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知的財産への投資を経営デザインシートで優しく包んで開示する方法

知財、会計、投資、サステナビリティーに関する開示と、インタンジブルズ

自分らしいことを、したい。自分たちの価値感にあう行動をしていきたい。ありたい未来を近づけていきたい。そんな人たちが、歴史を先導してきました。文化も、文明も、戦争も、災害もありました。

ありたい未来に向けて、自分たちらしさのある行動をする人は、新しいことに挑戦します。新しいことを生み出すのは楽しいですが大変で、モノマネは簡単ですが楽しくありません。

新しいことに挑戦する人を法的に守り、挑戦してもらう仕組みは、この近代社会が成立してから、大きく動き始めました。蒸気機関、国際博覧会、ネーション・ステート(国民国家)の成立、とくに、自らの意思と才能で新しい仕事を始めて良い、という人権思想の浸透がありました。
微積の可逆性を物理に応用していくニュートン力学や、リンネの生物学のような高度な分類(観察)の発達も大きく影響しました。

マネされないように技術を秘匿し、職人技としてのみ伝承していく中世・ギルド的世界から、新しい発明に特許を付与し、技術の公開をうながすようになりました。特許制度は、そう信じられてはいませんが、オープンソース同様、幅広く技術を使ってもらうための公開を促進しています。

オープンソースでも、先行者利益を得た後にそのコードをオープンとする企業があります。これは、一定期間の独占後に公開された技術が実施可能となる特許制度と類似します。特許制度では、技術文献としての利用はオープンで、誰もが、他者の特許出願の公開内容をみて、別の発明をすることができます。

その特許ですが、歴史的に、他国の特許や外国人の特許に関する権利を認め合うことで、万博や貿易が拡大されていきました。1883年に、パリ条約という、外国人の特許を保護し合う国際条約が成立しました。著作権のベルヌ条約とともに、日本は1899(明治32)年に加盟しています。

商品についても、だれが作り、だれが販売する商品なのか、という製作者・販売者の情報が重要となりました。刻印(ブランド)やトレードマークが使われるようになり、自分の商品への信頼や有名さを、商標として保護する制度が導入されていきました。

会計は、このような知財よりも先に、現代化されていました。例えば貿易船の航海の全体で利益計算をするのではなく、企業は終わり無く事業活動をしているよね、という仮定で、1年間の期間で区切って、利益(フロー)と、資産(ストック)の増減を相互検証できるように決算する仕組みができました。

期間を区切って、利益や損失を計算するので、これを期間損益計算といいます。期間損益計算は、遅くとも17世紀のステフィン(ヨーロッパに小数をもたらした人)の書籍にはかいてあるようです。

日本では、1990年代の不良債権の時代に、銀行が預金者から預かっている資金を企業に貸し出す間接金融の機能が低下し、投資家が企業に直接投資をする(株を買う)直接金融が発達してきました。この直接金融では、信頼性の高い財務情報が重要で、会計基準や制度が発達しました。

しかし、現代においても、特許、商標などの知的財産・知的財産権が、売上・利益にどう影響しているのかは、因果関係はもちろん、相関関係も簡単には分からないというのが正直なところです。知的財産権の経済的価値をがっつりと評価して、となると、私も、数百万円からのお見積になります。

会計側からも、社内で生み出された特許権や商標権、ノウハウやブランド、顧客ネットワークの価値を会計上どのように扱うべきか、それぞれの会計基準によって、差の大きい部分です。

ところで、経営ってなんでしょうか。実は良く判りません。判っているのは、経営の成績は利益である、と多くの人が考えていることです。経営がなにかはわかりませんが、その成績は利益で測定されます。

利益が、適当に計算されたのでは、経営の成績がわかりませんから、1年間の利益や、その資産の増減は、入学試験とか、資格試験とかの同様の信頼性・精密さで計算されなければなりません。

たまたま、地球が太陽を1周するのに365日(とちょっと)かかるので、期間損益計算も1年間で区切りますが、利益の計算との関係では、1年以上使うもの(設備)を購入したとき、その年の費用にして利益を減らして良いのか、問題となります。

20年使う工場などの設備を建設・稼働させたとき、その金額を全部、着手時の費用として計上すると、大赤字になります。そうすると、経営成績は最悪となりますので、だれも長期的な設備投資をしなくなります。一方、たまたま利益が大きい年度に将来役立つかどうか分からないものまでどんどん購入して費用になってしまうと、投資家へ配当されるべき金額も減り、本来ありうべき納税額にならなくなってしまいます。

特に、近代化にともない、イギリスで鉄道を建設する際などに、1年以上使うものは、固定資産として資産計上しておき、使う予想の年数(耐用年数)に費用を配分しよう、という「減価償却」の仕組みが導入されました。例えば120億円の固定資産を10年間であれば、定額で単純化すると1年間に12億円を費用にして、固定資産の資産額は、その費用(減価償却費)を減らした金額に更新していきます。推定ではありますが、主観の入らない経理の方法で、利益計算としても、資産の額の計算としても、目安として使い勝手が良いです。

