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コロナ禍における学生生活と演劇活動 〜上演未満の演劇体験の可能性〜


はじめまして。編集メンバーの秋のご飯という者です。

舞台芸術誌applause、本日の更新は、コロナ禍の中での演劇のあり方について、それぞれ異なる側面で考えた記事を二つ公開いたします。



突然ですが、あなたは、『学生演劇』を観たことはありますか?

または、『学生演劇』に関わった経験はありますか?


現在、日本では例年、全国学生演劇祭やその予選をはじめとして、各地で学生演劇のイベントが行われ、各大学にある演劇サークルや教育機関に所属しない学生劇団による定期公演も上演されています。


学生演劇に関わる学生は、演劇をするいち人間である一方で、もちろん学生でもあります。各人に学生生活があり、アルバイト先やゼミ、兼部している学生団体など、自身の演劇団体の他に所属している組織が複数ある人がほとんどです。

そして、プロの演劇団体の劇団員と同様に、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、演劇活動を思うように進められない日々が現在も続いています。


しかし、両者の抱える問題は完全に同質のものでなく、学生特有の課題も存在していると私は考えます。


(主に大学生を活動の主体としたアマチュア団体による演劇のことを、本稿では『学生演劇』としています。)




1:コロナ禍による学生演劇活動の影響の事例・コロナ禍を受け現れた課題

学生生活と演劇について関心を持ち記事を作成しようと思った理由は、筆者である私自身が学生演劇に関わる当事者であり、コロナ禍によって活動が思うように進んでいないためです。以下、私の実体験を一つの事例として挙げつつ、二点の課題について考察していきます。

私は、インターカレッジ生として他大学の演劇サークルに現在所属しています。来年度から3年代になるため、今後新入生の勧誘に力を入れていかなければいけない立場なのですが、コロナ禍を受け深刻なサークル員不足に陥っており、団体の継続が危うい状況となっています。私が考えているコロナ禍によりサークル員不足に至った主な過程は以下3点です。

①相次ぐ公演中止を経験し、思ったような活動が今のままでは出来ないと判断したサークル員が多く休部、退部。

②新歓公演が行えず新人の数が減少。

③多くの新人が仮入団後受ける俳優訓練の段階で入団を諦めてしまう。

③について、私の所属する団体は例年新人が仮入団した後、俳優として舞台に上がるための厳しい身体訓練や新人公演に向けての稽古を行っており、私自身この訓練を経て本入団し、サークル員となりました。私が入団した時期は、自粛期間が空け、大学の対面授業が再開され始めてまだ間もない2020年11月でした。同期として入団した人数は私含め7名でしたが、俳優訓練を経て最終的には3人まで減ってしまいました。

この経験から考える一つ目の課題は、他者とのコミュニケーションが少なくなった状態で行う俳優訓練のあり方です。


コロナ禍により、大学に行く機会も友人と会話する機会も減ってしまった状況で、演劇団体に所属し全く知らないサークル員から厳しい俳優訓練を受ける新人は、精神的に(もちろん身体的にも)大きな負荷がかかってしまいます。また不安定な社会情勢が続くため、俳優訓練の集大成である新人公演が予定通り行われる保証は出来ない状況です。
よって、新人のモチベーションが保ちにくい状態となります。新人に俳優訓練を行う演劇団体は、新人とサークル員・劇団員との対話や、稽古場での権力が一方に集中しないよう双方の歩み寄りを念入りに行っていくことが今後重要になると考えます。


二つ目の課題は、大学のガイドラインと社会のガイドラインには大きな相違があることです。2020年5月末に首都圏で1回目の緊急事態宣言が解除されてから、劇場での有観客上演は多くの問題を抱えながらも徐々に再開されていきました。



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早稲田大学学生会館、演劇練習室。(筆者撮影)



一方で、多くの大学は依然としてオンライン授業が続き、サークルの対面での活動が禁止されました。もちろん、有観客での演劇上演も禁止です。


多くの演劇サークルがあり、そのほとんどが学内施設で稽古、上演まで行う早稲田大学の場合を例にして説明します。2020年4月、1回目の緊急事態宣言を受け稽古場となる学内施設は閉鎖、オンライン形式以外でのサークル活動は不可能な状況になりました。学内施設が再開した以降も、厳しい人員制限やイベント開催の制限、そして2021年1月の2回目、同年4月の3回目と度重なる緊急事態宣言の影響を受けての学内施設の閉鎖が行われ(4回目の宣言時は行われていない)、稽古がままならならず多くの公演が中止となってしまいました。


