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【模型】一番出来がいいキットはどこが作ったものか ~ドイツレベル 1/72 Tiger Ⅰ Ausf.E~

自国が生み出した傑作とされるものが民族的な誇りを持つ対象になるというのはどこの国でもあるようだ。
例えばイギリスであればBattle of Britainを戦い抜いたスピットファイア戦闘機に対する親しみと憧憬の念は今に至るも尋常ではないようだ。
以前Youtubeで見ていたBBCの連続ドキュメンタリーシリーズThe Great British railway journeyではイングランド南部を訪れた先でレポーターのMichael Portilloが現存実働する複座型スピットファイア戦闘機の後席に乗りしばらく飛行を体験するシーンがあったが、70過ぎたじいさんの顔がすっかり少年のようで、かつてゼロ戦乗りにあこがれた日本の子供と同じだった。
こういったことはナショナリズムと関わることでもあるかもしれないが、もっと精神の単純な部分で起きることなのかもしれない。

そういうわけなので、身内びいきというわけでもないが、プラモデルの世界では「そのモデルの一番いいキットを作りたかったらそのモデルそのものをかつて製造した国のキットを選べ」という格言がある。
ゼロ戦の最良のキットであれば間違いなく日本製の一択、1/72ならまぼろしのファインモールドのマガジンキット、1/48ならハセガワ、1/32ならタミヤのキットがそれぞれ文句なしに最高の逸品だといわれる。
最近の金型で精度も高いであろうが韓国のアカデミーのキットでゼロ戦を作るのはなんか違う気もするし、イギリスメーカーのエアフィックスのゼロ戦もよくできていて作りやすかったがデカールがなんだか嘘くさくて、どうにも魂が入っていない仏像のように感じたものだ。
逆にスピットファイア戦闘機ならばモールドもシャープなハセガワ製もよいが、やっぱりお膝元のエアフィックスのキットがなんだか一番間違いないような気がする。
なにより開発時に注がれている期待と愛情の桁が違うような気がするのである。
これは単にその国のメーカーであるほうが現物を含め資料にアプローチしやすいという側面もあるだろうが、模型は実物を単純に縮尺すればいいというものではなく、イメージに即して一定のデフォルメを施すものであるから、やはりそれぞれに思い入れが強い民族が作ったキットの説得力が高いのはもっともだ。

今回は1/72のティーガー戦車のお話だ。
この戦車は昔の子供なら「タイガー戦車」と英語読みの名前の方で憶えている人の方が多いだろう。
一時期模型の業界では変にドイツ語発音を意識して「ティーゲル戦車」と呼んでいた時期があり、私が子供の頃に見た図鑑でもそう表記されていたが、今では一番原音に近い「ティーガー戦車」と呼ばれることが一般的になった。
なお、昔聞いたラジオドラマでは「虎戦車」と呼称していたが、これもなかなか悪くないなと思う。
このスケールのティーガー戦車はいろんなメーカーが出していて、古いものならハセガワやフジミからミニスケールの定番だったりしたものだ。
最近だとドラゴンから超絶細かいとんでもないミニスケールキットが出ているが、今回作ったものはドイツレベルのキットだ。
なるほどドイツ人が自国のものを作っただけに、いろいろ感心させられる点が多かったことを覚えている。

※以下は2008年1月28日のmixi記事より転載、加筆を行ったもの

宮崎駿はアニメの重鎮として知られるが、それ以外の方面でも実はかなり著名なのはあまり知られてないかもしれない。
プラモの雑誌「MODEL GRAPHIX」で宮崎駿が連載してた仮想戦記マンガがなかなかおもしろく、「紅の豚」は実はここで連載してたのが原作だったりする。
先日日本から持ち込んだ本の中で大日本絵画(すげえ名前の出版社だが主な出版物は絵本)から出てる宮崎駿「泥まみれの虎」を何度も読み返しているうちに、やけにティーガー戦車を作りたくなってたまらんようになった。
そういうわけでだいぶ前に広州のプラモ屋で仕入れてきた独REVELLのTIGER Eを先週からシコシコとこさえていたのだが、これがようやく完成した。

成型はたぶん中国でやっているのだろうが、曲がりなりにもキットは世界に冠たるドイツのもので、実にしっかりしている。
なにせミニスケールのくせに60元(約1000円)もしたのだからたいした高級品だ。
履帯も昔ながらのマイナスドライバーを焼いてとめるベルト式ではなくて1コマ1コマを組み上げる連結式だ。
また、それぞれのモデルの最良の物がほしければ同じ国のメーカーが作ったキットを探せというが、なるほどドイツのREVELLにとってTIGER戦車はタミヤがチハ車をつくるようなもので、徹底的にこだわっているに違いない。

1/72のミニスケールにしてはものすごい量のランナーが入っていて仰天したが、パーツの合いはさすがにすばらしく、抜きテーパーを若干平面出しするだけでカッチリと組めたあたり、ゲルマンの叡智を感じさせる。
大体組みあがったあたりで塗装に移る。
まずは全面をラッカーのフラットブラックで下地を吹き、パンツァーグラウでグラデーションをかける。
さらにエナメルシンナーを含ませた綿棒でエッジをこすって下地を出す。
星の数ほどある転輪はバラの状態でウェザリングまで済ませておく。
そうして一旦クリアコートで表面を固定しておいてから、メンドウな履帯組みにかかる。

