える「丁真珍珠」を33件行っています。こうした状況で、商標局は2月10日付、「丁真」関連の大量な悪意商標出願の91件を却下したと公示しました。これは、一連の悪質で使用を目的とせず販売目的であったり、有名な名前にフリーライドする(傍名牌)ための先取りや買占め商標出願(囤積商標)に対する対抗策であり、こうした公示を商標局がすることは、こうした不正行為に歯止めやブレーキをかける目的があると思われます。
参照サイト:
https://www.cnipa.gov.cn/art/2021/2/10/art_75_156734.html
https://www.cnipa.gov.cn/art/2021/2/10/art_75_156733.html

91件の内、13件は同一の会社の出願のもので商標法第4条1項(事業活動とは関係のない出願)と第10条1項(7)号(欺瞞的性格を帯びているもの或いは品質や産地を誤認混同させるもの)で却下されました。出願人は、「湖南省玛吉阿米電子商務有限公司」で、代理人は「长沙名冠知识产权代理有限公司」で、商標は「丁真」、区分は2、5、9、10、11、12、15、16、20、24、27、29、30(区分に詳しくない人はこちらを参照)と多岐にわたります。一方、この会社は登記上、会社名に「電子商務」とあるように、業務カテゴリーは「ソフトウェアと情報技術サービス」であり、事業範囲は電子商取引プラットフォームの開発、基礎ソフト開発、情報技術コンサルティング、会議・展覧及び関連サービス、企業管理コンサルティングサービスなどと、おそらくはネット販売のために、衣料品、日用品、ベビー用品、おもちゃ、アクセサリー・ジュエリー、家電品、フィットネス・スポーツ用品および機器などとなっています。こうした登記状況では35類や42類が必須であるが出願がなく、対象製品ではせいぜい9、10、24、27類くらいであるが自社製造はしなない可能性も高く不要と考えられる。こうしたことから、商標法第4条1項(事業活動とは関係のない出願)が適用されたと思います。
 悪意商標出願に対して、商標法のどの規定を活用するかは、本来の商標や財産権の所有者の所有や使用の情況より変わることになりますが、本件の会社のよう事業と直接に関係のない商標区分での出願に対して、商標局は第4条1項の適用を考えているので、異議申立や無効取消で本条項を活用することはお勧めです。

残りの73件については、商標法第10条1項(7)号(欺瞞的性格を帯びているもの或いは品質や産地を誤認混同させるもの)で却下されていますが、商標は、「丁真」に加え、丁真号、丁真笑、丁真真、丁真家私、丁真干巴、丁真小哥、丁真的世界、丁真的微笑、甜野丁真、扎西丁真、我愛丁真、机场(機場:空港の意味)丁真、遇見丁真の14種類で、区分は、2、3、5、9、10、11、13、14、16、17、18、20、23、24、26、29、30、31、32、33、34、35、36、38、39、41、42、43、44の29区分に及んでいる。出願人は王向陽ほか個人名で19人、河南深層網絡科技有限公司ほか会社名で32社です。なお、代理人は北京捷先知識産权代理有限公司ほか42事務所になります。この中では、1件だけ出願している出願人も多く含まれるため、「丁真」が個人名であることや他に同種の悪意商標出願があると判断されたと思われます。こうした個人名の商標出願については、絶対的な拒絶理由でなく32条の先の権利(商号、著作権、意匠、氏名権、肖像権など)の対象と思いますが、本件では適用されていないです。

いずれにして、ここで出てきたような出願人や代理人はブラックリストに登録されて、今後の商標出願の際に過去の悪事があるかどう確認されることになります。

今回却下されていない「丁真」関連商標出願は他にも「丁真牦牛肉」などがありますが、新たな商標出願は門前払いする可能性が高いと思います。当方の経験でも、気になっていた未審査の先取り商標出願がいつの間にか却下処分されているケースがあり、ホッとしたことがあります。

とは言え、ここでの教訓は、商標局の悪意商標出願に対する積極的な取り組みが見られることを確認する際に、やはり中国国内で有名な情況が必要であり、日本で有名だからと言って、悪意の理由にはならないということです。日本企業や日本人は自分たちは一定の有名な、知られた、(周知の)との思いがありますが、そんなことはありません。日本の地名や地方の有名な産品について、中国の商標審査官や裁判官が知っているかというと、そんなことはありません。中国国内で、一定の周知性や顕著性があって初めて、審査官や裁判官の判断が変わるのです。こうしたことから、模倣品対策や訴訟を起こすことは、一定の周知性の証拠につながるために、是非、取り組んでほしいところです。また、中国のみならず、アジア各国では先取り商標出願が増加しており、必要な商標出願は必ず行い、防御的商標出願をある程度しておくことは不可欠であることに変わりはない。

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