コロナ禍以後演劇サークル主催の学内施設での有観客上演が行われたのは、国や自治体のガイドラインで有観客上演が認められるようになってから大きく間が空いた、2021年11月中旬の出来事になります。

学生演劇に関わる学生は、演劇をするいち人間である一方で、もちろん学生でもあり、また学生団体は大学の所属であるため、大学の決まりに従わなくてはなりません。演劇に関わる学生とプロの演劇団体の劇団員の抱える課題の違いには、こうした所属の異なりが挙げられると考えます。




2:『上演未満の演劇体験』という関わり方

前項から、学生が特定の団体に所属し演劇活動をすることはコロナ禍でハードルの高い挑戦になってしまっていることがわかります。漠然と「演劇をしたい」と考えていても、二の足を踏んでしまっている人もいるでしょう。宙に浮いてしまっているこの「演劇をしたい」気持ちを、そのまま放っておいて学生生活を終えることは非常にもったいないと思います。なぜなら、演劇は楽しいもので、実際に関わってこそ良さが味わえるものだからです。


コロナ禍において演劇と、演劇に関わりたい学生の関係性を再考するにあたって私が考えるのは、『上演未満の演劇体験』という関わり方の可能性です。


演劇には稽古をしたのち、作品を上演するという一般的なプロセスがあります。しかし、他の方法での演劇との関わり方もあるのではないでしょうか。作品の上演をゴールとしない、演劇体験は可能ではないでしょうか。


例えば、大学の授業内での演劇体験。
特定の授業を履修するという形は、半強制的な演劇への関与や演劇の学習という風にも考えられるかもしれませんが、演劇に関われる機会の提供という意味では、サークルや外部の劇団などに勇気を出して所属するよりも身近な体験の形式として考えられるのではないかと思います。時間割の中に組み込む形で演劇体験ができるため、課外の時間を拘束することも、自分の大学から移動することもなく、スケジュールに負担がかかることもありません。


(共立女子大では2021年度、2年次から履修可能な教養教育科目『現代社会の諸課題(文化・芸術)』にて、戯曲の朗読を行う科目や即興演劇・演劇教育を実践を踏まえ学習する科目が開講されました。このような授業を履修することで学部問わず授業内での演劇体験が可能になります。記事執筆時点では来年度の開講について不明ですが、ご興味のある方は履修登録時に是非シラバスをチェックしてみてください。)


学内の開かれた形でのワークショップの参加も、演劇体験の形の一つとして挙げられます。また学生主体でワークショップのファシリテーションを行うことは、人とのコミュニケーションの取り方や考えの伝え方を深く考えるにあたって重要な経験になります。もちろん参加という形でもワークショップからは有意義な演劇体験を受け取ることが可能になり得ます。

ファシリテーションに興味がある方、そして大学当局、こんな取り組みどうでしょうか。やってみませんか。


コロナ禍により演劇の形が多様化している今こそ、「演劇をしたい」気持ちの存在を真剣に考え、大切にしていく必要があると思います。



おわりに

演劇団体に所属する人、したい人、手軽に演劇体験をしたい人、まだ演劇に興味がない人。学生、子供、プロ。いずれの人にも演劇は開かれたものであり、それは今後も揺るがないことであると思います。

コロナ禍という困難な状況でこそ、演劇との関与の仕方の再考やこれまでと異なる形の提示が積極的に行われていくべきだと、私は強く考えます。



〈参考文献〉いずれも2021年12月25日閲覧。
○早稲田大学学生生活課HPより、学生会館閉館に関する情報・臨時閉館期間
1、2020年3月28日2020年8月1日

2、2021年1月8日3月22日

3、2021年5月18日6月20日

※早稲田大学学生生活課HPより、「学生会館内施設等の利用におけるガイドライン」
2020年7月26日に発表された第一版。学生会館では「練習」目的の活動のみ許可され、貸出施設には厳しい人員制限がかけられている。

2021年11月15日に発表された第五版。第一版と比べ大幅に人員制限が緩和されている。




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