他社から購入した特許権も固定資産に計上され、残っている耐用年数で減価償却していったりします。例えば80億円を4年間で償却すると2年後に半額の40億円になります。簿価が40億円、ということになります。
その簿価40億円の特許権が50億円で売れたら10億円が特別利益、30億円で売ったら10億円が特別損失となり、その取引がされた時点で、減価償却による推定を離れて、取引価格で確定させます。会計は、取引価格を重視します。

4年経過して、特許権の資産価格が1円となっている状態で、製品の売上に寄与していたり、ライセンス収入があったりすると、減価償却費という費用なしの、まる儲けとなります。

特許権や商標権は、税法上も耐用年数が定められております。購入してきた知的財産権は資産計上して減価償却、自社で開発・取得した知的財産権は資産計上せずに費用処理という差はありますが、減価償却というのは、主観(評価)が入りづらい保守的な会計です。

しかし、知的財産権の少し外側、例えば、ブランド、顧客ネットワーク、ビジネス上重要な契約、営業秘密、企業買収時に時価総額より高く購入したプレミアム分(のれん)などは、どう会計処理するのが理想なのか、どういう報告書が良いのか、意見が分かれています。

例えば、企業買収に際して生じる「のれん」を、期間損益計算を簡便とするために減価償却をして毎年費用計上するのか、それとも長期的に価値のある資産としてみつつ、その資産が生み出す利益の状況をみながら、稼げない資産となった兆候があればチェックして、必要な時点で一括して費用とする(すると、会社全体の経済的価値を小さくなる,減損会計)のか、会計基準によって異なります。

のれんについて、減価償却しないルールである国際会計基準の採用企業が増加してきています。企業買収をまずしてしまい、その後、上手くいかなければ減損会計で企業価値の正確性を維持しようとする方向なのでしょうか。

この減損会計は、利益が減ってツライときに、資産の価格も減る二重の衝撃となりますので、経営成績を良くしていきたい経営者と、財務諸表の正確性を担保・保証していく会計・監査側との緊張感が高まります。

会計ご関係者のついったらー様のジョークは減損会計がらみが多いのも、この緊張感と無関係ではないでしょう。最近は内部統制がらみですね。だいたいそういう震源地はしらさぎ会殿です。知財は最近はJPOクイズ大喜利で、なんだかんだ平和です。

さて、減損会計は、評価をしないといけないので、単純に計算するより正確である可能性もありますが、ルールの不明確な評価は主観的・恣意的で、経営者や監査法人の専門性・裁量が大きくなってしまうのもまた、懸念事項です。

日本の不良債権処理でも、貸したお金が返ってくる可能性がどのくらいあるのか、評価しなければならなかったのですが、経済実態に見合う思い切った評価(貸倒引当金の計上)は進まず、金融検査マニュアルと検査・監督の進展など、長時間を要しました。失われた10年・20年はこの評価性の会計ルールに依存していたともいえます。

先送りしておけば好転するのではないか、という根拠のない見込みが、病状を悪化させるという傾向があることには、根拠があると見込まれます。まあ、私はこういう面白さが限定的なことをいうので、友だちが少ないわけですが。

不良債権処理も終わり、昨今、内外の投資家は、より長期的な視点での投資を好むようになりました。社会からの投資家への要請(スチュワードシップ)からも、環境E・社会S・ガバナンスGのESG、特に気候変動への対応をしている企業への投資を優先する大きな流れが生まれています。

このため、企業も、利益率や成長性を維持しつつ、気候変動等の環境の持続性への貢献や、社会価値の提供が求められています。

知財目線で現状分析をすると、しかしながら、投資家からは、知的財産への投資をして欲しいとか、知的財産権での保護を十分にして欲しい等の直接的な要請は、ほとんどありません。

企業全体からすると、環境に取り組むと、環境に取り組む企業として目立つファンドに組み込まれたり、ニュースになったりして、株価が上昇し、株主に価値を提供できるようになることを見込めますが、知財は「環境」のようには注目されていません。
トレンドとしては、環境の次は、人権や人的資本に注目が集まりそうです。

そして、企業は、ESG等の長期視線に見合うような、会計の情報(財務情報)以外の非財務情報を開示すべき、という変化が生じ、企業内からも、投資家からも非財務情報の開示が今まで以上に模索されてきています。

2005年ごろ、北欧や、日本の経済産業省、OECDなどで、企業は知的資産(インタンジブルズ)を開示し、価値創造ストーリーを語るべき、という提案がなされました。知的資産には、知的財産や知的財産権も含まれます。
WICIという団体が国際的議論をリードし、さらに、英米系のIIRCが設立され、統合報告書のフレームワークが提案されて、日本を含む各国での統合報告書での開示が進展しました。

この統合報告書は、中期・長期の価値創造ストーリーを統合思考で開示しようとする方向性のものですが、知的財産権に関する開示はあまり見かけません。知財部門の方がIRや広報等の担当部門に働きかけて、知的財産に関する開示が増えると良いと思います。働きかけができるポジションの方は、ぜひがんばってください。

