【模型】ICレコーダを塗る ~Asiacorp ICR-907~
もう今から10年ほど前のはなしになるのだけれど、私は中国で仕事をしていていた。
前半6年は眼鏡系商社の駐在員、その後大陸浪人のような時期を経て現地の電子メーカーで企画営業をやっていたのだけれども、良くも悪くもだが、それぞれが日本ではまずできないような経験をしたものだ。
中でも中国の会社の風通しのよさは私にはかなり性に合っていて、日本のように面倒くさい忖度などは一切なく、相手に過度な気遣いも不要で、主張したいことはいくらでも主張できる。
もっとも向こうも言いたいことを言いたい放題言ってくるので、こちらも撃ち返せなければ仕事にならないのだが、とにかく最短で物事が進むのは大変心地よかった。
日本ではたとえ能力や自信があっても上役や周囲を気遣ってなるべく目立たないように、されど根回しは周到に行って出来レースのような雰囲気を構築してから新しいことをやるようだが、中国は違う。
できる人間ができることを活かすのは当たり前のことで、個人プレーだろうがなんだろうが結果を出せば正義だ。
なので中国で頭角を現す人間は大体が有能で、無能な幹部など周囲が存在を許さない。
そういうわけであるから、一芸に秀でている人間は相応の尊敬を受けるもので、たとえ何であれ、もしひとにできないことができる能力があれば、それは日本の会社よりも中国の会社のほうがより活かせるだろうと今でも思う。
中国でのよもやま話は別のマガジン「中国戦記」で昔書いたものを載せているので、今の若い人に通じるかどうか、毒になるか薬になるか分からないが併せてご笑覧頂ければ幸甚に思う。
さて、今回の話は中国時代の後半で電子メーカーに勤務していた時のことだ。
ICレコーダやドライブレコーダなどの電子製品を開発から製造まで行う会社で、私は日本市場向けの営業と企画開発のプロジェクトマネージャのようなことをやっていた。
と書くとなんだかかっこいいが、とにかくいろんなことをやったものだ。
商談で使うモックアップなども外注すると結構な時間と費用が掛かるが、雰囲気やサイズ感を見るだけなら段ボールの積層に三面図を切り貼りしたものでも十分で、そういうイメージサンプルは自分で作ったりしていた。
ほかにも色決めのサンプルを業者に頼むとやっぱり費用と時間がかかるが、だいたいの色目を決めるだけなら成形品に自分で色を吹いた方がよほど早い。
また量産の成形品の塗装不良で数が落ちたときはタミヤのコンパウンドを使って傷を消す方法をラインに指導したりもした。
今思えば模型のテクニックを仕事でも遺憾なく発揮していたようで、こういうタイプの「営業」はそれまでいなかったらしく、結構重宝がられたものだ。
プラモデルをやっていたおかげで金型屋にもそれなりの話ができ、成形品の塗装をやる外注には成形色の下地と塗料の隠ぺい力の組み合わせ次第で色の発色はどうにでもなるという話をしてプロの塗装屋が恐れ入ったということもあった。
そんなわけで、現場や外注で何か困ったことがあると「先生おねがいします」というような具合で話を持ち込まれ、うーむ俺はこれでも営業なんだがなと思いながら、なんだか用心棒の先生のようで面白かった。
今回は、香港の電子業界の展示会に出展するためのカラーサンプルをなるべくたくさん作るというもので、色数が増えると専業の塗装屋は嫌がるが、自分で塗料を調色してエアブラシで吹く分にはいつもやっているプラモと同じだ。
今回の「先生お願いします」はそういうお話だ。
※以下2013年9月29日のmixiより転載し加筆を行ったもの
私はバカが始まると止まらなくなる性分だ。
いったんバカが加速するとイヤになるまで歯止めが利かないのである。
業務上家の塗装ブースが活躍することがたまにあるのだが、10月の香港の展示会に出展する外観モックを持って帰って塗装していたわけだ。
うちの会社はICレコーダを作っており、新型を展示会で適当なカラーバリエーションの外観サンプルを展示しようというのだが、色を10色ほど作ろうというのである。
できたばかりの金型からT2のテストショットが20セットあがってきたので、さーて塗るぞというわけで昨日から着手していたのだが、もともとまじめな色を10色ほどやったら、3色ほどは遊びで奇抜な色にしてやろうと思っていた。(本件のカラーバリエーションの決定は私に一任されている)
ところが、まじめな色で14色ほどできたので、じゃあ残りのケースを使って徹底的にバカをやろうと思ったのある。
