研究解説Vol.1 様々なレベルにおけるピッチングの比較
みなさん、こんにちは!最近改名いたしました、野球トレーナーのやべかずきです。Twitterのメインアカウントでは@野球×ラーメン、このnoteでは@野球×研究としています。
またTwitterのサブアカウント「ベースボールジャーナル」では、日々インプットした研究内容のアウトプットを短くまとめています。
こんな感じでまとめてます↓
ということで!今回から英語論文の解説をしていこうと思います。
ほぼ毎日英語論文には目を通しているのですが、まとめるとなると何か機会がないとなと思い、始めさせていただきました。更新ペースはぼちぼちになると思いますが(笑)、よろしくお願いいたします。
ところでなぜ英語論文なのか?
日本語の論文がダメというわけではないです。もちろん私も多くの日本語の論文を読みますし、引用に使用することは多々あります。専門外であれば尚更です。
ですが、やはり有益かつ質の高い研究であれば、やはり全世界に読まれる可能性の高い英語論文に投稿するのは当然の流れかと思います。かくいう私もまだ論文を書いているわけではないので、偉そうなことは言えませんが、、、まずは読むことから!と日々英語と格闘しています。(翻訳機能さんありがとうございます笑)
紹介する論文はなるべく質の高い、有益なものを厳選しようと思います。(インパクトファクターの高い雑誌や、最新のもの、数多く引用されている論文など)
では、始めます!
■今回の論文紹介
今回紹介する論文はJournal of Biomechanics に1999年に投稿されたものです。
非常に古い論文なのですが、66の論文から引用(2020.9現在)されているとても価値の高い研究ではないかと思います。(pubmedより)
雑誌のインパクトファクター(Impact Factor)
Journal of Biomechanics : 2.320 (https://www.journals.elsevier.com/journal-of-biomechanicsより)
なぜこれほど引用されているのか?
それは「世界で初めて成人と子供のピッチングメカニクスを比較した研究」だからです。後述する背景の部分でも書きますが、それまでのピッチングメカニクスの研究は「成人」を対象としたものでした。しかし、それをそのまま子供に当てはめて考えて良いのか?という疑問から著者は各年代別のピッチングを比較することにしたということです。
そして、結論からいうと「大人と子供の投げ方自体には大きな違いはない」という結果が出ました。以降、若年者のピッチングメカニクスと障害予防・パフォーマンスを絡めた研究が加速し、そのきっかけとなった研究だと言えます。そのため、数多く引用されているのだと思います。
では内容に移ります。
■論文内容
1.アブストラクト
この研究はピッチングバイオメカニクスを各年代(青少年・高校生・大学生・プロ野球(MLB)選手)で比較した研究になります。
比較項目は16の運動学パラメーター(位置と速度)、8の運動力学パラメーター(トルク)、5の時間的パラメーター(タイミング)です。
結果としては、ピッチング時の肩・肘・膝などの位置パラメーター(関節角度)や時間的パラメーターに有意差はなく、年代が上がるにつれて速度パラメーターや運動力学は有意に増加したということです。
これらから、なるべく早く適切なピッチングメカニズムを獲得すること、年代が上がるにつれて(すなわち体が成熟するに連れて)トルクや速度に耐えられるだけの身体の強さを構築することが必要と結論づけています。
では、詳しく中身に入っていきます。
2.背景
投球障害を防ぐためには、良いピッチングメカニズムを獲得することが重要です。
これまでのピッチングメカニクスを研究したものは、対象が全て成人でした(1999年時点)。それらの結果を全年代に当てはめて指導されてきましたが、著者は各年代にピッチングメカニズムの違いがある場合、そのような指導は不適切であると考えました。
そこで、『各年代でピッチングバイオメカニクスに違いがあるかどうか?』を検証することを本研究の目的としました。
3.方法
①対象
対象は表のように、青少年・高校生・大学生・MLB投手としました。
②撮影方法
次に投球動作の撮影方法です。先行研究に従って、屋内に設置されたマウンドからそれぞれの年代の距離を投球し、10球中ストライクゾーンに入った中の最速の3球の平均を球速と定義しました。4台のカメラと14個の反射マーカーを用いて解析しています。(Fleisig et al. J Appl Biomech. 1996)
↓イメージはこんな感じです(Fleisig et al. AJSM. 1995 より)
③投球フェーズの規定
投球フェーズは先行研究に従って上記のように設定し、最も膝が高く上がった瞬間(KHP:Knee High Position)を投球開始(0%)、ボールリリースを投球終了(100%)と規定し、その間を解析対象としています。
(Fleisig et al. J Appl Biomech. 1996)
④評価項目
次に評価項目です。
運動学は、11コの位置パラメーター(関節の角度、歩幅)と5コの速度パラメーター(角速度、球速)を評価しました。
また各角速度の最大の瞬間やボールリリースのタイミングなどの時間的パラメーターも評価しています。
運動力学では8コのパラメーター(トルクや関節間力)を評価しています。
運動学と運動力学の違いについてはこちらを参考ください。
https://sprint-condition.info/category33/entry329.html
また、関節間力とは関節面への圧迫力を示すものです。投球時の肩関節に加わる力学的ストレスは,離開力/ 圧縮力,前方/後方関節間力,そして上方/下方関節間力の 3 つに分けられます。イメージはこのような感じです。
⑤解析方法
そして、各解析は先行研究で算出された方法と同じ方法を用いています。
歩幅はつま先とプレートの距離を身長で補正し、トルクや関節間力は逆動力学により計算されています。
逆動力学に関しては、こちらがわかりやすいので参考にしてみてください。(https://www.acuity-inc.co.jp/pickups/knowhow/docs/20171108/ )
