趣味や音楽、写真、ときどき俳句26-3 愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼3
※26-2はこちら
南予地方の牛鬼を描いた文学で著名なのは、獅子文六『てんやわんわ』(昭和24)だろうか。彼は敗戦後、食糧難やGHQの検挙を恐れて妻の郷里の岩松(現・宇和島市津島町)に疎開しており、そこで見聞した秋祭りの様子を小説に描いている。
文六は小説のクライマックスとして秋祭りに沸き上がる相生町(岩松)の様子を描き、牛鬼も登場させている。映画版『てんやわんや』(昭和二十五年)では作品舞台の岩松でロケが敢行され、敗戦後まもない町並みを牛鬼が練り歩く様子が撮影された。そのため、戦後の高度経済成長期を経て次々と壊された瓦屋根の家々の風情が映画に残されることとなり、図らずも貴重な記録となっている。
岩松に約二年ほど疎開していた文六は、牛鬼の乱舞や秋祭りの狂騒じみた熱気が強く印象的だったらしく、多くの作品で言及し続けた。次は南予独特の風習(鉢盛料理など)にも触れながら秋祭りの昂揚感を伝えた文章だ。
岩松の秋祭りは三島神社の祭礼であり、牛鬼や四つ太鼓(ヨイヤセ)、御船、五つ鹿踊り等が練り歩く。文六の筆致からは往事の秋祭りの昂揚感が伝わるようで、かつての岩松のさざめきが蘇るようだ。
※現在の岩松の様子は、下記のリンク先が分かりやすい。
(4へ続く)
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上記文章を2022年に「セクト・ポクリット」に発表後、拙著『愛媛 文学の面影』南予編(創風社出版、2022)に大幅に増補して収録した。
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初出:「セクト・ポクリット」2022.4.30
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【俳句関係の書籍】
これまで刊行した近現代俳句関連の著書です。
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