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Tame Impalaのドラムが明示したモード/Vol.2 ふたりのDave

Tame Impalaの源流

Tame Impalaの主催であるケヴィン・パーカーは引用やルーツを隠そうとしない、むしろ素直な表現に終始することによってモードの提示を行ってきたアーティストだ。あくまでフレーズ(特にベースラインの挿し込み方と、ドラムのタム回し)と構成に限った話だが、1stの「Innerspeaker」は明確にビートルズの「Revolver」をリファレンスに置いている、と個人的には確信している。特にジョン曲(And Your Bird Can SingやShe Said She Said)からの影響は十分に考えられる。


2nd「Lonerism」にはそのものずばり「Led Zeppelin」という曲があり、初期のツェッペリンの曲構成(具体的にはギターリフとドラムのアクセントの置き方で会話=ジミー・ペイジとボンゾのセッション)によってワンアイディアで突き進む、無邪気なリスペクトに溢れている。

そして、だからこそ、Kevinが何を聞いてきたのかは重要な判断材料になる。リスナー遍歴=ルーツの図式はあまりに短絡的だが、少なくとも件に関してはある程度有効であると判断して良さそうだ。

本人の証言より探る

これはPitchfolkが一昨年公開した、「Tame Impalaのドラムサウンドのルーツについて本人に聞いてみた」動画だ。正直、この動画の中で語られていることを網羅することが答えなのだが...これはあくまで手掛かりで、そこからいくつもの推論を立てることをこのマガジンの目標に置く。


とはいえ、今回は上の動画の内容を中心にTame Impalaを内側から理解していくことにする。個人的に面白いと感じ、その中でもTame Impalaのサウンドに活きていると感じた部分を抜粋していく(一部拙訳によってニュアンスが伝わり切らない部分があったら失礼)。

Fuzzed-outでDestroyed

冒頭から重要な証言が飛び出す。Kevinはまず「レコーディングの90%の時間をドラムに費やす」と豪語し、その後に「Fuzzed-outでDestroyedなドラムが好き」と述べた。ここでのFuzzはファズエフェクターのファズであり、明確に彼の好みがここで紹介されている。もちろん、彼のドラムにはこれだけでは説明できないレイヤーが多分に含まれてはいるのだが(この後に「その対極にあるようなのも好みだけどね」と語っている)。

パワフルで繊細

次に気になるのはLed zeppelinのドラムについて語る部分だ。「Good Times Bad Times」を取り上げて、Kevinは世間一般で語られているボンゾ論とは逆の立場を表明する。曰く「ボンゾのドラムはとてもパワフルでソリッドだと思われているが、思うに彼のドラムには微弱なゴーストノート等の繊細さがある。」と。

またボンゾのドラムのSmackさ(Smackとは太鼓をピシャリと打つこと)にも着目し、そこからドラムにおけるコンプレッションがいかなる効果を生むかについてまで話を広げている。Tame Impala史はTame  Impalaのドラムサウンドの変遷の歴史であり、それは(広義の)コンプレッションのかけ方の変化の歴史であると個人的に考えているので、ここで立ち止まって論を展開するのも有効なのだが、それはある重要人物の登場を一旦待ってからにしよう。

Kevinがスネアを持ち出して実演してみせる箇所がある。Portisheadの「Mysterons」のドラムについて解説するところだ。この曲の、あのあまりに印象的なスネアのロールについて解説し、自らの楽曲にも援用していることを明かしている(「Endors Toi」のイントロなど)。先ほど触れたボンゾのドラムサウンドと同じように、彼はPortisheadのビートにもパワフルさ(Impactful&punchy)と繊細さ(extremely quietly)が同居することを指摘している。そしてそのことは、ミドル部を際立たせるコンプレッションによる作用が働いているとも。

Dave Fridmann

Kevinが再三触れてきたドラムへのコンプレッション。それがサウンドに最も顕著に表れ、最もダイレクトに彼へ影響を与えたであろうミュージシャンがここで登場する。The Flaming Lipsだ。

まだこの曲を聴いたことが無ければ、フラットな気持ちで上の動画を再生して頂きたい。恐らく「ドラムうるせぇ!」と思うだろう。この曲のプロデューサーを手掛けたのはDave Fridmannだ。彼はWeezerの2nd「Pinkerton」を手掛け、それに感銘を受けた向井秀徳の依頼によりNumber Girlの2nd「Sappukei」のプロデューサーを務め(向井はその後もZAZEN BOYSの4th「ZAZEN BOYS4」のレコーディングをDaveに依頼している。Youtubeにその様子がアップされているのでぜひ。)、そして何より、Tame Impalaの1st「InnerSpeaker」と2nd「lonerism」のミキシングを担当している。

