ムスリム女性とのデジタルラブ
僕たちの出会いは小さなスマホの画面上で始まった。
「Merhaba👋」
僕は東京で会社員として生活しながら時間を見つけては言語交換アプリを使ってトルコ語を学んでいた。
そのアプリは学びたい言語のネイティブスピーカーとマッチングさせてくれて、お互いが自由にメッセージのやり取りをするというようなとても簡単なアプリである。
トルコ語を学んでいた僕はそこで1人のトルコ人女性と知り合った。
名前はアイシェ。彼女は大学で金融について学んでいるらしい。プロフィール写真のアイシェは綺麗な二重で前髪をくるっと巻いた笑顔の可愛い女性だった。
始まりは至って普通でお互い「こんにちは」と挨拶をしてから出身地を聞いたり、趣味を聞いたりというような会話をした。
日本とトルコでは6時間くらいの時差があるので深夜に送ったメッセージは次の日の仕事が終わる頃に送られてくることが多かった。
時間が経つにつれ、僕たちはいろんな話をするようになり、
次第に僕は仕事が終わるのを待ち望むようになっていた。
退勤したらすぐにアイシェからのメッセージが来ているか確認するようになっていてアイシェからメッセージが届いていると無性に嬉しくて、帰りの道をニヤニヤとしながら帰宅していた。
帰宅してシャワーを浴びている間にもスマホのバイブ音が鳴る。寝る前の数時間やり取りしてから深夜に眠りに落ち、翌朝アイシェからのメッセージに返信する。
仕事に行っている間はアイシェは寝ている時間だから、終わった頃にメッセージを確認する。
「günaydın」
数ヶ月経った頃にはこのおはようというメッセージを空が暗くなって東京のビルの灯りが灯る頃に見るのが楽しみで仕方なくなっていた。
時々思う。僕はもうあの頃にはアイシェのことを好きになっていたのかもしれない。
アイシェとの会話中に一度だけしれっと彼氏がいるのか聞いたことがある。
アイシェはいたけど別れたとあっさり答えた。
その時はふーんと聞いておいて何その反応というような返しをしたけど本心はガッツポーズをしていたと思う。
何ヶ月か経った頃僕はトルコへのチケットを持ちトルコへと向かった。
事前にアイシェにも行くことを伝えておこうと思いメッセージをいれる。
僕は密かにアイシェと会えるのではないかと期待して東京から出る前に都庁展望台に売っているメイドインジャパンの薄紫色の丸い玉がついたイヤリングをお土産として買っていた。
以前、僕はいつかトルコに行った時は会えると良いねみたいなことを言っていて、その時はアイシェも私も会いたいと言っていたので喜んでくれると思った。
でも、東京から出る前に送られてきたメッセージにはあなたが本当にトルコに来るとは思わなかった。という文が来ていた。
そして、残念ながら会えないという返信が続いて送られてきた。
今彼氏がいる。文の最後にそう書かれていた。
僕は会えないと言われ、ショックを受けていたが追い打ちをかけるように彼氏がいるというキラーワードをみて返す言葉を無くした。
その時の僕はもうアイシェのことが好きだと自分でも気がついていたのでよりショックを受けた。
それがきっかけで次第に僕たちは話さなくなっていった。
予定では僕は3ヶ月間トルコを観光する。
でも、旅に出る前から僕はもう気分が下降していた。
首都アンカラに降り立った僕はアイシェのいる街に行こうかと予定を立てていたため、その時予定は持っていなく途方に暮れていた。
アンカラの街を2週間観光して城跡などの有名観光地を巡った。
夕日の暮れる街並みを眺めながらなんだか寂しくなる。久しぶりに感じる失恋の痛み。
働き始めてからはこんなこと滅多に経験しない。なんだか学生時代を思い出すような強烈な痛みだと思った。
寂しいと感じながらもこの旅を楽しまなくてはと僕はその後黒海地方のリゼ、大都市イスタンブール、歴史都市ブルサなど多くの場所を訪れた。
その合間にトルコ語のクラスにも1ヶ月参加して僕のトルコ語もグングン上達していった。
そんな旅が終わりに近づいた頃、久しぶりにアイシェからメッセージが届いた。
「selam , nasılsın(こんにちは。元気ですか?)」
しばらく話していなかったので少し動揺したが、以前のようにたわいもない会話で僕たちは話した。
トルコに来て行ったリゼやイスタンブールの話、そして、トルコ語のクラスに参加してトルコ語が上達したこと。
僕は覚えたトルコ語を彼女に伝えたくてボイスメッセージを送ったりもした。
次第に、僕たちは楽しくなり電話で話そうか?ということになった。
そして、僕たちは初めてビデオ通話でお互いが実際に動く人間であることを認識したようにも思う。
スマホ越しだが笑うとできるえくぼや目尻に現れるシワ。
これまでずっと話してきたのにお互いをこんなにも近くに認識することはなかった。
抑えていた感情の蓋が一気に壊されて溢れ出すのを感じる。
「好きだ」
その時言えなかったけど僕の中には前よりも一層強くその思いが現れていた。
それから数日テレビ電話をすることが多くなっていろんなことを前と同じように笑い合って話せるようになっていた。
その時に僕は何気ない会話のつもりで「彼氏とは今順調なの?」と聞いた。
アイシェは一瞬曇った顔をしたが「彼とはもう別れた」と言った。
僕はびっくりしたような嬉しいような、なぜ?という疑問。いろんなものが一気に浮かんできた。
