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趣味や音楽、写真、ときどき俳句

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音楽、写真、大学の授業、俳句その他諸々のエッセイです。サイト「セクト・ポクリット」掲載の拙文をまとめています。
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#泉鏡花

趣味や音楽、写真、ときどき俳句17 黒色の響き

マティスの「赤いハーモニー」を観た時、画面に彩られた赤色以上に黒色の艶めかしさに驚いたことがある。つややかで、色気が漂い、肌の滑らかさやぬくもりを感じさせる色合いに、しばし見惚れたものだ。 「黒」の美しさでいえば、台北の故宮博物院で観た調度品も忘れられない。広大な博物院の各展示室の一角に清朝の書斎が復元された部屋があり、その室内の家具や調度品の洗練された美しさに息を呑んだのだ。 (故宮博物館の公式HP)  展示室には、清朝八代皇帝の道光帝――アヘン戦争時の皇帝で、多難な

趣味や音楽、写真、ときどき俳句07 「何となく」の読書、シャッター

ものを書き続けて倦んだ時、小説を何気なく手に取って読むのがいつしか愉しくなった。例えば、チェーホフの小説の次のような一節。 こういうくだりを物語からなかば切り離して味わう。厳冬の窓越しから射しこむ陽光の清々しさを思いやり、サモワールが沸騰する響きを想像する。そんな風い味読していると、頭の中がスッとするのだ。 また、こういう気散じの読書をする際に古典はうってつけで、例えば源氏物語の「紅葉賀」巻は幾度読んでも感に堪えない。 天上の楽のような調べが淡く、薄い霧のように身を包む