そうしたら、こんなのができちまった。
時々携帯電話なんかのデバイスでこういう仕様の商品を見かけることがあるが、じゃあうちのICレコーダでやってやろうじゃねえかと思って東門の模型屋でデカールを買ってきた。
なお本体はクレオスのシャア・レッド、画像には写っていないが3列目のボタンはシャア・ピンクとし、1列目と2列目はフラットブラック、真ん中の丸い録音ボタンは蛍光ピンクでモノアイを表現してやる予定だ。
私はガンダムはぜんぜん知らないのだが、買って来たデカールはRepublic of New ZeonというのとPrincipality of Zeonの2種類のロゴが混在していて、あやうく両方とも使っちまうところだった。
ジオンは公国だと思っていたが、あとでネオナチみたいに復活して共和国になっていたとは知らなかった。
いっぺん携帯電話みたいなデバイスのケースでこういうのをやってみたかったので、トランペッターの87式偵察車の余ったキットとデカールを使ってみた。
陸自迷彩は単調なので、マスキングなしでいきなりエアブラシで吹き付ける
ナンバープレートはエッチングパーツを使用。
軽く筋彫りを追加したらなかなか雰囲気が出てきた。
この辺からバカが加速してくるが、そうなるとやることに手間隙をまったく惜しまなくなる。
筋彫りを追加し、制空迷彩色で塗装。
デカールはレベルの1/72 T-2バックアイのものを流用してみた。
やはり筋彫りを追加するとそれらしく見える
1/1のICレコーダではなく1/72の謎のオブジェクトのようだ
プラモの業界は車に飛行機と来て戦車まで痛くする今日この頃だが、さすがにICレコーダを痛くしたのは私が初めてではあるまいかと思う。
版権はどうなっているのか知らんが、こっちではこういう汎用デカールがかなり安く手に入る。
もっともフィルムがかなり硬いので、マークソフターをつけても局面や凹部になじませるのはなかなか苦労させられた。
なお、塗装はこちらのラッカー塗料「星影」より変色龍というのをチョイス
これはマジョーラ風の効果が得られる偏光塗料で、画像では真っ黒だが実物は光源の角度次第で緑に見えたり紫に見えたりするなかなかアヤシゲな塗料で、昔大日本ペイントから仕事で直接マジョーラをサンプル買いしたときはバカみたいに高かったものだが、15MLで15元くらいで買えるので、偏光塗料もずいぶん身近になったもんだ。
というわけで、悪ふざけ4点。
こういうことになると実に手が進むのが早い。
せっかくなのでこの4点もモックアップとしてきっちり仕上げてやろうと思い、外注のシルク印刷に一緒に出したものが返ってきたのでさっそく組み立ててみた。
ボタンの配色もまあイメージどおりだ。
あとは国慶節明けにLCDつけて保護レンズ張って完成の予定。
香港展示会は13日からなので、間に合った間に合った。
2023年2月28日加筆
このサンプルはかなり受けた、というか個人でこういうことができるということを会社の中国人スタッフはほぼ想像もしていなかったようで、樹脂成型品の開発を仕事にしている機構エンジニアがすっかりたまげていたのを覚えている。
それにしても今から10年前というと模型の流行も今とは違ったもので、当時はとにかくマンガ的な小娘のキャラクター全盛期で何にでもそういうデカールを貼っては「痛(いた)XX」みたいなキットが乱立していたものだ。
私はそういうサブカルチャー的なものにはまるで関心がないのでフーンと傍観していたのだが、たまに自分に似合わないことをやってみるのもいいもんだと思い、深圳のプラモ屋でデカールを買ってきたときはなんだか背徳的な気分になったものだ。
またガンダムも小学生のころテレビで見た一番最初のもの以外は一切知らないので、ネットでいろいろ調べながらデザインを決めたのだけれども、こういうアイテムはマニアの指摘が大変鋭いのでよほど慎重にならねばならんということも知った。
何事もたまには自分の殻から飛び出してみるものだ。
個人的にはアメリカ海軍艦載機仕様に仕上げたものが一番気に入っていて、バカみたいにスジボリまで彫って仕上げたのだが、これは業者でシルク印刷を打ってからトップコートまで吹いてもらったので、実用に十分耐える代物に仕上がっていたはずだ。
折を見て中にキカイを入れて自分で使おうかと思っていたが、さてこのサンプル一体どこへ行ったのかまるで覚えていない。
惜しいことをしたもんだ。
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