国際的に、統合報告フレームワークのIIRCは、サステナビリティー標準のSASBと合併し、VRF(価値報告財団)が設立されました。
のれんを減価償却しない会計基準をつくっている団体IFRSは、サステナビリティーに関する開示基準をまとめるISSBを設立することを、COP26で発表し、VRFも合流することとなりました。一言で要約すると、目まぐるしいのです。

会計基準をつくる団体と、統合報告フレームワークやサステナビリティーの標準を作っていた団体が合併し、共同して新たな基準をつくることが期待されます。

サステナビリティーの開示基準が乱立すると困りますので、合併や対話が続いてくれるととても有り難いです。もちろん、合併しない主体があります。1つは欧州連合、もう1つは国連です。欧州連合は、非財務に関する開示指令を、進化させて、サステナビリティー情報に関する開示指令として詳細が検討されています。VRFよりも、自然・社会寄りで、財務報告と関連性の薄い自然や社会への影響について、幅広い開示が求められる可能性があります。欧州連合の開示指令はハードローになります。

結局、世界は、のれんや、自社が生み出すブランド価値や研究開発の成果について、資産計上するか否か、減価償却するか否か、研究と開発にステージを分けてみたり、減損会計、内部統制と、そういった資産としての評価の仕方についての話し合いのスピードを弱めて先送りしつつ、非財務情報、サステナビリティーに関する情報の開示ルールを標準化していこう、という方向になっていると理解できます。

財務指標での「経営者による説明」を増やそうという提案もあり、これも非財務・サステナビリティー関係の開示が重要です。

同じ特許権であっても、自社で取得した場合には研究開発費の部分は資産計上できず、購入したのなら資産計上され、その他非財務やサステナビリティーの開示でも、知的財産権をどう開示すべきかは、ほとんど提案がありません。会計側、金融側、投資側、基準策定主体側、すべてそんな感じです。知財側から、これらの関係者の心に響く有効な提案もなかったといえるでしょう。

日本企業は、歴史的に自利利他や三方よしなどの発想で仕事をしており、利益率が平均して低いという課題はありますが、比較的、取引先や自然環境、社会への配慮のある経営がなされてきています。研究開発力も低下しているとはいえ、ユニークで社会や顧客に価値をもたらす独自の製品を生み出すことのできる企業も多いです。

WICIや、色々な関係者が、インタンジブルズによる価値創造ストーリーの開示が重要であると、国際的にも働きかけを行っています。インタンジブルズというのは、知的資産、見えない資産、無形資産のことで、知的財産権を含みます。

自然・社会の詳細開示が求められる経済社会では、知的財産への投資が注目される可能性が小さくなり、インタンジブルズによる価値創造ストーリーの開示が求められる経済社会では、知的財産への投資がより注目されることになります。

特に、環境社会の文脈だけで知的財産投資への注目が集まると、自発的で創造的な企業経営を歪めてしまう可能性も感じています。

企業は、自発的に、自由に、自社の得意とする知財投資を行い、イノベーションを起こし、各社と協力し、顧客へ、社会へ、自然へ価値を提供すべきです。日本企業はそれができます。

それではどうしたら良いか。統合報告書の質を高め、自社の価値創造ストーリーの統合性、整合性をより良くして、自社のありたい未来への活動について、投資家はじめすべての関係者の納得感を高め、自社の長期的なビジョンに共感を得て、直接投資をしてもらい、応援を集め、良い刺激をしあうことが、理想です。一言でいえないのは、これらの要素の関連性・統合性が重要だからです。

統合報告書のみならず、自社のWebサイトでの開示や、社内の誰もが自社を説明する際に共通して利用出来るスライド資料などでの用意も良いと思います。

その統合報告書に、どうすれば知財が顔をだすことができるでしょうか。そのためのツールが、経営デザインシートです。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

続きは有料で

とか、

プロフィールで

とかではなく、

このまま続きをお読み頂けます。しかし、ちょっと大変でしたね。本当に、ここまでお読みいただきありがとうございます。感謝申し上げます。いまのあなたの好奇心は、この世界の未来を作っていきます。未来は、いったい、どうなるのでしょうね?

私が今から書くことよりも、そうか、知財の情報をどう開示すると良いのか、だれも分かってないのだな? じゃ、こうしたらどうだろう、というあなたのアイデアの方が、直接的に、自社や取引先にとって価値があります。未来は現場から生まれますよね。

なぜ、私は、いま、あなたに語りかけているのか。それは、私にとって、あなたの体験が重要だからです。このnoteを読むあなたの体験・経験が価値のあるものになって欲しいのです。私が雑多な知識を披露することに価値はありません。雑多な知識そのものにもまるで価値はありません。あなたがどんな体験をするのか、私からのこのシグナルを受信して、あなたのどんな行動が始まるのか、そのユーザー体験と行動・実践にこそ、価値があります。

あなたの会社や、お取引先や、好きなブランドは、あなたに、または顧客に、感動的なユーザー体験を提供しているでしょうか? 価値を届けているでしょうか? 価値は、例えば、笑顔、共感、多様性、困ったが減る、自己実現などです。

