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次世代半導体、日米で共同開発:その意義を、世界情勢を俯瞰してみてみる

2022年7月29日の日米経済版2+2で、「次世代半導体、日米で量産開発」が決定された。

次世代半導体開発を巡っては、日本国内に新たな研究開発拠点を整備する。産業技術総合研究所や理化学研究所、東京大学などが参加。米側と協力し、線幅が2ナノ・メートル(1ナノ・メートルは10億分の1メートル)レベルの半導体の開発を進める。早ければ2025年の量産開始を目指す。

 10ナノ未満の先進的な半導体の生産では、台湾の占有率が9割に上る。中国が台湾に侵攻する有事をにらみ、台湾依存からの脱却を図る。

読売新聞オンライン2022年7月30日

半導体がなければ、テレビも冷蔵庫もエアコンも、パソコンもスマホも作れない。半導体なしに現代社会は成り立たない。まさに、「半導体は産業のコメ」なのである。それを巡る戦いがいま、世界では起こっている

つぶしておいて結局日本を頼るのかよ・・・!


1990年ごろまで、日本の半導体は世界を席巻していた。しかし、現在ではパワー半導体や画像用のCMOSセンサーなどの特化分野を除き、基幹産業としての日本の半導体技術は凋落している。

小さいことはいいことだ!の半導体業界では、現在、線幅5ナノメートル、3ナノメートルといったサイズの半導体生産に凌ぎを削っている。しかし日本は遥かに後塵を拝していて、日本政府が三顧の礼で迎えた台湾TSMCの熊本工場では、せいぜい20ナノメートル台の「型落ち半導体」の生産が予定されている。

つまり、日本は独力では「数世代前の半導体」すら作れない現状である。

こうなったのは、バブル期に日本の経済覇権を心底恐れたアメリカの陰謀がある。当時、日本に到底勝てないと思ったアメリカは、日本は不正を行っているに違いないと言いがかりをつけ、”公正な”取引価格にルールを設けることで、日本の半導体産業を潰したのである(=日米半導体協定)。

日本の半導体産業はアメリカにより「焼け野原」にされてしまい、現在に至る

ところが今回、アメリカが日本を頼ってきたような形である。隔世の感があるとともに、日本に再びチャンスが巡ってきた形でもある。興味深く情勢を見守っていく必要があると思う。

2025年、線幅2ナノメートル量産が目標!

掲げた目標が2025年、線幅2ナノメートル量産!自力で20ナノサイズも作れぬ日本が、いきなりそんなのできるのだろうか??

筆者の理解では、半導体微細化技術では、台湾TSMCと韓国サムスンが3~5ナノメートルで凌ぎを削っており、米国インテルが追っている(7ナノくらい?)というところである。

「リアル焼け野原」から40年で世界第2位の経済大国となった日本の変態的技術力をもってしても、単独でこれらをいきなりぶっこ抜くことは難しいだろうから、ここはアメリカ政府のジャイアン的腕力に期待したい 笑 (多分、インテルやTSMCに協力させることが不可欠だろう)

ちなみに、何故半導体が重要なのか・現在の日本の立ち位置・微細化の功罪については下記記事が参考になる。

日本がかつて世界のトップの地位にいた先端半導体産業――。これこそ、天然資源は乏しいが人的資源に恵まれ、水や電力に不安が無いわが国に最適な産業と誰もが思っていた。いま、世界を見れば先端半導体は、ITの巨大企業が価値と利益を生み出し続ける魔法の玉手箱となったのに、日本での衰退ぶりは目を覆いたくなるような惨状だ。

上記記事より引用

俯瞰で見ると「自由で開かれたインド太平洋構想」の重要なパーツ

さて、技術的な難しい話は脇において、この「新たな日米半導体協定」ともいえるものがもたらす影響を、このブログらしく俯瞰で考察してみるとする。

現在の”世界の仕組み”を考えるに、世界情勢の「最上位階層」となっているのは米中新冷戦である。当然ながら、半導体覇権を中国に取られたくないと、アメリカは考えている。

現在、半導体業界を牽引するのは台湾TSMCという会社。台湾なしに、現代社会は成り立たない時代となっている。

つまり、台湾が米中どちらの陣営に加わるかという問題は、自由と民主主義だけの問題ではなく、世界の半導体覇権を握るための問題でもある。

最近のアメリカの台湾への接近は、半導体サプライチェーンを死守するための側面もある。

今回の日米での半導体開発合意は、アメリカにとって(日本にとっても)半導体サプライチェーンのリスク分散を図るという意味合いが大きいだろう。

かつてアメリカは、日本が再び力をつけることを心底恐れた。それが今や、軍事面のみならず、経済面、技術面でも日本を頼りにしつつある。それは、ここ10年ほどの「自由で開かれたインド太平洋構想」を主軸にした日本の外交成果の一つであると言えるだろう。

徐々に衰退するアメリカの力を借りながら、日本を復活させる

この日本の外交路線は今後も継続していって欲しい。参加した林外相にどこまでその理解があるか分からないが、故安倍氏の評価が高かったという萩生田経産大臣には多少なりとも期待してみたい。


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