もっといい方法があるのかもしれないが、私の場合起動輪の下と誘導輪の上の2箇所で分割して組んでおき、塗装後にここで接着するようにしている。
以前イタレリの3トン牽引車を組んだときは履帯のコマが足らなくなってしまい、目立たない部分でインチキをする羽目になった。
コマ同士を接着するスパンが狭いとすぐに足りなくなり、細かいパーツだけになくすことも多いと思われるが、きっかりの数しか入っていなかったので実に往生した。
名前はイタレリだがちっとも至れり尽くせりでない。
その点REVELLのキットは予備数も含めて10コマほど多く入っているので実にありがたい。
履帯の塗装は下地でサビ色としてマホガニーにフラットブラックとメタルカラーのシルバーを少し足したものを吹き、接地面や転輪に接触する部分などをシルバーとフラットブラックを足したものを角度をつけて凸面だけに吹く
さらにエナメルでウオッシングしてトーンを落とすと、なかなかいい質感になった。
仕上げにタミヤのウェザリング・マスターの「泥」をこすり付けるとかなりいい感じになる。
これは今回初めて使ったのだが、粒子が細かいのでドライブラシのようなわざとらしさがなく、定着もよいので結構使えそうだ。

車外装備品を塗り分け、履帯を取り付けて完成、我ながらうまいこといった
それにしてもさすがは世界に冠たるドイツのREVELLのキットだと感心させられる。
砲塔のMG34車載機銃にしても、このスケールならわけの分からん形にディフォルメされがちなところ、実にリアルな造形で感心させられるが、やはりプラモメーカーが自国のものをキット化するときはキッチリやるという法則が生きているのかもしれない。

M4とTiger Ⅰ

それにしてもTIGERはでっかい。
となりにM4を並べると、M4は背丈こそ高いがいかにも弱そうだ。
同時製作中の日本軍の97式チハ車をならべてみると、1/72と1/76の違いこそあれ、まるで全然別のスケールのようだ。
装甲もTIGERの100ミリに対してたった25ミリ、武装も56口径88ミリに対して14.9口径57ミリでまるで比較にならない。
とても両方とも同時期に運用していた主力戦車とは思えない。
司馬遼太郎は戦時中戦車兵少尉で97式中戦車に乗っていたそうで、エッセイでは「優秀でいい車だが残念なことに戦争ができない」などと酷評している。
つくづく日本はドイツと戦争しないでよかったもんだ。

チハ車とTiger Ⅰ

話はTIGERに戻る。
宮崎駿「泥まみれの虎」は実はノンフィクションの原作があり、OTTO CARIUS著「TIGER IM SCHLAM」のエストニア戦線をマンガ化したものだ。
CARIUS氏自身当時ドイツ国防軍戦車兵少尉としてTIGERに搭乗しており、最年少で柏葉付騎士十字章を受章、戦後復員して薬局を始めたのだそうだが、店の名前がTIGER APOTEKE(ティーガー薬局)というのだから恐れ入る。
宮崎駿自身この薬局までCARIUS氏を訪ねて取材した末に出たのがこの本というわけらしい。
宮崎駿の作風もさることながらCARIUS氏自身もさすがにドイツ人らしく勇壮さや豪胆さといったことは何ひとつ強調せず、現在するべきことは何かということをしっかり考え、周囲の雑音に同調することなく冷静であることが生き残る秘訣だと語る。
業務上何かと思い当たるフシもある。

タミヤからもらった自分の乗った車両のプラモを持つオットー・カリウス氏

こういう良質な戦記物はどんなビジネス書よりも糧になるものだ。
57トンもある重戦車TIGERは決して使い勝手のよいものではなく、また無敵でもなかった。
そういうものを運用するのは、結局のところ人間しだいだということだ。
よいものは適切に扱ってはじめてその真価が発揮できるのであり、ドイツ人、特にTIGERに実際に搭乗していた人にとってTIGER戦車は多分そういう思い入れが強い対象なのだろう。
諸事控えめなCARIUS氏が自分の店にTIGERの名前を掲げるのも、多分そういうことであるに違いない。

2023年3月12日加筆

このキットは私が模型に出戻ってからせいぜい半年くらいしかたっていないころに作ったものだが、大変に作りやすくプロポーションもよいすばらしいキットだった。
履帯を1コマずつつないで接着する連結履帯式だがキットそのものの出来がよかったので特に苦労することはなかったようだ。
値段は当時の日本円換算で1000円と書いたが、今やこのくらいいいキットがそんな値段で買えたりはしないだろう。
ためしにアマゾンで調べてみたらなんと4500円と出た。
今やプラモデルは転売屋のために流通価格がめちゃくちゃになってしまっていて腹が立つが、多分新品価格でも3000円くらいではないだろうか。

ドイツ人が開発しドイツ人がそれで戦った戦車をドイツ人がプラモデル化したキットなので、作りながらドイツ文化に触れているような気がした。
やっぱりたっぷり愛情が注がれたキットというものはいいもんだ。

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