さて、お好きな飲み物は何でしょうか。なにかゆったりと集中できるところに移り、ありたい未来を思い描いていただくのも良いでしょう。お散歩組、飲み物組、それぞれ必要な休憩や思索とメモをしてください。そして、笑顔でまた戻ってきてください。

〜〜お散歩・飲み物休憩〜〜

はい。お帰りなさい。本題が始まります。

知的財産への投資と経営デザインシート

この文章は、IAbM総研 知的資産経営WEEK 経営デザインシートが広げる大企業と中小企業の未来 というセミナー企画の第1部に向けて整理してきたものです。ご講演いただいた住田孝之様、高橋佳子様、ありがとうございます。一般公開できるようになりましたので、ぜひYouTubeの動画をお時間あるときにみてください。

さて、続いての説明では、図を6つつかいます。

これが、経営デザインシートです。色々なタイプがありますが、内閣府公式の簡易版です。

内閣府 経営デザインシート 簡易版

今日は、「資源」「ビジネスモデル」「提供価値」の3つからなる「価値創造メカニズム」に注目します。知的資産や知的財産、知的財産権は「資源」に入ります。

例えば、私の雑多な知識が資源、noteでの語りかけがビジネスモデル、あなたの体験やアイデアが価値です。色々なことを、資源、ビジネスモデル、価値で区分します。あなたのアイデアや実践、それが価値です。

統合報告書のオクトパスモデルは、過去の話か未来の話かよくわからないですが、経営デザインシートでは、過去の価値創造メカニズムでこれまでを振り返り、それは一旦忘れて、未来の価値創造メカニズムを描きます。

未来の価値創造メカニズムで提供したい価値や、未来の資源は、できるかどうか分からない構想で、問題ありません。「ありたい未来」を描きます。

鈴木健治 価値創造メカニズムのキーワード例


資源は、例えば従業員や経営者などの人的資産、設備や組織の気風などの組織(構造)資産、地域や取引先との関係などの関係資産などがあります。CO2排出量など自然とのやりとりも注目されてきています。

これらの資源を、使ってもらったり、知ってもらったりというビジネスモデルが動いて、誰かに笑顔をもたらしたり、共感が生まれたり、自己実現を手助けしたり、困ったが減るといった価値を提供します。

知的財産権は、資源の一種です。色々な人に経営デザインシートを書いてもらいましたが、未来の提供価値から出発して、ビジネスモデル、資源へと逆算していく作り方で、知的財産権を資源に書いてくれた人は、いまのところかなりの少数派です。

しかし気を取り直して、この価値創造モデルに知的財産権を当てはめてみましょう。

鈴木健治 知的財産権の価値創造メカニズム

特許権で保護される技術には、発明の効果があります。その効果は、明細書に書いてあっても書いて無くてもどちらでもかまいません。その発明の効果に市場性があって、製品の売上を伸ばす力があるとき、模倣品がでると売上を奪われてしまいます。

特許権は、このとき、ビジネスモデルにある「独占実施で高利益」という仕事をしてくれてます。価値創造メカニズムの有効性を、特許権による技術の独占で、長期化できます。侵害があれば訴訟で利益を取り戻します。

商標権であれば、個々の名前(文字)やマークについてではありますが、それらの名前やマークから想起される業務上の信用が製品の強みとなり、ブランドのモノマネを防止することで、売上・利益を安定させます。

著作物は感動を届け、意匠は美観による共感を巻き起こします。著作権や意匠権はそれらの模倣を防止することで売上・利益を守ります。

これら、知的財産の魅力(発明の効果、業務上の信用、感動、美観など)を、優位性と呼ぶことにします。強みでも良いです。これらは、製品やサービスに化体(けたい)しています。

化体ではなく、もう少し良い表現があるかもしれません。製品の属性を生み出すとか、製品の訴求力の要素とか、とにかく、製品自体ではないが、製品の強みとなりうる、製品・サービスが人に働きかけるその機能や情報です。ドラッカーなら、顧客を創造し製品を成り立たせる卓越した知識、というでしょうか。知識社会というのはそういう社会です。

これらの優位性は、しかし、ビジネスモデルのアウトプットである製品・サービスの属性であって、それらが顧客にとって意味があるのか、共感してもらえるものかどうかは、また異なる話です。

ビジネスモデル(アクティビティー)の出力をアウトプット(製品・サービス)、成果をアウトカムとします。成果には、売上・利益などの財務的な成果、自然や社会へのポジティブ・ネガティブの影響がありますが、経営デザインシートでは、財務を一度離れ、人間に届く価値に集中します。その方が、より長期で、より社会の暮らしに近づく構想をすることができます。

このアウトプット・アウトカムとの区分は、改訂された統合報告フレームワークで使われている整理です。

鈴木健治 知的財産権視点のアウトプットとアウトカム

提供価値(アウトカム)は、例えば、笑顔になるか、共感をもたらすか、持続性を実現できるか、大切な人とのつながりに役立つか、そういった価値です。経営デザインシートで「提供価値」といっているのは、製品の優位性や強みの、顧客にとっての意味です。