この時期にDaveが手掛けた曲のプレイリスト(と言っても4曲で、最後のMogwai以外はアルバムの冒頭を並べただけだけど)を聴けば、明確にDaveのドラムサウンドの特異性が分かるだろう。爆発するようなスネアの音と、その隙間に潜むアンビエンス。ビートの中で動と静が交互に乱高下している。彼は間違いなくその両方に自覚的で、Mogwaiの「Come On Die Young」ではそのアンビエンスを生かして、無音の生む緊張感を余白たっぷりに煽っている。


Kevinは「Race for the Prize」のドラムサウンドに施されているサチュレーション(音に緩やかな歪みを加えることによって、音圧を引き上げてふくよかな音に仕上げるエフェクト)の有効性を指摘し、その歪みによる音域の狭まり=コンプレッションに衝撃を受けた、と語る。

サチュレーションによるドラムサウンドの変化は、確かに初期Tame Impalaの特徴の一つだ。あの爆発する、エモーショナルで野性的なドラムはDave Fridmannの影響だったのだ。Kevin曰く、Dave Fridmannのサウンドは「騒々しくて力強いが不快ではなく、天にも昇るような心地よさを湛えてい」と述べているが、これはTame Impalaのドラムサウンドにもそのまま当てはまる。


Dave Fridannが初期のTame Impalaサウンドへ寄与していることは分かったが、「Currents」以降のサウンド・プロダクションの影響源はどこにあるのだろうか。そのヒントになるようなドラマーについても、Kevinは紹介している。もう一人のDave、Nirvana/Foo FightersのDave Grohlだ。

もう一人のDaveのタイム感

Dave Grohlがドラムを叩いているQueen Of The Stone Ageの「Go With The Flow」を取り上げ、そのタイム感を 「鍛錬されていてメトロノームのように等間隔。たゆみなくて、まるでロボットみたい」と形容している。ジャストでリズムを刻むタイム感の気持ちよさについての見解を聴くと「Currents」以降の音像の変化は、快楽を求めた結果によるものだったのだなと腑に落ちる。


興味深いのは、この曲のドラムのタイム感が気持ちいいことをスタッフに説明する際にスタッフが「Dave Grohlのドラムはポケットに入っているか?」と尋ねた時にKevinが「ポケットは確かに面白いアイディアだけど、QOTSAはポケットにはいない。等間隔でロボティックなんだ」と返した点。ドラムにおけるポケットとは、ビートが拍よりもわずかに後ろでカウントされることによって生まれるグルーヴのことで、これが分かるか否かでドラマーの力量が問われたりする。


一般的に言われるドラムの気持ちよさ、グルーヴの有無はこのポケットによるものであると(特にセッションを前提にするジャンルのミュージシャンは)考えられるが、Dave Grohlのドラムはそれとは異なる、ジャストのタイム感による快楽が潜んでいるとKevinは指摘する。このジャストのビートが生む心地よさもまた、十分に市民権を得ている。そのことを世界に広く知らしめたのが70’s~80’sのディスコクラシックだ。

つまり、「Currnts」以降のTame ImpalaはDave Grohlのタイム感を経由して往年のディスコと接続されるのだ。2015年に発売されて以降、「このサウンドの源流はどこにあるんだろう?」「このサウンドの変貌は何を意味するんだろう?」とリスナーたちは絶えず考えていた。なぜ、ディスコなのか。レビューを見てもそういう意見が散見されるし、僕も実際面食らった。しかし、先のことを念頭に置けば、Tame Impalaのサウンドの変遷がスムースかつ説得力をもって実感される。


次号:耳をすませば

ということで、いったんこの動画に関する解説と所感は終わり、次回はTame Impalaの曲を時系列順に聞きながらそのサウンドの特徴を解きほぐしていきたい。それと、僕の一番好きで一番Kevin Parkerらしいドラムが聴けるのはTame Impalaじゃない、という話も。

あらためてこの動画、本当に面白いので見てほしい。Silver Appleの話とか、Beckのドラムから「初期のサイケを演ってたドラマーはジャズドラマーだった」っていう話に発展したり、The Flaming Lipsのライブを日本で見て(サマソニ2009!)2ndのインスパイアを受けたとか…最後には自分の曲を取り上げて解説しているのだけど、それはまた回を改めて解説したい。

最後に、この動画で取り上げられている曲をプレイリストにしてみた。これを傍らに置いてこのnoteを読み返してみても面白い、かもね。

それではまた

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