聞くと、ずっと遠距離をしているらしく、彼はアイシェのことを気にかけてくれなくなったらしい。
地元から離れた大学に通っているアイシェは彼氏とずっと遠距離だったのだという。
僕は嬉しい気持ちを浮かべては悪いと思ったが、その思いは抑えきれなかった。
彼女はもう彼のことは少し悲しかったが2ヶ月前のことだから乗り越えたという。
僕はこの空気をどうやって収めればいいのかわからず、安直な方法で彼女にメッセージを送った。
「ところで、トルコもあと約1週間だから最後に君に会いに行ってもいい?」
冗談と本音を混ぜたようななんとも中途半端な感じで僕は送り、また断られるのかと思った。でも、僕の想像とは違っていた。
「ほんとに?」
僕は勢いでもちろんと答えた。
アイシェはそれを聞いてスマホ越しでとても嬉しそうにしていた。
「あなたがここにきたら私がこの街を案内するわ」
僕はわかったと伝えてこの日のこの会話はここで終わった。
会話が終わった後、僕はすぐにアイシェの住む街への飛行機のチケットを購入した。
そして、メッセージでチケットの写真と明後日行くとだけ書いて送信した。
アイシェからはすぐにメッセージが届いた。
「あなたが本当に来るとは思わなかった。」
あの時と同じ返信だったが、今度は困っているわけではないとすぐにわかった。
彼女は何時につくのか?とかどうやってくるのか?とかホテルはどこに泊まるの?とか色々と聞いてきた。
なにかあったら私がサポートするねと嬉しそうに言ってくるアイシェからのメッセージを見ると幸せで幸せで言葉にならないほど僕は興奮していた。
飛行機に乗りイスタンブールから彼女の住む街へと僕は向かった。
5泊6日の短い期間だが、僕は楽しみで仕方なかった。
約2時間で目的地につき、日はもう落ちていたのでタクシーで予約していたホテルまで向かった。
飛行機から降りてメッセージを見ると何通もアイシェから届いていた。
「こんにちは、元気ですか? もうついたの?」
僕はタクシーで宿に向かうから心配ないと伝えた。次の日に会う約束をしていたので今日はゆっくり休むねと伝え、移動で疲れた体を休めることにした。
僕はすぐには寝るれず、次の日初めて対面で会う会いシェのことを考えていた。
こんなにも知ってる人のような気がするのに一度も会ったことはなく、出会った頃は東京とトルコで距離にして約8700キロ。
昔だったらありえないような方法で僕たちは出会い、何ヶ月もあとにこうして初めて会うことになる。
今の恋愛は距離なんて関係ないのかもしれないと感じた。
会う前からワクワクや不安、これまでの僕たちの関係、いろんなことを考えていたら眠くなり次第に僕は眠りに落ちていった。
目が覚めて時間を確認すると約束の時間にはまだかなり時間がある。
居ても立っても居られなくなり、かなり早くから準備をした。いつもはほとんどしないヘアセットもして服も綺麗なのを選んだ。
そして、暇なので時間潰しに早めに集合場所へ向かい辺りを観光した。
小さな街なので観光にもそんなに時間はかからない。見るものはすぐに無くなり、時間が近づいて来ていることに気がついた。
そろそろ待っている場所に向かおうかと思った時にアイシェに渡すためのプレゼントを忘れていることに気がついた。
もう時間はないが、アイシェに忘れ物したからホテルに戻ってもいいか?とメッセージを送った。
すると、もうついてるどこにいるの?と返信がきたので待ち合わせ場所に戻った。
待ち合わせ場所でアイシェを探すのに苦労はしなかった。
黒のカーディガンに黒のスキニーパンツがよく似合うすらっとした女性が遠くから手を振っていた。
身長は170ないくらいでとても可憐な印象を受けた。
ずっと話していたのに実際にアイシェが遠くからこっちに向かってくると緊張してドキドキが止まらなかった。
何を話していいのか分からず、トルコ語の初級で習う。フレーズをとっさに使ってしまった。
「merhaba tanıştığımıza memnun ordum(こんにちは。初めましてお会いできて嬉しいです)」
まるでお見合いで出会った昔ながらの硬いデートの始まりのようなそんな始まりを迎えてしまった。
アイシェも少し硬い表情になったが、しばらく話しているとだんだんお互いの緊張が取れて普通に話せるようになって行った。
アイシェとの会話は楽しかった。
話している時、不意に無言になる瞬間も示し合わさずともアイシェを見ると彼女と目が合う。
お互い恥ずかしくてすぐ目を逸らすのだが、この瞬間今まで感じたことのないほどに幸せだと思った。
1日目僕たちは博物館に行って、川沿いのカフェでトルコのチャイを飲みながら、日本の話や僕が旅してきた場所の話、アイシェの学校の話や家族の話などたくさんのことを共有した。
実際は僕とアイシェ2人ではなくて、アイシェの友人が1人付き添いできていた。彼女も僕たちの関係を見守りながら、関係をとりもってくれていた。
僕はこの時初めて知ったのだが、この町では男女2人だけでいるのはあまりいい印象を周りに与えないらしい。だから、アイシェの友人が来てくれたのだ。
※これは僕が2023年に書いていたものなのでこの続きはまだ書いていません。
続きが知りたい人が多かったら書こうと思います。笑
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