この提供価値こそが、投資家や社会との対話をスムーズにする入り口です。ありたい未来において、どのような価値をお客様や社会に提供しようとしているのか、それが自社の存在意義(パーパス)やビジョンと整合しているのか、従業員の取り組み姿勢はどうか、経営者は情熱的か、そういったことが、結局は長期的な企業の業績や企業価値を決定付けます。

保有特許権の件数と企業価値が相関すると考える人は少なく、提供価値への姿勢が企業価値を決定すると考える人が多い、ということです。

投資家や社会に、知財への投資の話を聞いてもらうには、ありたい未来において提供したい価値の話をまずして、それから、どのような知財の取得に向けて(研究開発及び知財活動への)投資をしていくのか、という話す順序が良いです。

つまり、知財への投資を直接話すのでは無く、経営デザインシートの価値創造メカニズムで知財を優しく包み込んで、価値創造ストーリーとして開示するのが良いです。

投資家にとって、これは優しい話です。お魚をお刺身にして、お醤油もわさびもお箸も付けて、どうぞ味わって下さい、という優しいお料理です。焼き魚の骨を取ったりほぐしたりといったスキルや分析を必要とすることなく、だれでも知財の美味しい役割を知ることができます。

しかし、知財部門にとっては優しくなく、残酷な話なのかも知れません。一流料理人のスキルと、目利き力が常に問われることになります。

色々考えられる残酷な点は後述しますが、自社製品の現在及び未来の提供価値が何か、社内の見通しをヒアリングして、それに役立っている現在ある知的財産権がどれで、未来に役立ちそうな知的財産権や権利化できそうな知財はどれか、探索し、機敏に行動していく必要が生じます。

ところで、質問です。「知的財産への投資」と投資家や東京証券取引所などがいうとき、それは、「技術開発やブランド化への投資」なのでしょうか。それとも「知財部門による権利化・ライセンスへの投資」でしょうか。

「知的財産への投資」は、国際的な文脈では、研究開発投資です。研究開発部門が注目されているのであって、知財部門が注目されているのではありません。そうです。こういうことを明文化するから、わたしは友だちがいないのです。

知財部門と研究開発部門の経営への貢献を、最も単純化すると、研究開発は売上を伸ばし、知財部門は売上が伸びた時の利益を守ります。

また、私は知財戦略という、知財の動かし方にストラテジーは不要で、単に経営戦略があれば良いと考えています。異論反論はあるでしょう。経営戦略に役立つ知財活動があれば良いです。経営戦略の他に知財戦略があるのは、経営全体が統合的でない証拠とも考えられますし、権利化するとかしないとか、ライセンスするとかしないとかは、単に活動です。

価値創造メカニズムと、経営戦略、研究開発、知財活動の役割の範囲を次の図に示します。

鈴木健治 知的財産への投資と開示

研究開発により共感される新製品をだして売上を伸ばし、知財活動はその新製品による利益を守ります。

経営がすべきことは、イノベーションとマーケティングであると、ドラッカーはいっていますが、経営者はマーケティング思考とマネジメント思考のどちらかに寄りがちな傾向も感じています。Appleですとスティーブ・ジョブズ殿がマーケティング思考、ティム・クック殿がマネジメント思考です。

デザイン思考はアウトカム側、マネジメント思考はビジネスモデル側です。マネジメントは社内外のプロセスから利益を生み、マーケティングは顧客体験から利益を生みます。

繰り返します。研究開発の成果はかなりアウトカムに近く、共感を呼び売上を増やすことができます。一方、知的財産権を取得しても直接的には売上を伸ばしません。そうですよね? 同一の製品について、特許査定されて料金納付し、特許権が成立した瞬間に売上が2倍になる、ということは、ありえませんよね?

しかし、研究開発の成果として売上が伸びるとき、知的財産権は、模倣品の発生を抑止して、自社の利益を長期間維持することができます。

研究開発で売上成長、売れるときに知財活動で利益、です。売れないと元も子もありません。そして経営成績は利益ですから、製品が売れているとき、知財活動は経営に貢献できるのです。

この知的財産への投資で、価値創造メカニズムに何を描けるのか、上の図の下段に、知財部目線で案をいれてみました。まず、アウトカムの部分は、研究開発の担当なので知財部門にできることはないと思います。逆に、顧客や社内から情報収集をして学び、取得していく権利を、このアウトカムにからめるように、近づけていきたいです。

いま、アウトプットを、自社の製品・サービスと考えています。この製品・サービスの優位性・強みが、顧客にとっての提供価値の基礎となっているでしょうか。

例えば、発明の効果が「雨の日でも道路の白線を認識できる」であるとき、顧客が求める自動運転という提供価値に対して、基礎とはなっているものの、自動運転のためには、他の技術・効果が大量に必要そうです。また、雪が積もった日の白線認識は、さらに難しそうです。道路が見えませんから。

