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2021年の食糧価格を考察する

サバクトビバッタがアフリカからインドにわたる穀倉地帯を食い荒らし、中国にも進行が予想されていた昨年夏に、このような記事を書いた。

サバクトビバッタは中国にやって来ていないようだし、穀物価格の急騰も起きなかったが、2021年1月、ここにきて少しずつ食糧の先物価格が上昇しはじめている。一体何が起きているのだろうか?

バッタ被害の現在

実は、アフリカ東部を中心にバッタによる穀物被害は全く落ち着いていない。

アフリカでは危機的な食糧不足が続いているにも関わらず、世界の食糧価格はほぼ横ばいで推移してきた。

このことから、食物価格を決定する世界の穀倉地帯はアメリカ、欧州、ロシア、南米が中心であり、アフリカ東部~インド西部が如何に食糧危機に陥ろうと食糧価格にはあまり反映されないという事実が分かる。

局所的な食糧危機が起ころうと、世界全体としては食糧の供給余力はまだまだあるということだ。

農林水産省のレポートは何気に秀逸

ここにある農林水産省の月次報告は、地味だけど何気に秀逸だ。たまにチェックしてみると興味深いことがたくさん書かれている。

米国農務省穀物等需給報告書(2021年1月)の内容を簡単にまとめてみる。

①小麦:生産量>消費量

世界の生産量、消費量ともに上昇するが、生産量が消費量を上回り在庫は史上最高となる見込み。

小麦価格については、ロシアで輸出制限が行われる予定で、アメリカ小麦の輸出枠が増える見込みと、大豆価格の上昇等につられて上昇傾向となっている。

②トウモロコシ:生産量<消費量

世界の生産量は当初の見通しより減っている。消費量はやや増える。期末在庫はやや減少の見込み。

トウモロコシ価格については、アルゼンチンで輸出制限が行われるのと、期末在庫量減少の見込みから上昇傾向となっている。

③コメ:生産量>消費量

世界の生産量は過去最高、消費量も過去最高となるが、生産量が上回り期末在庫は増加の見込み。

(洪水等による中国の被害は最小限にとどまったようだ)

コメ価格については、ベトナム産の一時的供給不足などがあり上昇傾向。

④大豆:生産量<消費量

世界の生産量は減少する見込みだが、アフリカ豚コレラ懸念の後退による中国での飼料用消費が増加する見込みで、全体としては期末在庫量が減少方向となる見込み。

大豆価格はかなり上昇傾向となっている。アメリカの期末在庫量減少、アルゼンチンのストライキ、一方で中国の輸入拡大など複数の要因があり、現在の穀物相場の中核を担う動きとなっている。ブラジルの新穫がはじまる2021年2月まではアメリカ市場頼みになっており、しばらくは上昇傾向が続きそうである。

食糧需給をみれば色々と見えてくるもの

こちらは農林水産省のレポートからであるが、非常に示唆に富む内容である。

”中国の食糧は6億トンを超え、前年度より増産で、トウモロコシは前年度並み、大豆は史上最高となっている。しかし、旺盛な畜産物需要が回復してきたことから、とうもろこしの生産と需給のギャップは年間2000万トンを超えるのではとの見方もある。大豆は1億トンを超える輸入をするとみられている。とうもろこしで不足する分は小麦の輸入でまかなうとみられる”

中国は農業国でもあるが、世界最大の農産物輸入国でもあることから、いろいろと参考になるレポートではないだろうか。

・中国の畜産物需要は回復傾向→アフリカ豚コレラは収束傾向

・輸入はまだまだ増える→大豆・トウモロコシ・小麦はしばらく価格上昇傾向が続く可能性がある(当然、供給能力との兼ね合いも影響するが)

ということが読めるが、食べ物ってなかなか誤魔化せないので、中国の経済活動が回復基調になっているということの一つの証左でもあるのだろう。

今後も世界の食糧価格動向には注意を払っていきたい。



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