4.結果
①運動学パラメーター(有意差なし項目)
図のように、位置パラメーターでは各年代でフットコンタクト時の肘屈曲角度以外の項目で有意差はみられませんでした。つまり、投球動作の形自体は各年代でそれほど変わりはないということです。
②運動学パラメーター(有意差あり項目)
フットコンタクト時の肘屈曲角度と、全ての速度パラメーターに各年代で有意差がみられました。すなわち、年代が上がるにつれて各関節の角速度は向上するという結果です。
ちなみに各項目において、どことどこの年代で有意差があったかについてですが以下の図を参照してください。(Table.1より作成)
③時間的パラメーター
次にタイミングです。こちらも各年代で有意差はみられませんでした。つまり、投球動作全体において、各部位の角速度が最も速くなるのはその年代も共通のタイミングだということです。
各部位の詳細な時間については以下の図を参照ください。(Table.2より作成)
④運動力学パラメーター
最後に運動力学パラメーターに関してです。
こちらは、年代が上がるにつれて有意な増加が認められました。当たり前といえば当たり前ですが、身体が大きくなるにつれてパワーが増加し、それに伴い関節にかかる力も大きくなるという結果です。
こちらも各年代別の詳細については以下の図を参照ください。(Table.3より作成)
では、これらの結果から考察に入っていきます。
5.考察
①ピッチングメカニクスについて
各年代でフットコンタクト時の肘屈曲角度以外の位置パラメータと時間パラメーターで有意差はみられなかったことから、ピッチングのメカニクスはレベルによって大きく変化しないということが明らかとなりました。
このことから「できるだけ早期に適切なピッチングメカニクスを教えられる必要がある」と言えます。投球障害を防ぐためにも重要ですね。
②速度とトルクについて
一方で、速度とトルク・関節間力については各年代で有意な増加がみられました。これらは、年代が上がるにつれて筋力が増加するためだと考察しています。
③肘のケガのリスク
以上の結果から考えられるケガのリスクの話になります。
例えば、肘内反トルクは、尺側側副靭帯の緊張、屈曲回内筋の緊張、および腕橈関節の圧迫によって生成されます。(Feltner and Dapena.1986, Fleisig et al.1995)
したがって、大学生やプロ投手によって生成される内反トルクが大きい場合、尺側側副靭帯の損傷、筋疲労、阻血性壊死、離断性骨軟骨炎、または骨軟骨剥離骨折のリスクが高いことを意味します。
さらに、内反トルクと肘の伸展の組み合わせは、肘頭先端の後方および後内側の側面での骨棘の生成につながる可能性があり、軟骨軟化症と遊離体形成を引き起こす可能性があります。(At-water.1979, Fleisig et al. 1995)
より高いレベルのピッチャーによって生成された肘内反トルクおよび肘伸展速度が大きいほど、この外反伸展負荷が高いことを意味します。
④肩のケガのリスク(関節唇損傷)
次に肩のケガについてです。
レベルに応じて増加した肩の前方および後方の関節間力は、肩甲上腕関節内のより大きな剪断力になる可能性があります。また、上腕骨頭の変位、圧迫、および内旋の組み合わせからも発生する可能性があります。
したがって、関節唇損傷のリスクは、レベルとともに増加する可能性があります。(Fleisig et al.1995, McLeod and Andrews.1986)
より高いレベルのピッチャーは、肩の前方関節間力、近位関節間力、および内旋速度が大きくなっているため、このケガのリスクが高くなると考えられます。
⑤肩のケガのリスク(腱板損傷とSLAP病変)
また、減速期に肩関節の伸展、水平内転、および内転に抵抗するように腱板筋群が収縮するため、腱板損傷が生じます。(Andrews and Angelo.1988, Fleisig et al.1995)
その他の肩障害として、Snyderらが定義したSLAP病変があります。(Snyder et al. 1990)
SLAP病変は、上腕二頭筋長頭が関節窩の縁から引き抜かれるときに発生します。(Andrews et al.1985)
上腕二頭筋は、肘の屈曲トルクと肩の近位関節間力の両方を生成して、腕を減速させるため減速期に最も活動します。(Fleisig et al.1995)
高いレベルのピッチャーでは肘の屈曲トルクと肩の近位関節間力が大きくなる為、上腕二頭筋長頭の収縮力が大きくなり、SLAP病変の可能性が高くなると考えられます。
6.結論
■今回の論文から考えられること
今回の文献では、研究の限界というのは述べられていませんでしたが、一つはケガをしていない健常な投手を対象としていることが挙げられると思います。ピッチングメカニクス自体は各年代で大きく変わりないということから、青少年への指導の際も、成人のフォームを参考にして良いかもしれませんが、ケガにつながる動作というのは各年代によって異なるかもしれませんので、どういうフォームがメカニクス的に正しいのか?というのは今回の研究では不明な点であることは理解しておかないといけないですね。
しかし、今回の研究結果から『年代が上がるにつれて動作や球速は速くなるが、その分ケガのリスクも増える』ということを頭に入れながら選手を指導していく必要があると思います。
そのため、今後は他の文献等でどういう動作によりケガのリスクが高くなるのか?を調べていく必要がありそうですね。今回の文献自体はとても古いものなので、今は色々不良動作について明らかとなっています。それらと統合して考えるとより有益なものになるのではないかと思います。
今回の記事は以上となります。こんな感じで不定期に読んだ文献の紹介をしていきたいと思います!
次回は私のもう一つの研究テーマである「腰椎分離症」から「腰椎分離症のサッカー選手と野球選手の比較」をリリース予定です。
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では、また次回お会いしましょう!
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