余計なことをいって嫌われるのは私にとって日常なので書いてしまいますが、パテントマップとか既存の知財情報をどれだけ分析しても、「雪が積もった日に白線認識できないよね」という提供価値から逆算して導かれる次に必要な技術のネタには、気がつけないです。特許情報がありませんから。一方、デザイン思考の観察は、こういうウォンツ、ニーズを見つける有力な手段です。

経営デザインシートや、価値デザイン社会というのは、デザイン思考から多くを学んでいます。それはまず、提供する価値を考えよう、ということです。

ランドスケープという発想は過去から現在を見つめる傾向が強く、デザイン思考での洞察を超えるものになるとは、考えにくいです。伝統的に、パテントマップで技術トレンドを読む方が未来を見つめやすいですが、残念ながら、技術自体、次の市場を生み出す要素としての存在感が低下してきています。

戻ります。自動運転に役立つ技術があるとして、さらに、その優位性・強みが、知的財産権で保護されている発明、意匠、商標のものか、そこが知的財産権が利益確保に貢献しているかどうか、大切なところです。

開示の具体例を考えてみましょう。

ある提供価値に関して、その基礎となる効果をもたらす一流技術から三流技術まで、さらに代替技術群について、網羅的に特許権を有している場合、「○○の提供価値に関する技術について、特許権群・特許出願群で重層的に保護しておりますので、長期的に市場でリーダーシップを発揮し、顧客との信頼関係をさらに構築していきます」などと開示できます。特許番号を明記する必要はなく、一部出願中でも問題無いでしょう。市場となる国と権利取得国は見合っている必要があります。数件で、代替技術がでにくい場合、「特許権群」を「基本特許」とすることが考えられます。

このように、特許権の情報のみでなく、提供価値、市場、顧客との関係などを示しつつ、ストーリーで開示するのが良いです。その基本的な分析をする際に、経営デザインシートが手軽でかつ有用です。

権利取得しやすい課題|効果と、顧客から共感され、製品が売れる要素となる効果とは、違っていたりします。市場で注目されない効果の方が、先行文献に書いてある可能性が低いので、どうしても、顧客から共感されにくい、実際には役立たない方向での権利化業務がなされてしまう可能性は、とても大きいです。一方、これは売れると確信をもてる製品・サービスの技術・効果は、たいてい、進歩性・非自明性は微妙です。

知財部の人たちが経営デザインシートを定期的に書いてみるような時代になると、経営に、つまり利益率に貢献できる知財活動が生まれやすくなります。開示のためだけでない、分析というか、準備運動というか、経営目線での全体像・統合性・長期指向です。

ビジネスモデルと知財の関係では、自社の独占実施が最重要です。標準化技術は、競合も同水準で提供できる機能であって、製品の魅力にはなりませんから、あまり力をいれるべき部分ではありません。もちろん、現金が動くので重要性が高いようにみえるかもしれませんが、自社製品の個性ある優位性と、その提供価値がもたらしている製品・サービスの売上高やシェアを守り育てる方が、経済的、経営的に規模が大きい点で重要です。

「○○の価値を提供できる○○関係の技術については、ライセンスアウトをせず、自社の独占実施とし、さらなる研究開発投資の成果についても、積極的に知的財産権を取得してまいります」などの開示が考えられます。クロスライセンスから外さないと、自社独占実施とはいえないですね。

ライセンスするかどうか、知財活動の判断が個別に難しくなっていきますが、そのようなとき、会社のパーパスやビジョン、価値感を読み直し、その価値感にあう知財活動を選択していくことになるでしょう。そのパーパスを基礎とする知財部門の判断や知恵は、他の部門にとってより理解しやすい判断になります。経営者にとっても意味が分かりやすくなるでしょう。

さて、品質管理で、当たり前品質と魅力品質があります。魅力品質は自社の個性となる優位性や強みのある部分についての品質で、当たり前品質は、競合と機能に差が無いが、技術面でコストの掛かる部分の品質です。

当たり前品質は、知財では、例えば上述の標準化技術です。「自社の強みとなる独占実施部分を除き、標準化技術や、その他当たり前品質となっている技術については、オープンイノベーションを積極的に導入し、標準化技術として自社技術を提供する他、個別のクロスライセンスをするなどして、使う技術とコストのバランスの最適化を図っており、これを○年に一度見直しをしております」などの開示が考えられます。

経営デザインシートでは、提供価値、強みなど重要部分にフォーカスするため、当たり前品質の部分が最初から意識されることはないと思いますが、経営デザインシートに何が書かれなかったかも、重要な洞察をもたらします。

経営デザインシートを製品や事業、全社について何度か作成してみていただいた後、ありたい未来の価値創造メカニズムの資源として、標準化技術やその特許権が顔をだすことは、普通の事業会社ではなさそうだな、とご理解頂けるものと思います。よほど、研究開発のみで知財をライセンスアウトする企業であれば別ですが、しかし、標準化ではなく個別提供の方が利益率が高いでしょう。

また、自社の製品・サービスで、うまく知的財産権を取得できなかったこともあるでしょう。識別力がないけれど覚えやすいネーミングでまず上市することになった場合や、既存技術と近く特許権を取得できなかった場合などです。これらの製品のビジネスモデルにも、不正競争防止法や、著作権法などで、牽制効果を確保することができます。あえて、製品そのものの技術を上市直前に特許出願しておくことも考えられます。

「知財による保護率(知財カバー率)の低い製品・サービスについても、営業秘密の秘密管理体制の構築や、マニュアル・パンフレット・販売促進資料などの著作権を管理することで、安易な模倣品の参入を抑止し、当社の品質で顧客に価値を届けることができるよう、当社製品すべてに関して(当社主要製品に関して)、知財活動を継続しております」などの開示が考えられます。

資源として知的財産権をふりかえってみると、自社の長期及び短期の利益を保護できる知的財産権を取得し、侵害があれば発見し権利行使できる体制を構築しておくことと、権利行使されるリスクへの備えの2つが大切です。それぞれ、各社において社内体制や社内の教育プログラムなどがあることでしょう。

最後に、価値創造メカニズムを離れて、時間軸で考えてみます。WICIジャパンの非財務分科会での対話・議論が、私にとってとても刺激的でした。メンバー各位に感謝しています。

私の結論的には、より長期の投資家に長期的な見通しをお伝えする際には、個別の知的財産権や研究開発投資ではなく、知財活動の体制や人的資本について語るのが良い、ということです。長期になるほど、既存の特許権や出願中の特許権が利益確保に役立つか分かりませんし、一方、知財活動のスキルは将来においても有用です。

鈴木健治 長期は人的資本で語る

1年後から5年後ぐらいまで、もしかしたら3年後ぐらいまで、将来一定の確率で生み出せると期待出来るキャッシュ・フローを見込み、計算することができます。それを現在価値に割り引くと、現在の経済的な企業価値がでます。

1年後から5年後ぐらいであれば、既存の特許権や特許出願が、利益(キャッシュ・フロー)の確保に貢献するという見通しを持ち、そのストーリーを開示できるかも知れません。しかし、さらに長期となっていくと、医薬など1件の特許権の優位性が長期に及ぶ産業セクターを除き、目に見える特許権では語れなくなっていきます。

このため、長期を語るには、研究開発を促進する社内の仕組みや、知財部門の仕事の仕方やを開示していくこととなり、さらに長期には、結局は人的資本で語るしかなくなっていきます。自社が10年後にどんな特許権を取得するかはまるで分かりませんが、知財部門のスタッフが10歳、年を取った時、みながどんな仕事をしそうかは、予測できるのではないでしょうか。
「10年後も知財部門の体制を維持発展させ、研究開発成果で売上が伸びるとき、知的財産権でその利益を守ります」という趣旨の開示が考えられます。

語る対象が長期になるほど、投資家は、現状の知的財産権よりも、知財部門の教育体制に興味を持ってくれることでしょう。権利行使されるリスクにうまく対応するスキルを長期に維持するための知財部門の人材育成プログラムなども、長期投資家との対話で話題にして欲しいです。

知的財産への投資をどう開示するか、なかなか、複雑です。

価値創造メカニズムなど、経営デザインシートでありたい未来を描いてみると、保有している特許権の数と、だれかの笑顔という提供したい価値との関係は、とても遠いです。特許の数が増えても笑顔が増えるとは限りません。相関関係はないでしょう。

これが、特許の話を投資家や社会が細かく聞いてくれない理由です。顧客は、結局、製品が自分に何をもたらすのかに興味があり、価値感が見合えば対価を支払ってくれます。

ありたい未来において、どんな価値を提供したいのか、それは自分がしたいことか、どのような仕事をすることで価値を提供するか、そのためにどんな資源が必要か、経営デザインシートは、その全体像を描くことができるツールです。知的財産権は、その全体像のなかで、製品・サービスが売れるときに、その利益を守るためのツールです。

知的財産権を、研究開発投資の情報と一体化させ、経営デザインシートで優しく包んで、開示すると、少しは、投資家に興味を持ってもらえる可能性があります。

知財はもっとなにかできる、そう感じてくれていた人には、経営デザインシートを自分なりに併用していくことが、一つの解というか案ですが、知財投資の開示は、会計やIRや経営やデザイン思考や統合思考など、色々ハードルはあります。

しかし、世界中が、見えない資産(インタンジブルズ)を使って社会価値と経済価値の両立、さらに地球環境や人々の生活のサステナビリティーの確保に向けて、学際や経験範囲を飛び越えて学び、対話をしています。

熱心なアナリストも、CSRをしていたサステナビリティーの専門家も、経営者も、投資家も、会計人も、学者もいままさに学び直しています。

まずは、統合報告書に自社の知財活動について情報開示できるなら、どんな開示が投資家に響きそうか、色々な妄想をしてみて欲しいです。

株主との対話となると、いままでとは違うことが1つあります。わが社の特許権、私の特許権というと、投資家は違和感を感じます。言い間違えとして修正してくることもあるかもしれません。

会社は株主のものですので、知財予算も、取得した特許権も、株主のものです。ですので、株主に「あなたの特許権」と語りかけないといけません。「知財部門はあなたの特許権を○○のように活用し利益維持に貢献しました」という伝え方になります。それは企業で働く人にとって違和感があるかも知れません。しかし経営者にとってはそれが現実です。

私の今日の話が、知財部門にとって残酷となるかもしれない側面を、メモしておきます。2021年12月の所感です。

自社の売れている製品・サービスについて、顧客から共感されている提供価値の情報を集めてみて、その提供価値に関連する製品・サービスの優位性や強み(発明の効果、意匠の美観、業務上の信用、感動など)を見つけ、その優位性や強みをもたらす知的財産を特定して、その知的財産を保護している知的財産権を探し出すことができれば、堂々と、経営デザインシートの「資源」に書くことができます。投資家や社会に注目してもらえる知的財産権です。

残酷その1は、こういう発想法になれていなくて、提供価値に役立っている知財を探せない可能性です。簡易な検索式で発見できるものでもなく、ノイズの多い母集団から人手で探す必要があるでしょう。研究開発部門は知っている可能性はあります。探せなければ、自分たちの知財活動の意味を、投資家に伝えられない、という残酷な現実に直面します。まず、製品そのものの特許出願を増やしてみるのが良いでしょう。特許査定率は減少するかもしれませんが、提供価値に近い知的財産権のポートフォリオを形成していけます。

残酷その2は、探してみたら、保有特許権・意匠権は提供価値に重なっておらず、結果、経営に役立っていない知的財産権ばかり持っていた、という事実に直面する可能性です。しかし、そうであっても商標権はだいぶ重なるでしょう。あとは海外の売上セグメントと商標権取得国のポートフォリオをあわせてください。これからの伸びしろがとても大きいことになります。

残酷その3は、仮に価値創造メカニズムにカチっとはまる知的財産権があっても、あまりに重要すぎて番号等を開示できない可能性であったり、開示するとしても社内や投資家への説明が技術面等で大変だったりすることです。理解しようとする姿勢のない投資家や会計・金融関係者との出会いも、なかなかに残酷な体験となります。研究開発、設計、仕入、加工・製造、販売、物流、アフターサービスなど仕事の流れを整理してみて、そのどの部分の優位性を守る知的財産権なのかを説明すると対話しやすいでしょう。日経やWICIジャパンの賞をとった他社の統合報告書の開示例から学んでみるのも良いと思います。

残酷その4は、権利取得の作業負荷が今後高まってしまう可能性です。移り気な社会や市場のニーズ・ウォンツにいちいちあわせて権利取得すべき発明を選んでいくなんて、大変です。IPランドスケープとかいって、手持ちの知財をそれっぽく見せる方が楽に決まってます。ただ、そういう新しい名前を付けたとしても、実質的な中身が過去とどう違うのか、見抜けない投資家や証券アナリストは、いないでしょう。

パテントマップはパテントマップです。少なくとも市場シェアの情報と関連させなければ、経営目線での新しさはありません。技術トレンドをパテントマップでみていくのは古典的ですし、被引用が劇薬的効き目と危うさを持つのは論文(誌)のサイテーションと同じです。

残酷その5は、例えば5000億円の主力製品・サービスに関する自社実施のみの特許権が重要だったのであって、5億円のキャッシュを直接に稼げるライセンス収入や標準化特許が、自社の優位性・強みとして提供している価値との関係では、投資家・経営者目線では、誤差の範囲の経済的価値しかなかったことに、直面することです。5000億円を守る特許との関係で、5億円は4桁も小さく、投資家に興味を持ってもらえないでしょう。投資家のものである知財予算をどう使って、投資家や社会に還元していくのか、知財部門なりのストーリーが求められていきます。

知財戦略を目指していた多くの企業は世界の製品市場で敗北し、事業譲渡したり撤退したりしました。知財戦略が有用で正しかったのであれば、製品市場で敗北したり事業譲渡に追い込まれたりしないでしょう。

経営デザインシートは、「挑戦しても、いいんだよ」というツールです。知財が大好きでこれからも知財の仕事の重要性を高めていきたい、という人が、少数派のアーリーアダプターとして、知財活動のために、経営デザインシートを使い始めてみたり、部下にその研究のための時間を与えたり、してみてもらえたら嬉しいです。

経営デザインシートについては、60分ぐらいのセミナーで概要説明と作成体験を提供できます。ご要望に応じて開催しますのでお知らせ下さい

そうですね。お散歩やお飲み物の休憩時に、メモしていただいたあなたのアイデア、じわじわと実現させて、ありたい未来を、ご一緒に生み出していきましょう。

想定の3倍以上の分量となってしまいました。書く方も読む方も大変でした。知財投資について、投資家と語り合える未来は、少し近づいたでしょうか。

優れた統合報告書の特に価値創造ストーリーの開示例を、紹介していきたいと考えています。書け書け、というご心証の方、10円でも100円でもあなたにとっての価値を貨幣価値でお示しいただけると、励みになります。

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